Shadow Convergence=影に生きる二人= 作:最上 イズモ
沈黙が落ちた。
重く、乾いた沈黙だった。
砂埃が床に落ち切る音すら、やけに大きく聞こえる。
イズモ「……自分のいる組織は、原則としてどの世界線にも干渉しない。たとえ戦争があっても、内乱があっても、滅びかけていても……『世界線維持』が最優先だからね。ある世界線で、虐殺が起きていた。焼け落ちる街、泣き叫ぶ人々……助けを求めて、必死で手を伸ばしてくる。組織は“維持”のために黙認した。『あれはその世界線の歴史必然、干渉は崩壊を招く』……そう判断されたんだ。でも僕には……見捨てるなんてできなかった。その人たちを助けた。街を守って、避難ルートを作って……ありとあらゆる手を尽くして。でも、その瞬間……世界線は崩壊した。その歴史は保てなかった。僕が救ったことによって、次に来る未来の許容量が変わって……その世界は、ゆっくりと……でも確実に消えていった。一部は……別の世界線へ緊急退避させた。でも……すべてじゃない。あの時、僕は“世界線の敵”になったんだ。組織の理念の真逆を行って……取り返しのつかないことをした。」
オタコン(無線)は、しばらく言葉を失っていた。
やがて、掠れた声で口を開く。
オタコン「……それは……“助けたのに、世界ごと失った”ってこと……だよね……」
イズモは、ゆっくりと頷いた。
イズモ「助けなければ、世界は“維持”された。助けたから、世界は消えた。……どっちが正しかったかなんて、今でも分からない」
スネークは壁にもたれ、腕を組んだまま俯いている。
しばらくして、低い声が返ってきた。
スネーク「……あんたは、神の立場に立たされたんだな」
イズモがわずかに目を見開く。
スネーク「選ばなきゃならなかった。世界か、人か。歴史か、目の前の命か」
短く息を吐く。
スネーク「……俺たちの戦争も、似たようなもんだ。“大義”の名の下で、どれだけの人間が切り捨てられてきたか」
イズモの肩が、ほんの少しだけ落ちる。
強さの裏に隠していた脆さが、ようやく顔を出す。
イズモ「……でもね。その世界が消えていくのを、最後まで見届けたのは……僕なんだ」
声が、ほんのわずかに震えた。
イズモ「避難させた人たちは、別の世界線で生きてる。でも……“ここにいたはずの世界”は、もうどこにもない」
オタコンの呼吸が荒くなる。
オタコン「それ……それって……世界線理論的には……“正解のない選択”だ……」
イズモは自嘲気味に笑う。
イズモ「だから、組織から見れば僕は“バグ”だ。世界線を守るための装置が、感情で判断して、壊した」
スネークは顔を上げ、はっきりとイズモを見る。
スネーク「……それでも、あんたは戦場に立ち続けてる」
イズモ「罰みたいなものさ」
スネークは静かに首を振る。
スネーク「違うな。“逃げなかった”だけだ」
短い間のあと、続ける。
スネーク「数百年生き残れた理由が、ようやく分かった。あんたは強いからじゃない。……弱さを、切り捨てなかったからだ」
その言葉に、イズモは一瞬、言葉を失う。
視線を逸らし、低く呟いた。
イズモ「……そう言われるのは、久しぶりだな」
無線の向こうで、オタコンが小さく笑う。
オタコン「ねえスネーク……この人、確かに人間じゃないかもしれないけど……“人間であること”を、一番捨ててない存在じゃない?」
スネークは答えない。
ただ、ゆっくりと立ち上がり、銃を構える。
スネーク「……話は終わりだ。敵が来る」
イズモも、いつもの表情に戻る。
だが、その奥には、確かに揺らぎが残っていた。
イズモ「……ありがとう。聞いてくれて」
スネークは背を向けたまま、低く返す。
スネーク「戦場じゃ、誰かの話を聞ける時間のほうが、貴重だからな」
金属の歯車は、再び回り始める。
だが今度は――
ただの兵器の音ではなかった。
沈黙が落ちた。
重く、乾いた沈黙だ。
砂埃が床に落ち切る、そのかすかな音すら、やけに大きく耳に残る。
戦闘が終わったあとの静けさとは違う。
これは――選択の話をした後に残る沈黙だ。
イズモは、俺の正面に立ったまま、淡々と語り続けた。
彼の所属する組織は、原則としてどの世界線にも干渉しない。
戦争があろうと、内乱があろうと、滅びかけていようと――
「世界線維持」が最優先。
ある世界線で、虐殺が起きていた。
焼け落ちる街。泣き叫ぶ人々。
助けを求め、必死に手を伸ばしてくる無数の手。
だが組織は黙認した。
「あれはその世界線の歴史必然。干渉は崩壊を招く」
……聞き慣れた理屈だ。
俺の世界でも、何度も聞いてきた。
だが、イズモはそれを受け入れなかった。
助けた。
街を守り、避難ルートを作り、考えうるすべての手を尽くした。
その結果――
世界線は崩壊した。
救ったことで、未来の許容量が変わり、
世界はゆっくりと、しかし確実に消えていった。
一部は別の世界線へ退避させた。
だが、すべてじゃない。
……そこで、俺は理解した。
イズモは、英雄になったんじゃない。
世界線の敵になったんだ。
組織の理念の真逆を行き、
取り返しのつかない選択をした存在。
無線の向こうで、オタコンが言葉を失っていた。
やがて、掠れた声で絞り出す。
「……助けたのに、世界ごと失った……ってことだよね……」
イズモは、ゆっくりと頷いた。
助けなければ、世界は維持された。
助けたから、世界は消えた。
どちらが正しかったのか――
今でも分からない、と。
俺は壁にもたれ、腕を組んだまま俯いていた。
簡単に言葉を返せる話じゃない。
しばらくして、ようやく口を開く。
……あんたは、神の立場に立たされたんだな。
選ばなきゃならなかった。
世界か、人か。
歴史か、目の前の命か。
俺たちの戦争も、同じだ。
“大義”の名の下で、どれだけの人間が切り捨てられてきたか。
俺は、その現場を嫌というほど見てきた。
そのとき、イズモの肩が、ほんのわずかに落ちた。
強さの裏に隠していた脆さが、ようやく滲み出る。
世界が消えていくのを、最後まで見届けたのは自分だ、と。
避難させた人々は別の世界線で生きている。
だが――
「ここにあったはずの世界」は、もうどこにもない。
……生き残りだけを抱えて、
世界の墓標を一人で見送る。
それがどんな重さか、俺には想像できる。
オタコンの呼吸が荒くなる。
理論的にも、正解のない選択だと。
イズモは、自嘲するように笑った。
組織から見れば、自分は“バグ”。
世界線を守る装置が、感情で判断して壊した存在。
俺は顔を上げ、はっきりとイズモを見る。
それでも、あんたは戦場に立ち続けている。
「罰みたいなものさ」と、イズモは言った。
俺は首を振る。
違う。
あんたは――逃げなかっただけだ。
数百年生き残れた理由が、ようやく分かった。
強いからじゃない。
弱さを、切り捨てなかったからだ。
その言葉に、イズモは一瞬、言葉を失った。
視線を逸らし、低く呟く。
……そう言われるのは、久しぶりだ、と。
無線の向こうで、オタコンが小さく笑った。
人間じゃないかもしれない。
でも――
“人間であること”を、一番捨てていない存在じゃないか、と。
俺は答えなかった。
代わりに、ゆっくりと立ち上がり、銃を構える。
……話は終わりだ。敵が来る。
イズモも、いつもの表情に戻る。
だが、その奥には確かに揺らぎが残っていた。
「……ありがとう。聞いてくれて」
俺は背を向けたまま、低く返す。
戦場じゃ、
誰かの話を聞ける時間のほうが、貴重だからな。
金属の歯車が、再び回り始める。
だが今度は――
ただの兵器の音じゃない。
選択を背負った人間たちが、前へ進く音だ。