殺人的な暑さが続いておりますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
こちらは……まあ、死にかけた以外は大丈夫でした。
この作品を読んでいる方のなかに仕事と酷暑でホットサンドにされている方がいましたら、どうかお気をつけください。
大丈夫だろうと対策を怠れば、三途の川遊覧ツアーにご招待されますゆえ………
後書きに嘆きと呻きと大事なことを書いておくので、読んでいただけると助かります。
「全然できる気がしない………うぅ、不安しかない……」
「最低限のイロハは教えてやるから安心しろ、これでも俺は一級フィクサーだからな」
どもども、野生の1級ハローワークにフィクサー稼業を進められた私だよ。今は会計済ませてスーパーの外を歩いてるところです。
ドンファンから「
引っ越し費用は普通の仕事じゃ稼ぎきれない、かといって人生を捨てるような危ない仕事は嫌だから比較的マシな方法で稼げないかと聞いてみたところ、ドンファンからお出しされたのがプロムン世界を代表するもっとも有名な職業、フィクサー。
安定感は無いけど運と実力次第で大金を稼げるし、私がぶら下げてる幾つもの問題をどうにかできる可能性もあるという、私にとってかなり都合の良い仕事と言えるわけなんですが………
早すぎるんですよね、タイミングが
いつかフィクサーになろうと目指してはいたから嫌ってわけじゃないし、その機会が転がり込んできたこと事態は喜ばしい。しかも一級フィクサー直々の指導もセットなんだから、新たなスタートを切るにはこれ以上無いくらい最高の体制が整えられてると言える……んだけど、肝心の私の準備が万全とは程遠い。
どれくらいダメな感じなのかをRPG風に例えるなら、最初の町で王様からお金貰って安い剣と盾買って「これから私の冒険が始まるんだー!」って意気揚々と町から出た次の瞬間目の前にLv70くらいのボスが現れた感じ。
貧弱にも程がある装備、回復アイテムなんて1つも無いし、用意されたのは逃げ場ゼロの一本道。レベル上げも金稼ぎもさせて貰えず、勝機と正気が欠如した舞台に強制入場。ここまで来ると見えてる地雷にルパンダイブを決めにいくのと大差無い。
本当は地道に稼いで生活環境を安定させて、この先どうするかを腰を据えて考えられるくらいの余裕を得てからフィクサーになろうかなーと考えていた。でも実際はそうはならず、心身共にコンディションは最悪なまま、準備も何も無いすっからかんな状態で挑む羽目になっている。
どうやら都市は悠長に備えることを許してはくれないらしい。どこまでいっても理不尽極まりなくて泣けてくるね。
「さっきから落ち込んでばかりだな、最低限は教えてやるって言ってるのに、そんなに俺が信用ならないのか?」
「別にドンファンさんのことを疑ってるわけじゃありませんよ。ただ、あまりにも急すぎて私の心の準備ができてないだけで……」
「そうなるのも無理はないし気持ちもわかるけど、これ以外に良い方法は無いだろ。他のやり方はどれもリスクが大きすぎたり、釣り合わないものばかりだし」
「わかってるんですけど、踏み出す勇気がでないんです……遠くに見えてた目標がいきなり目の前に現れて、何も足りてないのに本当にできるのかなって……」
「生きてればいつか必ず理不尽な壁にぶつかるものだし、自分の意思で行く先を選べる事なんてごく稀だ。最善じゃなくても後の事を考えれば別に悪い選択ってわけでもないし、覚悟を決めてやるしかないんじゃないか?」
後の事か……確かにフィクサーになって実績を積むことさえできれば他の区に引っ越した後でも仕事に困ることはそうそう無いだろうし、安定感は無くとも食いっぱぐれる事態だけは避けられそうだよね。
都市ではそこら中でろくでもない事が起こりまくってて、その一つ一つがフィクサーにとっては飯の種や出世のきっかけになる。それらを可能な限り拾い集めていけば、私なんかでも案外なんとかなるんじゃないかと思えてくる。………問題があるとすれば、その飯の種が私を殺しに来る可能性が大いにあることだけど。
何にせよ、もう私の意思で選べる段階は通り越してる。駄々をこねても時間の無駄だし、機会っていうものが人の都合を考慮してくれるわけもない。仮に今を逃せば次の機会がいつやって来るか、それまで生きていられるかもわからない。悠長にしている暇は無い以上、どれだけ苦しかろうが目の前に据えられた地獄道を突っ走らなきゃいけないんだ。
それに、考えようによっては今の状況でもポジティブに捉えることができる。何をやっても行く先が地獄というなら、私が何をしようが道筋の過酷さは大して変わらない……… つまり、いちいち不安を抱いたり悩む必要は無くなるわけだ。
だったらもう、未来の展望に対して暗い感情を抱くのは止めにしよう。血反吐を撒き散らしながらでも良い、やりたい事を好きなだけやって、こんな世界だろうが私らしく生きてやるっ!
「わかりました、いつまでも落ち込んでる暇は無いですし、やるだけやってみせますよ」
「おぉ?急に良い目に変わったじゃないか。そんなにやる気を見せられたら俺も手を抜くわけにはいかないな」
「情け容赦は無しでお願いします、今日だけで覚えきってみせますから」
「まさか俺がこんな子供から生意気な言葉を吐かれるなんてな、お望み通りにしてやるから覚悟しておけよ?」
ご心配なさらずとも、覚悟なら暗黒社畜魂が根付いた時から今日までずっと決め続けてる。寝る瞬間でさえ明日の……もしくは今日の仕事に対して覚悟を決め、十字を切って目を閉じる程の徹底ぶりだった私に抜かりは無い。
常態的サビ残、タスクオーバーのミルフィーユ、職場の窓から朝日を拝む事だって何度かあった。それらを乗り越えてきた私の精神力はこの程度で折れたりはしないのだっ!
社畜根性、舐めんなよッ!!!
………と、吠えたのが少し前の私
「フィクサーの免許を取るのに必要な書類と求められる技能は?」
「……わかりません」
「仕立屋にフィクサー向けの服を依頼する手順は?」
「………知らないです」
「じゃあ、依頼の報酬や工房製武器に課される税金はどれくらいか知ってるか?」
「そ、それもです…………」
はい、見ての通り―――
「つまり、ほぼ知らないってことだな?」
「……………ごめんなさい」
ワタクシ、惨敗っ!
我が家に到着してすぐにお勉強タイムが始まったわけですが、結果は非常に悲惨なものとなりました。
いやー、甘くないとは予想してたけどここまでとは思わなかったよね。ゲームや外伝の知識があるし何とかなるだろうと楽観的に構えてた私の考えはものの見事に砕け散りましたよ。
何にどれくらいの税率が課せられてるのかーとか、工房の武器やフィクサー用の備品をどこで買うのかーとか、他にも契約書やら証書やら、次から次へと知らないものや頭が痛くなるものをお出しされてすっかり宇宙猫になっております。
「こんなにあるんだ……しかも全部知らない………」
「なんだ、もうへばったのか。これでもまだ序の口だぞ?」
「ま、まだ大丈夫です!想像と現実が酷く乖離してることなんていつものことですから!」
「……聞いてるこっちまで悲しくなることを言うなよ」
一気に大量の情報を叩き込まれた脳の負荷が高まって熱を帯始めてるけど、まだ続けるだけの余力はある。神経系に過負荷をかけるのはもう慣れっこだし、いざとなれば頭に水かぶってでも続行する覚悟です。
それにしても、いつも妄想の中で浮かべていた都市は思い出補正込みで割と輝いて見えてたんだけど、こうして夢も希望もクソも無い現実を並べられると一気に色褪せてくるね……
そりゃ巣で暮らしてる人は色の無い毎日を過ごすことになるわけだよ、こんなのが日常のあらゆる場面に付きまとう人生なんて完全なるディストピアじゃないか。
……いや、都市はディストピアか。
「まさか基本的な知識から壊滅状態とは思わなかったけど、元々最初から教えるつもりだったしちょうど良いな。お前の頑張り次第で今日中に間に合うかどうかが変わるから、死に物狂いで覚えてくれよ」
「勿論そのつもりです、何せ命かかってますから!」
ドンファンさん、今の私は覚悟ガンギマリだからソイツは無用な心配ってやつだよ、だって死に物狂いというか出来なきゃ死ぬからね私。
今回のタスクの期日はドンファンが引っ越すまで……つまり今日中!この命をどうにか繋ぎ止めるためにも、唸れ我が社畜ブレイン!休み無く酷使され続けた神経系を今一度焼き尽くせ!!
………………
…………
……
「フィクサー免許を取る際に求められる技能は?」
「不足の事態が起きた際に素早く反応できる状況判断能力と、それらに対処できる戦闘能力。強化施術を受けている場合は合格基準が厳しくなる」
「仕立屋に依頼する時の手順は?」
「どんな機能を求めているか、どの程度の強度が必要かを伝えてそれに応じた料金を前払いする。仕立屋が定めた日時を早めたかったり定められた日に受け取りに行けない場合は別途追加料金が必要」
「依頼の報酬に課される税金の税率は?」
「依頼の報酬額の20%、追加報酬があった場合は合計の金額から20%ぶんを支払う」
「依頼を受ける時、一番注意するべき事は?」
「依頼内容や目的地の詳細を確認し、それらを考慮した上で達成可能か、収支はプラスになるかどうかを見極める」
リビングに淡々とした問答だけが響く、まるで試験会場のような緊張感に包まれる中で私とドンファンは表情をピクリとも動かさず、机を挟んで向き合っていた。
何度も繰り返されたやり取りの中で集中力を極限まで研ぎ澄まし、全ての感情を殺した機械的な声で私は答え続ける。ドンファンも同様に、無機質に問いを投げかけ続けている。
そして、無意識に手が震え始めた頃………永遠にも思えたこの時間は唐突に終わりを迎えた。
「そこまで、結果は…………」
制止の声に息を飲み、震える手をぎゅっと握り込んで合格の成否を待つ。ベストは尽くした、けれど完璧だとは言い切れず不安が残る。果たして今回の結果は―――
「……全問正解、上出来だな」
「ふぇ……やったぁ……!」
やった、やったぞーーー!何度かの失敗を経て、ついにパーフェクト達成!基礎知識とはいえ明確な前進を果たし、私の気分は最高潮に達しているっ!
これは最初の一歩であり小さな一歩だけど、新たな道へと踏み出す大きな一歩でもある。暗雲立ち込める行く先に射し込んだ一筋の光、これを道標として私は更に前進してゆくのだ!
「そんな体を震わせるほど喜ぶことなのか?」
「当然ですよ!この調子で頑張れば、思ったより簡単にフィクサーになれるかもしれないんですから!」
「まあ、今のペースが続けばそうなるかもな」
今の絶好調メンタルなら何だってパパッと片付けられる気がしてくる……!
やる気10倍勇気100倍、気持ちだけならアンパンマン。ついでに不可能を可能にすることだってできちゃいそう。さあドンファン、次の課題を出したまえ。どんなものでも楽勝で乗り越えてみせよう!
「で、次は戦闘能力を見せてほしいんだけど……お前戦えるか?」
「え?無理です」
あの、なんだろう、出鼻をドロップキックで粉砕するのやめてもらっていいですか?
「さあ、武器を出してみろ」
休憩を挟んだ後、家の庭へと一緒に出たドンファンが開口一番にそう言い放った。
軽い運動テスト的なものをやるくらいだと思ってた私は「ぇ、うぇ…?」と奇っ怪な声を漏らして硬直、沢山の
当然だけど私は武器なんて持ってない、というか握ったことすらない。ただの一般ブラック社会人でしかない私がそんな物騒なものを備えているわけもないし、我が家にあるもので武器としての役目を果たせそうなのは包丁と裁ちばさみくらいしかない。
時たま上司がぶん投げてくる受話器や湯飲みを武器にカウントしても良いならもう少し候補が増えるけど、そんなもので都市を生き残れるわけがないので実質ゼロである。
「私、武器なんて持ってませんけど……」
「あるだろ、血鬼なんだから」
「武器の有無に血鬼って関係あるんですか……?」
「血鬼は血を固めて武器にできるだろ?だからそれを見せてほしいんだよ」
あー、武器ってカセッティくんの硬血式グレイブ的なやつのことね?今から血を集めて作って、それを目の前で見せろと。
血の操作自体は汚された服を綺麗にする時に実践済みだし不可能じゃないとは思うんだけど、今朝の一件があるから血鬼の能力を使うのは正直やりたくない。血を操作しようとした瞬間にあの頭痛に襲われたような気がするし、原因の予想がつくのにわざわざ同じ事して2度も激痛にのたうち回るのはごめん被る………と言いたい所なんだけど、ここで断った結果指導が中断って流れになったら最悪だからそれだけは避けたい。
今朝のことを伝えて能力に頼らない方向でやるっていうのもアリな気はするけど、自分の能力を把握しきれてないって部分を変に警戒されて「この話は無かったことに……」ってなる可能性も充分ある。考えすぎかもしれないけど、ドンファンに危険だと判断されたらその時点で見捨てられるか切り捨てられると思うんだよね。単に強さだけじゃなくて、そうやって生き残ってきたんだと思うし。
フィクサーになるためにドンファンの指導が必ず必要ってわけじゃないし、めっちゃ頑張れば不可能ではないかもしれない。けどお金も立場も知識も無い私が独力でやるのは困難を極める上に、そうしてモタモタしてたら翼が折れて死ぬことになる。
私に残された時間はそう多くない、頼れるなら頼りたいし、それによって生き残れる確率を上げられるなら尚更だ。だからやってやるよ、見えてる地雷へのルパンダイブ…… 見せてやるよ私の生きざま……!死ぬほど痛くても死ぬよりよっぽどマシなんだ!
「わ、わかりました……はぁ………ふぅぅ………」
「何してるんだ?」
「覚悟、決めとこうかと」
「何に対しての覚悟だよ、武器作るだけだろ?」
その
そんなわけで、固く決意を抱いたはいいけど頭痛以外にもまだ無視できない問題がある。これまでにやってきた血液の操作は既にある血に干渉して行ったものだったけど、今回はどこにも血が無いから自前で血を用意して武器を作らないといけない。
しかもただ出血すれば良いってだけじゃなくて、戦闘に耐え得るだけの強度を持つ武器を作らないといけないから、それなりの量の血を圧縮して固める必要がある。この身体から出せる血はそう多くないだろうし、調子に乗って凝った武器を作ろうとせず程よい大きさで止めておかないと失血死してしまいかねない。
もしぶっ倒れたら指導どころじゃないし、その後は動けないだろうから一日中休まなきゃいけなくなる。そんな事で絶好の機会をみすみす逃す真似はしたくないから、叩いた石橋を鉄筋加工して渡るくらいの気持ちでやらせていただきますよ。
「……よし、やってみよう」
自分に言い聞かせるように呟いて両手にぐっと力を込め、目を閉じて身体のあらゆる感覚に意識を集中させる。血管をポンプに見立てて、延々と身体を巡る血液の流れを少しずつ、少しずつ手先へと向かわせていく。
すると身体の末端から熱が薄れて、その分の熱が両手へと移っていく感覚が伝わってきた。どうやら最初の関門、体内の血の操作はどうにかなったみたいだ。
………この時点で頭痛が来ると思って身構えていたんだけど、今のところその様子はないっぽい。他に異常らしきものは感じないし、じゃああれは何が原因だったの……?
「ふう、ふう……よし、今のところは………」
緊張のせいか、血を変な方向に動かしているせいか、それとも別の要因か、さっきから心臓が聞いたことのない音で暴れていて少し集中が乱される。
でも血の操作は今もまだ問題なく続けられていて、血を集めている手がかなりの熱を帯びてきている。後はどうにかして集めた血を外へ出して、武器として使えるように固めるだけだ。
一気に出そうとすると破裂しそうで怖いし、慎重に、少しずつ……
「なあ、これってこんなに時間かかるものなのか?聞いた話だと血鬼は瞬時に武器を作り出してたらしいんだが」
「かひゅっ……」
「な、なんだ!?急に目が虚ろになったぞ!?」
やめてくれカ○シ、その言葉は私に効く。遅れているタスクを急かすのはやめてくれ………
「はぁ、ふぅ、ぅ………だ、大丈夫……」
「なんか、すまん……」
かつての上司に何度もやられた『仕事の遅れを責める+優れた他者と比較する』っていうパワハラデスコンボで苦しめられた記憶が甦り、全身から冷や汗がブワッと噴出して心臓と胃がキュッとなりました。
いくらブラック根性が染み付いてるとはいえ鋼のメンタルにも限度はあるし、人のトラウマを掘り起こすのは本当にやめてほしい。遅れてる私が悪いって言われたらそれまでなんだけどさ……
それにしても、他の血鬼達はどうやって血を出してるんだろうね。手から出ろー!って念じても何も起こらないし、ただ出そうとするだけじゃ足りないのかもしれない。身体が血鬼なだけの一般人でしかない私にはその辺がさっぱりわからないから、現状どうしようもないんだけども。
手から出す方式を基準とするなら、記憶にある中で一番近いものはファンタジー作品で良くある描写の手から魔法をシュバーッて出すアレなんだけど、それと似たようなものって解釈するなら形にしやすくなるかな……?
とはいえ魔法と解釈するにしても、そもそも魔法にも色んな種類があるから漠然とした形しか思い浮かばない。とりあえず手のひらを上向きにして、そこから謎パワーが昇っていく感じで試してみるかな。
「手から……こう、しゅばーっと………?」
私のイメージの仕方が悪いのか、それとも根本から間違ってるのか、幼女がホカホカの手に日光浴させるだけの意味不明な時間が流れただけで何の成果も得られませんでした。手探りで試した結果だし、まあ駄目だろうなって予感はあったけど。でも他に良い方法なんて何も思い浮かびやしないんですが、もしや私詰んでるか……?
「どうだ、できそうなのか?」
「あと少しでいけそうな気はするんですけど、上手くいかなくて……」
上司に全然進んでない資料の進捗を尋ねられた際の決まり文句「順調でしたが時間かかります」を咄嗟に繰り出してしまった私ですが大丈夫ではありません助けてください。
「何が上手くいってないんだ?言ってみろ」
「あ、えっと、血を手に集めることはできたんですけど、そこから先が難航してるんです。前までは変えたい形をイメージしながらやってたんですけど、どんな風にすれば良いのかわからなくって……」
「だったら、自分が取り出しやすいと思えるものをイメージすれば良いんじゃないか?想像しやすいものでも良いし、一旦作って後から武器に変えれば良いだろ」
すごい、本当に助けてくれたし私じゃ思いつきもしなかった解決法を瞬時に出してくれた…… あの喧しいだけのクソ上司とは大違いだ!あまりに差がありすぎて、事あるごとに叩いて怒鳴って大絶叫してくる剥げタマゴに1級印の爪の垢を詰め込んでやりたくなってきたよ。
まあ、そんなどうでもいい私情はその辺に置いといて、早速ドンファンのアドバイス通りにやってみよう。もう時間を大分無駄にしてしまった気がするし、済ませるべき事は急いで終わらせなければ。
「ありがとうございます、では改めて……いきます!」
ドンファンよりもたらされた着想に基づいて、私にとって最も身近で想像しやすい物を作るための設計図を脳内に書き上げていく。
単純な構造と機能性、どこへでも持ち運べる手軽さと扱いやすさ、それらを兼ね備える私の仕事道具の1つであり、仕事という敵との熾烈な戦いを何度も乗り越えてきた………唯一の武器とも言える相棒を。
「あとは……これで……!」
ようやく明確な形となったイメージを注ぎ込まれた血が皮膚の下で急激に蠢き、一点へと収束して……手のひらから堰を切ったように勢いよく噴出した。
解き放たれた血は重力に逆らって空中に留り、やがて1つの球体となって私が望んだ通りの形へと姿を変えてゆく。
「こ、これは……」
「ドンファンさんのおかげです、あの言葉が無かったらこれを思いつくことはできませんでした」
無駄を廃した四角いスリムな形状、書類やノートパソコンを持ち運ぶのに丁度良いサイズ、世の社会人と共にあらゆる労苦と戦ってきた、仕事に生きる者達の必需品が私たちの目の前に姿を表した。
「社会人御用達、ブリーフケースです」
企業の奴隷となり、日々戦い続ける企業戦士の剣であり盾。最早第二の家族と言っても相違なく企業戦士にとっての半身と言っても過言ではないソレが、再び私の手に握られる。
手に取った瞬間伝わってくる、取っ手が指の間接と噛み合う感触。血で作ったとは思えない程に滑らかな手触りは、私が愛用した安価なポリエステル製のものとほぼ変わらない。私が小さくなったぶん抱えるのは大変になったけど、電車の座席でこれをお腹に抱えて毎朝揺られていた記憶が鮮明に蘇ってくる。
あぁ…… 壊れかけの身体を引き摺って慣性だけで出勤していた日々が昨日の事のように……
「なんで……わざわざブリーフケースなんて選んだんだ?」
「良いでしょう、社畜の心強い味方です」
「良いっていうか、こんなのより棒みたいな物のほうが簡単だし持ち運びやすいだろ。しかもこれ結構デカくないか?」
「以前の私が使ってたものを再現しました、平日も休日もこれを握りしめていたので棒より遥かに想像しやすかったんですよね~。サイズが大きいのは書類やら何やらをたくさん詰め込む必要があったからで、これにしてから仕事の能率がちょっぴり上がったような気がするんです!大量に押し付けられた仕事を持ち帰るときにも必要な書類を納めやすいですし、外回りでも大活躍してくれたんですよ!」
「そ、そうか……」
あのードンファンさん、これただの仕事道具なんですけど何でそんなにドン引きしてるんですか?怪異でも目撃したみたいに顔が引きつってますよ?
「とにかくこれで武器は作れましたし、早速始めましょう!」
「は?それが武器?今から作り直すんじゃないのか?」
「えっ、だって………社畜の武器といえばこれじゃないですか。鈍器にもなるし、投げつけると物凄く痛いんですよ」
「何か、やけに具体的だな」
「やられましたからね、上司に」
「………そうか」
ドンファンさん、どうしてそんなに遠くを見つめてるんですか。目がスターゲイジーパイの魚みたいになってますけど。
「まあ、それを武器にするっていうならそれで良いよな、フィクサーにとって個性は大事だし」
「何か無理やり納得しようと言い聞かせてるみたいに聞こえるんですけど、気のせいですか……?」
「気のせいだ、それで武器の扱い方についてなんだが……」
「話の流し方が雑すぎませんか!?」
突然ですが、私は社畜です
人員不足に襲われ、何とか職場を回そうと奮闘しているわけですが、夏休みシーズンになると業務量が一気に跳ね上がって職場全体がカオスに陥るんですよね。
だからといって怠けているわけではないんですが、投稿がまた1ヶ月以上空くと思うので長くお待たせすることになってしまいます。
多分9月半ば頃に投稿できるとは思うんですが、小説への熱意は燃えたぎってるので萎えたり飽きたってわけではないので、そこだけは安心していただければと……
何もかもが無計画の番外編、アリかナシか
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アリ
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ナシ