https://www.youtube.com/watch?v=VG5ZzTijbec&list=RDVG5ZzTijbec&start_radio=1
「うわあぁぁぁぁっ……!」
「メカカブト!!」
ソニック・バットが放った至近距離の超音波。その直撃を受けたメカカブトは、制御を失い、近くのビルへと叩きつけられた。金属の悲鳴を上げながら、力なく地面へと落下していく小さな影。
「しまっ……!」
テイマーは咄嗟に剣を投げ捨て、落下する相棒を救うべく駆け出した。だが、その隙をロストアニマたちが逃すはずもなかった。
「……ッ!」
トラップ・スパイダーが跳躍し、巨体を丸めて高速回転。弾丸と化した突撃がテイマーを襲う。テイマーは咄嗟に身を投げ出し、空中でメカカブトを抱きかかえながら地面を転がった。
「大丈夫か……メカカブト……!」
「……すまない、レイ。やらかした……」
腕の中のメカカブトが、苦しげにモーター音を漏らす。テイマーの懸命なキャッチで最悪の激突は免れたものの、その衝撃は計り知れない。
「お前……翅が……」
テイマーの視界が揺れた。メカカブトの誇りでもあった銀色の翅が、根元から無残に折れ曲がっている。その震える声に、メカカブトは力なく答えた。
「すまない、もう飛べそうにない……」
「……俺のミスだ。クソッ、今はゆっくり休んでくれ。」
レイは奥歯を噛み締め、テイムドライバーからケージ・インジェクターを操作した。メカカブトを光の粒子へと戻し、修復機能を持つインジェクターの中へと収める。
(ゆっくり休め、メカカブト。……後は任せろ。)
相棒に深い傷を負わせてしまった自責の念が、レイの拳を強く握らせた。
(悔しいよな、レイ、メカカブト……)
(ここは俺たちに任せてくれ。アイツら、絶対に許さない……!)
インジェクターの中から、カタパルト・パンサーとスター・オクトパスが、レイの怒りに呼応して低い唸り声を上げる。
(……ああ。頼む)
武器を捨て、立ち尽くすテイマーを絶好の獲物と判断したのか、ソニック・バットとトラップ・スパイダーが同時に距離を詰めてくる。捕食者の本能が、死の包囲網を狭めていく。
「…………」
テイマーは無言のまま、ドライバーへ装填されたケージインジェクターを操作する。
『ウェルター!スターオクトパス・テイムオフ!』
紫色の不気味な光と共に、路地裏を埋め尽くさんばかりの巨大なタコ、スターオクトパスが実体化した。召喚と同時、その8本の触手が天を指す。上空に無数の隕石状のエネルギー弾が生成され、無慈悲な雨となって降り注いだ。
「ギシャアッ……!?」
上空で優位を確信していたソニック・バットが、隕石の直撃を受けて地面へと叩き落とされる。トラップ・スパイダーもまた、逃げ場のない路地裏でエネルギーの爆撃を浴び、自慢の硬質な外骨格が次々と拉げ、砕け散っていく。
「さあ……」
「「反撃開始だ!」」
テイマーの静かな怒りと、スターオクトパスの放つ宇宙の圧力が、戦場を支配した。
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「着いた……っ、はぁ、はぁっ……!」
肺が焼けるような痛みを堪え、栞は元チーム・ヴェノムの境界線を越え、馴染み深いG-シェルターの前に辿り着いた。街の喧騒と悲鳴を背に、彼女は迷わず事務所の地下へと続くガレージの階段を駆け下りる。
「ケージ・インパクターは……!」
薄暗いガレージ。排気音の余韻とオイルの匂いが漂うその中心に、主を待つ重厚なマシン――ケージ・インパクターが鎮座していた。鈍い銀色の輝きを放つその機体は、単なるバイクではない。テイマーの力を増幅し、戦場を駆けるための"鉄の軍馬"だ。
「あった……よかった!」
安堵し、シートに手をかけようとした栞の指が、ふと止まる。座席の上には、普段は見かけない黒いアタッシュケースのような箱が置かれていた。まるで、誰かがこの瞬間に栞がここへ来ることを予見していたかのように。
「これは……?」
彼女は吸い寄せられるように箱を開けた。中に入っていたのは、一通の短い手紙と、鈍い光を放つ3本のケージ・インジェクターだった。
『栞へ。これを読んでいるということは、非常事態だろう。このインジェクターは、シェルターで保護していたアニマ達だ。お前やジョーでも容易に使えるはずだ。ケージ・インパクターと組み合わせろ。使い方は、お前の直感に従えばいい。』
無骨で飾り気のない筆跡。間違いなくレイの字だ。彼は、自分の報酬を削って栞のハウリングドッグを治そうとする一方で、自分がいない間に彼女が身を守り、そして望むのなら共に戦えるようにと、ひっそりと準備を進めていたのだ。
「レイさん……。冷たいことばかり言って、結局いつも先を見てくれてるんだから……」
栞の瞳に熱いものが込み上げる。だが、泣いている暇はなかった。彼女は震える手で、3本のうちの1本を手に取った。その表面には、どこか見覚えのあるネズミの紋章が刻まれている。
「あなたは、あの時の……」
彼女は思い出した。西の廃棄物処理場で、レイが命を懸けて暴走から救い出した、かつてバイターズのリーダー根津を主としていたラットバイターだ。保護されてから今日まで、G-シェルターの片隅で静かに過ごしていた彼らが、今度は自分たちを救ったレイのために、その牙を貸そうとしている。
「一緒に、レイさんを救けに行きましょう!」
決意を込めて、栞はラットバイターのインジェクターをマシンのヘッド部分にあるスロットへ叩き込んだ。
『ラットバイター! ライド・イン!』
インパクターの回路に黄金の電流が走り、エンジンが猛々しい咆哮を上げた。ラジエーターから排出される熱気が、栞の頬を打つ。機動力に長けたラットバイターの意思が栞の運転を補助する体制が整った。
レイは、自分一人で全てを背負うつもりなどなかったのかもしれない。かつての敵であったアニマも、そして"光の層"から来た栞も。いつか共に、この街の闇を照らすチームになることを信じて――。
「行きましょう……っ!」
栞はフルフェイスのヘルメットを被り、アクセルを限界まで捻った。 急発進するケージ・インパクターが、タイヤの焼ける白煙を残して地上へのスロープを駆け上がる。
ジョーのアニマの力を借りて透明化して街を駆け抜けた少女は、今度は爆音を轟かせ、街の英雄を救うための騎士となって戦場へと舞い戻る。その瞳にはもう、恐怖の色は微塵もなかった。
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「まずはお前からだ……ッ!」
スターオクトパスの隕石雨で体勢を立て直したテイマーは、眼前のトラップ・スパイダーを見据えた。
2体のロストアニマはダメージを負っているが、再生能力を持つスパイダーを放置すれば戦況は再び泥沼化する。何より、あの粘着性の糸で機動力を削がれるのが最も危険だ。テイマーは、再生の隙を与える前に近接戦で一気にカタをつけることを選んだ。
「……ッ!」
トラップ・スパイダーが激昂したように、粘着液を帯びた糸を扇状に放つ。逃げ場を塞ぎ、獲物を絡め取ろうとする網。
「糸は俺が止める……」
スターオクトパスが重厚な声を響かせ、自身の頭上に無数の小石サイズのエネルギー弾を生成した。それは対空砲火のように射出され、テイマーに届く寸前の糸を次々と空中で撃ち落としていく。
「助かるッ……!」
雨のように降る糸の残骸を掻き分け、テイマーは最短距離を駆け抜けた。
『ライドオン!ソード・ソウル!』
敵の懐に飛び込む瞬間、テイマーはケージブレイカーにソードウルフのインジェクターを装填。刀身が白銀の光を放ち、野獣の闘気を纏う。トラップ・スパイダーは接近してきたテイマーを串刺しにせんと、鋭い脚を振り上げた。だが、テイマーの斬撃の方がわずかに速い。
『ソード・ブレイク!』
大剣の一閃が空を裂き、スパイダーの脚を根元から斬り飛ばした。
「次は目を、逃がさない……!」
テイマーは剣を地面に突き立てて支点にし、自身の身体をバネのように回転させた。強化された装甲の拳にエネルギーを溜め、スパイダーの複眼を正確に打ち抜く。激痛にのけぞる大顎、急所である頭部へ、容赦のないパンチの連打が叩き込まれた。
「ハアッ!」
怯んだ隙を見逃さず、テイマーは再び剣を握りしめ、下段から上段へとケージブレイカーを振り上げる。重厚な刃が外骨格を叩き割り、敵の巨体を宙へと浮かせた。
「メテオブレイク!」
追い打ちをかけるように、スターオクトパスが巨大な隕石状のエネルギーを形成。浮き上がったスパイダーの背中へ、重力加速を伴う一撃を叩きつける。
「さあ、いくぞ、スターオクトパス!」
『テイムバースト!』
テイマーがベルトのダイヤルを限界まで回転させる。周囲の空間が歪み、宇宙の深淵を思わせる紫紺のオーラが吹き荒れた。
「星の力と……レイの力、今こそ見せてやる!」
スターオクトパスが全ての触手をテイマーの背後に伸ばし、膨大な宇宙エネルギーを彼の右足へと集束させていく。
「スターバースト!ブレイクダウン!!」
テイマーは高く跳躍し、銀河の渦を纏った必殺のライダーキックを放った。その一撃は、トラップ・スパイダーの強固な外骨格を紙細工のように粉砕。核となっていた負のエネルギーごと、その巨体を路地裏の塵へと爆散させた。
爆炎が収まった跡には、もはや糸の一本すら残っていない。
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「お疲れさん、クリア・カメレオン。任務完了、ありがとな。」
一方、元チーム・ヴェノムの縄張り付近。栞を無事に送り届けたクリア・カメレオンが、主であるジョーの下へと帰還した。ジョーは戻ってきた相棒の頭を優しく撫で、その健闘を労う。
「シャァァァァッ!」
だが、安堵の時間は一瞬だった。不気味な鱗の擦れる音と共に、ベノム・コブラが至近距離を通過する。ジョーは咄嗟にクリア・カメレオンの能力で自身の姿を透明化させ、物陰に身を潜めたが――。
(……おいおい、マジかよ。こっちに向かってきてないか!?)
姿は見えていないはずだ。しかし、ベノム・コブラは迷いなくジョーの潜伏場所へと巨大な頭部を向け、舌をチロチロと出し入れしている。
(しまった! ピット器官か……!)
コブラ科のヘビには、赤外線を感知して熱源の位置を特定する特殊な器官"ピット器官"がある。光を屈折させる光学迷彩は、生物が発する"体温"までは隠せない。ベノム・コブラにとって、透明化したジョーは暗闇に浮かぶ松明も同然だった。
逃げ場を悟られたと確信した瞬間、巨大な尾がジョーの頭上に振り下ろされる。
「あっぶねぇ! 逃げるぞカメちゃん!」
間一髪で回避したジョーは全力で走り出すが、ベノム・コブラの巨体から放たれる這行速度は、人間の脚力を遥かに凌駕していた。
「速すぎだろ……ッ! このままじゃ……」
隠密特化のジョーにとって、探知能力とスピードを兼ね備えたコブラは最悪の相性だった。死の牙がその背中に届こうとした、その時。
「いきますよ! ラットバイター!!」
轟音と共に、ベノム・コブラの側頭部に猛烈な質量が激突した。ラットバイターの力を宿したケージ・インパクター。そのフロントカウルを盾に、栞が命懸けの体当たりを敢行したのだ。
「栞ちゃん! 助かった!」
「ジョーさんのお陰で、間に合いました!」
クリア・カメレオンの擬態で危機を脱した少女は、今度はその手で"力"を握りしめ、この場に戻ってきた。彼女は華麗にバイクから飛び降りると、レイが残していた2本目のインジェクターを手に取った。
『ストリート・ブル!ライド・イン!』
インジェクターを装填した瞬間、ケージ・インパクターのエンジン音が重低音へと変化した。かつてピットブル・ブラザーズが主力としていた猛牛のアニマ――その獰猛な魂が、鉄の車体に宿る。
「……ッ!」
驚くべきことに、栞が跨っていないにも関わらず、バイクは自ら前輪を浮かせ、ベノム・コブラに向かって咆哮を上げた。
「すげえ、まるで巨大なストリート・ブルが戦ってるみたいだ……」
自律戦闘モード。それは、かつてレイが保護したアニマたちが、恩人の危機に自らの意思で加勢するための機能だった。ケージ・インパクターは猛牛のごとき突進でコブラの腹部を突き上げ、弾かれるように後退しては再び加速する。 ストリート・ブルの突進力を宿した鉄の馬が、ロストアニマの猛威を一点に引き受けていた。
「ジョーさんも今のうちに!」
「分かった!」
栞やラットバイターと言ったレイに守られていた者達はレイや他の者達を助ける存在になりつつあった。
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「厄介だな……。だが、空にいれば安全だなんて思わないことだ」
上空から超音波を叩きつけてくるソニック・バットを、テイマーは軽い身のこなしで回避しながら、冷静に思考を巡らせる。遮蔽物の少ない路上で、空を飛ぶ相手を仕留めるのは至難の業だ。だが、テイマーの陣営には最適なスペシャリストがいた。
(レイ! こういう時こそ遠距離攻撃特化の俺の出番だろ!)
(……そうだな。派手にやってくれ!)
相棒の好戦的な声に応え、テイマーはベルトのケージインジェクターを素早く操作した。
『タクティカルチェンジ!ライト!カタパルトパンサー!テイムオフ!』
眩い白いオーラを切り裂き、その背にマシンガンとロケットランチャーを背負った漆黒の豹、カタパルトパンサーが咆哮と共に実体化した。
「よっしゃあ! 弾丸の雨をお見舞いしてやるぜ!」
着地と同時にカタパルトパンサーが跳躍し、背中の銃火器を上空へ向けた。次々と放たれるマシンガンの掃射とランチャーの追尾弾。ソニック・バットは超音波の壁で弾丸を弾き飛ばしながら、苛立たしげに縦横無尽に旋回する。
「カタパルトパンサー、奴の頭部を集中攻撃しろ。視界とバランスを奪うんだ。」
「了解! ロックオン完了だ!」
カタパルトパンサーは指示通り、精密射撃でソニック・バットの頭部のみを執拗に狙い続ける。顔面を襲う絶え間ない衝撃。視神経を揺さぶられたバットは、攻撃を避けるための旋回半径を維持できなくなり、逃げるようにその飛行高度を徐々に下げていく。
「まだだ……引きつけろ……」
テイマーはケージブレイカーの柄を握りしめ、獲物が射程圏内に入る瞬間を"点"で見定めていた。そして、バットが焦れて降下してきたその刹那――。
『ライドオン!ニンジャ・ソウル!』
テイマーが踏み込み、ケージブレイカーにニンジャスネークの魂を宿す。
『ニンジャ・ブレイク!』
横一文字に振るわれた剣から、巨大な手裏剣型の緑色エネルギーが射出された。空気を切り裂く高周波の音と共に、ニンジャの刃がソニック・バットの右翼の付け根を正確に断ち切る。
「……ッ!」
飛行能力を完全に喪失したバットは、醜い悲鳴を上げながら重力に引かれ、コンクリートの地面へと激突した。
「トドメだ。一気に畳みかけるぞ!」
「おう! 最後にデカいのをぶち込んでやる!」
『テイムバースト!』
テイマーがベルトのダイヤルを最大まで回すと、カタパルトパンサーの身体が分解・再構成され、テイマーの右腕を覆う巨大な多段式ロケットランチャーへと変形した。
「ターゲット……完全ロック。――吹き飛べ」
テイマーが引き金を引き絞ると、大気を震わせる轟音と共に一発の巨大なミサイルが放たれた。それはバットの頭上で装甲をパージし、中から無数の小型誘導弾がクラスター状に降り注ぐ。
路地裏を埋め尽くす連続爆発。ソニック・バットの巨体は爆炎に呑み込まれ、跡形もなく消滅した。
「これで、残るはあと一体か……」
トラップ・スパイダー、そしてソニック・バット。2体のロストアニマの核となっていたケージインジェクターを拾い上げ、テイマーは残るベノムコブラを仕留めるべく走り出す。
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『ジャンク・クラブ!ライド・イン!』
ベノム・コブラと対峙する栞は、最後の1本――重機のようなパワーを秘めたジャンク・クラブのインジェクターをケージ・インパクターへ装填した。 直後、バイクのフロントカウルに鋼鉄の蟹爪を模した巨大なエネルギーオーラが展開される。無人でありながら咆哮を上げる鉄の馬は、その重厚な爪で空気を切り裂き、ベノム・コブラの脳門へと真っ向から突撃した。
「いけぇぇっ!!」
凄まじい火花と共に、コブラの巨体が横へと弾け飛ぶ。強固な鱗を凹ませるほどの一撃。栞の執念が、ついに最強のロストアニマに膝をつかせたのだ。
「どうやら、しっかり食い止めてくれていたみたいだな」
砂塵を切り裂き、1人の戦士が歩み寄る。仮面ライダーテイマー――レイだ。
「レイさん!」
「栞、よくやった。お前がロストアニマを抑えてくれたおかげで、住民の被害を最小限に抑えられた。……助かったよ。」
その言葉に、栞は胸が熱くなるのを感じた。
「……レイさん。私のために、あの子たちを準備してくれてありがとうございました。ハウちゃんのことだって、本当は……。だから私、もう守られるだけじゃ嫌なんです。レイさんの背中を支えられるように、精一杯戦います!」
ヘルメット越しに伝わる栞の強い眼差し。テイマーは一瞬だけ驚いたように動きを止めたが、すぐに深く、信頼を込めて頷いた。
「ああ、頼りにしてる。……だが、最後は俺に任せろ。あの硬い外骨格ごと、核を撃ち抜く」
レイは腰のベルト――テイムドライバーのダイヤルに手をかけた。今はあえてゼノスアニマを召喚せず、自身の体内に流れるテイマーのエネルギーを極限まで高めていく。
『テイムバースト! フィニッシュ・オン!』
溢れ出す純白のオーラが、テイマーの全身を包み込んだ。逃げ場を失ったベノム・コブラが、最後の手向けと言わんばかりに猛毒の霧を吹き出す。だが、レイは迷いなく地を蹴った。
「ハアァァァッ……!!」
高く跳躍し、空中で鋭く身を翻す。全てのオーラを右足の先に集中させ、流星のごとき速度で急降下する必殺のキック――"テイムバースト"。
その一撃は、コブラが展開した毒の障壁を貫き、ひび割れた外骨格の正中線へと突き刺さった。ワンテンポ置いて、ロストアニマの体内から眩い光が漏れ出し、次の瞬間、凄まじい衝撃波と共に巨体が爆散した。
爆炎が夜空を焦がし、静寂が戻る。 戦場に残されたのは、機能を停止した3本の空のインジェクターと、肩で息をする2人の姿だけだった。
こうして、旧『チーム・ヴェノム』の縄張りを恐怖に陥れたロストアニマの騒動は、1人の用心棒と、彼を信じた少女の手によって終息した。
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「おはよ~! レイちゃんの方から俺をわざわざ事務所に招き入れるなんて、珍しいこともあるもんだね。ひょっとして、この間の戦果のお祝いに特上のシャンパンでも冷やしてくれてるのかい?」
ロストアニマとの戦いから数日後の爽やかな朝。G-シェルターの事務所に、いつものように軽薄な足取りでジョーが現れた。
「……だから、その呼び方はやめろと言っているだろう。それに、仕事場に酒を持ち込む趣味はない。」
デスクでログの整理をしていたレイが、視線も上げずに淡々と返す。その隣では、掃除を終えた栞が明るい声で応じた。
「おはようございます、ジョーさん! ちょうど今、お茶を淹れたところですよ。」
「お、栞ちゃん、おはよう! 今日も一段と輝いてるね。その若さが眩しくて、おじさんの目が眩んじゃうよ」
「もう、ジョーさん。……それに、私も『ちゃん』付けは卒業したいって思ってるんですから……」
膨れる栞を横目に、ジョーは事務所の使い古されたソファに深く腰かけ、デスク越しにレイと向き合った。ジョーの瞳は笑っているが、プロの情報屋としての鋭い観察眼が、今日のレイの呼び出しが"ただの報告"ではないことを察していた。
「2人ともつれないねぇ。それで、改まって呼び出した本題ってのは何だい? もしや、次の依頼の先払いでもしてくれるのかな?」
「単刀直入に言おう。」
レイがタブレットを置き、初めてジョーの瞳を真っ向から見据えた。
「ジョー。お前をこのG-シェルターの『専属調査員』として、正式に雇用したい」
その言葉に、事務所の空気が一瞬で張り詰めた。ジョーの笑みが止まり、数秒の静寂が流れる。
「……え? マジで言ってんの……?」
「ああ。冗談を言うほど、俺に暇はない。」
レイの声は低く、そして重い。
「今回のロストアニマ騒動で確信した。これから先、俺たちが目指す南のカルテル『エビル』の支配圏は、この街の比ではない闇が渦巻いている。そこでは、俺の力だけでは足りない。お前が持つ、影に潜り込み真実を掴み取る情報収集力、そして死線を見極めて立ち回る度胸。それがどうしても必要だ。……情報屋として、そして相棒として、お前以上に信頼を置ける奴は心当たりがない。」
ジョーは後頭部を掻き、困ったように天井を仰いだ。
「……へぇ。あの無愛想で一匹狼な仮面ライダー様が、そこまで俺を買ってくれてるなんてね。そりゃあ、情報屋冥利に尽きるって話だ。」
「当然、対価は支払う。これが俺の考えた雇用契約の草案だ。」
レイが差し出したのは、彼が徹夜でまとめ上げた詳細な雇用契約書だった。栞も興味津々で、レイの肩越しに中身を覗き込む。
「すごい……レイさん、こんなに細かく決めていたんですね。」
「なるほどね……『月額の固定報酬』に加えて、俺が持ってきた情報に基づいた『出来高ボーナス』の山分けか。さらに……『G-シェルターによる身辺の安全確保の優先権』。これは大きいな。」
ジョーの手が、わずかに震える。今までジョーが歩んできた道は、常に孤独で、常に背後に怯えるものだった。敵に情報を売れば恨まれ、味方に情報を売っても使い捨てにされる。そんな"根無し草"だった彼にとって、レイが提示した条件は、単なる金銭の授受を超えた"居場所"の提供だった。
「基本はここで生活基盤を整えつつ、自由に動いて構わない。栞と同じように、お前の寝食も俺が責任を持つ。……どうだ?」
「ふん……。戦うのは苦手だが、レイちゃんたちと一緒にいれば退屈はしなさそうだ。いいぜ、面白そうだ。今日から俺も、正式にG-シェルターの一員だ。」
ジョーはペンを走らせ、契約書に流れるようなサインを書き込んだ。そして、レイと力強く握手を交わす。その掌からは、互いの覚悟が熱となって伝わってくるようだった。
「契約成立だな。さて、感傷に浸るのはここまでだ。これからの戦いに備え、最も重要な『戦力再編』の話をしよう。」
レイはデスクの上に、重厚な輝きを放つ4本のケージインジェクターを並べた。先日までの激闘で負傷したメカカブト。そして、暴走から救い出され、今は静かに光を宿している3体の元ロストアニマたちだ。
「まずは、メカカブトだ。……この間の戦いで負わせた損傷、予想以上に根が深かった。翅のメインフレームが物理的に破断し、修復にはかなりの時間を要する。……戦線復帰はしばらく、不可能だ。」
レイがケージ・フォンを操作すると、モニターにメカカブトの姿が映し出された。その小さなドットの目には、いつもの威勢の良さはなく、どこか落ち着いた光があった。
『ああ、残念ながら俺はしばらくレギュラーからは外れるよ。……不甲斐なくてすまないな、レイ。みんな。俺がもっと上手く立ち回っていれば……』
「自分を責めるな、メカカブト。お前の勇気ある特攻がなければ、俺は勝てなかった。……それに、お前にはこれから、もっと重要な『任務』がある。」
レイの言葉に、メカカブトが不思議そうに首を傾げる。
「お前には、このG-シェルターの『技術開発チーフ』を任せたい。俺たちの武器、装備、そしてケージ・インパクターのメンテナンス。さらには、これから手に入れるであろう未知のパーツを使った新たな戦力の開発だ。……一橋博士の遺志を最も理解しているお前の知能と、精密な技術がどうしても必要なんだ。」
『……技術開発、チーフ?』
モニターの中で、メカカブトの目がパッと輝いた。
『なるほど……わかった!俺が最高の武器とマシンを仕上げて、お前たちの背中を技術で守ってやるよ!』
メカカブトの矜持に満ちた宣言に、事務所内に笑みがこぼれた。続いて、レイは残りのインジェクターを手に取り、その内の1本を自らのテイムドライバーの"フライ"スロットへと装填した。
「空いたフライ級には、ソニック・バットを起用する。あの超音波探知と圧倒的な飛行速度……。メカカブトとは異なる強みを持つこの力は、これからの広域調査に不可欠だ。……よろしく頼むぞ。」
(……チッ、主人が変わったくらいでヘマはしねえよ。存分に使いこなしな!)
インジェクターを通じて、ソニック・バットの好戦的な声がレイの脳内に響く。先日戦ったロストアニマが今は守護者となる。その絆の形に、レイは頼もしさを感じていた。そして、残る2本を栞とジョーへと差し出した。
「栞、お前にはトラップ・スパイダーを託す。あの糸は、敵の足を止めるだけでなく、市民を救うための救助ネットにもなる。サポーターとして、頼れるアニマになるだろう。」
「……はい! ありがとうございます、レイさん! この子達と一緒に、私もみんなを守れるように頑張ります!」
栞は両手で大切にインジェクターを受け取り、胸元で抱きしめた。
「そしてジョー。お前には、ベノム・コブラを連れて行ってもらう。護身用としては破格の性能だ。熱源で敵を察知することもできる……お前のクリア・カメレオンとの連携も期待できるはずだ。」
「おっと、いきなりとんでもない猛毒使いを俺に預けるかい。責任重大だね。……よろしくな、ベノちゃん。俺を噛むんじゃねえぞ?」
3人がそれぞれ、新たな力を手にし、決意を新たにする。無愛想な用心棒、光を捨てた少女、そして抜け目のない情報屋。バラバラだったピースが今、G-シェルターという一つの旗の下に集った。
事務所の窓から差し込む朝日は、新体制となった彼らの背中を力強く照らしていた。