それではどうぞ。
○
side一進
「――月に御座す高貴で永遠の御方の為に…一つ搗いては~~」
「お~お~張り切ってんなぁウサ子達」
うどんが拗ねてから数時間…満月が昇る静寂な夜を打ち消すようにてゐの声と共にウサ子達によるペッタンペッタンと景気よく餅を搗く音が耳に届いて来るようになっていた。
「…ん~じゃ、行くか」
例月祭の準備も終わって特にする事も無かったから俺は自分に与えられていた部屋でダラダラとしていたんだが…それもいい加減やめてそろそろ顔を出そうかね。
思ったら即行動な俺は早々に重い腰を上げて、兎達が餅つきしているであろう庭に向かい出す。玄関を開けると身体が外気に触れ、多少は寒く感じたものの身震いするほどのものでは無く寧ろ涼しいぐらいでちょうど良かった。
「ふ~ん。夜っつっても案外明るんだな――お?やってるやってる」
辺りを照らすのは月明りや灯籠の明り。外界とは全く違う幻想的であり優しい光に照らされている世界に若干の感動を覚えつつも俺はてゐ達の声が聞こえる方へと進んで行く。
「ほ~い次のローテーションになって搗いてくよ~」
「「「U╹ x ╹Uキュー」」」
すると、昼頃に俺が臼を運んでいた庭では十数人のウサ子達がいくつかのペアに分かれて、ぐるっと綺麗な円を作るように臼を配置し皆一様に元気よく餅を搗いていた。
…おおっと〜これはうどんの奴は特に指定は無いって言ってたけど…ここまで綺麗に並べてんだったらもしかするとちゃんとした配置位置があったんじゃねぇの?…ま、今更いいんだけどそんな事…ええっとてゐは……。
「あら貴方も来たの」
「おお一進!こっちだよこっち」
「そこに居たのか…ってマジか。姫さんも来てたのか」
そう俺を呼んでくるのは縁側に腰を下ろしている姫さんとてゐの二人。てゐは声から確認出来てたんだけど姫さんが居るのはちょっと予想外だったな…。
「何よ私が居たら悪いわけ?」
俺の言葉に少しカチンときてしまったのか、姫さんは可愛らしい顔をムッとした表情に変えて俺に悪態を吐いてくる。
それでも縁側から足を投げ出して後ろに体重をかけるように手をついてる姿だからとてもじゃないが姫には見えないんだけどな。
「悪いって言うよりは驚いた。姫さんの場合メンドクサイとか言って来ないと思ってたからな」
それか少しだけ顔出してまたすぐに引き籠るもんだと…。
流石に後半は口には出さず心の内に止めておきながら俺は姫さんの隣に足を落ち着かせる。すると、姫さんと同じく踏ん反り返って座っていたてゐが笑い声を上げて楽しそうに足をぶらつかせ始める。
「あっはっは!まぁ仕方が無いね姫様ならホントに言いそうだし」
「私がいつも不真面目みたいな言い方やめてよね。…少しぐらい私にだって真面目な時はあるわよ」
「ご冗談を!微細ぐらいの間違いですよね?」
「……」
…さて、てゐがあまりにも姫さんをからかうもんだから姫さんの纏う雰囲気が芳しく無くなってきたんだがどうしよう…。
取り敢えずこの場からは離れたいがたった今ここにやって来てしまった手前、再び室内に戻るのは忍びないからな…。
……ふむ…。
…………。
「…てゐ、言い合ってないでさっさと次の言えよ。ウサ子達ビビってるし手ぇ止まってるぞ」
俺は意を決して姫さんの隣に腰を下ろしてゐに続きの句を言わせようと促す。これで何とか場は―「大丈夫だよ私の指揮なんて有って無いようなものだからね。…はい!皆各自でやっといて~」
そうですか。気を遣っても意味無しですか。
「一進、貴方ちょうどいい時に来たわね。お茶欲しいから淹れて来てくれない?」
「あ?自分でやれ自分で」
姫さんにそんな事を頼まれるが知らん。面倒事はゴメンなので断らせて貰う。
いくら姫さんの機嫌が悪いからって俺は姫さんのご機嫌取りをするつもりは毛頭に無いよ。まぁ普通ならやっても良かったんだけど…一旦腰を下ろしちまったもんだから今更立ち歩くのがめんどいってのが理由だわな。
最悪自分がラクしようと我儘言うのも構わないけどせめて俺が座る前にそういう事を言ってくんないかな。
「はぁ〜ケチな男。これはモテないわね」
「そうやって人の恋愛事に口出しするのもどうかと思うぞ」
「あら、モテない言い訳は良くないわよ」
……ほう、中々に煽ってくるではないか。こう見えてもあれだぞ?幻想郷来てからはそれなりに交流も増えてるから関係性もそこそこあるんだぞ?
それにやけにケンカ腰で突っ掛かってくるじゃないかよ。アレか?煽られた腹いせか?
「ああそう言えば輝夜姫様は五人の男を弄んでた女じゃないっすかぁ?これはこれはすいやせん是非その異性の
舐めんな。煽り合いをしたいってなら存分に付き合ってやるよ。
「あ?」
「お?」
ガスッ!と俺と姫さんの額が互いに当たる状態だというのにどちらも目を逸らさずにメンチを切り合っている。
夜だからこそ…うんそうだな。夜だからこそ俺と姫さんの間に火花が飛び交ってるのが見えただけで実際は錯覚だと思いたい。
「どうどうどう…始めに弄った私が悪かったよ姫様。というか誰かに行かせりゃイイじゃん、おーい誰でもいいからお茶用意してー!」」
なんて言いながらてゐは俺達を仲裁してウサ子の一人にお茶を汲みに行かせる。
「カワイイわよね~♪」
「…お前の感情の起伏激しいっつーの」
姫さんはさっきまでの出来事がさも無かったように餅搗きに勤しむウサ子達を眺めては言葉を漏らしているではないか…。あんたの不機嫌は何処に行ったんだよ。
……あ。
「なぁそういやうどんのやつが先生の機嫌が〜何て言ってるけど何で先生は今時期機嫌が悪くなるんだよ?」
そうだそうだこれが少し気になっていたんだけどうどんの反応に持ってかれてすっかり忘れてたわ。理由は知らないけど祭り事の一環だって言うのに先生だけ気分を害してるってのが全く分からないんだな。
「ああ~それはね~(…一進には言っても平気じゃないですか?)」
「(…そうね。下手に知らない状態で地雷踏まれるより知って楽しむ側に回って貰った方がいいわね)」
「……」
…あ〜ギリギリ聞こえてるんだよなぁ……。
互いの耳元で話し合って俺には聞こえないようにしてるみたいだったけどよ、最近身体能力どころか五感まで強化されてるみたいで俺の耳にゃお前らの会話はキャッチ出来てんだわ。
まぁそんな事で俺が気になるのは姫様の言ってた楽しむ側ってやつだな。あの先生の不機嫌を笑いのネタに出来る理由とは一体…。
「それじゃあ教えてあげるけど驚いちゃダメよ〜♪な〜んと永琳はお酒が呑めないんだから」
「へぇ」
酒呑みだらけの幻想郷だから驚きは驚きだけど…そこまで反応する事でも無いだろ。
「ちょ~っと違うさ。お師匠様はお酒が大好きなんだよ、だけど驚くほどに弱くってね〜」
そうやって楽しそうに笑うてゐを見てようやく俺も納得する。おそらくだけどこの事を鈴仙は知らないで先生に酌でもしてんだろうな。
「あ〜あ今月も上手くお師匠様にお酒注ぎに行かせられるかな~」
「それもそうだし私が怒りたいのは妹紅よ!どうせ来るんだからもっと早く
ああ…だから通りで姫さんも姫さんで機嫌悪かったのか…。てゐも懲りずにうどんを陥れようと画策してるみたいだけどさ、いい加減うどんいじめも止めといてやれよ…。
「……大変でしたか…?」
「そりゃ大変だったわよ。鈴仙が拗ねるもんだから私まで手伝う羽目になったし…まぁあっさり終わったからいいんだけど」
「「……あ」」
……姫さん…ちゃう。それ俺らやない。最後に重なった声が俺とてゐだけど最初の声は全く違うぞ…。
「そうですか…すみませんでした」
「あ、え!?鈴仙!?」
俺も途中から気付いたけど姫さんに話しかけてたのは俺でもてゐでもなく、拗ねて閉じ籠っていた筈のうどんだった。
「少しの間外出てます…」
「今から?何処行くか知らんがまぁ気ぃつけて~」
なんか知らんけどうどんが竹林の方に進んでるが…俺が気にしたって仕方が無いよな。
放心状態に見えるけど取り敢えずは部屋から出て来てくれたんだからある程度拗ねた心も治ったのだろう――「一進!!追って!!」…は?
「俺が!?ちっくしょ急に言うなよ!!…ってザッケンナあいつ走って逃げやがったぞ!!」
てゐに言われるがままに竹林に消えたうどんを追って駆け出したけど…え、あれ?来てんの俺一人じゃね……?
オイオイもしかしてこれって仮にうどんが見つかんなかったとしたら文句言われんの俺じゃねーの!?
***
お~いおいおい!うどんさんや〜い!
うどんを探しに出てはや十分…慣れた妖力が感じられはするからそろそろ見つかると思うんだけどな…。
「………はぁ……」
うどんの溜息…聞こえた方向的にこっち側に居ると――お、いたいた。
「やっぱ私ってダメなのかなぁ……」
なんて事を呟きながら、耳と共に顔を俯かせた状態でうどんは竹林の中を幽鬼さながらふらふらと彷徨い歩いていた。
怖ぇよ、つーか何でお前はそんな重苦しい雰囲気出してんだっつーの。…まぁ追い掛けて来ちまった以上無視も出来ないからしょうがねぇ…。
「師匠だって私をダメに―「お前がダメかどうかは知らんけど」―ッ!?………何だあんたか…」
うどんは驚きから俺の方に振り返り…平常、もしくは落胆したような顔になる。
「悪かったな俺で。で?何でお前はわざわざこんな所まで来て一人楽しく自虐に勤しんでんだ?」
「……嫌な奴よね。…私もあんたも」
「一緒にすんじゃねぇやい」
残念だが嫌な奴加減ならお前よりも俺の方が遥か高みにいるからな。俺は人をバカにするのにもそれなりの誇りを持ってるから同じにして貰いたく無いってのもあながち嘘では無いよ。
…うん、いや、まぁ俺の事は一回置いて貰っていいんだがそれにしても自分が嫌な奴だってか。はぁ〜あこいつの悩みってホント分かんねぇんだよな…。
「確かに…ね。少なくてもあんたは私と違って周りからウザがられる程度の嫌な奴で済んでるわよ」
…正直に面と向かってウザい言われるとそれはそれで傷つくんですけどうどんちゃん…けどまぁ言いたい事は分かった分かった。
だけどもうどんが気にしてるのだって結局は先生が酒呑めないだけの勘違いなんだからさ、それにそこまで自分を追い込む事では無いだろうに。
「それは自分を卑下し過ぎだろ。てゐは兎も角として先生と姫さんとは良好じゃないのか?てゐは兎も角として」
大事な事だから二回言ってやったぜ。
だけどそうは言いつつもてゐだってうどんの事を気に掛けてたのを俺は知ってるんだけどな。
実際永遠亭の奴らを幸せにして欲しいって言われたのも然り…もしかしたらあいつって普段の行いに反して案外周りを想ってるかもしれない。
「あの二人だってお前に優しい所あるだろ」
「そりゃお二人には感謝してるわよ。地上まで逃げて来た私を永遠亭で匿って貰ったんだもの」
「ほらな、何だかんだ言ってあいつらはお前を大切にしてんだよ」
はいセフセフ良かった良かった。今ので『どこが?』って聞き返されてたら完全にお手上げ状態だったから自分で納得してくれて助かったわ。
いや、だってさぁ…先生の優しい所って何かあったか?ましてやうどんに対してだったら厳しくしてたし実験動物的な場面しか思い浮かばねぇぞ。
まぁ当人が良好に解釈してくれてるならそれでいいんだけど…。
「はいじゃあそんなわけでお前を匿ってくれるほど優しいんだからさっさと……ん、匿って貰った?」
あれ?さっきこいつしれっと匿まって貰ったって言ったよな?
ちょっと予想通りに事が進んでたから流しそうになったけど、流石にそんな気になるワードが聞こえたら詳しく知りたくなるぞ。
「…ええ。師匠と姫様は月から地上に逃げて来た私を拾ってくれたのよ。もっとも師匠達は初め私を月からの使者だと思ったらしいけどね」
月からの使者、へぇ成る程ねぇ……。
先生達は先生達で月の住民から隠れ住んでる。だから月関係であるうどんを自分達の連れ戻し要員だと勘違いしたと…。
うんまぁだけど俺の気になる所はそこじゃないんだわ。
「…じゃ、お前は何で地上に来たんだよ。お前も何か罪でも犯したか?」
俺が知りたいのはうどんが永遠亭に匿わざれないといけなくなった理由の方。
こいつはこいつできっと何かやらかしたから逃げ出す羽目になったに違いないだろうが…まさかこいつも蓬莱の薬を飲んだってわけではあるまいよな?
「罪…まぁ罪に違いは無いわね。…私は部隊の皆を見捨てた裏切り者だもの」
…裏切りかぁ…。これはマズったな…結構深刻なタイプのやつじゃんかよ。しかもよりにもよって見捨てる系のやつですかい。
なんて言おうかな〜。ただ隊の皆を捨てたって言われても下手に情報探るとうどんのやつを刺激する可能性があるわな。
「あ〜っと。部隊って…お前軍人が何かやってたのか?」
その為遠回りな情報収集。もうこの際月に軍事施設があるとか言われても今更驚きゃしないが…こいつが軍人をやっていたとしたらそれはそれで別である。
だってあのうどんが軍人だぞ?てゐや姫様にからかわれていっつも玩具にされてるうどんがだぞ?
平常時の情けない姿からは全く見受けられないし。
「そうよ。て言っても私以外の月の兎も殆どが属していたけどね」
「……ほう」
一瞬だけ『ドキッ☆兎だらけのソルジャー部隊!』ってのが見たくなったけど流石に自重しよう。そこまで飢えてるつもりも無いから平常心平常心…。
よし!これ以上は戻ってからの話し合いでいいだろ。取り敢えず俺よりあの三人の方が適任だしな。つーか俺一人が貧乏くじ引かされるのは違うやん?
うどんも逃げなくなったし後は永遠亭に戻って団子食って例月祭を楽しみましょうか。
「んじゃ、落ち着いたなら帰んべ」
「私はね…。月が戦場なるって事を知った後…月の為に戦わなくちゃいけない筈なのに一人怖くなって逃げ出した脱走兵なのよ」
「え、いやオイなに平然と語り出してんだよ。俺は早く戻りたいんだが…」
本音を言うとさっさと帰って食っちゃ寝がしたい。
そこ!お前が話させたとか空気読めとか言わないでくれ!
俺だって暇っちゃ暇なんだけど例月祭とやらは月一イベントらしいから折角だし楽しみたい所存なんだよ。
「バカみたいよね…それで今は隊の仲間を捨てた自分が許せないんだもの」
「話を聞け!何勝手に俺に
これはもう何となく察したけどうどんをどうにかしないと帰れないわな。…こんな状態のうどんを引き摺って帰ったとしても姫さん方に何言われるか分かんねぇし。
……あ~あどうすっかなぁ。
「だって…」
だって?
「だってこんな事師匠にも姫様にもてゐにだって言えるわけないじゃない!!」
「ッ!」
おおビックリした…。懺悔続けるなら兎も角叫ばれるとは思ってなかったからなぁ。ツッコミ以外で初めての大声聞いてビクってなったわ…。
……そんでもってうどんさん?俺の服掴んで一体何がしたいん?
掴まれてるからこそ分かるものなのだが、うどんの手が服越しに幽かに震えているのが伝わってくる。さて…今ならこの手を掴めば簡単に帰れるんだが果たしてやっていいものなのか…。
「こんな事言えるのは…あんたの前だけなんだから…!」
「おおっと〜…」
勘弁してくれ。上目遣いで見上げてくるうどんの瞳からうっすら涙が溢れているではないか…。
…………え〜と、う〜ん…。
1 うどんを抱きしめて顔を俺の服に押し付ける…。
2 もしくは涙を流す姿を思いっきり嘲笑ってやる…。
3 やっぱりこのまま引き摺ってでも永遠亭に帰る…。
…………。
「あぁ〜!もう!!」
「わッ!?」
「一先ず拭け!そんな顔で帰ったらメンドくさくなる」
取り敢えずの解答は4の『袖で拭う』で間違っちゃいないだろう。泣かれた状態で帰ったら主に俺が泣かせたのではないかとかあらぬ誤解が生じそうだからな。
新しい選択はズルい?……1の抱きしめるをやれって?流石に良識があったらダメだと分かるだろう。……それに嫌な予感がするし…。
「何すんのよ!…それにあんたは早く戻りたいんじゃ…」
「戻りたかったけどいいよ服共々帰るのは諦めたから」
折角の人の親切を払いのけるのに若干イラっとしたが今は抑えよう…うどんも精神不安定なだけだからな。
因みに服共々ってのは涙に混じって鼻水まで出てたんだが…それは言わない方がいいだろう。俺の為にもうどんの為にも。
「で?お前は月が戦場になった後どうなったのか知らないのか?」
「あんたも随分お人よしね…」
ほっとけ。今に始まった事じゃ無いっつーの。
「…………」
「……はぁ…何事も無かったそうよ。傍受したものだけどそう発信があったもの」
「傍受…月兎特有の通信手段か…。ま、何にしても何事も無くて良かったじゃん」
なんて言ってる事と裏腹に俺の心中は穏やかでは無いがな。
だって月が戦場になってるのに何事も無いんだぞ…。って事は相手は月まで攻め入る手段を持った奴なんだし弱い事は無いだろう。
だけど、そんな奴相手でもそう簡単にどうにかなるわけ無いっていう月の集団を恐ろしく感じさせる。
「…何事も無かったから嫌なのよ…そしてそう思ってしまう私自身はもっと嫌」
なにそれ哲学?
…なんて冗談は一旦置いて〜も理解出来ないわ。どうしよ全く分からん。
いや、だってうどんの言った事をそのまんま解釈したら――。
「…ならお前は月がどうにかなって欲しかったのか?」
何故かは分からないがこういう事になるだろう…。そしてそれなら、そう思ってる自分に嫌気が差してるってのは納得出来るようになる。
よってこの考えがイエスならもう少し深く聞いて―「そんなわけ無いじゃない!!」…もう投げ出していいか?ここまできたらいい加減俺だって匙投げんぞ。
「月は私の故郷だし、尊敬してる人だって仲間だっているッ!!だから私は月が平穏でいてくれて嬉しいに決まってるわ!」
「やけくそだな」
「――ッ!?」
…あからさまに虚勢張ってるのは見え見えだし、それが本音だとしたらさっき自分で言った事と意見が完全に食い違うし…。
もうグッチャグチャだな…こいつ自分の思いを無理やり押し留めてやがるよ。
「…お前は俺の前でしかぶちまけられないんだろ?…だったら素直に吐いちまえ…お前の思いは何処にあるんだっての」
こんなんで本音を言うとは思って無いけどさ、それでも言わないよりは幾分かマシだろうよ。
「月に恨み辛みがあるわけじゃ無さそうだし…」
「…わた…しは…」
「…言っちまえ。ここなら誰も聞いてねぇし、何時までも溜め込んでいられるものじゃないだろ」
「……私は…」
後はうどんから言ってくれるのを静かに待つとしよう。今更俺が騒いだ所で解決にゃ向かわないからな。
「月の皆にも…そして師匠にも頼られたかったのよ…」
…………。
「…ガキかお前…」
「え?」
「…あ?」
はっ、マズいマズい!あまりにもうどんがしょうもない事言いだすもんだからついスルリと口から出てしまったではないか!
「…は…はは、そうよね。私は何言ってんだかね」
「悪い!ホントに悪い!人の悩みなんてそれぞれだから俺がとやかく言う事じゃ無かったな」
「いいのよ…別に」
ゴメンってうどん!!そんな思い詰めて諦めた顔しないで下さい!つーかそもそも何で俺はこいつをここまで気遣ってやりゃならんのだ!(逆ギレ)
「うん分かった!じゃあ殴り合おう」
「は?…はァ!?いやいやあんた何言ってんの!?ここで『俺を殴ってくれ』ってんならまだ分かるけれどもそれでも言ってあげる!何言ってんの!?」
「一方的だと俺が納得しないから!」
文句は言わせんぞ!それに大丈夫…の筈、男達が夕暮れの河川敷で殴り合った後に『数時間後』ってテロップ入れたらハイ二人は仲良しってのは定番中の定番だから!
…まぁ男女だし深夜だし竹林だからカスリもしてないんだがな…。
「先生達にバレたらマズいから顔は狙わないようにするとして…」
「やる気十分かッ!!ああもう!」
よしよし…俺の勢いに引っ張られたのかうどんもやる気になってくれて嬉しいよ。
「よっしゃ。そっちは俺に気負う必要なんて無いんだからありったけをぶつけなさいな」
「…本気で言ってるの?ただの一方的な八つ当たりになるわよ…?まぁ今までの鬱憤もあるしそもそもあんたから言い出した事だから優しくなんてしないわ。勝手に後悔しなさい」
「ハッ!当たりゃいいけどな」
「……私の事舐め過ぎよ。弾幕じゃなくても心得はあるわ」
軍人…故か。うどんは細く息を吐いたかと思えば両手を頭の高さまで上げて半身の状態で構える…。
と、同時に僅かに視線をずらしてこの竹林の地形を把握しにかかっているではないか。
……ふ~ん。相手だけに注力せずに環境をも利用する心づもり…おそらくは新たな手段を増やす為の模索だろうな。
「いいじゃんいいじゃん!そこらの妖怪よりもよっぽど面白そうだ…っと!!」
「……ウソ…」
俺は心躍らせる気持ちを抑える為にもデモンストレーションを行う。単純に近くに生えていた一本の竹を霊力を纏わせた蹴りでへし折る…。否、刈り取る。
さっきてゐと姫様の小声も聞き取れたし何でか知らんけど霊力とか妖力のコントロールがめちゃくちゃやりやすいのよね。凝に飽き足らず流まで出来んじゃね?水見式やってみっか?
…まぁそれは置いておいて…
「さてと…お前は
「紅魔館に居たって時点で分かってたとはいえ…あんたってやっぱ普通じゃないわよね…」
そりゃ秘密だけど俺ってば魔界生まれですし。
ってか人里ならいざ知らず、大概普通じゃない奴らで構成されてる世界で普通ってなんだよ。そっちの方が少数なんだわ。
「んじゃ探り合いは止めにしようか。折角綺麗に見えてるんだしお月様からお友達が応援してくれてるといいな」
「ったく……こんな事になるならあんたになんて言わなきゃ良かったわ!」
「知るか。んなもん自己責任だ自己責任……っと」
この野郎…。不意打ちは兎も角詰め寄ってくる前に足元の土や落ち葉を蹴り上げて二重の目隠しに使いやがった。んでもって当人はその後ろから畳み掛けてくる。
「いいねぇ初っ端から小細工かい」
「フッ!」
「舐めんな!当たんねぇよ!」
更にタイミングを取りづらくする為の速度の緩急。姿を見失わせる為の低姿勢からの強襲。小細工もそうだが確かな技術を持ち合わせてる事が面白さを加速させている。
「流石に軍人ならCQCとか環境利用は得意の範疇らしいな」
そんなうどんのコンパクトに繰り出してくる殴打を避けたのも束の間、距離を空けた瞬間に飛来物ーッ!あっぶねぇな石じゃねぇか!
「さっき姿勢下げた時に拾ってたか?んでそれを隠し持ちながら指弾で打ち出した…器用な上に色々手段を選ばねぇやつだな」
いかん。実戦が久々だって事もあるけど理不尽の権化たるお空やレミリアと違い、あり得るレベルで起きる何でもありな戦闘スタイルがあまりにも楽しい。
幻想郷に来てからは超常現象が当たり前になっていたからな。こうも駆け引きが成立してしまう以上思い通りに事を進めたくなってしまうではないか。
今だって俺のデモンストレーションを脅威に思っての事だろう。しかも微妙にやりづらいと思ったらうどんのやつ…捕捉されない様に半円で動きつつも常に俺の利き手側に障害物が来るようにしていて思わず感嘆しそうになる。
「その気になれば全部薙ぎ倒せるから関係無いがな。それに右ばっか意識してるけど左でも同じように出来るぞ」
「……」
「無駄口叩かないのも評価高ぇよ」
顔色一つ変えないですかそうですか。少し意識させて行動を誘導しようとしたんだけどもなぁ…すげなく躱される。
個人的には楽しみたい分何か反応を返してくれるとありがたかったんだがな。まぁこればっかりはうどんの戦闘スタイルもあるから仕方ないか。
それにしてもこんだけやれる上に皆から頼られたいとは何言ってんだっつー話だ。生活面でも今の永遠亭からお前が抜けたら手が回らなくなるのに気付いてねぇのか?
ったく、声を大にして言ってやりたいよ。『お前が自分の価値を勝手に決めてんじゃねぇよ』…ってさ。
ま、今はこいつのストレス発散に付き合ってあげようかね…。
最初は格闘描写と鈴仙の悩みを晴らす話を書きたかったんですが……何があった?結局鈴仙の感情が変になっているしで戦いっぽくない……深く考えないで下さいお願いします。
それではまた次回。