レオンがバイオハザード2のあと、そのまま警察官をやっている世界線。女子大生クレアとの甘々、アメリカ青春ドラマを目指しました。
金曜の夜。
クレアはパーカーの袖を握りながら、スマホのチャット画面をじっと見つめていた。
レオンの名前が表示されたその画面に、既に何度も書いては消したメッセージの跡が残っている。
「ええい、送っちゃえ……」
そう呟きながら、彼女はようやく指を動かした。
『クレア
Hey, Leon
この前は楽しかったよ。ありがとう!
あのね、今週末、近くのアニマルシェルターでオープンイベントあるんだって。
犬や猫と遊べるらしくて、なんか癒されそうだなーって思って。
よかったら一緒に行かない?』
送信した瞬間、心臓がどくんと鳴る。
彼の返信が来るまで、クレアはソファの上で丸くなりながら、落ち着かない様子でスマホを抱きしめた。
レオンは警察署からの帰り道、自宅のドアを開けるとそのままベッドに倒れこんだ。
制服のままスマホを取り出し、クレアからの通知に目を留める。
「えっ……クレア?」
彼女からのメッセージを読んだ瞬間、自然と笑みがこぼれた。
「犬と猫……しかも一緒に……マジか。」
彼女の文面には絵文字こそ少ないが、どこか優しい温度がにじんでいた。
レオンは一瞬だけ、返信をどうするか考え込む。
「うん、行きたい”だけじゃそっけないし……いやでも、俺っぽくていいか?」
そして、シンプルに打ち込んだ。
『レオン
Hey!
ほんとに? 行きたい!犬も猫も好きなんだ。
楽しそう。
何時に集合する?
俺、クレアに会えるの楽しみにしてる 』
メッセージを送ると、ベッドの上で天井を見つめながらニヤける自分に気づく。
「……ヤバい、完全に気になってる。」
レオンは照れ笑いしながら、頭の後ろで手を組んだ。週末が、少し待ち遠しくなった。
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日曜の朝。空は薄曇りだったが、クレアの気分は軽やかだった。
「ここがそう。市が運営してるシェルターだけど、ボランティアも多くて結構ちゃんとしてるの」
レオンは車から降りると、木造のあたたかみのある建物を見上げた。
入口の前で犬が二匹、尻尾をふりながらボランティアの若い女性に撫でられている。
「君がここでボランティアしてるって、前に言ってたね。……実際に来ると、想像よりずっと明るい雰囲気だ」
「そうでしょ?保護動物って聞くと、どうしても暗いイメージあるけど、みんな頑張ってるの。動物も、人間も」
レオンが笑った。
「君らしいな」
彼の声に、クレアの頬がわずかに染まる。
受付を済ませると、スタッフが顔を出して笑った。
「クレア! 来てくれてありがとう。あら……その人がうわさの?」
「う、うわさじゃないよ、もう」
「こんにちは、レオン・S・ケネディです。今日一日、クレアの影を追いかける予定で」
軽口に、スタッフもクスクス笑った。
まず案内されたのは犬舎。さまざまな大きさのケージに、いろんな種類の犬たちがいた。老犬、子犬、片目を失った子、元気すぎてケージの中を跳ねてる子……。
レオンはケージ越しに鼻を寄せてきた黒いラブラドールを見て、しゃがみこんだ。
「こいつ……すごく人懐っこいな」
「レオン、動物ってね、警戒心が強い子も多いけど、こうやってすぐ近づくのって、たいていわかるんだよ。やさしい人を」
「だったら、クレアのそばにいる俺を、もっと褒めていいんじゃない?」
「……調子に乗ったね?」
クレアが笑いながらタオルを投げると、レオンがそれを受け取って犬の口元を拭いた。
「本気で手伝ってるよ、今」
そのあと移動したのは、日当たりのいい猫ルーム。大きな窓のそばに、白猫が静かに丸くなっていた。
クレアがそっと手を伸ばすと、猫はまぶしそうに目を細めながら彼女の指をなめた。
「この子、最近保護されたばかりでね。人の手を怖がらないの。ちょっと不思議なくらい」
レオンはしばらくその様子を見てから、そっと腰を下ろした。
「……クレア。君が、動物にも、俺にも、こんなふうに接してくれる理由……少しわかった気がする」
「理由?」
「怖がらないんだよ、誰かが壊れてても、汚れてても。それを直そうとする。俺は、それが…」
言いかけて、レオンはふと黙った。
「……いや、やっぱ、いい」
「言って」
クレアが猫を撫でたまま、そっと彼に目を向けた。
レオンは、ため息まじりに笑う。
「……俺がここに来たのは、動物を見たかったからじゃない。君の、そんなところに触れたかったんだと思う」
猫が静かに喉を鳴らし始めた。まるで、その空気に満足したように。
クレアは、レオンの方に顔を向け、少し照れながら言った。
「だったらまた来て。毎週日曜。空いてる?」
「……スケジュール全部、空けとくよ」
そのとき、猫がレオンの膝に乗ってきた。彼は目を丸くして、クレアを見た。
「ほらね。動物は、ちゃんとわかってる」
その笑顔に、レオンの胸が、また静かに温かくなった。
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車の中は、静かだった。
けれどその静けさは、不快なものではなかった。
むしろ、心地よい余韻のようなものが、ふたりの間にゆったりと漂っていた。
助手席のクレアは、窓の外に流れる景色を見つめていた。
時折、遠くの空を見上げるようにまばたきをする。
「……楽しかった?」
レオンの声が、ハンドル越しにそっと差し出された。
「うん。すごく」
それだけの言葉なのに、クレアの声には、ほんの少し熱があった。
「君があんなに笑うところ、初めて見た気がする」
「そっちこそ。犬に顔なめられて、ちょっとくすぐったそうだったよね?」
「証拠写真、撮られてなきゃいいけどな……」
クレアは小さく笑って、レオンの方を見た。
そのまなざしが、どこか揺れていた。何かを言おうとして、けれど言葉にならない…そんな空気。
しばらく沈黙が続いたあと、クレアがぽつりとこぼした。
「……レオン」
「うん?」
「もし……もしもね、私が、動物じゃなくて、人間の弱さに触れるのが、ちょっと怖いって思ってたら、どう思う?」
レオンは、すぐには答えなかった。
交差点でウィンカーを出しながら、彼は慎重に言葉を選んでいた。
「それでも、今日の君は……怖がらずに俺のそばにいてくれた。十分すぎるくらいに、伝わってる」
クレアは窓の外に視線を戻したが、その横顔には、わずかに赤みが差していた。
「……レオンはね」
「ん?」
「誰かと過ごす時間に、何を一番大事にしてる?」
その問いは、ふいに落ちてきた。
だが、レオンは真面目に考え、少しだけ笑って答えた。
「……静かで、自然で。気を遣わずに、ただ隣にいられること」
クレアの指が、膝の上でそっと組まれた。ぎゅっと、力が入ったのが見えた。
「それ、今日できてたかな」
「完璧に」
返ってきた言葉に、クレアはほっとしたような息を漏らした。
「よかった……私、ちょっとだけ緊張してたから」
「え? 君が?」
「うん。だって、ああいう場所に誰かを誘うの、初めてだったし……相手があなただったから」
レオンの視線が、少しだけ彼女に向いた。
けれど言葉にするには、まだ何かが足りなかった。
もう一押し。
でもそれは、お互いどちらからでもできるはずの距離だった。
そして、車はマンションの前に着いた。
エンジンを切ったあとも、すぐにはドアを開けなかったクレア。
しばらく黙っていたが、やがてこちらを向いた。
「レオン。来週の日曜も……空けておいてくれる?」
「もちろん」
「シェルターでもいいけど……他の場所でも、いい?」
その言葉に、レオンの口元がわずかに緩む。
「じゃあ、今度は俺の番だな。君に、俺の好きな、静けさを見せるよ」
クレアの頬が、ふわりと緩んだ。
「楽しみにしてる」
彼女が車から降り、ドアが閉まる。
その瞬間、ふたりの間にあるものが、確かに次へとつながった気がした。
エントランスへ歩く彼女の背中を見つめながら、レオンは胸の奥で、何かがゆっくりとほどけていくのを感じていた。
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エレベーターのドアが開き、クレアが静かに自宅の玄関に入った。
靴を脱ぎながら、彼女は軽くため息をつく。
そのため息は、疲れではなく、余韻のようなもの。
あたたかく、優しい時間が、胸の内にまだ残っていた。
リビングからはテレビの音。
ソファには、ラフなTシャツ姿のクリスが座っていた。
缶コーヒーを片手に、無言で彼女の方をちらりと見る。
「……ただいま」
クレアが声をかけると、クリスは少し間を置いてから言った。
「帰り、やけにゆっくりだったな。……道、混んでたか?」
「え、うん、まぁ……」
クレアが少しだけ視線を逸らした瞬間、クリスは缶をテーブルに置いて、ぼそりとつぶやいた。
「……あいつ、助手席で変な顔してなかったか?」
「……は?」
「いや、だから。おまえの横で、にやけてなかったかって聞いてるんだ」
クレアはぽかんとしたあと、思わず吹き出した。
「クリス、なにそれ。まさか『お兄ちゃんのチェック』?」
「当然だろ。おまえがどんな顔して帰ってきたか、俺は兄として把握してるんだ。わかるんだよ、そういうのは」
「はぁ……」
「で、にやけてたのか?」
「……うん。どっちも」
クレアはふっと目を細め、いたずらっぽく笑った。
クリスは小さくため息をついたあと、テレビを消して立ち上がる。
「……まぁいい。アイツに変なマネされたら、すぐ俺に言えよ」
「ないよ、そんなの」
「信じてないから言ってるんだ」
クレアは笑いながら肩をすくめて、そのまま自室へと歩いていく。
クリスはひとりリビングに残り、缶コーヒーを取り上げて呟いた。
「……まったく。妹に好かれたやつは、全員俺の審査通らなきゃならないって、教えといてくれよな……」
缶を傾けながら、クリスの眉間には、少しだけ複雑なシワが寄っていた。