●月●日【え? リーフいるの?】
リーフおったんか、ワレ。
どこか既視感というか、デジャビュのようなものを覚えつつも、この世界にはリーフも存在していることが判明した。
リーフというのは、レッドさんと対になる女の子の主人公だ。
そのため、レッドさんが実在している以上、彼女は存在しないものだと勝手に思い込んでいた。どうやら、その認識は間違いだったらしい。
発見のきっかけは、波導の修業の一環として行っていた“探知”だった。
マサラタウンの外れで、ぽつんと孤立した人の気配を感じ取り、嫌な予感がして急いで向かってみると――案の定、そこにはコラッタに襲われて、座り込んでいるリーフの姿があった。
幸い、相手は一匹だけだった。
俺は身体から波導のオーラを放ち、威嚇する。するとコラッタは一瞬だけこちらを警戒し、そのまま尻尾を巻いて逃げていった。
まあ、元からコラッタの尻尾は巻いているんだけどな。
「た……助けてくれて、ありがとう」
おん、ええよ
さて、これで一件落着――と思いきや。
「どういたしまして……それより君、足は大丈夫かい?」
見ると、リーフの足は赤く腫れていた。どうやら逃げている途中でくじいてしまったらしく、まともに歩けないようだ。
仕方がないので、俺はリーフを背負って家まで運ぶことにした。
「わわっ……!」
突然おぶられて驚いた様子だったが、すぐに状況を理解したらしく、「無理しないでね」と気遣ってくれる。
大丈夫っす。自分、波導で四六時中ドーピング状態なんで、女の子一人くらい軽いもんっすから。
マサラタウンに着くまでの間は、さっきコラッタを追い払った方法――身体から波導を放つ術を使い続け、野生ポケモンに近づかれないようにしていた。
この技の正式名称は《波導放出》とする。
ついでに、波導ドーピングという呼び方は字面が色々とアカンので、身体強化のほうは《波導纏身》と名付けることにした。
名前を付ける意味?
……貴様、ロマンを否定する気か。
その後もしばらく歩いていると、ようやくマサラタウンが見えてきた。
リーフも足の痛みが引いてきたようで、「もう降ろしてほしいな」と言ってくる。
正直なところ、俺としても町の人たちに女の子をおぶっている姿を見られるのは気恥ずかしかったので、素直に降ろすことにした。
「ここまでおぶってくれてありがとう。私、リーフ。君の名前は?」
……そういえば、自己紹介していなかったな。
「俺はサトシ。いつかポケモンマスターになる男だ」
「ぽけもんますたぁ? ポケモン専用の喫茶店?」
そっちのマスターじゃないわい。
「俺にとってのポケモンマスターは“最高のトレーナー”を指す言葉だよ。
リーフ、知ってるかい? トレーナーの道はひとつじゃない。ポケモンバトルの道もあれば、ポケモンコーディネーターみたいな道もある。
俺は、それらすべての頂点を目指したい」
一度息をついて、言葉を続ける。
「でも、ただトップになるだけじゃ意味がない。
ポケモンをないがしろにせず、ちゃんと向き合って、信頼し合って、一緒に笑って、一緒に悩める。
それが、俺にとっての“最高のトレーナー”――ポケモンマスターなんだ」
これが、俺の夢だ。
まあ身もふたもない言い方をすれば、ポケモンと向き合いながら栄光を掴みたい、という野望なのだが。
「すごいね、サトシ君。そんなにはっきりした目標があって……」
リーフの表情が、少しだけ陰る。
理由はだいたい想像がついた。もうすぐ旅立つ年齢なのに、自分の目標が見つからない――きっと、そんなところだろう。
「そんなにすごいことじゃないさ。目標っていうのは、無理に考えて見つけるものじゃない。
ふとした瞬間に、気持ちの奥から湧き出てくるものなんだ」
そう言って、軽く肩をすくめる。
「それにさ、トレーナーになる前に全部決めておく必要なんてない。旅の途中で見つかることだって、いくらでもある」
「……そっか。そうだよね。ありがとう、サトシ君」
「いいってことよ」
気づけば、すっかり日が暮れ始めていた。
じゃあな、と手を振る。
「じゃあね、リーフ」
「うん……バイバイ」
そうして俺はリーフと別れ、家へと帰路についた。
●月●日【引き分けのモンスターボール】
俺がマサラタウンで釣りをしていると、あの日、コラッタから助けて以来、何かと交流を持つようになったリーフと出会った。
どうやら俺の釣りに、かなり興味津々な様子だ。
そもそも、なぜ釣りをしているのかというと――これも波導の修業の一環である。
波導の修業には集中力と平常心が欠かせず、その点で釣りはメンタルトレーニングとして非常に相性がいい。
何も考えず、ただ水面を見つめ、流れを感じる。それだけで、自然と心が静まっていく。
リーフに「どうして釣りをしているの?」と聞かれた。
さすがに「波導の修業だよ」と正直に答えると余計に困惑させそうだったので、「思い出の場所だからさ」と返しておく。
俺の返答は「伝説って?」「ああ!」みたいな、まったく噛み合っていないものになってしまった。
……まあ、気にしないことにする。
事実として、ここが俺にとって思い出深い場所なのは間違いない。
「思い出の場所? どういうこと?」
そう聞かれたので、ひとつ確認することにした。
「シゲルって、誰だかわかるかい?」
「オーキド博士のお孫さんでしょ?」
どうやら知っているようだ。
それを聞いて、俺は今から36万……いや、1年4ヶ月前の話を始めた。まだ前世の記憶を思い出していない頃だ。
シゲルとこの川で釣り勝負をしていたこと。
ある日、二人でひとつのモンスターボールを釣り上げたこと。
そして、それが半分に割れてしまい、それぞれがその半分を持つことになったこと。
そのモンスターボールの欠片が、俺とシゲルの“ライバルの証”になったということ。
話を聞き終えたリーフは、少し羨ましそうに目を細めて言った。
「ライバルの証……いいなぁ」
その言葉を聞きながら、俺は再び釣り糸を水面へと垂らした。
追記。
なんの成果も!! 得られませんでした!!
●月●日【旅立ちの前日】
ついに、あと数日でポケモンを受け取り、旅立つ日がやってくる。
長かったなぁ……。
一年前に前世の記憶を思い出した出来事も、つい最近のことのように感じる。そんなふうに時の流れをしみじみと噛みしめていたところで、オーキド博士に呼び出された。
何事かと思えば――どうやら原作通り、初心者用のポケモンが一匹足りないことを、博士はこの前になって思い出したらしい。
慌てて代わりにピカチュウを捕まえてきたものの、どうにも問題児で、すでに手に負えなくなっているようだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、これまで研究所の手伝いを続け、ポケモンに関する知識も十分に身につけてきた俺だった。
そのピカチュウを任せたい――というのが、博士の用件らしい。
俺はもちろん即答で了承した。
博士も相当な負い目があるのか、「好きなものを一つ要求していいぞ」と言ってくる。
それなら、でんきだま――と言いたいところだが、残念なことにこの世界ではポケモンに道具を持たせる戦法が存在しない。
というわけで、俺は『なみのり』のわざレコードをお願いした。
「うむ、わかった。『なみのり』のわざレコードじゃな」
あざまーす。
いやほんと、この世界にわざマシン(わざレコード)があってよかった。
わざマシンがなくても、覚えさせたい技を使えるポケモンから教えを乞えば習得は可能だが……正直、手間が段違いだ。
楽できるところは、全力で楽をする。それが俺のポリシー。
●月●日【誓いのグローブ】
旅立ちの日も、ついに前日。
今度はリーフに呼び出された。
なんでも俺に渡したいものがあるらしく、手渡されたのは――なかなかスタイリッシュで、普通にかっこいいグローブだった。
どしたん? これ。
「この前の“ライバルの証”の話を聞いたら、羨ましくなっちゃって……。私も、そういうのが欲しいなって思って。だから特注で作ってもらったんだ」
……え、特注?
どうやらこのグローブ、世界に二セットしか存在しない代物らしい。
そういえばリーフって、たしかお嬢様だったよな。
このくらいなら、ちょちょいのちょいってことか。さすがお金の力。
とはいえ、だ。
なぜわざわざ特注を?
「その……同じものを持ってたらさ。
これも“証”になるでしょ? 私とサトシ君が、これからライバルになるっていう」
俺はグローブを手にはめて、軽く拳を握る。
悪くない。むしろしっくりくる。
「いいじゃん。じゃあこれは――俺とリーフのライバルの証だな」
そう言うと、リーフは少し照れたように笑った。
●月●日【よろしくな、ピカチュウ】
ついに旅立つ日がやって来た。
俺は寝坊することもなく、きちんとオーキド研究所へと向かった。
すでにそこにはリーフとシゲル、そして――見知らぬ少年が一人。
ああ、四人目としてポケモンをもらう予定の子か。なるほど、言われなきゃ分からなかった。
気分としては、罵倒斎とガトチュの戦いを楽しもうとしたら、KYMに遭遇したCCO、といったところだ。
シゲルたちと話していると、オーキド博士が研究所の奥から姿を現し、ポケモン図鑑と、四つのモンスターボールを手にしていた。
いよいよ、というやつだ。
俺はピカチュウの入ったモンスターボールを。
シゲルはゼニガメを。
リーフはフシギダネを。
そしてKYM(仮)はヒトカゲのモンスターボールを手に取る。
俺はボールを見つめ、小さく声をかけた。
「よろしくな、ピカチュウ」
●月●日【スタートラインでつまずいちゃってもいいじゃない】
同日、オーキド博士は黒焦げになっていた。
本人は至ってピンピンしており、見た目は完全にギャグ漫画のワンシーンなのだが、しっかりと焦げた肉のにおいがする。
リーフが慌てて駆け寄り、何やら対応しようとしているが、博士はまったく気にした様子もない。
思えばこの人、過去にはストライクたちに鎌で全身を刻まれたにもかかわらず、包帯を巻いただけで平然と日常生活を送っていた前科がある。
ポケモン研究者界の権威である前に、人間としてのスペックが色々とおかしいのだ。
そもそも、なぜ博士が黒焦げになっているのか。
その経緯を説明しよう。
ボールから出た瞬間、ピカチュウは案の定、俺を威嚇し、『でんきショック』を放ってきた。
だが俺は研究所から拝借した絶縁体の手袋があるため、ピカチュウの『でんきショック』をまったく受け付けない。
その様子を見たオーキド博士は、
「おや? サトシがしびれておらんぞ」
↓
「ということは、この問題児ピカチュウは危害を加えていない」
↓
「ついに性格が落ち着いたのかもしれん!」
――という、実に短絡的な結論に至ったらしい。
そして、警戒心が解けたと勘違いした博士が、うかつにもピカチュウへ近づいた結果。
バチィッ!!
この始末☆
つまり黒焦げ博士は、
ピカチュウの成長(勘違い)を喜んだ結果、身をもって現実を学んだ犠牲者なのだ。
なお、本人は「よく見たらちゃんと手袋をしておったわ」と、笑いながら供述しているため、反省の色は一切見られない。
当然、このままでは旅に出られる状況ではない。
まずは、目の前のピカチュウを落ち着かせる必要があった。
ピカチュウは何度も俺に向かって『でんきショック』を放ってくるが、波導で遮断しているため痛くもかゆくもない。
しばらくそんなやり取りを続けていると、ピカチュウは諦めたのか――あるいは、元凶である博士に一発かましたことで満足したのか、思った以上に早くおとなしくなった。
ふと周囲を見渡すと、俺がピカチュウと格闘している間に、リーフ以外の面々はすでに旅立ってしまっていた。
なんだか申し訳なくなり、俺はリーフにも先に行くよう促す。
リーフは少しだけ後ろ髪を引かれるような表情を見せたが、やがて小さく手を振り、研究所の外へと出ていった。
さて――そろそろ、俺たちも行かなきゃな。
●月●日【俺たちの旅はこれからだ!】
あ……ありのまま
今起こった事を話すぜ!
『俺はオニスズメの群れに襲われたかと思った次の瞬間、突如として波導使いとして覚醒し、
感覚に導かれるまま、無意識に放った《波導弾》で、オニスズメの群れを追い払っていた……』
な……何を言っているのかわからねーと思うが
おれも何をしたのかわからなかった……
……いや、本当にどう説明すればいいんだ、これ。
詳しく語ろうにも、実際に起きたことは本当にこのままなのだから困る。
マサラタウンを出発し、半ば無理やりピカチュウを連れ出し、
さすがにこのままの関係ではマズいと思って、歩きながら少しずつコミュニケーションを取っていた。
そんな最中、オニスズメがピカチュウに襲いかかってきた。
慌てて対処したのはいいが、どうやらそれが引き金だったらしく、オニスズメは仲間を呼び寄せ――
そして、そこから先は上記の出来事へとつながるわけである。
あの時は分からなかったが、なぜ俺がいきなり波導使いとして覚醒したのか――今なら理解できる。
以前、俺はこう書いた。
・大切なものを守ろうとした瞬間
・強烈な感情が爆発したとき
・生死がかかった局面
そうした場面こそが、波導が発動する引き金になる、と。
生死がかかったかどうかは正直微妙だが、他の条件は確実に揃っていた。
出会ってからの時間は短くとも、ピカチュウは俺にとってすでに大切な存在だった。
そのピカチュウが危機に晒されたとなれば、感情の一つや二つ、爆発しないほうがおかしい。
結果として、俺は波導使いとして覚醒し、
ピカチュウも今回の一件で俺をトレーナーとして認めてくれたらしい。
気づけば、すっかり俺のそばに居座っている。
……そして、ついでと言ってはなんだが、空を見上げると、なぜか伝説のポケモン――ホウオウが飛んでいた。
なんでや。俺をキャパオーバーさせる気か。
まあ……色々と言いたいことはあるが、
終わり良ければすべて良し、ということで。
「俺たちの旅は、これからだ!」
「ピッピカチュウ!」
追記。
《波導弾》をぶっ放したときは無我夢中だったため、どうやらグミ打ち連打してしまったらしい。
そのうちの一発が、自転車に当たったような気がしなくもないが……。
まあ、あんなところに無造作に置いてあったのだ。
きっと誰かの捨てたものだろう。たぶん。
ゲットしたポケモン
ピカチュウ Lv.5 NEW!