それではどうぞ。
○
side鈴仙
…ん……んん。ここは…。
「……私の部屋…か」
不意に眼を開けると、其処には見慣れた天井が映る。
そして、私は程よい暖かさに包まれていている事から布団に寝かされていた事に気付いた。
「…何で寝てるんだっけ…」
私は暗い部屋の中で思考を巡らせる。
確か…竹林に逃げた私をあいつが追いかけてきて、勝手な事を言い出したかと思えば無理やり戦闘に持ち込み出して……。
「さーて鈴仙は――お?何だ起きたんだ」
「…てゐ」
すると、部屋の
てゐは早々に私の状態に気付くと、軽い足取りで私の近くに寄って来てまじまじと顔を覗き込んでくる。……その手に持ってる油性ペンについては触れないでおくわ。
「ふふ〜ん?見た所大丈夫そうだね、ある程度聞いたけど気分はどうさ?」
私の顔を一通り見て納得したのだろうか、てゐは笑みをこぼしながらも珍しい事に私の容態を聞いてくる。
てゐから心配されるなんてね…。まぁ、という事はおそらくだけど……。
「…やっぱり私って気絶してたの?」
私はてゐにそんな事を問いかける。
起き抜けに思い出していたけど、どうやら私は一進と闘った挙句気絶までさせられてしまっていたようだった。
…まぁてゐに聞かずとも自分の中で既に確信となっているけどね。それでも話をしっかり聞いておきたかったし、寝たままじゃ格好つかないから身体を起こし――!?
「いッ!?」
何…コレ?
起き上がろうとした瞬間にまるで全身に電流が駆け巡った様な痛みが走り、思わず軽い悲鳴を上げそうになるのを必死に堪える。
「あ〜ツライならやめときなやめときな。それは一進も体験したって言ってたけど相当苦しいらしいから♪」
「他人事…みたく言うなっての!」
「うんうん。叫ぶだけの元気がありゃ症状も軽そうだね」
そうやっててゐは
ニヤニヤしながら笑ってるけどあんただったら泣き叫んでもおかしく無いのに何が『苦しいらしいから♪』よ。
………ん?…あれ?
「体験した?」
「そーさな。昔一進もやられたんだってさ、今回はそれを鈴仙にやったんだと」
「…って事は…多分私は過去自分がやられた事をやってみるための実験台に…」
「あはは、流石にこれはドンマイとしか言いようが無いわな」
何でも戦いの接触時に霊力や妖力を叩き込んで擬似的に体内の気を狂わせたとか何とか、とてゐは言うけど…だったら異常になってる体内波長を弄って仮説的に正常に戻せば……。
「ん……修正完了よ」
痛みが走った時はとんでもなかったけど、以外と何とかなるものなのね。
「わぉ!もう立ち上がれるんだ!」
「ちょっとフラつくけど…問題無いわ」
「羨ましいよ。相変わらず鈴仙のは便利な能力だね」
少しの間だと思うが、それでも私は寝かされていたので多少服にシワがついちゃったけど…別にいっか。
…それにしても便利な能力かぁ…。
「まぁ…ね」
波長を操れば相手に幻覚を見せる事が出来るし、ましてや今みたいに回復にも一役買う事だって出来る。
それに、私はもうずっとこの能力に世話になってるから能力の扱いにそれなりに自信があった。それに能力だけに限らず戦闘訓練だって上澄みの結果を残している。
だから、てゐに言われて自分の能力が優れているんだと再び自覚し直すけれど……それでも……。
「さて、てゐ。あいつは?」
一進はそんな能力を使った私でさえも軽々と超えていたのだから素直に喜ぶ事なんて出来ない。
…自分が上だと思っていたから尚更傷は深いし。
「一進かい?外に居るよ。大変そう……いや、面白くなってるけどね〜♪」
「…大変そうで面白く?」
何だかてゐは不可解な事を言ってるんだけど…どういう事かしらね?まぁ考えずとも行けば分かるでしょう。
***
「あっはっは!やってるやってる♪」
「本当に何をやってるの…って」
鈴仙が先導するてゐに着いて歩いてすぐの事、辿り着いたのは昼に自分が洗濯物を取り込んでいて夕方には数十の妖怪兎が餅を搗いていたあの庭だった。
…そして、日を完全に
「ぶっちゃけ完全に道に迷ったんだ!いや~帰りも妖力追えば良いと思ってたけど流石は迷いの竹林って言うだけあって裏切らないな〜」
「楽観視し過ぎでしょ!しかもそれだったら何で道の分かる鈴仙を気絶なんてさせたのよ!」
「暴れられると面倒だったし」
「開き直んな!!!」
申し訳なさの一欠片も見せ無い一進に怒りを見せながら一進に詰め寄る輝夜。
「「どうどう、こいつはこういう奴なんだ」」
そしてそれぞれがその苦労を知っているかのように輝夜の怒りを収めようとしている九尾の妖獣と人里の白沢の姿があった。
更に言えば
「よぉ鈴仙……」
「妹紅…。何で八雲達まで?」
貴女と慧音が居るのは分かるけど、と鈴仙は言葉を繋げて、周りと距離を置いて一人手持ち無沙汰に座る妹紅に問いかけていた。
「知らねぇよ。私と慧音が来た時には既にあいつらは居たし、大体知ってそうなお前ん事の先生も……お?」
「ああぁ鈴仙!!あのバカにやられたって言うけど大丈夫なの!?」
「姫様…。はい、ご迷惑もご心配も掛けてしまいましたが私なら大丈夫です」
「…そう。良かったわぁ」
先程まで宴の中心で巫山戯た事を言っていた一進と言い争いをしていた輝夜が、
…鈴仙も鈴仙でまるっきり大丈夫とは言い難かったが、それを素直に言う事は無い。
「おい輝夜、もう怒り終えたのか?」
「全っ然足りないわよ!確かに探しに行かせたのは私達だけど、それでなにも闘う必要なんて無かったじゃない!」
ウガー!と輝夜は一進に対して収まる気を見せない怒りを前面的に出して何度も何度も地面に敷かれた敷物の上に足を振り下ろす。
「はっはっは!すっかりお転婆姫だな」
「お前が彼女の従者に手を出すからだろう…全く。私達が落ち着かせるまでお前は紫様の下にでも行っててくれ」
「確かに手は出したけどさぁ藍さん…日本語って難しいね。それだと解決した側なのにがっつり俺が悪役に聞こえるよ」
「早く行け」
「慧音もかよ……はいはい」
真面目な顔をした藍と慧音から言われて仕舞えばいくら一進といえども引き下がらざる得ない。
その為、渋々といった感じに一進は紫と永琳に加えてもう一人がいる場所に向かって行った。
***
○
side一進
「退避退避っと…」
うどんとやり合って永遠亭まで戻って来たのはいいけど…気絶させたのは流石にやり過ぎたかな。いやでも、あまりにも能力が破格だったしあいつ自らが能力開示してくれなかったらマジ詰みだったし仕方なくね?
しかもそれを端折って姫さんに伝えたらもうご立腹ご立腹!
嫌になっちゃうね!折角うどんを連れて帰って来たってのに長々と怒られていたんでやんすよ。
まぁ、ってな訳でですね!俺は藍さんに言われるように紫の所に避難して来たんだけど――。
「ほ〜らウチの橙は可愛いでしょ〜♪目もクリッとしてて、耳なんてピコピコしてるの見たら最高よ〜♪」
「へぇ〜良いわね〜私のとこにも
「…………」
「ホント可愛いわ。私は寝不足が続いて
「おそらく若いから肌の質が良いのよね。触った感じ頰なんてもっちりして弾力もあるし…」
「ガタガタガタガタ」
……何なんだこの状況。
前半は微笑ましいで済ませたけど…後半なんて嫉妬に欲望塗れだし…。悪いけど俺の目にはいい歳こいた大人二人が子供を虐めてるようにしか見えないぞ。
「なぁ、おい二人とも……」
「あ、ヤッホー一進〜♪」
「あら♪姫様からの小言から逃げたくて私達の所に来たの?」
酔ってる。うん間違い無く絶対に酔ってるよこの二人。
立場上一番しっかりしてなきゃいけない奴ら(…あ、藍さんが居るから紫は別にいいのか)なのに何を真っ先に楽しんでんだっつーの。
「そう言えば一進は橙とは初めて会うわよね〜♪はい、この子は藍の式神で…」
「…あ、はい!一進様、挨拶が遅れて申し訳ありません!私は藍様の式神で橙と言います!」
なんて俺が酔っ払ってる二人に対してなんて言うか言い淀んでいると、さっきから気にはなっていた二人に虐められてる女の子から挨拶があった。
…心なしか立ち上がった時に紫達から離れたように見えたのは気の所為なのか?じゃなかったらいい性格してるよ。
「…様…か。かなりくすぐったいけどよろしくね、橙」
「はい!」
藍さんの式…って事は関係的に言えば俺は仮にも紫の式であるから橙より上の立場に当たるんだな。
それに俺に向かって下げていたその頭からはお燐みたいな猫の耳が生えている。おそらくは猫の妖怪なんだろうからそれは別にいいんだろうけど…いかんせん雰囲気がかなり子供っぽい。
ふむ、まぁ気になる事も多いが取り敢えず――。
「…向こうに帰っていいか?」
俺だって好き好んで酔っ払いの相手をしたく無い。
「
口にした言葉は多分心の声と入れ替わってるだろうけど、泣き付いて
「…何で橙は貴方にばっかり懐いてんのよ」
「知るか。俺の方がお偉い方のお前らよりよっぽど取っ付きやすいんだろ」
少しの間酒を酌み交わした現在、俺は紫と先生と三すくみの状態で座っている。
そしてあろうことか、橙は俺の膝の上にいるもんだから紫からの視線が非常に痛い事痛い事…。
「よっ…と」
「ブンブンブンブン」
ので下ろそうかと考えたが、こうも全力で首振って嫌がるのであればまだ暫くは置いておこう。
「ふふっ、紫も嫌われたものね」
「笑ってるけど先生も同様だからな?」
そりゃ嫉妬心丸出しで半笑いのまま撫で回されりゃねぇ?橙は立場上何も言えないし、かなりの恐怖を味わったと思うぞ。
「…まぁいいわ」
「いいんかい」
さして気にした様子も無く言うもんだからついツッコンだけど…ってあれ?そういや先生って酒呑まないんじゃ。
「…兎も角、優曇華を連れ戻してきてくれて助かったわ。いいだけやられたとはいえすっきりしたでしょう…ねぇ?」
『ねぇ?』?
先生は俺に礼を言うと共にそのまま俺の後方に視線を持っていく。俺もそれにつられて後ろを見れば――。
「そうですね。私はまだまだ心も身体も未熟でした」
「……うどん」
姫さん達の方に居た筈のうどんがそこには立っていた。
「もう平気なのか?」
普通に立ってるようだけど…やせ我慢かね?竹林から脱出するのにそれなりの時間背負っていたとはいえそんなすぐに復帰出来るとは思えん。
仮にももしすぐに意識を取り戻しても暫くは身体の不調が凄いんだわあれ。
「嫌味?お生憎様あんたの所為で身体中痛いわよ。ホント嫌になる」
悪かったって。俺もパチェさんから匙投げられて暇だった時に何回か美鈴と手合わせしてたからさ。今回見様見真似で気力打ち込みの真似事をしたら見事に成功してびっくりだっての―「……でも」
………。
「……でも?なんだよ?」
声を掛けても視線が泳がせ暫く落ち着かないように自身の手や髪を弄るのが映る。
おーい聞いてますうどんさん?ったく何だってんだよ。
………。
………。
「……ありがと」
十分に一拍空けた後にうどんはそんな言葉を紡ぎ出していた。
「は?」
「じゃあね!!言いたかったのはそれだけよ!」
「おいうどん!」
急に語調を強くした鈴仙は話は終わりだと言うように、こちらが呼び止めた事も聞かずに身を翻してさっきのグループに戻っていってしまった。
「……ありがとうってか…。…全く、あんなんで良かったのかねぇ」
小さく、息と共にそんな言葉を吐き出す。
言われた理由については分かるんだが…。それでも俺は正しい事をしたのだろうか、思い悩むうどんの助けになる事が出来たのだろうか。
しかし俺がそんな事を考えても分かる筈が無い。
「? 一進様はお礼を言われても嬉しく無いんですか?」
俺の膝の上に座る橙が自嘲気味に笑っている俺を見かねたのだろうか、顔を上げて大きな瞳で見つめてくる。
「どうなんだろうな。嬉しく無い事は無いけど…紫にも釘刺されてるからまぁ」
…俺のやってる事はただのエゴ、自己満足だって。
「紫様からですか?」
「ああ」
紫に会うんだったらその辺の事で謝りたかったんだけど、永遠亭に帰って来た時にはもう宴を楽しんでる状態だったからな。
「……私だって貴方の事を思って言ったのに」
「別にいいじゃ無い紫。…後、私からも言わせて貰うわ。ありがとうね」
……酔ってるからなのか…本心からなのか…。
「ですって♪」
…まぁそうまで言われりゃ蔑ろには出来んさ。
「…へいへい素直に受け取りますよ、はいあ〜ん」
「あ〜♪」
「よしよし」
俺はニッコリした橙の頭を乱雑に撫でて、薬草餅を口に運ぶ事で気まずくなるのを――。
「……何してんだよ?」
「え?」
防ごうとしたけど少しだけ待とう。
いや、だって対面先で紫が口開けて待ってるんだもの、気にならない訳が無いだろ。
「何って…食べさせてくれるんじゃないの?」
「ハァ?」
本当に不思議そうに首を傾げてくる紫…。え、何々お前はまさか自分が食わせて貰えると思ってたの?うさぎに因んでプルルヤッハァすんぞ。
いや、だって…流石に…ねぇ?
「あのなぁ、こんな事するのは橙だからこそであって―「あ〜ん♪」…ブルータス、お前もか…」
うわ、壮絶に頭抱えてぇ……。
まぁ、うんいいよ。百歩譲って紫はいいよ。分かる分かる。今まで散々こいつの相手をしたから考えてる事だってまだ理解出来るさ。
「ダメかしら?」
だけど先生…あんたは違うだろ。もうキャラぶれまくってるし俺は疲れてるからそんなにツッコミしたく無ぇし…。…つーかマジで酒に弱いんだな。
どうせ紫あたりが乗せたんだろうけど…日頃はうどんに強く当たってでも呑もうしなかったのが分かるわ。
…そりゃこんなんなったら弟子には見せられんわな。
……つっても――。
「おい鈴仙!お前ケガ人なのに呑み過ぎだろ!!」
「バカとケガ人に効くのはアルコールだからいいのよ。だからあんたも呑みなさい♪」
「あ゛あ゛!?んだと輝夜コラァ!!!」
「やめないか二人共!!」
「バカとケガ人にはアルコール…
「まぁバカは兎も角ともケガ人に
……こっちの様子まで気にしてる奴は誰一人居ないがな。
「はぁ〜あ騒がしい…」
「私は好きですよ?…勇気を振り絞ったからこそ今ここで一緒に居られるんですから」
遠くの喧騒に負けないようになのか…近付いてきた橙が俺の耳元で幽かな息遣いと共にそんな事を呟いてくる。
どうやら橙にも相当な苦労があったのだと言葉的に分かるのだが…時間も時間だ、流石に今から聞く気にはなれないさ。
………。
「…橙…月が綺麗だな」
「はい?…えぇ、綺麗ですね…?」
「……やっぱ難しいか」
「え?」
……うん。…まぁ本気で反応されても困ったけど…まさか知らないとは思わんかったよ。なんだかんだ見た目に反した教養を身に着けている奴らばっかりだったから知ってるかなって。
俺の期待では少しでも慌ててくれると楽しかったんだけどなぁ…。
「一進が相手なら私はいつでもいいわよ!」
「私は蓬莱人だからどうであろうと不可能ね」
「黙ってろ酔っ払い」
分かっている組は何でこうもノリノリなんですかねぇ…。ましてや紫、お前も酒入いれた状態でそんな事簡単に言ったらダメだろう。
「それにね一進。月だけじゃなくて海も綺麗だと思うわよ」
「紫がそこまで言うなんてね…」
「幻想郷に海ねぇだろ勘弁してくれ」
なのでそんな事言われても俺は知らん。
些か不明ではあるけど、そろそろ紫からの好意にも向き合うべきなのかなぁ…。
「はぁ〜あ……」
言いたい事も沢山あるが……もういいや。
そう思って俺は盃に映る小さな月を呑み込んだ。
平安って事で文学をぶち込んでます。一進に避けられましたが多少は進展ありそうっすね(他人事)
さて次回はいつもの座談会となります。
それではまた次回。