目が覚めたら血鬼でした   作:角砂糖(おそらく塩)

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短縮しようと頑張りましたが、何故か7700文字に爆増しました。わたしゃもう諦めたよ……



見えた光明、その後奈落

 

 

 ヤッホー、信頼回復のために全身ズタボロになりながらも掃除をしてきた私だよ。

 いやー、キツいね…… 子供の体格だからってのもあるだろうけど、あちこち掃除して回っただけで足が産まれたての小鹿かってくらい痙攣してるし、腕もプルプルバイブレーション、もうマトモに歩くことすらできませぬ。

 でもその甲斐あってか、あんなに渋い顔をしていた店長さんが色々諦めたように「明日も来てくれ」って言ってくれたし、隣に並んでたケンピさんも子の成長を見守る母親みたいなスマイルで私を労ってくれたので、私に対するマイナスイメージの払拭は無事成功したと言える!はず!

 

 まだ完全には信用されてないだろうけど、少なくとも仕事を任せて貰える程度の信頼は得られただろうし、これで明日からも安心して仕事を続けられる。同時に目標の一つだった安定した収入源も確保できたから、この1日だけでかなり前進できたぞ!

 

 良くやった私、凄いぞ私!でも祝杯は無し!お金無いもん!

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

「ふえぇ……頑張った、わたし頑張ったよ……」

 

 こんな情けない呻き声を垂れ流していますが私は元気です。死に体で我が家に帰還して、限界まで溜まった疲労を洗い流すべく浴室にてシャワーを浴びています。でも浴びているだけで何も洗ってません、だって腕を動かす気力すらないんだもの……

 それにしても、この激しい疲労感も何だか懐かしいなぁ、前の会社で働き始めたばかりの頃を思い出すよ。

 確かあの時は、圧倒的なタスク量に文字通り押し潰されて、ゾンビみたいにヨタヨタ歩いて帰宅してたっけ。いつからか常態化した疲労にも慣れて、何もしてなくてもゴキゴキ音を鳴らして軋み続ける体に一切違和感を感じなくなって………

 

 やめよう、何だか悲しくなってきた。

 

 でもまあ、疲れてるのは事実だけど精神的には元気いっぱいなんだよね、実は。

 無理しまくったせいで疲労度は過去最高に高まってはいるんだけど、それを上回る進捗だったから気分的には大幅にプラス。ちゃんとした職を得られたし、ドンファンから都市についての情報を聞かせて貰う約束も取り付けられたし、これだけでも心にかなり余裕ができる。

 まだ暫くは頑張る必要があるけれども、このまま上手く行ってくれれば、もう少し落ち着いて今後の事を考えられるようになるかもね。

 

「………それにしても、結局私って何なんだろうなぁ」

 

 一仕事終えた達成感と、幾つかの問題解決の兆しが見えて気が緩んだせいか、ふと目の前の鏡に映る自分に意識が向いた。

 血を一滴も欲さず普通の食事で空腹を満たし、本来なら恐れを抱く水を平然と飲み、今も暖かい湯を全身に浴び続けている私の身体。それを見ていると、改めて奇妙な存在だなと実感する。

 

 そうして見ているうちに、私は一つの疑問を抱いた。これは誰の身体なんだろう……と。

 

 この身体は確かに私のものではあるけど、()()()()()()()じゃない。以前の記憶は全て覚えているし、性格や感性も変わってはいないけど、昨日目覚めた時から身体だけが別人のものになっていた。

 となると、私は何らかの要因でこの身体に宿ってしまい、その身を借りて今を生きている事になる。………なら、この身体は本来どういう存在だったのか。

 まず間違いなく血鬼ではある。けど、もしそうなら血を接種していないのに何の異常も起きていないのはおかしい。ラ・マンチャランドの血鬼たちのように老いたり、弱ったり、血への衝動が膨れ上がったりもせず、今もこうして平然としているんだから。

 

「…………」

 

 私であって、私ではないもの。鏡に身を寄せて、()()をじっと凝視する。

 最初はただ可愛いとしか思わなかったこの身体だけど、改めて見つめ直せばその異質さにそこはかとない不安を覚え―――

 

 

「あなたは………誰なの?」

 

 

 鏡に映るその存在に対して、無意識にそう問いかけていた。

 

 シャワーの音だけが響く浴室、鏡の中に佇む私は何も言わず、変わらず赤い瞳を揺らすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、私はいつもやっていたように身支度をして出勤した。この身体にはまだ慣れていないけど、朝起きてやる事は以前と何も変わらない。これまでずっと繰り返してきたルーティンを、反復作業のように今日も繰り返すだけだからね。

 

「おはようございます!今日も頑張りますね!」

 

「あら、おはよう。昨日は凄く疲れていたみたいだったけど、もう平気?」

 

「はい!しっかり休んだのでもう大丈夫です!」

 

「昨日も言ったと思うけど、無理しすぎはいけないからね?それじゃ、今日もよろしくね」

 

 スーパーに到着したら、私より少し早く出勤していたらしいケンピさんを発見したので元気いっぱいのご挨拶、今日も良い笑顔してるぜ。

 次は店長に……と見回したら、ちょうど良く近くにいたから挨拶ついでに本日の業務内容について伺いに行きましょうかね。

 

「店長さん、おはようございます!」

 

「おはよう、思ったより早く来たな」

 

「早めの行動は社会人の基本ですから!それで、今日は何をすれば良いんですか?」

 

「今日やるのは昨日と同じ仕事だ。昨日は途中で色々あったし、アイツが全部やっちまってただろ?だからもう一度やってもらう」

 

「あっ、昨日と同じなんですね」

 

 おお、これはラッキー。夜のドンファンとの話し合いに備えてなるべく余力を残しておきたかったから、2日続けて楽な仕事なのは助かる。

 

「……なんだ、不満なのか?」

 

「い、いいえ!そうじゃなくて、今夜は人と会う約束をしていたので、やり方を知ってる仕事なら定時までに終わらせられそうだなって……」

 

「ああ、そういう事か。余程の事が起こらない限りは今日もいつも通り帰れるだろうな」

 

 はい、実はこのスーパー、素晴らしいことにしっかり定時で帰る事ができるんです!

 というのも、この辺りは人攫いの被害が多いらしくって、特に深夜帯はかなりの確率で不審者に襲われるそうな。なので、大半の店はその時間までに閉店してさっさと帰ることになっているらしい。

 結構怖い情報だけど、そのお陰で早めに帰れるって思うとほんのり感謝の気持ちが湧いてくる。定時なんて単語、暫く聞いてなかったから………

 

「そろそろ開店だから、早めに持ち場に向かってくれ」

 

「わかりました!では、直ぐに向かいます!」 

 

 さてと、やる事は全部わかってるし、ササーっと終わらせて早く帰りますか!

 

 

そんなこんなで今日の仕事も無事終わり、時刻は午後20時30分……

 

 

「んー!仕事終わりの空気美味しいー!」

 

 お仕事を何事も無く終わらせて、相変わらず仏頂面してる店長と聖母スマイルのケンピさんに「お疲れさまでした!」と言ってから退勤。久しく感じたことの無い開放的な気分に若干ハイになっております。

 あれやこれやと忙しなく動くこともない、珍しく普通の日常と変わらない時間を過ごせてリフレッシュ……… はできないんだよね、残念ながら。

 だってこの後が本番なんだもん、今日のメインイベントそっちなんですもん。

 

 正直なところ、久々にまったり過ごしたいのが本音。でも都市の情報は絶対に欲しいから落ち着けるのはまだ先になる。

 アイツがいつ来るのかはわからないけど、少しでも時間を確保して多くの情報を得ておきたいからお風呂だけでも先に済ませておこうかな。

 

 ドンファン、私の話を聞いて呆れて帰らなきゃいいけど……

 

 

 

 

 

 

 お風呂には入ったし、部屋の掃除も軽くしておいたから問題は多分無し。服から血を取り除くときに飛び散ったやつもしっかり拭き取った、ヨシッ!

 さあいつでも来い、私は既に準備を終えたぞ!

 

 コンコンッ

 

 ノックの音、恐らくヤツだ。でも誘拐の話を聞いた後だからちょっぴり怖じ気づいてしまう。へっぴり腰でそろーりそろり、ドアの前に到着したタイミングで2度目のノックの音が聞こえてきた。

 では、いざ意を決して………!

 

 

「―――合言葉を言え」

 

「そんなもん決めてないだろ」

 

 

 この声はドンファンだ、間違いない!ガチャっと開けて扉の向こうのドンファンさんをお迎えすると、何故か残念なやつを見る目で私を見下ろしていた。

 やめてよね、そんな目で見られたら私が勝てるわけないでしょ。

 

「ごめんなさい、お入りください」

 

「何がしたかったんだよお前……」

 

 呆れ100%ドンファンが私の横を通り過ぎながらリビングに上がっていった。何かもう、ごめんなさい。私なりに緊張に抗おうとした結果だったんです……

 

「あ、そこにあるお水は好きに飲んで良いですからね。おかわりもご自由に」

 

「……ああ、ありがとな」

 

 あのー、微妙そうな表情でコップを凝視するのやめてくれませんか?別にそれ毒とか入れてないからね?ごく普通の水道水だからね?

 それとも何ですか、客に対して水しか出せないのかっていう無言のクレームですか。仕方ないでしょ私の懐事情じゃジュースやお酒なんて用意できないんだから。

 

「この家、お前以外に暮らしてるやつは何人いるんだ?」

 

「私1人ですけど、突然なんでそんな事を?」

 

 変な方向に意識を向けてたら、ドンファンが藪から棒にそんなことを聞いてきた。嘘をつく必要も無いし素直に答えたら「え?」って信じられないものを聞いたような顔になったまま沈黙しちゃったよ。なーぜ?

 

「家具のサイズとか、明らかにお前と合ってないものばっかりなんだが」

 

 ああ、なるほど。言われてみれば確かにおかしい所だらけだね。私のサイズと比較して食器やらコップやら、家具も含めて何もかも大きすぎるし、子供が1人で住んでるって時点で訳がわからないもん。

 

「まあそこは訳アリでして…… その訳も含めて話しますから、早速始めましょうか」

 

「そうだな、無駄話をしに来たわけじゃないし」

 

 お互い机を挟んで向き合う形になって、暫く静かな時間が流れる。ふうっと息を吐いて肩の力を抜いてから、私がどうしてドンファンの名前を知っていたのか、その理由を一つ一つ話し始めた。

 

 私は元々この世界には存在しない人間だったこと、その世界では都市を一方的に観測する術があったこと、そこでドンファンという人物の名を知っていたから、あの場で名前を言い当てることができたこと……

 目が覚めたらいつの間にか都市にやって来ていて、その直後にドンファンと出会った事、後は私が元社会人で、れっきとした大人であることも伝えたよ。

 

 ゲームを通して知っていた、なんて言うと信憑性が薄れそうだったから少しぼかした伝え方で誤魔化しておいたけど、そのせいで疑われたりしないよね?

 

「なるほど……な。かなり非常識だが、納得はできるな」

 

「え?そんなにあっさり受け入れるんだ……」

 

「疑う気持ちは当然あるんだが、血鬼なのに平然と巣の中を出歩くような常識知らずがここまで生きてこられたとは思えない。それにここは都市だからな、この程度の事で狼狽えてたら生きていけないんだよ」

 

 私、割と滅茶苦茶な事を言ったと思うんだけど『でも都市だから』で軽く流せちゃうんだ。やっぱりヤバイよこの世界。

 

「俺の知りたい事は聞けたし、次はお前の番だな。色々知りたい事があるとか言ってたが、何を聞きたいんだ?」

 

「あ、もう良いんですか?それじゃあ、えっと……」

 

 ドンファンはちゃんと満足したみたいで、水を飲んで一息ついてから私に話を譲ってくれた。よしよし、これでようやく都市についての詳細な情報を得られるね。

 最初は何について聞こうかな、家賃に税金、ハナ協会の場所についても知りたいんだけど……

 

 ……場所といえば、私が今いる場所がどこの巣なのかも知らなかったね。まずはそこから聞いてみようか。

 

「私たちがいるこの場所って、どこの巣なんですか?」

 

「おいおい、それすら知らなかったのか……?ここはW社の巣だよ」

 

「なるほど、W社の……」

 

 なんと、ここは例の超ブラック企業ことW社さんの巣でしたー!転生してもブラック企業から離れられないなんて、これも運命ってやつかな?クソみたいな赤い糸だね!まあ、都市の企業なんて大半がブラックなんですけどね。作中マトモそうなのリンバスカンパニーしか無かったし。

 

 文句は一旦置いとくとして、W社といえばあのトラウマ製造機ことワープ列車を運行してる事で有名だけど、同時に味の路地やグルメ通りとも呼ばれる23区を抱えているところでもあるね。

 この23区最大の特徴は、食材として人間を調理していること。人を攫って、下処理して、ミートパイやら肉ジャムやら、吐き気を催すテロ飯を量産しまくってるよ。この23区に限ってはそれが普通、ありふれた日常風景らしいから想像しただけで気が狂いそうになるね。

 ちなみにここはすっごく熱々な2人組のお店であるピエールのミートパイや、例の硬すぎる鮫ことグレタ属する8人のシェフの原産地でもあります。8人のシェフは図書館だと自分達をフルコースにしてグレタ以外全滅してたけどね。

 

 ……ところでさ、最近この辺りで増えてるって言う誘拐事件って、裏路地の人達が食材確保の為に攫ってるのが原因なんじゃないの?ルイナの作中でもピエール&ジャックが「最近肉を卸してくれない……」ってぼやいてたし。手段と目的を選ばず、究極の美味を追求する場所だーってローランも言ってたし、そんな奴等なら「裏路地では肉が取れない?じゃあ巣から取ろうね!」ってなりそうだよね。

 もしそうだとしたら大迷惑、私みたいな若い子供の肉なんて奴等からすれば最高の食材だろうし、絶対近寄りたくないね。

 

 話を戻して、23区はトップクラスに治安終わってるから論外だし、W社の巣の治安はどうなのか全然知らないけど、退勤したW社職員は普通に夜の街で自由な一時を楽しんでるみたいだから、巣で暮らすぶんにはそこまで悪くはないんじゃないだろうか。

 誘拐事件が起きてるらしいから不安はあるけど、もしT社だったら時計持ってないから即詰み案件だったし、場所ガチャは割と当たり寄りなんじゃ?

 

「なあ、巣のことすら把握してなかったって事は税金をどうやって支払うのかも知らないんじゃないか?」

 

「ご、ご名答です……」

 

「やっぱりそれもか、役所の場所教えてやるから書くものと紙をくれ」

 

 言われるままにペン立てからペンを1本、側のメモ用紙を何枚か剥ぎ取ってドンファンに渡すと、役所の場所や行き方なんかを凄い綺麗な字ですらすら書き始めた。え?何その意外な個性、厳つい見た目とのギャップすごいんですが。

 あれかな?フィクサーって契約書とか色々書く機会が多いから得意なのかな?その辺分からないけどそんな感じがする。

 

「……私も書き物の練習したほうがいいのかな」

 

「損することはないから、覚えておいたほうが良いだろうな。ほら、できたぞ」

 

 手渡されたメモ用紙を見ると、行き方以外にも税金の種類や金額、それを役所のどの受付で支払えるのかなどを小さな絵もセットで分かりやすく書いてくれていた。

 私がカードを持ってないのを察して銀行じゃなくて役所を教えてくれたみたいだけど、何か妙に優しすぎない?この男?

 どうしよう、親切すぎて疑いの心が芽生えてきた。

 

「お前の事だからどうせカードも無いんだろうと思ったんだが、その様子だと当たってたらしいな」

 

「気持ち悪いくらいバッチリ当てられて少し引いてます、感謝はしてますけど……」

 

「本当に失礼だな…… 明け透けに物を言うのはある意味信用できるけど、少しは隠そうとしろよ」

 

「だって、まさかこんなに丁寧に教えてくれるなんて思わなかったから…… もっとズルくて酷いことをされるのが都市だと思ってたし」

 

「子供相手に意地の悪いことをして何になるんだよ、野垂れ死んでたら目覚めが悪いし、これくらいはしてやる」

 

 あなた本当にドンファンですか?何もない方式で皮被った他人でしたーってオチじゃないの?古着屋のおばあさんといい、スーパーの人たちといい、何か皆さん私に優しすぎませんか?

 いやまあ得られるものは喜んで受けとりますけど、使えるものは何でも使わないと都市じゃ生きていけないだろうし。

 

「それで、他には何か無いのか?」

 

「うーん…… そういえば、この家の家賃ってどうなるんですか?私の家がそのまま来ちゃったから、その辺りがどうなるのかわからなくて」

 

「それは俺にもわからないな、建物が巣の中に転移してくるなんて前例が無いし」

 

「ですよね…… 役所で聞いてみるしかなさそうかなぁ」

 

 予想はしてたけど、やはりドンファンも知らないらしい。でもまあ役所で確かめればいいから問題にはならないね。

 そして、これで巣の事と家賃、税金問題は一段落しましたと。後は…… っと、大事な事を忘れてたよ。今の都市がどの時間軸なのか確かめなきゃいけないんだった。

 

「ドンファンさん、ここ最近で何か奇妙な事件が起きたりしませんでしたか?」

 

「奇妙?直近だとお前の家が一番奇妙だったな」

 

「そ、それはそうですけど!他にも凄い事が起きたりしませんでした?例えばL社から光が打ち上がったりとか」

 

「L社か、その名前を聞くのも久々だな。本社が潰れて図書館に変わって、他の区の支部も全部放棄されたらしいが」

 

 なるほど、つまり今は図書館時空かその後ってことか。じゃあ今ここにいるドンファンは図書館に単騎突撃する前ってことかな?

 

「あの、ドンファンさんは図書館に行ったりは……?」

 

「その口振りだと、図書館については知ってるっぽいな。俺もそこに行って見事にやられたんだが、確かに死んだと思ったのに気付いたら見知らぬ場所に突っ立ってたんだよな」

 

「……じゃあ、図書館から光が放出されたのは?」

 

「ああ、知ってる。あの時と同じように光が空を貫いて、いつの間にか図書館も消えていたな」

 

 あー、ドンファンは既にやらかした後でしたか。そして図書館は外郭に放逐済みと………

 なら今はリンバス時空か、そこに至るまでの間ってことだろうね。私が知らない事件がこの間に起きてたら対処できないし、ちょっと不安だね……

 まあそれは追い追い考えるとして、聞きたいことは全部聞けたし、これで終わりにしようかな。

 

「私が聞きたかった事もこれで終わりです、色々教えてくれてありがとうございました!」

 

「そうか、こっちも面白い話を聞けたし退屈はしなかったよ。それじゃあ―――」

 

 立ち上がろうとしていたドンファンはそこで言葉を止めて、何かを考え込むみたいに天井を見上げ始めた。何ですか、急に目の前でそんなことされると少し怖いからやめてほしいんですが。

 

「この後は帰りに行きつけの店で食うつもりだったんだが、お前も来るか?」

 

「ほ、ほぇぇ!?い、いいの……?というか何で、いきなり……」

 

「ただの気まぐれだ、それで、来るのか?美味いとこだから味は保証する」

 

「行きたいけど、そこまでしてもらうのはちょっと申し訳ないでs

 

 

 グウゥゥゥ………

 

 

「………」

 

「身体は食いたいって言ってるな?」

 

「……うるさいです、デリカシーゼロ男」

 

 くっ、私を哀れみの目で見下すなぁ!ちゃんと朝ごはんだって食べたんだぞ!お昼も食べてるんだぞ!

……全部もやしと鶏肉だけど

 

「変に遠慮してないで、食いたいならそう言えばいいだろ」

 

「うぅぅぅうぅ……」

 

「はぁ、ほら行くぞ」

 

「ぅあっ!?な、なんで担ぐんですか!?やめて!降ろしてぇ!」

 

 やめろー!私は米俵じゃないんだぞ!!今すぐお米様だっこをやめるんだー!!

 というか私、仮にも成人済みの女性なんですけど!そこんとこ分かってんのかこのやろぉ!

 

「見た目どおり軽いな、身体強化してないやつでも軽々持ち上げられるんじゃないか?」

 

「だからってこんなことしないでぇ!は、恥ずかしいよぉ……!」

 

「大人しくしとけよ、外に出たら降ろしてやるから」

 

 くぅぅ、人生最大の恥辱じゃ………!

 ていうか、これどこに連れていくつもりなんだろ、美味しいって言っても都市の飲食店って微妙に信用ならないんですけども。

 

 そういえば、ここって23区の裏路地があったよね?でもって、そこは人肉食が盛んで、若くて新鮮な肉は需要が高くて………… 

 

 

 あれ?もしかしてこれ、私を晩御飯にしようとしてる?

 

 

「あの、そのお店って裏路地の……?」

 

「裏路地じゃないが、かなり近いところにある店だ。安心しろ、そこは人肉……」

 

 

「いやぁぁぁ!!カニバられるのは嫌ァァァ!?!?」

 

「違ぇよ馬鹿!ていうか耳元で叫ぶんじゃねえ!!」

 

 





23区を絡めたかったのでW社の巣ということにしましたが、どこを調べてもここの禁忌がわからないっ
なのでわざと触れないままにしておきました、もし知ってる方がいたら知恵を授けてくださいませ………
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