君は、『疑似餌』というものを知っているだろうか?身近な所だと魚釣りに使われるルアーがある。要するに偽物の餌、相手を騙す作り物である。自然界においてもこの疑似餌は大きな役割を果たす、有名な物だとチョウチンアンコウの提灯、マイナーなものだとワニガメの舌
人間においては声
昔の話になるが、私には『高橋』という友人が居た。なぜ過去形なのかって?今でも覚えている...高二の夏だ、セミが忙しなく鳴く特段暑い日だった。
私と高橋は英語の補習をサボって空き教室で駄弁っていた。確か...あの番組は見たか?だとかあの歌手の新作はダメだだとかそんなたわいない話だったと思う。そうしていたら突然、高橋が「ロッカーからなんか音しねぇか?」と言い出した。私はなに冗談言ってるんだと笑い飛ばしたさ、だけどもね、高橋はいつになく真剣な表情をしていたんだ。そしてゆっくりとロッカーに近付いて行った。私もつられて近くに行った訳だが....確かに音がする、耳を澄ましてみればそれは確かに『声』だった。
中に誰かが居ると思った私たちはロッカーを開けようとしたんだがね、これがどうやっても開かない。どうにかして開けようとしていると、さっきまで耳を澄まさないと分からなかった声が話す程度の音量になっていることに気が付いたんだ。内容は確か...『助けてくれ、やめてくれ』と許しを乞う様な内容が殆どだったと記憶している。お陰で中に居る人物の見当がついた。隣のクラスの...そうだな『佐藤くん』とでとしておこうか。あまり気持ちのいい話ではないんだが佐藤くんは先輩達にイジメられていてね、恐らく私たちの足音を聞いてまたイジメられると思ってロッカーに隠れたのだろう...私たちはそう考えた。そう思うと途端に申し訳なくなってね、怖い思いをさせたと謝りたくなったんだ。「すまない」と声をかけると少し声は小さくなった。せめてもの謝意として飲み物を奢ることにしたんだ....そして私は空き教室を後にした...
......
......そしたらね
ちょうど補習が終わったのか佐藤くんは英語の教師と一緒に視聴覚室からでてきたんだ。
おかしいと思わないかい?
じゃあ、さっきまで私たちが謝ってた『佐藤くん』は一体なんなんだ?
私は急いで空き教室に戻ったさ、高橋は居なかったがね。荷物は置いてあった、最初はトイレにでも行ったのかのかと思ったさ、だけど...5分、10分、15分と待っても高橋は現れなかった。そんな中ふと、ロッカーに変な物が挟まってたんだ。まぁ、言ってしまうのだか高橋が付けてたミサンガ...だと思う。ロッカーは開かなかった。
それから高橋は家に帰ってない。
君も気をつけたまえ、人は自分たちが思っているよりも『声』に騙される生き物だと。
もっと良い作品を書けるようになりたい