日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
マップを見せてクゥさんが指差した先へ到着すると、町田市郊外の敷地が広めの日本家屋だった。
「本当にここなんですか?」
『んな』
「はい、合ってます。」
一見普通の昔ながらの家にしか見えないため、汐留はピンときていなかったがクゥさんの嗅覚に間違いはなかった。
「家の中は俺が探す、汐留達はそれ以外を」
「了解」
家で待ち伏せしている可能性から才亮が家の中へと向い、二手に分かれる形となった。
「....こことか怪しいですね。」
「あー...枯れてますね。」
『なぁお』
汐留がベタな場所として井戸の中を覗くと、時雨もいっしょに覗き頬に伝う湿気が軽い冷えた空気から使われていないのを指摘し、クゥさんも鼻をムズムズさせていた。
「とりあえず入ってみます。」
「え、一人で大丈夫ですか?」
「ん、問題ないですよ...っと」
そういった気遣いに鈍感な汐留は当たり前のようにそういって何の躊躇いもなく井戸の中へと入っていってしまった。
「あーじゃあ、私あっち見てきます!」
「わかりましたー」
井戸の底に到着した彼女は反響した声で時雨へ応対した。
「...うーん、どの辺にいますかね。」
『スッ...ン...スン....な!』
「クゥさんっ....あ」
周囲を見回しながら鼻をすんすんしているクゥさんは対象が見つかったのか、敷地の奥の方へと跳んでいき、後を追うとそこにはわかりやすく新品の体育館の二分の一くらいの倉庫が建っていた。
『っ...!』
「...っと、お邪魔しまーす。」
クゥさんが少し開いていた倉庫へと入っていくと、時雨は才亮らを呼ぶかどうかを逡巡したが、それよりクゥさんが心配だったため恐る恐る入ることにした。
「っ..何これ、断熱材ではないか.....誰かいますかー?...っと、これで見やすく」
仕切りか緩衝材なのかブヨブヨした壁を伝いながら、緑色に光っている電灯のスイッチをつけた。
「....ん...んん?....いやぁぁぁぁぁぁ!?!」
暖色の灯りに目を細めていると、さっきまで伝っていた壁が少し近くにきており上を見上げると、
倉庫パンパンに太った鳥型召喚獣の広義的にケツを触っていたようだった。
ーーーーガチャ
「あれ、電気消したはずじゃ....ん?」
「ヤァぁぁぁぁぁぁ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
するとそのタイミングで人一人通れるくらいの地下ハッチから作業着姿のゴーグル男が現れ、時雨と目が合って、さらに拍車をかけて叫び声を上げられそれに釣られたゴーグル男の叫び声と共鳴した。
「まぁ、普通に住んでる場所までトラップは仕掛けないか......ん...時雨?」
一方、家の中が無人で特に何もなかった才亮は2階のベランダから彼女らの方を確認すると、木々で隠れて見えない奥の方から馴染みのある叫び声が聞こえ、だんだんと近づいてきているのを感じた。
ーーーードンっ...ズシン...
『グギャぁぁ!!』
「いやぁぁぁぁぁ!!」
窓の方へ視線を移すと、全長20m程の白色を基調としたツノの生えた二足歩行召喚獣が彼女を追っていた。
「時雨っ、そのまま引きつけてろ!」
「はぁ?!...はい!!...っ!!」
大体の正体を看破した才亮は窓を開けてそう指示すると、時雨はマジかよっ?!という様子だったが彼を信じて一度召喚獣の方へ踵を返して股下を潜って通り抜けた。
『...ぐがぁ?...がっ?!』
追っていた女を見失い呆けた口を開いていた召喚獣に目掛けて、窓の淵にスリリング糸を張っていた才亮がその口の中へと飛び込んだ。
「っ!!...才亮さん?!」
倉庫の方へ戻りつつあった時雨は後ろ目に彼が巨大召喚獣の口の中へと入っていったのを見て、巨大召喚獣の方へと向かうが、それはすぐに杞憂に終わった。
ーーーーーパァンっ!!
「.....ツゥ」
破裂する音と共に巨大召喚獣は糸クズになって爆散し、その中から本体らしき蜘蛛型召喚獣を手にした金髪の男がゆっくりと着地した。
「才亮さん!その子が本体ですか?!」
ーーーードロンっ
「あぁ、っ...召喚じゃねぇな。」
時雨がそう聞くと彼が手に持っていた目を回している蜘蛛型召喚獣は白い煙に包まれて消えてしまった。
一方、倉庫内にて、そそくさとトンズラする準備をしていたゴーグル男は卵に向かってぶつぶつとつぶやいていた。
「...ツゥ...どこか過疎地域の、それも廃村で....ぅ、オーストラリアに飛べ!!....くそっ!あんで日本から出れねぇんだよ!!」
「あら、お困りですか?」
「あぁ....廃村つっても場所が思い浮かばねぇ....え?」
イメージが定まらずに能力を発動できない彼はいつもと違う声のアシスタントAIの声に反射で答えると、その声の主は管理官のバッチをつけた長身の女だった。
「はい、確保。」
「あぁぁぁ....あんでもいいから来い!!」
女の背中から発出した薄い黄緑色のスライムが彼を拘束しようとしたが、土壇場で今朝見たニュースで出ていた、発情期の興奮状態で森林中を暴れていた召喚獣を呼び寄せた。
『ーー・・リョぉおぉぉぅ!!』
堆積し硬質化した植物を纏ったサイ型召喚獣リョクエンが現れ、汐留にその角を振り下ろす。
「っ!!」
シゲモチさんをクッションに受けるが、倉庫の壁へと吹き飛ばされ彼女の後がついた。
『ヨォォゥウ!!...っ!?』
間髪入れずに加速しながら彼女の方へと重質量の塊が突進するが、寸前で時間が止まったかのようにピタリと止まる。
「汐留立てるか?」
扉の方からの逆光で透ける金髪の男は彼女の方へ駆けて、手を差し伸ばす。
「っ...はい。カウンター狙いだったんですが...」
「再起不能にする気だったろ、頭冷やせ」
「....了解。」
彼の手を取って立ち上がる彼女は一発もらったのを返そうとしていたのを見破られてしまい、少し不服そうに相槌を返す。
「...ついてねぇ。こうなったら、出し惜しみしてらんねぇっ...来い!!」
3人揃った管理官を前にして、ゴーグル男は上の繋ぎを開くと、そこには20個近くの卵が括り付けられており、才亮が持っていた卵も反応して光り輝き始めた。
「....っぅ、みなさん大丈夫ですか?」
「は、はい!」
「.....」
光が収まるとシゲモチで障壁を作って皆を守っていた汐留がそう聞くと時雨はすぐに反応したが、才亮は俯いたままだった。
そして、ゴーグル男の周りには氷の氷柱を背にしたヤマアラシ型召喚獣ユキアラシ、多数の羽を携えている虫型召喚獣ハガイジメ、爬虫類型召喚獣ダトツ、葉巻のシガーカットを両手にしている攻殻系の虫虫型召喚獣ユビキリ、透明のタンクで水タバコを吸っている召喚獣カワキガが呼び寄せられた。
「...っ!!」
それらを前にして汐留は応援要請ボタンを押して距離を取った。
「クゥさん!!...って、え?!」
『ぐるるる...んんゃ..』
鳥型を見張っているはずのクゥさんを呼び寄せても来ずに周囲を確認すると当人はぶくぶくに太った鳥型に乗り、大量の卵の上で酔っ払っている状態になっていた。
「才亮さん。....?...勝馬っ?!」
「....ぅ...っ...」
この状況下をどう切り抜けるか彼に聞こうとするが、彼は両腕に力がなくしなだれて、目を瞑りながら苦悶の表情を浮かべていた。
「っ....!」
なんらかの精神攻撃をされているとわかった汐留はこの状況を彼なしで突破すると覚悟を決めた。
「え?!才亮さんどうしたんですか?!」
「わかりません。兎角、時雨さんはクゥちゃんを回収して才亮さんを逃してください。私は...っ、なんとか持ち堪えます。」
「っ...はい!」
話している間にもユキアラシの氷の氷柱が彼女の脳天目掛けて飛んできたが、彼女は顔を少し逸らして右手で掴み取りながら彼女に指示をし終えた。