Shadow Convergence=影に生きる二人= 作:最上 イズモ
パラレルワールド転移システム起動。
砂漠の世界線は、いつも乾いている。
熱と沈黙と、現実の硬さ。
端末《PG-TERMINAL》が低い駆動音を立て、英語の定型文を吐き出した。
PG-TERMINAL v0.3
Protocol: OBSERVE-FIRST
Enter relative Earth coordinates
and world-line bifurcation values (Δλ).
イズモ「えーっと……確か……」
指先で数列を打ち込む。
イズモ「2032927437201……27477161873998991128。」
一拍。
Input accepted.
Authenticate operator.
イズモ「認証。」
Authenticated.
Operator: IZUMO.
Access Level: Observer.
画面が続ける。
Destination:
Nevada Desert, Nevada, USA
(Area 51 vicinity).
World Line:
Metal Gear Solid (Present Branch).
イズモ「……認証完了っと。」
端末は冷たく、儀式を完了させる。
Transferring.
Please wait 35 seconds.
数字が落ちる。
Transfer complete.
ネバダ砂漠
次の瞬間。
イズモは熱風に包まれながら砂地へ降り立った。
広大な砂漠。
遠くに金属の反射。
人工物の輪郭。
――エリア51。
イズモ「……うん。間違いないな」
異世界の匂いではない。
これは現実の匂いだ。
乾いた風。
機械の低音。
地面に埋まるケーブル。
“排除”のために設計された世界。
イズモは息を潜める。
端末が腰元で小さく震えた。
《OBSERVATION ONLY》
介入は禁止。
最小限の環境操作だけ。
足跡を消すために砂を動かすのではない。
ただ、踏み跡が“目立たない角度”に沈むよう調整する。
それだけで十分だった。
イズモ「……無事に施設まで近づけるか」
影
砂丘の向こう。
黒装束の影がひとつ。
無音。
気配が消えている。
戦場で生き残った者の動き。
次の瞬間、背後。
拘束。
――CQC。
イズモはわずかに体を捻り、力を逃がす。
イズモ「……速い。正確だ」
男は間合いを切り直す。
低い声。
スネーク「お前……ただの敵兵じゃないな」
イズモは構えない。
構える必要がないからではない。
構えない選択をしている。
イズモ「敵ではない」
スネーク「なら、何だ」
イズモ「観測者だ」
男の目がわずかに揺れる。
スネーク「観測?」
イズモ「戦場を壊しに来たわけじゃない」
スネークは一瞬だけ沈黙した。
そして低く言う。
スネーク「……目的が同じなら、話は早い」
イズモ「施設内部へ潜入する」
スネーク「……ああ」
二人の影が砂漠の闇に溶けていった。
潜入
夜風が冷える。
センサー。
監視カメラ。
ドローン。
現実の警戒は、異世界の結界より無慈悲だ。
イズモ「……思ったより敏感だな」
スネーク「電磁干渉で一時的に無効化できる。長くは持たん」
イズモはカメラの赤い光を、ほんの僅かに屈折させた。
“壊す”のではない。
“見落とさせる”。
最小介入。
スネーク「……あの通路を通れば無人区間に出る」
二人は砂丘を利用して前進する。
微かな砂の崩れる音。
スネーク「……トラップだ」
イズモが小石を転がす。
ホログラム障壁。
レーザー。
イズモはそれを“止めない”。
ただ、反射角をずらす。
光が空へ逃げる。
スネークの目が見開かれる。
スネーク「……何だ、あれは」
イズモ「ちょっとした創造能力さ」
スネーク「ちょっとした、だと……」
無線
通信機が震える。
オタコン(無線)「スネーク、聞こえるか!?異常なエネルギー反応を感知した!」
スネーク「異常なエネルギー……目の前の奴だ」
イズモ「……相棒か」
スネーク「オタコンだ」
オタコン「解析では既知の兵器分類に入らない。創造能力……?」
イズモ「まあね。派手には使わない」
スネーク「目立ちすぎだ。でも今は共闘するしかない」
オタコン「了解!バックアッププランを組む!」
スネークの観測
砂漠の夜は冷える。
だが、この匂いは嫌いじゃない。
戦場の匂いだ。
目の前にいる男――イズモ。
能力の理屈はどうでもいい。
俺が見ているのは、動きだ。
(……隙がない)
足の運び。
呼吸の間。
視線の置きどころ。
派手な力を持っているはずなのに、使わない。
それが一番厄介だ。
スネーク「……あんた、ただの能力者じゃないな」
イズモは振り返らず答える。
イズモ「そう見えるなら、光栄だ」
軽い言葉。
だが背中は重い。
この重さは、長く生き残った兵士のものだ。
引き金
敵を見つけた時も。
罠を察知した時も。
この男は“殺す前提”で動いていない。
勝つためじゃない。
終わらせるために動いている。
スネーク「……俺はもう、世界を救うつもりはない」
独り言のはずだった。
イズモ「それでいい」
イズモ「世界は、救われなくてもいい」
イズモ「……選べればいい」
その言葉が、砂漠の闇に沈む。
俺は銃を握り直し――
引き金から指を、少し離した。
戦争はまだ終わらない。
だが。
終わらせ方なら、選べる。
そう思えた夜だった。