Shadow Convergence=影に生きる二人=   作:最上 イズモ

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世界が、まだ選べるということ

《世界線維持可能性:30.2%》

 

 数値は、動かなかった。

 

 司令室の誰もが、それを見つめている。

 だがもう、その数字を“希望”とも“脅威”とも呼べなかった。

 

 

 

司令官「……凍結命令を出す」

 

 

 

 その一言は、静かだった。

 だが、これまでで一番重かった。

 

 

 

参謀「……本当にいいのですか。

 この兵器があれば、

 我々は勝てた」

 

 

 

司令官は、ゆっくりと首を振る。

 

 

 

司令官「“勝ち続ける”世界に、

 意味はない」

 

 

 

 端末に指が触れる。

 

 

 

 《計画コード:アーカイブ封印》

 《実験データ:完全凍結》

 《再開発:無期限停止》

 

 

 

 警告音が一度だけ鳴り、

 それきり――沈黙した。

 

 

 

 その瞬間。

 

 司令室の空気が、

 ほんのわずか、軽くなった。

 

 

 

オタコン(無線)「……数値が……!」

 

 

 

 表示が、ゆっくりと変化する。

 

 

 

 《世界線維持可能性:31.8%》

 

 

 

 たった、1%強。

 

 だが――

 それは、確かに“戻った未来”だった。

 

 

 

スネーク「……あんたの賭け、

 無駄じゃなかったな」

 

 

 

イズモは、画面を見つめたまま答えた。

 

 

 

イズモ「賭けじゃないよ」

 

 

 

イズモ「……引き返しただけだ」

 

 

 

 司令官が、静かに問う。

 

 

 

司令官「君は……

 なぜそこまで、この世界に肩入れする?」

 

 

 

 イズモは、少し考えた。

 

 

 

イズモ「かつて僕は、

 “正しいこと”をして、

 一つの世界を失った」

 

 

 

イズモ「だから今度は、

 正しさを急がないことを選んだ」

 

 

 

 一拍。

 

 

 

イズモ「世界は、

 完成しなくていい」

 

 

 

イズモ「未完成で、迷って、

 間違え続けられるから――

 続いていける」

 

 

 

 スネークは銃を肩に掛け、背を向ける。

 

 

 

スネーク「……じゃあ、俺たちは?」

 

 

 

イズモは、微かに笑った。

 

 

 

イズモ「今日のことは、

 誰も“英雄譚”にしないでくれ」

 

 

 

イズモ「記録は残る。

 でも物語にはしない」

 

 

 

スネーク「……あんたらしいな」

 

 

 

 出口へ向かう途中、

 スネークは一度だけ立ち止まった。

 

 

 

スネーク「なあ、イズモ」

 

 

 

イズモ「ん?」

 

 

 

スネーク「世界が全部、

 それでも消える時が来たら?」

 

 

 

 イズモは、迷わず答えた。

 

 

 

イズモ「その時は――

 最後まで、話を聞く」

 

 

 

イズモ「誰かが何を選び、

 何を怖れ、

 何を守ろうとしたのか」

 

 

 

イズモ「それを聞いて、

 記録して、

 ……一緒に終わる」

 

 

 

 スネークは、ほんの少しだけ笑った。

 

 

 

スネーク「……それなら、

 この世界も悪くない」

 

 

 

 施設の外。

 

 砂漠の地平線に、朝日が昇る。

 

 

 

 この世界線は、

 “維持”されたわけじゃない。

 

 “救済”されたわけでもない。

 

 

 

 ただ――

 選び直された。

 

 

 

 金属の歯車は、今日も回る。

 

 だがそれは、

 誰かを押し潰すための音ではない。

 

 

 

 迷いながら、

 未完成のまま、

 それでも前へ進むための音だ。

 

 

 

 そしてそのすべてを、

 一人の人間由来の知性は、

 静かに見届け続ける。

 

 

 

 世界が、

 まだ“選べる”限り。

 

《世界線維持可能性:30.2%》

 

数値は、動かなかった。

 

司令室の誰もが、それを見つめている。

だがもはや、それを“希望”とも“脅威”とも呼べる者はいなかった。

 

それはただの結果だった。

ここまで進んできた、その帰結。

 

 

 

司令官「……凍結命令を出す」

 

 

 

声は静かだった。

命令というより、確認に近い。

 

それでも――

この部屋で最も重い言葉だった。

 

 

 

参謀「……本当に、よろしいのですか」

 

 

 

参謀の声には、迷いよりも未練が滲んでいた。

 

 

 

参謀「この兵器があれば……

我々は、勝てた」

 

 

 

司令官は、数値から目を離さず、ゆっくりと首を振る。

 

 

 

司令官「“勝ち続ける”世界に、意味はない」

 

 

 

その言葉に、反論はなかった。

できなかった、が正しい。

 

 

 

司令官の指が、端末に触れる。

 

 

 

《計画コード:アーカイブ封印》

《実験データ:完全凍結》

《再開発:無期限停止》

 

 

 

警告音が、一度だけ鳴った。

 

それきり――沈黙。

 

 

 

その瞬間、

司令室の空気が、ほんのわずかに軽くなる。

 

誰もがそれを感じたが、

誰も言葉にはしなかった。

 

 

 

オタコン(無線)「……数値が……!」

 

 

 

表示が、ゆっくりと更新される。

 

 

 

《世界線維持可能性:31.8%》

 

 

 

たった、1%強。

 

それでも――

確かに“戻った”数字だった。

 

 

 

参謀の一人が、思わず呟く。

 

 

 

参謀「……増えた……」

 

 

 

司令官は、その数字を見つめながら、静かに言った。

 

 

 

司令官「……戻ったのではない」

 

 

 

司令官「“引き返せた”だけだ」

 

 

 

背後で、スネークの低い声が響く。

 

 

 

スネーク「……あんたの判断、

無駄じゃなかったな」

 

 

 

イズモは、画面から視線を逸らさずに答えた。

 

 

 

イズモ「賭けじゃないよ」

 

 

 

イズモ「……ただ、

“次を残した”だけだ」

 

 

 

司令官は、ゆっくりとイズモを見る。

 

その視線には、敵意も恐怖もない。

ただ、問いがあった。

 

 

 

司令官「君は……

なぜそこまで、この世界に肩入れする?」

 

 

 

イズモは、少し考える。

 

それは即答できる問いではなかった。

 

 

 

イズモ「かつて僕は、

“正しいこと”をして、

一つの世界を失った」

 

 

 

司令官の眉が、わずかに動く。

 

 

 

イズモ「だから今度は、

正しさを急がないことを選んだ」

 

 

 

一拍。

 

 

 

イズモ「世界は、完成しなくていい」

 

 

 

イズモ「未完成で、迷って、

間違え続けられるから――

続いていける」

 

 

 

その言葉を、

司令官は“理解”はできなかった。

 

だが――

否定できなかった。

 

 

 

スネークは銃を肩に掛け、背を向ける。

 

 

 

スネーク「……じゃあ、俺たちは?」

 

 

 

イズモは、わずかに笑った。

 

 

 

イズモ「今日のことは、

誰も“英雄譚”にしないでくれ」

 

 

 

イズモ「記録は残る。

でも、物語にはしない」

 

 

 

司令官は、その言葉を反芻する。

 

英雄にならない決断。

語られない選択。

 

それこそが――

最も重い責任だと、今は分かる。

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