Shadow Convergence=影に生きる二人= 作:最上 イズモ
イズモが端末を閉じた、その直後だった。
オタコン(無線)「……追加情報。敵側の開発ログを解析した」
その声色で、ただ事ではないと分かる。
オタコン「彼ら、この兵器のことを……“次世代抑止兵器”って呼んでる」
スネーク「核の代わり、か」
オタコン「うん。爆発規模ゼロ、放射能なし、都市インフラも温存可能。
“撃てば戦争が終わる理想の兵器”だって……本気で信じてる」
イズモは、目を閉じた。
イズモ「……やっぱり、そこまでしか見えていないか」
スネーク「どういうことだ?」
イズモ「彼らにとっては、ただの“勝ちすぎる兵器”なんだ。
都市を壊さず、人口も減らさず、敵の継戦能力だけを奪う……」
言葉を区切り、低く続ける。
イズモ「だから、使う」
オタコンの息が詰まる。
オタコン「……それ、使用条件は?」
イズモ「核と同じだよ。
“国家存亡の危機”
“先制攻撃の正当性”
“抑止のための保有”」
スネーク「……最悪だな」
イズモ「核より、もっと悪い」
イズモは壁に背を預け、天井を見上げる。
イズモ「核は、撃った瞬間に“やりすぎた”と分かる。
でもこれは……何も起きなかったように見える」
オタコン「……死者も出ない、街も残る……」
イズモ「だから、誰も罪を感じない」
沈黙が落ちる。
スネーク「……で、実際には何が起きる?」
イズモは、ゆっくりと言葉を選んだ。
イズモ「撃たれた側の世界線は、数年から数十年かけて“選択肢を失う”。
革命が起きない。
技術が伸びない。
思想が固まる」
一拍。
イズモ「……やがて、自壊する」
オタコン「それって……兵器を撃った側は?」
イズモ「勝者として歴史に残る。
“一発も撃たずに戦争を終わらせた国”としてね」
スネークは、思わず舌打ちした。
スネーク「……理想の兵器だ。
使った側にとっては」
イズモ「だから止めなきゃいけない。でも……」
スネーク「でも?」
イズモ「彼らは、自分たちが“世界を壊す”とは思っていない。
核を置き換える、より人道的な兵器を作ったと、本気で信じている」
オタコン「……それを……どうするつもり?」
イズモは、端末を再び起動する。
イズモ「情報を歪めたまま、流す」
スネーク「歪める?」
イズモ「“核に代わる兵器”という理解は、そのままにする。
ただし……」
画面に表示されたのは、シミュレーション結果だった。
世界が、理由も分からず衰退していくグラフ。
イズモ「使用後の国家崩壊リスクとして公開する。
経済停滞、技術停滞、不可解な社会不全……
因果は説明しない。説明できないからね」
オタコン「……それ、科学的に証明できないって叩かれるよ」
イズモ「構わない。
核だって、最初は“使った後の世界”を誰も正確に知らなかった」
スネーク「……疑念を植え付けるわけか」
イズモ「そう。
“本当に安全か?”っていう疑念を」
イズモは、静かに言った。
イズモ「世界線の話をしなくていい。
彼らが理解できる言葉で、止める」
オタコン「……それって……完全な正解じゃないよね」
イズモ「正解じゃない。
でも……撃たせない確率は、上がる」
スネークは、しばらく黙っていたが、やがて呟いた。
スネーク「……戦争を止めるために、真実を全部は言わない。
相変わらず、あんたらしい」
イズモは、苦く笑った。
イズモ「全部言ったら……誰も信じない」
遠くで、朝の光が完全に差し込む。
イズモ(独白)
「世界を守るというのは、
真実を叫ぶことじゃない。
“間違った選択をさせないこと”だ」
敵は、まだ知らない。
それが“核に代わる兵器”ではなく、
世界そのものを静かに殺す道具だということを。
そしてイズモは、
その誤解を利用するという、
また一つ重い選択を、引き受けていた。