ラクーンシティ警察署の廊下を、レオン・S・ケネディは足早に歩いていた。
バイオハザード後の復興作業は途方もなく、新米警官の彼には、文字通り山のような書類仕事と、時折舞い込む現場への出動が課せられていた。
署内には、彼を「(あの事件の)新人」と見る視線がまだ残っていたが、レオンは持ち前の真面目さと粘り強さで、日々職務に励んでいた。
その日、レオンは先輩警官であるクリス・レッドフィールドに報告書を提出するため、彼のデスクへ向かっていた。
クリスはバイオハザードの英雄であり、レオンにとっては尊敬すべき存在だ。
彼のデスクに近づくと、なにやら楽しげな話し声が聞こえてくる。
「それでね、クリス。南極は本当にすごかったんだ!ペンギンがね、もう……」
懐かしい声に、レオンの足が止まる。
デスクの向こう側、クリスと向かい合うように座っていたのは、紛れもないクレア・レッドフィールドだった。
パンデミックの地獄を共に生き抜いた、あのクレアだ。
彼女は以前よりも少し髪が伸び、カジュアルな服装ではあったが、はつらつとした笑顔はあの頃と何も変わっていなかった。
クレアがレオンの存在に気づき、ハッと目を見開く。
「レオン!」
レオンもまた、彼女の変わらない瞳に吸い込まれるように見つめ返した。
「クレア……本当に、君なのか?」
クリスがにこやかに二人の間を取り持つ。
「なんだ、レオン。まだクレアが来てるって言ってなかったか?」
レオンは呆れたようにクリスを見たが、すぐに視線はクレアに戻った。
まさかこんな形で、しかもクリスの職場で再会するとは。
驚きと、そして微かな安堵が彼の胸に広がる。
クレアもまた、再会を喜んでいるようだった。
「ごめんね、レオン。クリスに会いに来たんだけど、まさかここでレオンに会えるなんて!」
クレアは嬉しそうに立ち上がり、レオンに歩み寄る。
あの悪夢のような日々から、少しずつ日常を取り戻しつつある世界で、二人の運命は再び交錯し始めた。
それは、まだ始まったばかりの、静かな恋の予感だった。
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ラクーンシティ警察署近くのダイナーで、レオンとクレア、そしてクリスはランチを取っていた。
店内はランチ時で賑わっており、警察官の制服姿もちらほら見かける。
クリスは向かいに座る二人の様子を、ブラックコーヒーを飲みながら眺めていた。
「このハンバーガー、本当に美味しいね!ラクーンシティに来るたびに寄っちゃうんだ」
クレアは、大きなハンバーガーにかぶりつきながら、満足げに微笑んだ。
レオンも自分のサンドイッチを食べながら、
「ここのはボリュームがあるからな。俺もよく来るんだ」
と応じた。
二人の間には、自然な会話が流れている。
南極での冒険談や、クレアの大学での研究の話。
レオンは警察官としての日常のささいな出来事を話し、クレアは興味深そうに耳を傾けていた。
クリスは、そんな二人の様子を複雑な心境で見守っていた。
妹がパンデミックから立ち直り、新たな生活を謳歌しているのは喜ばしいことだ。
それに、レオンは信頼できる男だと知っている。
しかし、かつてラクーンシティで地獄を共にした二人が、今こうして目の前で楽しげに談笑している姿は、クリスにとっては一抹の寂しさを伴うものだった。
妹が自分ではない男と親密になっていることへの、兄としての独占欲にも似た感情。
そして、レオンが自分よりもクレアと打ち解けていることへの、わずかな嫉妬。
「それで、レオンは最近何か大きな事件に巻き込まれたりしたの?」
クレアが尋ねた。
レオンは苦笑いしながら
「いや、大きな事件は勘弁してほしいよ。俺は地味な書類仕事の方が性に合ってる」
と答えた。
「あら、意外。もっと刺激的な日々を送ってるのかと思ったわ」
クレアは目を丸くする。
「それは、君と会った時だけで十分だ」
レオンは少し照れくさそうに言った。
その言葉に、クレアは一瞬きょとんとした後、はにかむように微笑んだ。
クリスは、そのやり取りに小さくため息をつく。
二人の間に流れる、穏やかでしかし確かな空気が、クリスにはまぶしく感じられた。
ランチが終わり、店を出ると、クレアは
「ごちそうさま、レオン!また近いうちに会えるといいな」
と言った。
レオンは
「ああ、もちろん。ラクーンシティにいる間はいつでも連絡してくれ」
と答え、彼女の瞳を見つめた。二人の間に、次の再会を予感させる、わずかな沈黙が流れる。
クリスは二人の間に入り込むように、
「おい、クレア。そろそろ空港に行かないと時間がなくなるぞ」
と声をかけた。
クレアはハッと我に返り、
「あ、もうそんな時間か。じゃあ、レオン、またね!」
と笑顔で手を振った。
レオンはクレアの後ろ姿を見送りながら、彼女の笑顔が胸の中にじんわりと広がっていくのを感じていた。
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クレアがラクーンシティを離れてから数週間が経った。
レオンは日常の業務に追われながらも、時折、あのダイナーでのランチや、クレアの屈託のない笑顔を思い出していた。
彼女から連絡が来ることはなかったが、それは当然だと自分に言い聞かせていた。彼女は大学の生活に戻ったのだから、多忙なはずだ。
そんなある日の夜、レオンがアパートで簡単な夕食を済ませていた時だった。
携帯電話が震え、見慣れない番号が表示された。
訝しげに画面をタップすると、控えめな声が聞こえてきた。
「もしもし、レオン?クレアだけど、覚えてるかな?」
一瞬の沈黙の後、レオンの心臓が大きく跳ねた。
まさかクレアから連絡が来るとは思っていなかったのだ。
「クレアか!もちろん覚えてるさ。どうしたんだ?何かあったのか?」
レオンの声は、普段の冷静さを欠いて少し上ずっていた。
電話口のクレアは、少し照れくさそうに笑った。
「うん、実はね、今度学会でそっちの方に行くことになったの。それで、もしレオンが暇だったら、少し会えないかなって思って」
「学会?ラクーンシティにか?」
レオンは驚きと喜びを隠せない。
「ううん、ラクーンシティから少し離れた隣の街なんだけど。でも、せっかくだから、ちょっと足を伸ばしてラクーンシティに寄ってみようかなって」
クレアの優しい声が、レオンの耳に心地よく響く。
まさか彼女の方から連絡してきてくれるとは。
レオンの胸に、じんわりと温かいものが広がる。
「もちろん、大歓迎だ!いつ来るんだ?もしよかったら、街を案内しようか?」
レオンは前のめりになって提案した。
クレアは楽しげに
「本当?嬉しいな!詳しい日程が決まったらまた連絡するね。じゃあ、また!」
と言って電話を切った。
受話器を下ろしたレオンは、しばらくの間、携帯電話を握りしめたまま呆然としていた。
再びクレアに会える。
それも、彼女からの連絡で。
レオンの心は、久しぶりに高揚感に満たされていた。