Shadow Convergence=影に生きる二人=   作:最上 イズモ

11 / 18
選択

 重厚な隔壁が、低い音を立てて開いた。

 

 銃口が一斉に向けられる。

 

 だが、引き金は引かれなかった。

 

 

 

司令官「……止まれ」

 

 

 

 先に姿を現したのは、スネークだった。

 銃を下げている。

 だが、油断はない。

 

 

 

スネーク「ここが中枢か。

 随分、静かだな」

 

 

 

 司令室の奥。

 円卓を囲む数名の上層部。

 彼らの視線は――スネークの“後ろ”を見ていた。

 

 

 

 そこに、イズモが立っている。

 

 ただ立っているだけ。

 だが、空気が違う。

 

 

 

参謀「……来たか。

 “怪物”」

 

 

 

イズモは、ゆっくりと首を振った。

 

 

 

イズモ「怪物じゃない。

 ……君たちと同じ、“選択をした存在”だ」

 

 

 

司令官は、机に手を置いたまま、睨みつける。

 

 

 

司令官「我々は国家のために選択している。

 核に代わる抑止兵器を完成させ、

 無駄な戦争を終わらせるためにだ」

 

 

 

イズモ「そう信じているのは、本当だろうね」

 

 

 

参謀「なら、なぜ邪魔をする?」

 

 

 

イズモは、一歩だけ前に出る。

 銃口が揺れる。

 

 

 

イズモ「邪魔はしていない。

 “止めている”だけだ」

 

 

 

司令官「違いは何だ」

 

 

 

イズモ「壊せば、世界は終わる。

 止めれば……まだ選び直せる」

 

 

 

 司令室に、ざわめき。

 

 

 

司令官「……抽象論だ。

 我々は“現実的な兵器”を作っている」

 

 

 

イズモ「現実的?

 都市は残る。死者も出ない。

 だから“安全”だと?」

 

 

 

 イズモは、端末を投げる。

 卓上に投影される、緩やかに沈むグラフ。

 

 

 

イズモ「これは、使用後の世界だ」

 

 

 

参謀「……経済予測か?」

 

 

 

イズモ「いいや。

 “未来の余白”だ」

 

 

 

司令官「……理解不能だ」

 

 

 

イズモは、静かに言った。

 

 

 

イズモ「理解できなくていい。

 だが――結果は、必ず起きる」

 

 

 

 スネークが、低く割って入る。

 

 

 

スネーク「……あんたたちが作ってるのは、

 “勝ち続ける兵器”だ。

 だが、戦争は……

 勝ち続けた奴から、壊れていく」

 

 

 

司令官は、スネークを睨む。

 

 

 

司令官「兵士に、政治が分かるか」

 

 

 

スネーク「分からないさ。

 だが……壊れた戦場は、嫌ってほど見てきた」

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

参謀「……では聞こう。

 その兵器を使えば、

 “何が失われる”?」

 

 

 

イズモは、即答しなかった。

 

 一拍。

 そして、はっきりと言う。

 

 

 

イズモ「選択する力だ」

 

 

 

参謀「……選択?」

 

 

 

イズモ「革命も、反抗も、進歩も起きない。

 間違えたと気づいても、

 修正できない世界になる」

 

 

 

司令官は、低く笑った。

 

 

 

司令官「……安定した平和だ」

 

 

 

イズモ「違う。

 凍結だ」

 

 

 

 その言葉が、重く落ちる。

 

 

 

司令官「……我々が引き金を引かなければ?」

 

 

 

イズモ「他が引く。

 だから――」

 

 

 

イズモは、スネークを一瞬だけ見る。

 

 

 

イズモ「“使えない”と、思わせる必要がある」

 

 

 

参謀「脅しか?」

 

 

 

イズモ「警告だ。

 核が“使えない兵器”として抑止になったようにね」

 

 

 

 司令官は、椅子に深く座り直した。

 

 

 

司令官「……我々は、

 神にでもなったつもりか?」

 

 

 

イズモは、静かに首を振る。

 

 

 

イズモ「違う。

 神になれなかった者たちだ」

 

 

 

 沈黙が、長く続く。

 

 

 

 やがて、司令官が言った。

 

 

 

司令官「……もし、

 それでも我々が開発を続けたら?」

 

 

 

イズモは、初めて、視線を逸らした。

 

 

 

イズモ「……その時は」

 

 

 

スネークが、代わりに言った。

 

 

 

スネーク「俺が止める」

 

 

 

司令官「お前一人で?」

 

 

 

スネーク「一人で十分な戦場もある」

 

 

 

 イズモは、静かに付け加える。

 

 

 

イズモ「そして僕は……

 “取り返しがつかない未来”を、

 記録に残す」

 

 

 

参謀「それは……脅迫だな」

 

 

 

イズモ「責任だ」

 

 

 

 司令室の空気が、張り詰める。

 

 

 

 ここで撃てば、

 彼らは勝てるかもしれない。

 

 だが――

 その“勝利”が何を意味するか、

 もう誰も、軽くは考えられなかった。

 

 

 

 対決は、まだ終わらない。

 

 だが、

 引き金を引く前の世界は、

 確かに、ここに存在していた。

 

 

 

 

重厚な隔壁が、低い音を立てて開いた瞬間――

司令官の胸に、嫌な予感が走った。

 

 

 

(……来たな)

 

 

 

訓練でも、実戦でも、

この“気配”だけは誤魔化せない。

 

 

 

銃口が一斉に向けられる。

反射的な動きだった。

だが――引き金は、誰も引かなかった。

 

 

 

司令官「……止まれ」

 

 

 

命令は、意識する前に口から出ていた。

 

 

 

最初に姿を現したのは、男一人。

年齢は不詳。

銃は下げているが、油断のない歩き方。

 

 

 

(スネーク……報告にあった傭兵か)

 

 

 

だが、司令官の視線は、すぐに“その後ろ”へ引き寄せられた。

 

 

 

そこに立っていた存在――

ただ立っているだけなのに、

空間の密度が変わる。

 

 

 

参謀(……来たか……)

 

 

 

報告書でしか知らなかった。

現場の部隊が、言葉を失い、

次々と無力化されていった理由。

 

 

 

参謀「……“怪物”」

 

 

 

そう呼ぶしかなかった。

 

 

 

だが、その存在は首を横に振った。

 

 

 

イズモ「怪物じゃない。

……君たちと同じ、“選択をした存在”だ」

 

 

 

(……同じ、だと?)

 

 

 

司令官は机に手を置き、睨み返す。

 

 

 

司令官「我々は国家のために選択している。

核に代わる抑止兵器を完成させ、

無駄な戦争を終わらせるためだ」

 

 

 

それは、何度も自分に言い聞かせてきた言葉だ。

正義でなくとも、必要な決断だと。

 

 

 

だが、目の前の存在は、否定しなかった。

 

 

 

イズモ「そう信じているのは、本当だろうね」

 

 

 

(……なぜだ)

 

 

 

否定されないことが、

これほど不安を煽るとは思わなかった。

 

 

 

参謀「なら、なぜ邪魔をする?」

 

 

 

問いは、苛立ちに近かった。

 

 

 

その存在――イズモは、一歩前に出る。

それだけで、銃口がわずかに揺れた。

 

 

 

(……撃てない)

 

 

 

理由は分からない。

ただ、本能が拒絶している。

 

 

 

イズモ「邪魔はしていない。

“止めている”だけだ」

 

 

 

司令官「違いは何だ」

 

 

 

イズモ「壊せば、世界は終わる。

止めれば……まだ選び直せる」

 

 

 

司令室に、ざわめきが走る。

 

 

 

(抽象論だ……いつもの理想論だ)

 

 

 

司令官は、そう切り捨てようとした。

 

 

 

司令官「我々は“現実的な兵器”を作っている」

 

 

 

イズモ「現実的?」

 

 

 

その声に、嘲りはない。

だが、確信だけがあった。

 

 

 

イズモ「都市は残る。死者も出ない。

だから“安全”だと?」

 

 

 

端末が、卓上に投げられる。

映し出されたのは、

ゆっくりと沈んでいく不可解なグラフ。

 

 

 

(……これは……)

 

 

 

参謀「経済予測か?」

 

 

 

イズモ「いいや。“未来の余白”だ」

 

 

 

理解できなかった。

だが――嫌な感覚だけは、はっきりしている。

 

 

 

イズモ「理解できなくていい。

だが、結果は必ず起きる」

 

 

 

その時、もう一人の男が口を開いた。

 

 

 

スネーク「……あんたたちが作ってるのは、

“勝ち続ける兵器”だ」

 

 

 

司令官は、思わず睨み返す。

 

 

 

司令官「兵士に、政治が分かるか」

 

 

 

スネーク「分からないさ」

 

 

 

だが、その次の言葉は重かった。

 

 

 

スネーク「……壊れた戦場は、嫌ってほど見てきた」

 

 

 

(……ああ)

 

 

 

司令官の脳裏に、

過去の戦場が浮かぶ。

 

 

 

参謀「……では聞こう。

その兵器を使えば、“何が失われる”?」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

イズモは、すぐには答えなかった。

 

 

 

イズモ「……選択する力だ」

 

 

 

参謀「選択……?」

 

 

 

イズモ「革命も、反抗も、進歩も起きない。

間違えたと気づいても、

修正できない世界になる」

 

 

 

司令官は、思わず低く笑った。

 

 

 

司令官「……安定した平和だ」

 

 

 

だが、返ってきた言葉は短かった。

 

 

 

イズモ「凍結だ」

 

 

 

その一言で、

司令官は理解してしまった。

 

 

 

(……動かない世界)

 

 

 

司令官「……我々が引き金を引かなければ?」

 

 

 

イズモ「他が引く。だから――」

 

 

 

一瞬、イズモがスネークを見る。

 

 

 

イズモ「“使えない”と、思わせる必要がある」

 

 

 

参謀「脅しか?」

 

 

 

イズモ「警告だ」

 

 

 

その言葉は、

核抑止論と同じ構造を持っていた。

 

 

 

司令官は、深く椅子に座り直す。

 

 

 

司令官「……我々は、

神にでもなったつもりか?」

 

 

 

イズモ「違う。

神になれなかった者たちだ」

 

 

 

その言葉が、

胸の奥に刺さった。

 

 

 

(……そうだ)

 

 

 

自分たちは、

世界を背負える存在ではない。

 

 

 

司令官「……それでも、

我々が開発を続けたら?」

 

 

 

イズモは、初めて視線を逸らした。

 

 

 

イズモ「……その時は」

 

 

 

スネーク「俺が止める」

 

 

 

(……一人で?)

 

 

 

だが、その目は冗談ではなかった。

 

 

 

イズモ「そして僕は……

“取り返しがつかない未来”を、

記録に残す」

 

 

 

参謀「脅迫だな」

 

 

 

イズモ「責任だ」

 

 

 

司令室の空気が、限界まで張りつめる。

 

 

 

(……撃てば、勝てる)

 

 

 

だが――

その“勝利”が何を意味するか。

 

 

 

司令官は、

初めて真剣に考えていた。

 

 

 

(……引き金を引かない世界)

 

 

 

それが、

確かに――

この瞬間、存在していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。