https://www.youtube.com/watch?v=VG5ZzTijbec&list=RDVG5ZzTijbec&start_radio=1
「チーム・ヴェノムとスクラッパーズ……やはり、あいつらもここを狙っているのか。」
ピットブルブラザーズの縄張りからG-シェルターの事務所に戻ったレイ、栞、そして和田の三人は、ジョーが持ち帰った報告に耳を傾けていた。
「ああ。ピットブルブラザーズの連中を洗ってたら、案の定、他のギャングどもの動きも引っかかってきてね。」
ジョーは不敵に笑い、タブレットの画面を操作する。そこには、ジョーの相棒である『カメラ・ダックス』たちが密かに捉えた、生々しい潜入写真が並んでいた。
「これは……どこで撮った写真なんですか?」
「こっちは『チーム・ヴェノム』のナワバリだ。ちょうど商店街の攻略会議をしてるところさ。音声もバッチリ拾ってるぜ。」
ジョーが再生ボタンを押すと、ノイズ混じりの会話が室内に響いた。
『――いつ商店街に乗り込むんです、鱗さん?』
『……スクラッパーズの動きを待て。彼らが正面から壁を壊し始めた時、我々の毒が最も効率よく広がる。』
冷徹な襲撃計画の肉声に、栞が思わず息を呑む。
「もう一個あるぜ。今度は『スクラッパーズ』のアジトだ」
次に見せられたのは、鉄屑に囲まれた倉庫の中で佇む、鉄錆のような質感の甲羅を纏った蟹の怪人の姿だった。
「また、あの化け物か……」
先ほど猛田兄弟が変貌したブル・ビーストを目撃した和田は、その新たな怪人の姿に震える手で顔を覆った。
「スクラッパーズのリーダー、蟹江が『ビースト化』した姿だ。いつでも出陣可能って面構えだな。」
「まさか、ピットブルの他にもこれほど強大な連中が……。レイさん、私たちは一体どうすれば……」
ピットブルブラザーズをレイが倒したかと思えば、また新たに2組のギャングが商店街を狙っていることが知らされた。和田が絶望に打ちひしがれ、頭を抱える。だが、レイはその視線を逸らさず、静かに断言した。
「安心してくれ。――『商店街を守り切る』。それが俺が受けた依頼だ。奴らを1人残らず追い払うまで、俺たちがここを離れることはない。」
「レイさん……」
レイの揺るぎない言葉に、和田の表情にようやく安堵の光が宿る。
「けど、レイさん。相手は2つの組織です。いつ、どこから、どんな連携で襲ってくるかも分からないのに、どうやって対処すれば……」
『栞、クライアントの前で弱音を吐くのは二流の仕事だぜ。……まあ、この偏屈な主人のことだ、ただ待っているだけじゃねえだろ?』
ソードウルフがケージフォン越しに、栞を嗜めつつレイに期待の眼差しを向ける。
「ああ。まずは、こちらから敵の動きをコントロールする。……奴らが望むような形で戦わせはしない。」
レイはデスクに広げられた地図の一点を指差した。その瞳には、既に次なる戦術のビジョンが描かれていた。
「俺たちはジョーのおかげで、向こうに明確な襲撃の意志があることを把握できた。それだけでも、先手を取るには十分すぎる材料だ。」
「まあな。闇討ちされる前に、こっちで盤面をひっくり返す準備ができるってわけだ。」
レイの言葉に、ジョーも不敵な笑みを浮かべて同意する。彼らの提供する精度の高い情報により、情報戦における不利は完全に覆されていた。
「情報があるということは、こちらから敵の動きを『誘導』できるということでもある。」
レイは、チーム・ヴェノムとスクラッパーズの拠点が示された地図の一点を、ナイフのような鋭さで指差した。
「――チーム・ヴェノムとスクラッパーズを、ぶつける。マッド・バザールに来る前に、奴ら自身に削り合わせるんだ。」
「抗争させるっていうんですか……!?」
レイの口から語られた過激な策に、栞が驚愕の声を上げる。
「ああ。双方の組織に、互いの急所を突くような『偽の情報』を流し、火種を投下する。」
「でも、いくら相手がギャングだからって……わざと争いを引き起こすなんて!」
いくら悪党が相手とはいえ、自ら火に油を注ぐようなレイのやり方に、栞は強い疑念を隠せなかった。その視線を受け、レイは静かに、だが威圧感を持って立ち上がる。
「なら、奴らが万全の状態で商店街に乗り込んでくるのを、ただ指をくわえて待っていろと言うのか?」
「べ、別に……そういうわけでは……」
「もしギャング2組がこのフリューゲル地区で激突してみろ。店は破壊され、客や住人にまで血が流れる。街は戦場になり、二度と元の姿には戻らないかもしれない。……俺はここを守れと依頼された。そのために『最悪の事態』だけは、何をしてでも回避する。」
レイの言葉に、依頼人である和田が深く、静かに頷いた。現場を知る者として、戦火が及ぶ恐怖は誰よりも理解していたのだ。
「な……なら、レイさんの考えの方が、被害は少なくて済むんですね……」
栞もまた、あえて争いを起こすというレイの決断が、"非情"ではなく"守るための選択"であることを理解し、渋々ながらも納得の表情を見せた。
「そういうことだ。ジョー、お前の手の者に動いてもらう。奴らのアジト付近でデマを流し、一気に抗争を誘発させろ。」
「ヘイヘイ。……なんかいつの間にか、とんでもない汚れ仕事に巻き込まれてる気がするけどさ。」
「報酬は上乗せする。お前の命を賭けさせる以上、当然のことだ。」
情報屋としての域を超えた危険な橋を渡らせるジョーに対し、レイは敬意を込めてそう告げた。
「一先ず、動きがあればすぐに連絡し合おう。解散だ。」
レイが対策会議を締めくくると、各々が次なる戦場へ向けて動き始める。レイは一瞬だけ、メンテナンスルームに続く階段を見据え、自らの相棒たちの入ったドライバーを確かめてから、自室へと戻っていった。
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(レイさんにとって『守る』っていうのは、一体……)
対策会議を終えた後、栞はリビングの椅子に座り、俯きながら考えていた。レイが選んだ"抗争を煽る"という手段。それが最善だと頭では分かっていても、心が追いつかない。
「どうしたんだい、栞ちゃん。そんな浮かない顔してさ。」
「ちょっと! 私にもその呼び方はやめてください!」
背後からかけられた場にそぐわない軽い声に、栞は勢いよく振り返って抗議した。
「まあ、いいじゃない。減るもんじゃあるまいし。」
「良くないですよ……恥ずかしい……」
栞は口を尖らせて視線を逸らす。だが、ジョーは彼女の隣に腰を下ろすと、少しだけトーンを落として続けた。
「……で? そんな顔をしてるってことは、さっきの話し合いの件かな?」
「え、ええ……」
図星を指され、栞は思わず目を丸くする。
「まあ、そんなところだろうとは思ったけどさ。あんまり気にすることじゃないよ。」
ジョーは栞の肩を軽く叩いた。その手は、先ほどの軽薄な態度とは裏腹に、どこか落ち着いた温かさがあった。
「レイは常に二歩、三歩先を見ている。正直、俺にだって理解できない時はあるさ。」
「ジョーさんにも……ですか?」
「ああ。最初にアイツと会った時もそうだった。」
ジョーは遠くを見るような目で、レイとの出会いを回想し始めた。
「あの時もレイは、今回みたいに誰かを守る依頼を受けて、ターゲットを狙ってる奴の情報を求めて俺を訪ねてきたんだ。そしたらアイツ、情報を聞いた直後に、依頼人を襲おうとしてる連中のアジトへ一人で乗り込んで、全員叩き潰しちまったんだよ。」
「確かに……今の状況と似ていますね…」
「俺も最初は『何なんだコイツ?』って思ったよ。自分から危ない橋を渡るし、火種を消すどころか爆発させてるんだから。……けど、結果的に依頼人は指一本触れられずに済んだ。アイツがあそこまで『守り切ること』に執着する理由は俺にも分からないけど……とにかく、アイツが守ると言った相手は、絶対に守ってくれる。それは保証するよ」
「……商店街の人たちを、傷つけないために……」
ジョーの話を聞きながら、栞はレイが選んだ冷徹な手段の裏にある意図を、自分の中で咀嚼していった。
「依頼人だけを守るってのは、見方を変えれば都合が良いように聞こえるかもしれない。けど、それもアイツなりの『優しさ』の形なんだよな。今回だって、商店街に住む人たち全員を巻き込ませないために、あえて自分が泥を被る道を選んだんだ」
ピットブルブラザーズの時もそうだった。商店街が荒らされないよう、わざわざ敵の本拠地という死地へ乗り込んでいった。一貫してレイは、"戦場"を守るべき人々や場所から遠ざけてきたのだ。
「まあ、全部を理解しろとは言わないけどさ。アイツの下で働くんだったら、分かっておいた方が少しは楽になれるかもな。」
「……ありがとうございます。ジョーさん。」
栞の表情に、ようやく少しだけ明るさが戻った。それを見たジョーは満足げに立ち上がり、ジャケットの襟を正す。
「それじゃあ、俺はそろそろ一仕事してくるよ。デマの種を蒔きにな。」
「はい。……お気をつけて」
ジョーは軽く手を振り、影のように事務所を後にした。残された栞は、レイがいるであろう自室のドアを見つめ、少しだけその背中を近くに感じていた。
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(なあ、レイ。さっきのは少し言い過ぎたんじゃないか?)
(……そう、かもな)
G-シェルターの自室内。デスクに肘をついたレイは、サンダージラフをはじめとするケージ・インジェクター内のアニマたちと、脳内で対話を重ねていた。
(だが、俺は依頼人の被害を、その周囲の犠牲を最小限に抑えたいだけなんだ。……それを伝えたかっただけなんだが、あいつをあんなに沈ませるつもりはなかった…)
自分の信念を伝えようとして、結果的に栞を突き放してしまったのではないか。レイは珍しく、言いようのない後悔に苛まれていた。
(相変わらず、レイは不器用だねぇ。もっと柔らかく言えばいいのに…)
(けど、そういう根が優しいところがレイの良いところなんだよな~!)
(うっせ……。黙ってろ、カタパルトパンサー!メカカブト!)
茶化してくる相棒たちに、レイは顔を赤くして毒づく。
(レイ。こういう時は、言葉を飾らず素直に話すのが一番だぞ。)
最年長のスターオクトパスが、落ち着いたトーンでアドバイスを送る。レイはその言葉に、観念したように重い腰を上げた。
「……少し、話してくる」
レイは部屋を出て、リビングへと向かう。
「あ、レイさん……」
そこでは、栞が健気に事務所の掃除をしていた。レイの姿を認めると、彼女の手が止まる。
「栞、その……さっきの件だが……」
「レイさん、ごめんなさい! 私、レイさんの意図を全然分かっていなくて、勝手なことばかり……!」
謝ろうとしたレイの言葉を遮るように、栞が勢いよく頭を下げた。
「あ、いや……。あまり気にするな。……俺の方こそ、言い方がきつかった。悪かったな。」
先に謝られたことに一瞬面食らいつつも、レイは視線を逸らさずに自分の非を認めた。
「そんなこと、全然気にしてないですよ。……ジョーさんから、お話を聞いたんです。レイさんが、どれだけ必死に街を守ろうとしているか……」
栞が柔らかく微笑むと、レイは少しだけ安心したように息を吐き、そっと頷いた。
「……今日は依頼に、戦いに、話し合いと、色々あったな。」
「そうですね。本当に、長い一日でした。」
商店街を守り、死地を潜り抜け、さらなる脅威への対策を練った。百戦錬磨のレイといえど、疲労は隠せない。彼は凝り固まった自分の首を軽く揉んだ。
「今日は、私が夕食を作りますね。」
「……栞が作るのか?」
「ええ! 大丈夫ですよ。レイさんのこだわり、ちゃんと分かってますから!」
栞はそう言って、冷蔵庫から商店街で購入したばかりの卵パックを取り出し、自信満々に見せてみせた。
「……そうか。ありがとう、なら今日はお前に任せる。よろしく頼む」
「はい! 任せてください!」
鼻歌を歌いながらキッチンへと向かう栞の背中を見送り、レイは休憩のために自室に戻った。 デスクのモニターには、ジョーから送られてきた『チーム・ヴェノム』と『スクラッパーズ』のデータが冷たく映し出されている。 束の間の平穏。だがその裏で、レイの知略によって二大ギャングを激突させる"嵐の前触れ"は、着々と進行していた。
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「まさか、あなた方のような野蛮な連中まであそこを狙っているとは……」
「それはテメエらの方だ、薄汚い毒虫野郎!」
それから数日後。レイの講じた策は、狙い通りの形で実を結ぼうとしていた。ギャング達の縄張りの境界線。チーム・ヴェノムとスクラッパーズ、2つの巨大ギャングが軍勢を引き連れ、一触即発の睨み合いを続けていた。
「困るんですよねぇ。君たちのような壊し屋にマッド・バザールを奪われちゃ、我々の計画が台無しだ。」
チーム・ヴェノムのリーダー、鱗が、冷徹な細目でスクラッパーズの面々を射抜く。彼らは独立地帯であるマッド・バザールを制圧し、莫大なみかじめ料を吸い上げることで活動資金を拡大しようとしていた。だが、そんな彼らの元に届いたのは――「スクラッパーズも同地を狙っており、邪魔なピットブルブラザーズを既に血祭りにあげた」という、ジョーが流した偽りの情報だった。
「ケッ、それはこっちのセリフだ! マッド・バザールをテメエらみてえなジャンキー共に渡してなるかよ!」
スクラッパーズのリーダー、蟹江がドスの効いた声で返す。彼らの元にもまた、「チーム・ヴェノムがマッド・バザールを独占するため、抗争を仕掛けてピットブルブラザーズを全滅させた」というデマが舞い込んでいた。
「お前らは何をしでかすか分からねえ。……寝首をかかれる前に、ここで叩き潰してやるぜ!」
「……交渉決裂ですね。これ以上、あなた方の好きにはさせません!」
実際に猛田兄弟を倒したのはレイだが、両組織は互いに"相手がやったこと"だと信じ込んでいる。敵対心を煽り、自分たちの手が汚れる前に戦力を削り合わせる――レイの描いた抗争のシナリオが、今まさに幕を開ける。
「行きますよ……皆さん。掃除の時間です!」
鱗の号令と共に、ヴェノムのメンバーが一斉にケージ・インジェクターを掲げた。紫色の毒霧を撒き散らす毒蛾『ニードル・モス』や、飢えた『ラットバイター』が次々と召喚される。さらに鱗は自らの首筋にインジェクターを突き立て、醜悪な蛾の怪物、モス・ビーストに変貌した。
「そっちがその気なら……野郎共、ぶっ潰せッ!」
スクラッパーズも呼応するようにジャンク・クラブやストリート・ブルを召喚。蟹江もまた、鉄錆色の重装甲を纏ったクラブ・ビーストへと姿を変える。
「「やれぇぇぇッ!!」」
両陣営の叫びが重なり、数多のゼノスアニマたちが牙を剥いて激突した。路地裏に毒の粉塵が舞い、硬質な甲羅が他のゼノスアニマとぶつかる鈍い音が響き渡る。
「……よしよし、最高の燃え上がりっぷりだ」
その惨状を、戦場から少し離れたビルの屋上で、一人の男が優雅に見下ろしていた。ジョーだ。彼はニヤリと笑うと、手元のスマートフォンでレイに"開戦"の合図を送った。
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「……これは、想定外の動きだな」
「ふふ、まさかギャング同士で潰し合いを始めるとはね」
血生臭い風が吹き抜けるビルの屋上から、その惨状を見下ろす影があった。レンジとエレナだ。
「チッ……結局、標的は釣れなかったか」
彼らの目的は、ビースト化したギャングを駒として使い、仮面ライダーテイマーの戦闘データを収集することにあった。だが、目の前で起きているのは、制御を失った獣同士の泥沼の抗争だ。
「イレギュラーは付きものよ。あなたの蒔いた種が、少しばかり毒が強すぎたのかしら?」
「フン、こんな下層の連中に期待した俺のミスだな。」
テイマーが現れ、ビーストたちを圧倒する光景を期待していたレンジにとって、この共倒れは退屈な誤算でしかなかった。しかし、エレナは艶然とした笑みを浮かべてフォローする。
「とは言え、街に『ビースト化』の火種を撒くことには成功したんじゃない? 闇の層の秩序が乱れれば、あの女を炙り出すのも容易くなるわ。」
「そうだな。混沌こそが俺たちの望む状況だ。街が燃えれば燃えるほど、目的の『黄金のケージ・インジェクター』に手が届きやすくなる。」
彼らが狙うのは、栞が隠し持つ伝説の鍵。レイは現在、長期間にわたる護衛契約を栞と結んでいる。彼女を狙う勢力の正体をレイがどこまで把握しているかは不明だが、そのガードは鉄壁だ。レンジたちは、栞を手中に収めるには、目の前の「壁」――仮面ライダーテイマーを排除するしかないと痛感していた。
「あの男は、まるで隙を見せねえ……。だが、どんな鉄壁の守りにも必ず綻びは生まれる。」
戦場を見下ろすレンジの瞳に、冷徹な殺意が宿る。その時だった。
「あら? ……ようやくお目当ての登場ね。」
エレナが耳元を掠める風に目を細めた。遠くから、重厚なエンジン音が地響きのように響いてくる。
「ああ……来たかッ!」
戦場に乱入してきたのは、漆黒のバイク『ケージ・インパクター』に跨った仮面ライダーテイマー。激突する二大ギャングのど真ん中を突き抜ける一筋の閃光。レンジとエレナは、獲物を見つけた猛禽類のような鋭い視線で、戦場へと身を乗り出した。
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「なんだぁ、ありゃあッ!?」
チーム・ヴェノムとスクラッパーズの抗争が最高潮に達し、モス・ビーストとクラブ・ビーストが互いの喉元を狙って拳を交えたその瞬間だった。戦場の喧騒を圧するほどの猛烈なエンジン音が鳴り響く。
『メカカブト! ライド・イン!』
電子音と共に、鋼鉄のカブトムシの角を模した光の衝角が、バイクの前面に展開される。漆黒の旋風と化した『ケージ・インパクター』が中央に突撃。激突の衝撃波が、拳を交えていた2体のビーストを容赦なく弾き飛ばした。
「誰なんですか……?一体……」
地面を転がりながら立ち上がったモス・ビーストとクラブ・ビーストが、陽炎の中に佇む乱入者を睨みつける。ギャングのメンバーたちも、戦いを忘れてその異質な存在に目を奪われていた。
「俺は……仮面ライダーテイマー。ただのセキュリティだ。」
『ヘビー! バスターレックス! テイム・オフ!』
戦地に降り立ったテイマーが静かに名乗ると同時に、テイムドライバーのダイヤルが回転。溢れ出した白いオーラが巨大な実体を結び、地響きと共に古の暴君――バスターレックスがその姿を現した。
「よっしゃあ! 暴れ回るぜぇッ!!」
バスターレックスが咆哮し、丸太のような太い尾を独楽のように一回転させる。野球のバットでボールを捉えるような一撃が、2体のビーストに炸裂し、彼らを遥か後方のビルへと叩き付けた。
「おいおい……なんだよ、あのデカブツ!」
「反則だろ! 災害じゃねえか!!」
バスターレックスが戦場を蹂躙し始める。彼が地面を蹴るたびに局地的な地震が発生し、周囲のゼノスアニマたちは攻撃の余波だけで吹き飛ばされ、蹴り飛ばされ、強制的にインジェクターへと帰還させられていく。
「退け、退けッ!俺様の通り道だ!」
バスターレックスは巨体に似合わぬ速度で駆け回り、顎でアニマを噛み砕き、その圧倒的な質量で戦場を平らげていく。
「大丈夫だ……少し距離を置いて、毒で仕留めれば……」
低空飛行を維持していたニードル・モスたちは、かろうじて足元の蹂躙を逃れていた。彼らはバスターレックスの死角へ回り込み、一斉に毒針を放とうとする。
「そうはさせない!」
だが、射出の瞬間、テイマーが空を切って跳躍した。手に握られた『ケージ・ブレイカー』が鋭い残光を描き、ニードル・モスの群れを次々と両断していく。大暴れするバスターレックスの死角を、テイマーが最小限の動きでカバーする。これこそが、一人と一匹による完璧な"殲滅陣形"だった。
「ダメだ……どんどんやられていく……!」
数分と経たぬうちに、20体を超えていたアニマの群れは霧散し、残されたのは2人のリーダーだけとなった。
「仕方ありませんね……正体不明の男ですが、一時共闘といきましょう!」
「ああ! 俺の可愛い部下たちの仇だ、タダじゃおかねえ!」
鱗と蟹江は憎しみを一時的に横に置き、バスターレックスに向けて同時に地を蹴った。
「……残りは2体か」
『タクティカルチェンジ!』
テイマーが瞬時に状況を判断し、インジェクターを差し替える。巨大なバスターレックスが白い光に溶けて消え、代わりに小柄な黄金の影が舞い降りた。
『ライトヘビー! シールドビー! テイム・オフ!』
「ハニカムシールド、展開っ!」
シールドビーの掛け声と共に、10枚の六角形シールドがテイマーの周囲を旋回し、鉄壁の防陣を敷く。
「これで仕留める……ッ!」
モス・ビーストが口から毒針を連射しながら肉薄するが、テイマーは腕に装着したハニカムシールドを無造作に翳した。キンッ、と硬質な音を立て、猛毒の針が全て弾き返される。
「ちゃちい攻撃じゃ、僕らは崩せないぜ!」
「笑わせるなァ!」
毒を無効化されたモスを突き飛ばし、クラブ・ビーストが鋼鉄の爪を振り下ろす。重戦車のような一撃がシールドに激突し、火花が散った。
「流石に重いな……」
シールドに微かなヒビが入る。だが、レイに焦りはない。
「僕に任せて!」
クラブ・ビーストが次の一撃を繰り出すより早く、シールドビーが残りのハニカムシールドを射出。回転しながら敵の関節部に突き刺さり、その動きを封じる。
「一気に叩き潰す!」
テイマーは両拳を握りハニカムシールドを"ナックルダスター"として固定。鋼鉄の装甲を誇るクラブ・ビーストの顔面に、盾の硬度を利用したパンチの連打を叩き込む。本来なら拳を砕くほどの硬い装甲も、ハニカムシールドを介した打撃の前には無防備な肉と変わらない。
「隙を……ッ!」
モス・ビーストが横から毒針を放とうとするが、その動きは既にシールドビーに読まれていた。
「隙なんてないよ。だって、レイと僕の組み合わせは――」
「『鉄壁』だからだ!」
テイマーの渾身の右ストレートがクラブ・ビーストを吹き飛ばし、同時にシールドビーが射出した盾がモス・ビーストを撃ち抜いた。
「さあ、これで終わりだ!」
「了解っ! フルパワーで行くよ!」
怯んだ2体の怪人を見据え、テイマーはトドメの一撃を放つべく、テイムドライバーのダイヤルを最大出力で回転させた。 溢れ出した白いオーラが十数枚のハニカムシールドと共鳴し、テイマーの身体を磁石のように宙へと浮かび上がらせる。
『テイムバースト!』
「ハニカム・ストライク!」
シールドビーが生成した無数のシールドが、ドリル状の弾丸となってテイマーの右足に収束。テイマーは流星のような勢いで、2体の怪人目掛けて急降下した。
「私だけでも生き延びてみせますッ……!」
直撃の寸前、モス・ビーストが醜悪な本性を露わにした。隣にいたクラブ・ビーストを盾にするように蹴り飛ばし、その反作用を利用して強引に上空へと飛び上がったのだ。
「な、貴様ぁ……ッ!?」
裏切りに驚愕するクラブ・ビーストだったが、既に回避は不可能だった。テイマーの必殺キックとシールドの連撃を真正面から受け、自慢の鋼鉄の肉体は内側から砕け散り、激しい爆炎と共にその生涯を閉じた。
「あはは! 悪いですが、スクラッパーズも部下もここで終わりです! 私は逃げ切る……ッ!」
モス・ビーストは仲間たちの死を嘲笑うように、夜の闇へと翼を羽ばたかせた。
「……逃がすとでも思ったか?」
『タクティカルチェンジ!』
冷徹なレイの判断が下る。逃走するモス・ビーストの背後、テイマーの腰に装填された『メカカブト』のインジェクター上部のスイッチを押す。
『フライ! メカカブト! テイム・オフ!』
召喚されたメカカブトが、重厚なタービン音を響かせて急上昇。空中へ放り出されたテイマーの足元へと潜り込む。
『テイムバースト! ――ライドオン・ビートル!』
メカカブトの巨大な角が、一直線にターゲットをロック。テイマーはメカカブトを右足に装着し、そのブースターによる爆発的な推進力を右足に受けた。
「ハアァァァッ!」
空気の壁を切り裂き、テイマーが空中で再加速する。メカカブトの角とテイマーの脚撃が一体となった"超高速の刺突"が、油断していたモス・ビーストの胴体を背後から貫いた。
「バ……バカな……。私の完全な逃亡がぁぁッ!?」
絶叫と共に、モス・ビーストは夜空に巨大な華を咲かせるように爆散した。空中で変身が解け、落下する生身の鱗。メカカブトは素早く急降下すると、彼が地面に激突する寸前でその襟首をキャッチし、静かにコンクリートの上へと降ろした。
「ミッション、コンプリートだ。」
静寂の戻った戦場に、テイマーの低く通る声が響く。地面に着地したレイは、全ての脅威が去ったことを確認すると、愛機『ケージ・インパクター』に跨った。
背後に爆炎と、戦意を喪失したギャングたちの残骸を残し、仮面ライダーテイマーは風のようにその場を去っていった。
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「随分と商店街も、以前以上の活気に溢れてきましたね」
「……そうだな」
二大ギャングによる抗争をテイマーが鎮圧してから、1週間。 喉元を過ぎた熱さは人々の活力へと変わり、マッド・バザールにはかつての賑わいが戻っていた。軒を連ねる店先には客が押し寄せ、活発な競り声が路地裏まで響いている。
「にしても、驚きました。ピットブルブラザーズにチーム・ヴェノム、そしてスクラッパーズまで……。あの3つのギャングが、一気に解散してしまうなんて。」
「俺も牽制程度のつもりだったんだがな。まさか組織そのものが崩壊するとは、予想外だ」
栞とレイは、買い出しの荷物を抱えながら平和になった街を歩いていた。
「そりゃ無理もないさ。今や闇の層のギャングどもの間じゃ、お前の話で持ち切りだぜ。」
雑踏の中から不意に現れたジョーが、ニヤリと笑って2人の会話に割って入る。
「なんだ、ジョーか。……話というのは?」
「お前にすっかり怯えてるのさ。『巨大な重力を操る化け物タコ』に、『街を更地にする暴君竜』……。それを一人で従える漆黒のライダー、ってな。すっかり戦意を喪失して、逃げ出す奴が後を絶たなかったみたいだぜ」
ジョーがもたらしたのは、テイマーの圧倒的な武力に恐怖した構成員たちが次々と脱退し、組織が自壊していったという情報だった。
「結果として、この場所の平和が守られたのなら十分だ。」
「……っていうわけにも、いかないみたいだけどな。」
ジョーの言葉に、レイの眉が微かに動く。
「元々あいつらのナワバリだった場所が『解放』されたのはいいが、今度は街を守る後ろ盾がいなくなって困ってる連中も多い。みかじめ料はなくなって万々歳だが、野良のゼノスアニマやコソ泥を追い払う奴がいないからな。今は和田さんたち商工会が、自警団を再編しようと必死に動いてるよ。」
「……そうか。なら、俺もたまに顔を出して、手伝いくらいはするか」
荒廃した街であっても、ギャングによる統治は一つの"秩序"ではあった。それが消え、新たな秩序が生まれようとする過渡期。混沌の中からまた新たな火種が生まれることを、レイは密かに予見していた。
「あ、レイさん! 今夜は商工会の皆さんにも料理をお裾分けするために、卵、多めに買っておきましょう!」
「ああ。……重い分は俺が持つ。」
栞の明るい声に促され、レイは再び歩き出す。守るべき場所がある限り、仮面ライダーテイマーの戦いに終わりはない。