私、羽沼マコトは自分で言うのもなんだがどこにでもいるいたって普通の女の子だと思う。
別に人に誇れるような特技もないし、何かが致命的にできないってわけでもない。
運動も勉強も普通って感じで、ただ毎日楽しければそれでいいかぐらいには特にやりたい事もない。
ただ別にこれに嘆いてるって訳でもなく、まあそのうちやりたいことは何か見つかるかもだしまあ見つからなくても別に死ぬ訳じゃないからいいんじゃないか? ってぐらいに楽観的にとらえている。
「ふわあああ……眠たい……」
学校がある日の朝も別に部活とかに入ってるわけじゃないからギリギリまで寝てこうして寝ぼけ眼をこすっている。
気持ち的には二度寝とかしちゃいたいけどまあ我慢だ我慢。とりあえず顔を洗って歯磨いて朝ごはん食べて出発の準備しないとなぁ。
「む? あぁ今日サツキ朝から仕事かぁ」
テーブルの上にあるアイツからの置き手紙を見て私は言った。
一応、私にもちょっとだけ人とは違った点もある。それは私の彼女であるサツキが私の通うゲヘナ学園のトップである議長だという事だ。
何もかも平凡な私と違って彼女は凄い偉い立場でバリバリと忙しくしている。
小さい頃はまだお互い年相応の子供って感じでなんならサツキの方がすぐ泣いちゃうから慰めたりもしてたんだけど、なんかいつの間にか差がついちゃっていた。
正直何の取り柄もない私なんて全然釣り合ってないんだけれど、アイツが私を選んでくれたんだしそこで変に嫉妬とか感じるのもおかしいよな。
「よしではとりあえずトーストでも作るか。あ、そういえば今日の課題ってやっていたか……? まあやってなかったら写させて貰えばいいか」
私はそんな風にまったりとしながら朝のアレコレを済ませてサツキと同棲している部屋を出る。
「うおっ、寒っ」
すっかり冬になったゲヘナの風の冷たさに、私は思わず身を竦ませるのだった。
「よーし昼だ昼。はー腹が減ったぁ……」
午前の授業が終わり私はぐぐっと背伸びをしながら言った。
と、そんな私のところに二人程近づいてくる。
「マコトー、ご飯食べよー」
「ああ、じゃあさっさと机くっつけろ」
「あいー」
彼女らは私のクラスメイトのスミコとオムノだ。
昔、私は病気をやって一年留学してしまった。それでクラスも変わると知ってる顔もいなくて寂しくしているところに最初に声をかけてきてくれた二人で、昔は年の差もあって「マコトさん」なんて呼び方もされていたけれど今では普通に呼び捨てで話す仲になった。
二人のおかげで私も普通にクラスに馴染めたし、うん、持つべきものは友達ってやつだな。
「相変わらずマコトの弁当って綺麗だよねぇ。それサツキ議長が作ってくれてるんだっけ? いいなー愛妻弁当ー羨ましいー!」
「フッフッフ、これぞ彼女持ちの特権というヤツだ。というかそれよりもスミコのその茶色しかない弁当はもうちょっとなんとかしろって思うぞ私は」
「えー! いいでしょ別にー! お肉好きだもの! 少なくともコンビニパンだけで済ませてるオムノよりはマシだと思う!」
「そんな事でマウント取らないでよみみっちぃ……私はね、楽できるなら楽する方にお金を使う主義なの」
こうしていつものように雑談をしながら私達はお昼を過ごしていく。
ご飯を食べ終えた後もお昼休みが終わるまで私達はダラダラと雑談とかをするのがいつもの過ごし方だ。
「そういやさー、二人はなんか夢とかないの?」
オムノがそんなことを聞いてきた。
今日の雑談テーマはどうやら「将来の夢」のようだ。
なんかこうして改めて言葉にすると小学生の作文みたいだなぁと思った。
ちなみに私は話しながら片手でスマホを持ってブロックをタッチして消すパズルを動かしている。別に話を聞いていないとかそういうわけじゃなく、ただ手持ち無沙汰だから雑に起動して雑に手を動かしているだけだ。
「夢かー、うーん……私はね、焼肉屋かな!」
「……えぇー……?」
「スミコ……それが女子高生の夢か?」
彼女の話に二人揃って呆れてしまう。
まあこいつがバカなのは今に始まった事ではないけれども。
「なんでよー! 焼肉屋やれば好きなときに好きにお肉食べられるんだよ!? 最高じゃない!?」
「幼稚園児かな? はいーバブバブー」
「うるせーっ! それはもう幼稚園児じゃなくて赤ちゃんへのヤツやろがい! そういう言い出しっぺのオムノはじゃあなんなのさーっ!」
「私ぃ? フフフ……よく聞きなさい……私はね、ヒーローになって最後は戦いながら事切れる! これね!」
「…………ガンバッテネ」
「……アア、オマエナラデキルサ」
今度はスミコと一緒に二人揃って笑顔で言ってやった。
こいつもこいつで別方向にバカなのだ。まあいいところでもあるんだが。
「うぐぐぐ……! もうちょっと羨望とかそういうの貰えると思ったのにぃ!」
「いいかオムノ……ヒーローというのはなろうとした時点でなれんのだぞ……」
「それっぽいこと言ってるけどただバカにしていなしてるだけでしょソレ! てか、マコトはどうなの? なんかあるの? ■■■の■■はやってたわけだけれど、今は違うしどうなのさそこんとこ?」
「私か? んーーーー……」
ちょっとよく聞き取れないところもあったけどまあ別に話の腰を折りたくないから放置として考えてみる。
夢……夢かぁ……。
「んぐぅーーーーー……! うむ! ないな!」
「そんなハツラツとした顔で言う事!?」
「まーでもいいんじゃないマコトらしくて? 前はしんどそうだったけど今はこうして元気って話でもあるしねー」
「待てらしいってなんだらしいって」
「ごめんね、何も考えてないバカってのを言葉濁して言ってあげたんだけど傷ついちゃったよね……うう、私ってば罪を背負い生きる女……」
「お、おのれ煽りよってぇ……! もし本当にそんな事を思っているのなら、こう、夢のない友に寄り添うとかいう青春めいたムーブとかないのか貴様ら!」
「ないね」
「ないわ」
「そうかー、ないかー……」
その話はそこで終わって今度は最近バズってるショート元の曲知らないけどいいよなとか、あの俳優絶対ゴリ押しだよなとかの話をしてお昼休みは終わった。
こんな感じで雑談をして私は楽しく学園での一日を過ごす。
いつもと変わらない平凡な日常だ。
「はぁー……まさかスミコは急なバイトでオムノはゲリラライブに突撃とは……放課後どうするか」
放課後、学園の中にある道をコートに手を突っ込んで歩きながら私は白いため息を吐きながら言った。
別に友達は二人だけってわけでもないのだけれど、今日は本来二人と冬の新作スイーツを食べに行く予定を入れていたから宙ぶらりんになってしまった。
いきなり他の友達を誘うのもなんか面倒くさいし、仕方ないから一人で行くとするか。
「……お、サツキだ」
なんとなく振り返るとそこには窓の外からこっちを見てくるサツキがいて目が合った。
そういえばあそこは万魔殿の執務室だったな。下校中の生徒がよく見える位置にあるものだ。
「……う、私だけ先に帰ってるのはなんだかちょっと申し訳なくなってきたな……逃げるか」
こういうのが部活に入ってない無所属の辛いところである。
私は彼女に背中を見せてそそくさと人にまぎれて校門を出た。
でも別に強制とかじゃないんだしいいと思う。私は別にやりたいこととかないしできることもないしな。
「しかし、ちょっと疲れた顔してたなサツキ……よし、せっかくだからスイーツを買って帰ってやるか!」
何を買おうかな。
まあ新作スイーツをざっくり眺めながら考えればいいか。
そんな事を思いながら私は大通りの方へと足を進めた。
放課後の大通りはたくさんの生徒で賑わっているのはいつもの事なのだが、なんだか今日は特に混んでるな? と私は思った。
みんなそんな冬の新作スイーツを楽しみにしてたのだろうか……と思ったがどうやら事情が違うらしい。
「ほう、ゲヘナ・トリニティの合同ライブステージ、か……。あー、そういえばサツキが頑張ってたやつだったかコレ」
ゲヘナとトリニティは昔から仲が悪い学校なのだが最近はそういったわだかまりを越えて距離を近づけているらしい。それでその一環としてどうやら双方からバンドだのアイドルだのを出してやるステージがあるみたいだ。
「オムノの言ってたやつとは別だよな確か。確かアイツが行くのはモモフレンズのやつだったはずだし……しかし失敗したな、こんな人が多いと買えるものも買えなさそうだ。さて、どうしたものか……」
「……マコト?」
と、そこで後ろから私の名を呼ぶ声がしたかと思い振り返るとそこにはよく知った顔がいた。
シャーレの先生だ。それに風紀委員長であるヒナ、あともう一人デカいサングラスとコートをしているのは……。
「……あ、先生とヒナの間にいるのってもしかしてナギサか? あーなるほど、お忍びファッションというやつか。大変だなぁトップというやつは……」
ちょっと同情しながら言ってしまった。
先生はちょくちょく私の面倒を見てくれるいい人だし、ヒナもナギサも私の友人達だ。
ただみんな忙しい身だからこうして偶然出会うぐらいの間柄でもあるけれど。まあここは仕方ない、私と違って彼女らには立場と高い能力があるのだから。
ただの凡人の私にできることはせいぜい応援ぐらいである。
「……ええ、そうですね」
ナギサは少し俯いてなんだか疲れた笑みで返してきた。まあ実際に疲れてるんだろう。
トリニティは腹黒い奴らの巣窟と聞くし、きっと彼女も日々水面下の戦いを繰り広げているに違いない。
私はそういうのダルそうで嫌だし本当に尊敬する。
「マコトは……どうしたの? このイベントを見に?」
「ん? いや違うぞ。私はただ冬の新作スイーツを買いに来ただけでイベントの事は見てからああそういえばそんなのもあったなとなったぐらいだ」
ちょっと困惑した感じで聞いてきたヒナに私はありのままで返す。
我ながらちょっとバカっぽいなコレ……まあ事実だから仕方ないんだが。
「……そう。ええまあ、そうよね……これはトリニティとゲヘナ双方の関係のためのイベントだけれど、そこに興味がなければ知らなくても仕方ないわ」
「む、なんだかトゲを感じる言い方だが……まあ確かにそうではある。そういうのはちょっと私が全然ではあるしなぁ。しかしこんな人混みで気を張ってないといけないってやっぱ大変だよな風紀委員会って。おかげで私みたいのが気楽にやれるし感謝してるよ」
「…………っ! ……うん、そう。分かった……ええ、そうでしょうね……」
なんだか喉に小骨が引っかかっているようなリアクションだが、なんなんだ?
もしかしたらヒナはちょっと私の事は苦手なのかもしれんな。私としては別に友達の一人ぐらいの認識なのだけれど、あんまりにも私がその日暮らし過ぎて何も考えてないから話したらちょっと疲れる奴ぐらいには思われているのかもしれん。
さすがに学園間の政治事とかにもうちょっと興味を持つべきか……? ……いや、いいか。どうせ私には分からんから素人の知ったかぶりで逆に神経を逆撫でしたら怖いし。
あとニュース番組とか見てて面白くないし。あ、でも可愛い犬とか見れるミニコーナーは好きだな、あれはつい見ちゃう。好きなんだよな犬って。
「……マコト、良かったらお目当てのお店まで人案内しようか? 人混みも私がいたら少しは楽になるかもだし、それにナギサの警護はヒナがいれば十分だろうしさ」
「いいのか先生? 他にも仕事とかは?」
「大丈夫だよ。私は生徒みんなの味方で、それはつまりマコトの味方でもあるんだから」
「そうか、ならばお言葉に甘えよう。私が行きたい店はアソコで……」
せっかくの先生の好意だ、全力で乗っかろうと思い私は行きたい場所を指で差して言う。
「……不甲斐ない先生でごめんねマコト。でも私、まだ、頑張るから」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、なんでもないよ。さあ行こうか」
先生が何か言っていたと思うのだが聞き取れなかった。
ただ先生がなんでもないと言っているのに追求するのも良くないだろう。私はあくまでただの一生徒、そんな私がただでさえ疲れが濃く顔に出ている先生に迷惑をかけるなんてできない。
先生のおかげでお目当てのスイーツを手に入れて持ち帰り、家で堪能した後、私はサツキの帰りを待つ。
きっと疲れているだろうし、ここはパートナーとして癒やしてやらねばな。
うむ、私はなかなか甲斐性のある女と言っていいだろう。何もできないからこれぐらいしかできないという矛盾は見ないフリをしておく事にする。
「ただいまぁー」
「ああ、おかえりサツキ!」
「うん! ただいまぁマコトちゃーん……! 今日は特に疲れたわぁー!」
「そうかそうかヨシヨシ……」
あのかっこいい議長であるサツキも家に帰ればこうしてスライムみたいに溶けて私に抱きついてくる。
こういうギャップが可愛いんだよなコイツは。
「ほら、そんなお疲れの議長様のために今日は新作スイーツを買ってきたんだ。存分に食べるといい」
「本当!? やったーマコトちゃん愛してるわー!」
「フッフッフ……それは当然私もだ」
人から見たらバカップルと言われるだろうし正直その自覚もある。
でもパートナー無しの全キヴォトスの皆さんも私達が幸せなんだからオッケーという事にして欲しい。
「いいわねーこれ、どこで買ってきたの」
「大通りでな。そういや今日はトリニティとゲヘナの合同ライブなんてやってたんだな、知らなかったぞ。……というか、ナギサやヒナ、それに先生も見たのにお前はいなかったな。何してたんだお前は」
「ああ、あれね。運営は他の子に任せて私は学園に缶詰だったのよー。でも終了後のアレコレはまたこっちでだし……はぁー明日からまた憂鬱だわ……」
「ははは、まあ頑張れ。私には何の力にもなれんしな」
「そうねー、マコトちゃんって本当に
「わざわざ言うな、そんなの私本人が分かってる。……でも不思議だよなぁ、そんな私が議長のお前と付き合っていて、他にもヒナやナギサ、先生とも交友関係があって……あれ? そういや私、いつ、ナギサや、先生と出会ったん、だっけ……」
……考えてみたら何かおかしい気がする。
本来、あんな立場の人と私って出会えないよな? 先生やヒナはともかく、ティーパーティーのホスト代行のナギサと私に接点なんてないし……。
「……マコトちゃん」
なんだか、思い出そうとしてもうまく思い出せない。
頭にモヤがかかったみたいっていうか、辺り一面霧に包まれていて見えるはずなのに見えない感覚に近いというか……。
「マコトちゃん」
あれ? あれ? そもそも、私とサツキはいつからこんな関係になった? サツキはどうして議長になった? だって昔は、あんなに、泣き虫で、怖がりで、私がいつも手を引いてやって――
「――
サツキの顔が、私の眼前に近づいていた。
顔が、動かせない。
でも目は動かせるから動かすと、そこは、さっきまでなかったはずのものがあった。
特定の赤い数字が映っては消える、たくさんのテレビ。
耳に響く不気味な音を奏でている、そこら中にあるベル。
明らかに身体に悪そうな緑色の煙を隙間から出している、いくつものケース。
「
ただそのすべてが、サツキの言葉で溶けていく。
だんだんと全部がどうでもよくなって、眠くなってきて、そうして私の意識は、闇に溶けた。
*****
「……十七時間二十九分三十秒。今度は二時間と六分十五秒も短くなってる」
片手に握った計測用タイマーを見て私は呟いた。
マコトちゃんにかけた催眠の効果は、日に日に効き目が弱くなっている。
前は一週間以上も続いた催眠の効果時間も今はここまで下がってしまった。このままでは、いずれマコトちゃんは眠りから醒めてしまう。
すべてを諦め絶望し、死に救いを求めた彼女に戻ってしまう。
せっかくみんなに“ちょっと大げさに”説明して“軽い暗示での誘導”もしてこの状況を黙認して貰っているのに、これではすべてが壊れてしまう。
「なんとか……なんとかしないと……」
血が出る程に強く私はバリバリと頭を掻いた。毎日のようにこれをやるせいで傷が癒える暇もなく痛みに痛みを重ねちゃってるけど、それこそもう何回やったか分からない行為だから別にどうってことない。
それよりも問題はマコトちゃんが戻っちゃう事。
駄目。
それだけは駄目。
なんとかしないと。マコトちゃんは、私が守るんだから。
「でも、私に用意できる環境はもうこれが精一杯……薬物も音や機械を利用した暗示も、今のゲヘナじゃ、これが……クソ、クソクソ、考えろ京極サツキ……どうすればいいか考えろ、考えろ、考えろ……!」
万魔殿議長として振るえる権限をすべて用いたこの環境でも駄目ならどうすればいい?
ただの引き伸ばしじゃ駄目だ。マコトちゃんにはずっと幸せでいてもらわなきゃ駄目だ。
ただの女の子として、辛い想いを、涙を流す夢なんてカケラも抱いていない人間として、ずっといてもらわないと、駄目なんだ。
「……そうよ、ゲヘナで用意できないなら、他から力を借りればいいのよ」
ええそうよ、マコトちゃんの病を治したときみたいに、いろんな学校の力を借りればいい。
ミレニアムにも、トリニティにも山海経にも、他にも使えそうモノがあるならどこからだって。
「ああでも、断られたらどうしましょう? 人の頭を書き換える催眠のために力を貸してって言ってもどうせ断られるわよね。ああ、どうしましょうどうしましょう……」
椅子に座り眠っているマコトちゃんを見る。
何の憂いも抱いていない、安らぎに満ちた顔。ああ、守らないと。私、なんとしても、マコトちゃんの事、守って、助けないと。
「ええ、そうよ、私は議長なんだから、ゲヘナの議長なんだから、借りられないってなったら奪えばいいんだわ。ええそうよ、それがいいわ。だって私は議長だもの。マコトちゃんのためならこのキヴォトスの敵になって支配者にもなってみせましょう。ええ、それがいいわ、それがいいのよ……」
例えその道中でいくら痛みを感じようと。
例えその道中でいくら恐怖を感じようと。
例えその道中でいくら涙を流そうと。
私は決して歩みを止めたりなんてしない。
「だって、私こそが、このゲヘナの議長なのだから……フフ、フフフフフ……キキキキ……」
私はどれだけ苦しんでも構わない。
それでマコトちゃんが笑ってられるなら、私はすべてを捧げよう。
これこそが、万魔殿議長京極サツキが抱く“夢”なのだから。
そのためには、私が苦しもうと、他の誰かが傷つこうと、あらゆるものを踏みにじろうと、マコトちゃんさえ笑ってくれれば、それ以外はどうでもいいのだ。
*****
「うっ、うえ~ん……!」
「まったくサツキ、おまえはすぐなくなぁ」
幼馴染のサツキは凄く臆病で痛がりで、そしてなりよりも優しい子だ。
さっきもどうやら転んで身体を地面にぶつけて、怪我はしてないけどこの泣きじゃくりようだ。
でもそれも目の前を歩いていた子犬を踏んづけたらいけないって思って足を大きく上げすぎての結果だった。
子犬なんて危なくなったらすぐ走って逃げられるしそもそも小さい子供が踏みつける程に迂闊でもないっていうのに、下手に心配性なやつなんだからこうなってしまった。
「だ、だってぇ~……! いたいのは、いやなんだもん! こわいのもきらい! もう、そういのがないよのなかになったらいいのに……!」
「むぅ、そうか……」
このどうしようもなく弱いけれど心の清い幼馴染を、どうにかして笑わせてやりたいと思った。
それにはどうすればいいかと考えた。
……そうだ、私が夢を叶えるついでに、こいつの夢を叶えてやればいいのだ!
そうと決めたらすぐ私はそれを宣言したくなって、近くのジャングルジムに登って、空を指さして言った。
「わたしはおおきくなったらこのゲヘナを……いや! キヴォトスをしはいしてみせる!」
そう、この私がキヴォトスを支配し、そのついでにサツキが理想とする世界にしてやればいいのだ!
これぞ一石二鳥! このマコト様の天才的発想と言えよう!
「マコトちゃん! すごーい!」
「キキッ! そうだろう! そしてそのときはおまえもいっしょだ! サツキ!」
私の夢の宣言を喜んでくれたサツキに指を向けて言ってやる。
こんな私の野望の宣言を素直に喜んでくれたのはコイツが初めてで、それで凄い私も嬉しくなった。
よし、絶対こいつと一緒にキヴォトスを支配するぞ!
一人なら挫けるかもしれんが、サツキが隣にいてくれるなら絶対できる! きっと間違いないぞ!
「うん! わたしもたのしみにしてるね! マコトちゃん!」
暖かい春風が私達を祝福してくれているようだ。
そんな気がするぐらいに愛らしく優しく、絶対に守りたいと思わせてくれる、そんな笑顔だった。