後書きの蛇足も思いついたら書くようにしていきます
「うへぇ……やっぱりここは落ち着くなぁ。」
アビドス近郊にある老舗の喫茶店で、俺は一人リラックスしながら優雅に紅茶を飲んでいた。
だが、目的は紅茶では無い。この喫茶店は確かに紅茶も美味しい……がやはり目玉はパフェだ!
決して小さい訳でも、大きすぎる訳でも無く、甘すぎないという塩梅のかかった生クリーム。
しっかりとした食感ながらもそれぞれのフルーツ特有の甘さがしっかりと感じられ、中のスポンジ層もふわふわとしていて食べ心地がいい。
「マスター、桃のパフェ一つ〜!」
「はいはい、今日は私の気分がいいのでおまけしてあげますよ。」
「ほんと!?さっすがマスター!」
……とまぁ、あまりにリラックスしすぎてそれなりの素が出ているが心配はない。だってこんな辺境とも言える所にある店に誰も来るわけがないのだから。
そんなこんなで待つこと数分、目の前には普段より多めに桃が乗った大きめのパフェが出て来た。
早速そのパフェにスプーンを差し込み、桃と少々の生クリームを乗せて口に運ぶ。
「ん〜!やっぱここのパフェは美味しいねぇ……」
前述した通りの期待を裏切らない濃厚な味わいに頬が緩み切っている。こんな姿はアビドスのみんなには……いや、誰にも見せられない。
その調子でパフェを食べ進めていれば、ドアの開く音とベルの音が鳴った。
こんな所にある店に誰かが来るなんて珍しいなと思いながらそちらの方に顔を向ければ……
「……!?なんで風紀委員長がこんな所に来てんだよ!」
そう、ゲヘナの風紀委員長こと空崎ヒナが来ていた。
私服姿な所を見て先生とデートでもしてるのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。証拠に1人でいる。
「不味いぞ……こんな緩み切った姿を見られる訳にはいかない……!」
「一名様ですね、こちらの席にどうぞ〜」
「マスター!??」
なんと言うことだ、このマスターガラ空きなのにあろう事か隣の席に案内しやがった。
確かにアビドスのメンバーでないが、空崎にはかなり迷惑をかけている。だからアビドスの奴らと同等、下手すればそれ以上に見せたくない相手なのだ。
「えっと……ここのオススメは?」
「それなら貴方のお隣の人に聞くとよろしいですよ。こちらの方の方が私よりも詳しいので。」
「ちょっとマスター!?何言ってくれてんの!?」
「……店員よりも客の方が知っているのは何故なの……?」
案内するまでならまだ良かった。静かにしていればバレないだろうから。
でも会話をするとなれば別だろ!どうしろって言うんだよ!
「あの……ここのオススメを教えてくれないかしら?」
「……
「なんで片言なの……待って、その声ってもしかして……」
「……っや、久しぶり。ここで会いたくなかったよ。」
はぁ……とため息をつき、伏せていた顔をあげる。
あまりこういう所にいるのを知られたくなかったが、仕方ない。
「やっぱり貴方だったのね、アヤト。」
「おや、お知り合いでしたか?」
「マスターも分かってて言ってるだろ?だから隣にして来たんだろうがよ……風紀委員長も俺と同じの食べるか?このセットなら奢ってやるよ」
わざとらしく驚くマスターに嫌味を言いつつ、空崎に聞いてみる。このセットなら割引が効くし、他と比べても高くない。なのでまぁ、空崎がこれでいいと言うなら奢れる訳だ。
「いや、流石に奢って貰うのは……」
「いいっていいって、口止め料だと思って貰ってくれ。ってか口止め料だ、このことはここにいる奴ら以外に話すんじゃないぞ。」
「分かってるわよ。それに話したとして、ホシノ達にはもうバレているでしょう?」
「いや、バレていないぞ?」
何を勘違いしているんだ、こんな所に来ているのを誰にも教えているわけがないだろ。
だが、空崎は全くそれを考えていなかったのか、素っ頓狂な声で驚いた。
「えっと、教えていないの?」
「俺が家以外でリラックスできる場所だぞ?知らないうちに来られるのは嫌だろ。」
「今のアヤトさんとお客さんが来る前までのアヤトさんの雰囲気は全く違いますからねぇ〜。それを見せたくないってことじゃないですか?」
なんてことだ、隠していたことを全てバラされた。
しかも他校の風紀委員長である空崎に、だ。このマスターさては俺が口止め料を払うからってもっと買わせようとしているな?悪魔である。
「…………そう言うことだ、それで空崎はどうする?早く注文するものを決めてくれこれ以上俺のことをバラされる前に。お前がマスターにこれ以上話させようとするなら俺が勝手に決めるが。」
「貴方の言ってたセットでいいわ。この店に詳しいらしい貴方が言うんだから。」
「はいよ、マスターの分も一個奢ってやるから決めろよ。どうせ客も来ないんだから食う時間ぐらいあるだろ?」
「辛辣ですねぇ……まぁでも人が来ないのは事実なのでありがたく頂きましょうかね。」
この際だったのでマスターの分も奢ってやることにして、空崎の分を注文する。
待つこと数分、届いてきた空崎の分のパフェは見慣れていた大きさよりも二回りほどの大きさを誇っていた。
「……マスター、俺のより多く無いか?」
「気のせいですよ。そう、きっと気のせい。」
「いや明らかに多いだろ……食べ切れるのか?空崎。」
「…………食べ切ってみせるわ。」
ごくり、と固唾を呑んでからパフェにスプーンを差し込み、一片を乗せる。
そしてそのまま口の中に入れ、数秒味わえば……
「……!美味しい!」
「そうでしょう?今朝取れた桃を適切な保管をしているので、鮮度も今朝とほぼ一緒なんですよ。」
「それに加えて、しっかりと糖度も高いからな。トリニティでも多く売れているらしい品種らしいぜ。」
パフェの一片を口に入れ味わって食べる空崎にドヤ顔をしながらうなづく。
ここのパフェは俺が高校一年生の時から通っているところなんだ、褒められればそりゃあ自分ごとのように嬉しい。
「なぜアヤトさんが誇らしいのかは分かりませんが、ありがとうございます。よければぜひ、またお一人でいらしてください。」
「そうそう空崎、こいつ今は猫被ってるだけだからな。気をつけろよ?」
「アヤトさん、別に猫は被ってませんよ?ただただ人柄よく接しているだけですとも。」
「アヤトの言うことっていまいち信じれないのよね。なんだかんだ嘘つくし。」
酷い、全くもって心外である。一体この凛々しい見た目のどこにそんな要素があるのだろうか?
ここまでしっかりしているのは、アビドスどころかキヴォトスですら中々いないだろうに……
「いや、凛々しいはなくないですか?第一に愛くるしいが来ると思いますよ?そのチョーカー含めて。」
「さらっと心を読むな、後愛くるしいは一番ないだろ?」
「いや、今の見た目からしたら貴方はボーイッシュな女子にも見えなくはないわよ?チョーカーをつけているのも含めてそう言う人に見えるわよ?」
「それ褒めてないだろ。」
ほんとなんなんだこの2人は……とでも言うように2人から顔を背けてパフェに目を向ける。
先程から若干放置されていた為か、少し生クリームが溶け始めていた。
このまま生クリームが溶け切ってしまえば折角のパフェが無駄になってしまう。
「まぁ俺はあとはゆっくり食べてるから空崎もゆっくりしてろよ。」
「えぇ、そうさせてもらうわ。」
空崎のその言葉を聞いてからパフェにスプーンを入れ一片を取り、口に入れる。
生クリームが溶けてきているからか、ちょうど紅茶でスッキリできる甘さになって来た。
「……ねぇ、アヤト。」
「ん?
「……私が悪いけど、食べながら喋らないで。」
確かに食べながら喋るのは行儀が悪かった、と言うことでさっさと口に入れたパフェを紅茶で流し込む。
「すまんすまん、それでどうした?」
「その、このパフェなんだけど……」
見れば、先ほどの量から7割ほど減った器があった。
紅茶も減っているから組み合わせてくれているのだろう。
「まぁまぁ減ったな……もしかしてもう食べれないとか?」
「うっ……その、意外に多くて……」
いやまぁ、分かっていたことではあった。
あのマスター、初めて来てくれた人には少し多めに入れてしまう癖というか、人柄というか、そんなところがある。
まぁそれが好きで常連になった人もいるにはいるが。ソースは俺だ。
「まぁそんな気はしてたさ。どうする?食べきれないなら代わりに食べるが。」
「その……お願いしてもいいかしら。」
「いいさいいさ、空崎には色々と世話になってるからな。そっちで何か困ってたら呼んでくれよ?ちっちゃな事でも大きな事でも、個人的な事でも俺らは手伝うぜ。」
そんなことを言いながらマスターに紅茶の追加をしてもらいながら、残りのパフェを食べ切る。
「いやぁ……結構食ったなぁ今日は。こりゃ後でしっかり体動かさないとだな。」
「えぇ、いつもならいつもなら食べれない量を私も食べたわ。」
喫茶店からの帰り、夕陽が照らす道のりで俺ら2人はそんなことを呟く。
空崎も喫茶店で食べたパフェが美味しかったのか、普段よりも多く食べていたらしい。
「どうだ?あの店も意外といいもんだろ。あんな過疎地に建てられていること以外は。」
「えぇ、桃の食感も良かったし、紅茶も飲んでて美味しかったわ。」
「俺が一年生の時から通っているところだからな。マスターがなかなか……その、ちょっとおかしいことを除けば完璧なんだよ。」
「そうでしょうね。」
2人して笑いながら、帰路を辿っていく。
最近じゃあアビドスと先生以外に話すこともなかったから本当に久しぶりだ。
「それじゃあ、俺はこっちだから。喫茶店でも行ったけど何かあったら連絡してくれよ?先生伝でもいいからさ。」
「えぇ、何かあったらそうさせて貰うわ。」
「個人的なことでも、ゲヘナの内部でも俺は協力するぜ。その時は空崎の知人ってことにするから。」
それじゃあな、と言って俺は少し遠回りになった自宅への帰路へ足を進めた。
もちろん、空崎にそれを悟られないようにだ。