レオンがバイオハザード2のあと、そのまま警察官をやっている世界線。女子大生クレアとの甘々、アメリカ青春ドラマを目指しました。
レオンは、携帯を耳に当てたまま、部屋の中をうろうろと歩いていた。
制服のシャツは脱いで、Tシャツ姿のまま。
警察署でのシフトが終わって数時間……なのに、気持ちは落ち着かない。
クレアの番号は、もう何度も押してはキャンセルして、また押してを繰り返していた。
「……くそ、なんでこんなに緊張してんだ俺……」
軽く自嘲して、今度こそ、意を決して発信ボタンを押した。
1コール、2コール――
『はいレオン、元気!』
いつもの明るい声が耳に届いた瞬間、レオンの喉が一瞬つまった。
「……やあ、久しぶり」
『お疲れさま。今日、遅番だったんでしょ?』
「うん、さっき終わったとこ。……あのさ」
『うん?』
「明日、休みなんだ。で、君……明日、夜って、空いてたりする?」
小さな沈黙。レオンは内心で息を詰める。
『んー、課題はあるけど夜はフリーかも。どうしたの?』
「えっと……今、ラクーンシティでナイトマーケットってのがやってるらしくて」
『あっ、知ってる!キャンパスの掲示板にポスター貼ってあった』
「そう。それ。それで、なんか食べ物とか屋台とか出てて、ちょっとした夏祭りっぽいらしくて……」
『うんうん?』
「……よかったら、一緒に行かない?」
思ったより早口になったその言葉に、レオンは苦笑する。
聞き慣れた自分の声なのに、少しだけ震えて聞こえた。
電話越しのクレアが、ふっと笑った気がした。
『……レオン、すごく緊張してる?』
「わかる?うん、結構がんばってる」
照れながら言う。
顔が熱いのがわかった。
『ふふ、かわいいね、その言い方。行くよ、もちろん!』
「……ほんとに?」
『ほんと。ナイトマーケットとか、ちょっと楽しみにしてたんだ。誘ってくれてありがとう』
その言葉を聞いた瞬間、レオンの肩からすっと力が抜けた。
「よかった……じゃあ、19時に迎えに行くよ」
『うん、OK!なんかユカタとか着て行った方がいい?』
「いや、それは日本のやつだろ!……普通でいいよ。似合ってれば」
『ふーん、じゃあ楽しみにしててね』
「こらこら、それは俺ののセリフだよ。じゃあ、明日」
電話を切ったあと、レオンはしばらく携帯を見つめてから、ソファに倒れ込んだ。
「……やったな!!俺」
天井を見上げながら、思わずひとりごちたその声には、照れと、少しの幸わせがにじんでいた。
[newpage]
レオンは少し早めに、待ち合わせしたクリスのマンションの前に着いた。
夜の街灯に照らされた歩道は静かで、時折、遠くから車のエンジン音が聞こえるだけだった。
待ち合わせ場所に立つレオンは、いつもの制服ではなく、シンプルなシャツにジャケット、ジーンズとスニーカーという普段より少しだけ気合いを入れたカジュアルな格好だ。
でも彼自身は、それで十分緊張していた。
ふと角を曲がったクレアが見えた。
彼女はいつものジーンズ姿ではなく、柔らかな色合いの、肩が少しだけ出るワンピースを着ている。
シンプルだけど、少しだけ上品で、普段より少し大人びた雰囲気だった。
クレアは軽やかな足取りで近づいてきて、レオンの前で少し照れたように微笑んだ。
「遅れてごめん、待たせた?」
レオンは自然な笑みを返す。
「いや、ちょうどいい時間だ」
その言葉にクレアはふっと安心したように息をつき、そして少しだけ視線を落とした。
「ワンピース、珍しいね。いい感じだよ」
「ありがとう。今日は特別だし……」
二人は見つめ合ってくすりと笑い合うと、レオンは車を走らせる。
お互いの距離はまだ少し緊張感を帯びているけれど、どこか心地よい静けさもあった。
「ナイトマーケット、楽しみね」
「うん。ああいう場所、久しぶりだ」
レオンがそう答えた時、クレアの目がほんの少し輝いた。
「きっと、いい夜になるわ」
そう言って、クレアは小さく笑った。
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マーケットの入り口をくぐると、一瞬で世界が変わった。
色とりどりの提灯や電球が揺れ、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
屋台の明かりが点々と並び、人々の笑い声や楽しげな話し声があちこちから聞こえた。
クレアは目を大きく開けて、思わず息を呑んだ。
「わあ……すごい、こんなに賑やかなんだ」
レオンも思わず笑みを浮かべる。
「想像してたより、すっとにぎやかだな」
2人は手を繋ぎながら、ゆっくり歩き始めた。
まだ、握る手がお互いぎこちないが、それでも徐々に、2人の距離は縮まっていく。
「何から食べようか?チュロス?それとも屋台のホットドッグ?」
クレアが嬉しそうに言う。
「うーん……迷うな。全部食べたいけど、そんなに食べられないし」
「じゃあ、まずは何かシェアしよ?」
レオンが提案すると、クレアは頷いた。
「いいね、それ。じゃあ、ホットドッグとフレンチフライにしようよ」
2人は屋台の列に並びながら、どれを買うか真剣に話し合う。
隣を通り過ぎる子どもたちが楽しそうにゲームに興じるのを見て、クレアは微笑んだ。
「こういう場所、久しぶり。子どもの頃を思い出すな」
「俺もだ。仕事ばかりで、こういう時間なかなか取れなかったからな」
ホットドッグとポテトを手にして、彼らは少し離れたベンチに腰を下ろした。
灯りに照らされたクレアの笑顔が、いつも以上に輝いて見えた。
「ねえ、レオン。こうして一緒にいられるだけで、なんだか楽しい」
「俺もそう思うよ」
その言葉を交わすと、2人の距離はさらに近づいていった。
屋台の明かりがふたりの顔を優しく照らす。
ホットドッグを頬張りながら、クレアが少し目を細めてレオンを見た。
「ねえ、レオン……」
彼女の声はふだんより少しだけ静かで、甘さが混じっている。
レオンもその視線を受け止めて、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
「ん?」
クレアは一瞬ためらった後、小さく微笑む。
「なんだか、こういう場所で2人きりって、変な感じ……いい意味でね」
レオンは言葉を選びながら答えた。
「……そうだな。前みたいにハグだけじゃ、もう足りない気がする……あ、いや!…」
クレアの頬がほんのり染まる。
「ううん、そういう意味じゃなくて……」
目を逸らしそうになった彼女の肩に、レオンがそっと手を置く。
その瞬間、クレアはふっと息を呑んだ。
「……あ、ごめん。ちょっとロマンティックになっちゃったかな」
レオンも苦笑いで肩をすくめる。
「俺も同じ気持ちだ。でも、今はこの賑やかなマーケットを楽しもうよ。ここでは、みんなでワイワイしてるのが似合う」
クレアは肩の力を抜いて、笑顔を取り戻す。
「そうだね!ほら、あそこのゲームコーナー、見てみたい」
「よし、行こう」
2人は手を繋ぎ直し、笑いながら屋台の列に向かって歩き出した。
夜風が頬を撫で、マーケットの灯りが2人を照らした。
[newpage]
ラクーンシティのナイトマーケットは、夜が更けるにつれ、さらに賑やかになっていった。
小さな移動遊園地のような屋台の並びに、ドーナッツの甘い香り、風鈴の音、ライブバンドの軽快なギター。
クレアは屋台のアイスクリームを片手に、隣のレオンを見上げて笑った。
「レオンすごいわね!そんな豪華な景品初めて見た」
レオンは笑いを浮かべながら、手元の大きなクマのぬいぐるみをクレアに差し出す。
「ほら、かわいいお嬢さんにプレゼント。ラクーン署一の射撃の名手が、命中させた代物だ」
「ふふ…すてき。ありがと…」
クレアは照れたようにぬいぐるみを受け取ると、それを胸に抱いて少し頬を染めた。
2人はそのまま、マーケットの奥へ歩く。
カラフルな照明が照らす夜の空間に、どこか映画のワンシーンのような空気が漂っていた。
「なんか……子どもに戻ったみたい」
「君、屋台の玉入れで本気出しすぎだったけどね」
「もう。恥ずかしいわ。ついつい……」
そう言ってクレアがレオンの腕を軽く叩く。
レオンは思わず声を上げて笑った。
その笑いに、クレアもつられて笑う。
ふと風が吹く。
花火が打ち上がった。
音に驚いて、クレアが一歩レオンの方に寄る。
「わ、知らなかった…今日、花火あるんだ」
「らしいな。俺もさっき聞いたばっかり」
空を見上げながら、レオンの肩に触れたクレアの指先が、そのままそっと彼のシャツの裾をつかむ。
その動きに気づいて、レオンが横顔を見下ろす。
「……クレア」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
沈黙。
その数秒後、クレアがぽつりと言った。
「……レオン…キス、してもいい?」
レオンは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに顔を真っ赤にして小さく笑ってうなずいた。
「光栄だな。君の許可付きなら、遠慮なく」
ゆっくりと近づく。
屋台の明かりと、遠くの花火の光が2人のシルエットを照らす。
キスは、ただ唇をそっと重ねるだけだった。
でもその静かな触れ合いに、ふたりの間にずっと漂っていた想いが、優しく染み込んでいく。
離れたあと、クレアが少し照れくさそうに笑った。
「ほんとに、君がキスしてくれるとは思わなかった……」
「驚いた?…」
クレアがいたずらっぽく笑う。
「いや、君が言わなかったら、俺が言ってたよ」
そのやりとりに、ふたりはまた笑い合った。
クレアは小さなぬいぐるみを胸に抱えながら、レオンの隣を歩く。
もう手は自然に繋がっていた。
夏の夜の一瞬の灯りみたいに、わずかに触れ合うだけのキス だったけれども、忘れられない彼らの始まりのキスだった。
[newpage]
エンジンの音だけが静かに響く車内。
夜風が少しだけ窓の隙間から流れ込み、二人の頬を優しく撫でていた。
レオンは運転席に座り、いつものように柔らかく、隣のクレアを見ている。
クレアは窓の外の街灯をぼんやりと見つめながら、小さく息をついた。
「……今日は、すごく楽しかったね」
声は少しだけ震えていたけれど、その言葉には真っ直ぐな気持ちがこもっていた。
レオンは苦笑しながら答える。
「俺もだよ。君といると、なんだか変に緊張しちゃうけど、悪くないな」
クレアは照れ隠しに笑った。
しばらく、車内は穏やかな静寂に包まれた。
その沈黙の中で、ふとレオンが口を開く。
「君とのデーティングがずっと続けられていること、俺は信じられない気持ちでいるんだ。いつ 振られるんだろう、ってずっとビクビクしてた」
言葉はゆっくりと、しかし確かな重みを持っていた。
「そんなこと考えてたの?私はいつも楽しかった。あなたも楽しかったでしょう?私はいつまでも 、こんなに楽しく過ごしたいと思ってる…」
クレアはフロントガラスの外の景色を見ながら、うっとりしたような口調で言う。
レオンはハンドルを握ったまま、少しだけ照れたように笑った。
「じゃあ、これからも……俺と色々出かけてくれる?」
クレアの顔が真っ赤になった。
「うん……もちろん、喜んで」
静かな夜の車内で、二人は言葉以上のものを感じ合い、ゆっくりと未来へ歩き出した。
夜の道を、車が静かに走っていた。
助手席のクレアは窓の外を見つめていたが、不意に息を吸って、レオンの方へ顔を向けた。
「……クリスには、ちゃんと話そうと思う」
レオンはハンドルを持つ手を少し強く握り直した。けれど、すぐに視線を前に戻し、落ち着いた声で答えた。
「そうだな。……それが、いいと思う」
クレアは頷いたが、その横顔には少し緊張が浮かんでいた。
「正直、何を言われるかは想像つくよ。きっと最初は驚くだろうし、反対するかもしれない。でも……」
彼女は一瞬、窓ガラスに映った自分を見つめた。そして、しっかりとした声で言った。
「でもね、これは私の人生だから。自分で選びたいし、自分で話したい。でも……クリスは、私にとって大事な家族だから。ちゃんと話しておきたいの」
その言葉に、レオンはゆっくりと目を伏せ、静かに頷いた。
「……クレアらしいな」
そして信号で車が止まった瞬間、レオンはハンドルから手を離し、彼女の方を見た。
「俺も……後日、クリスに会いに行くよ。直接、話したい。どう思われても……クレアのこと、真剣に想ってるって伝えたいから」
クレアは驚いたように目を見開き――そして、微笑んだ。
「……ありがとう。ほんとに、あなたでよかった」
「それは俺のセリフだよ」
2人は短く笑い合った。けれどその笑みには、これから向き合うことへの覚悟と、互いを思う強さが滲んでいた。
[newpage]
深夜、クリスのマンションの玄関のドアが静かに開いた。
クレアは足音を忍ばせながらリビングへ入ったが、ソファに座る兄の姿を見つけて、ふっと息をついた。
「起きてたの?」
クリスはテレビをつけっぱなしにしていたが、音は消してあった。
缶ビールの空き缶がひとつ、テーブルに転がっている。
「……遅かったな。楽しかったみたいだな」
そう言って軽くからかうように笑うクリスの目には、どこか探るような光があった。
クレアは一瞬ためらったが、逃げないようにソファに腰を下ろす。
そして、まっすぐ兄の方を見た。
「うん。楽しかった。……すごく」
クリスは何も言わず、缶をつまんで少し揺らす。
その無言が、クレアに続きを促す。
「今日……レオンと話しててね。ずっと彼とデーティングしてたの。でも、はっきり言葉にしたのは今日が初めて」
クリスの指が缶を止めた。
「……で?」
クレアは少しだけ笑って、でも目はまっすぐだった。
「レオンが後日、クリスと話したい、って。」
沈黙。
テレビの画面が青白く、二人の顔を照らしていた。
クリスはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いてソファにもたれかかった。
「……本当か?」
「本当よ」
「……まったく。なんでよりによって、あいつなんだ」
「それ、ひどくない?」
「俺の後輩だぞ。しかも、妹相手に緊張してるのがバレバレだったくせに……」
クリスは苦笑した。そして、ぽつりとこぼす。
「……でも。レオンが真面目なやつだってことは知ってる。お前のこと、本気で大事にするってのも、目に見える」
クレアは驚いたように目を丸くした。
「え、認めてくれるの?」
「まぁな。……クレアが自分で選んだなら、俺に口出しする資格はない。けど、」
クリスは指をクレアのほうに向けて、冗談っぽく、けれどどこか本気で言った。
「泣かされたら……俺がレオンを泣かすからな」
クレアは吹き出して、クッションをクリスに投げた。
「わかってるわよ。でも、ありがとう」
「……まぁ、ひとつだけ安心したのは……レオンは絶対に、裏切らないタイプだってことだな」
クレアは静かに頷いた。
「うん。私もそう思う」
兄と妹は、深夜のリビングでしばらく黙って座っていた。
けれど、その沈黙は重たくも気まずくもなかった。
それは、互いを信じている者同士の、あたたかな沈黙だった。