日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーーー・・行かないでくれ...
ーーーーー・・なぜ俺たちを置いていいった
ーーーーー・・痛い...助けて...
底が見えない死体の山上から、死んでいった仲間たちがしがみ付き、しゃがれた声や豪炎に燃えて焼け切れた声、血反吐が固まり微かにとおる気道から行き場のない言葉を浴びる。
「ぁ..っ....」
何を言ったら良いのかわからず、言葉にならない声しか出せない。
ーーーーー・・お前がいなければ...
ーーーーー・・私は死なずに...娘に会えた。
ーーーーー・・貴様のせいで....
「すまない...すまない...」
頭を垂れて謝るしかできない。
何を言おうとも、どう償おうとも全身を伝う無数の手が俺を離してくれない。
いや...良いんだ。これで、このまま永遠に彼らの無念を浴び続けるのが、俺にとってふさわしい。
『...ん、あれ..あいつは...』
その死体の山の下、目覚めた青年は目をこすりながら見覚えのある金髪の男を見つけた。
「ーーーー・・ツゥ...シゲモチさん!!」
『っ!!』
リョクエンの突進攻撃を受け流すが、その隙にハガイジメが体に巻き付けていた自身の大きな翼を広げて汐留を羽交い締めにする。
『ダッ!!』
「...っぅ!」
弾丸のような頭部をしたダトツが脳天目掛けて頭突きをするが、エアバック代わりにいつも仕込んでいる背中のシゲモチさんでハガイジメを剥がし、屈んで避ける。
『キリィぃ...』
屈んで視線が低くなったところで、足元で待ち構えていた指切りが腕を形成しているシガーカットで汐留の頭部を寸断しようとする。
「!...っ...なんつぅーコンビ技...」
長い髪の毛をいくらか持ってかれながらも、シゲモチさんを緩衝材に地面を滑って後ずさり回避した。
「シゲモチさん、一度倉庫から...」
『!.....』
「っ..まさか...」
屋内戦は分が悪いと思った汐留は倉庫から出ようとするが、シゲモチさんの体積が減っているのを理解しその元凶であろう、透明のタンクの上で水タバコを吸っている召喚獣カワキガを睨む。
「ははははっ!この状況で、金髪男をいつまで守れるのカナ?」
「ずっと気になってたんですが、なんですかその髪型。何食ったらそんな髪型になるんですか」
肩で息をしながら汐留はゴーグル男のパイナップルヘアーを鼻で笑う。
「まぁ、いい...このまま封殺してオイラは西側に移って大金持ちになります、か。」
『リョぉぉ!!』
挑発に乗らずに勝利の高揚を鎮めて、ゴーグル男は卵を一つ使うふりをしてリョクエンを突進させる。
「っ....!」
単調な攻撃を前に受け流し、次の手を予測し全方向を警戒するが何も来ず、嫌な間に気を取られていると、頭上から全長5mの魚型召喚獣フミダイが呼び寄せられた。
「ふはっ、潰れろ!!管理官!!」
「....ぬっ..ツゥ」
才亮を動かす時間はなく、汐留はその場で受け止めて踏ん張る。
『りょおぅ!!』
ーーーーヒュンッ...
リョクエンにひっついていたダトツはリョクエンの膂力で回転しながら発出され、彼女の肩を貫通する。
「ぃ...っ....!!」
右肩の腱繊維を持ってかれて力が入らずとも、彼女は限られたシゲモチさんと残った左肩と左腕でフミダイを支えるが、カワキガによって室内の乾燥度が一段階上がりシゲモチさんの容量が目減りする。
『ユビィ....』
「!」
虫型召喚獣ユビナシが薄くなったシゲモチの保護越しに才亮の首を切ろうとし、汐留が彼の方へシゲモチを補修しユビナシは弾かれる。
『ビィ...ビィ....ユビィ』
「っ...ぅ」
良い所を邪魔されたユビナシは勝ち誇ったようにゆっくりと近づいて、無防備になった汐留の足をチョン切ろうとする。
「...えいっ!!」
『ビィぃぃぃ?!』
しかし、ユビナシは時雨に勢いよく蹴飛ばされて倉庫の壁にめり込んだ。
「汐留さん!一瞬だけ浮かせます。」
「っ...はい」
「せー...のっ!!....オラ"ァ"!!」
ーーーーズドンぉぉん!!
「はぁっ?!」
時雨はフミダイを一緒に支え、一瞬だけ浮かせて黒グローブに溜まっていた衝撃エネルギーをフミダイにぶつけてゴーグル男らの方へと跳ね除けた。
「汐留さん。遅れてすみません。」
「クゥさんは復帰...」
「いえ、卵のせいか酔っ払って寝てます!」
汐留は簡単な応急処置をしながら、クゥさんの復帰を期待していたが、返ってきたのは実に猫らしい状態であった。
「え....」
「ともかく、才亮さんは任せました。」
汐留が呆気に取られている中、時雨はフミダイにしどろもどろしているゴーグル男らの方へと向かって、ニヤリと笑う。
「あとは私が踏ん張ります。」
そして、黒グローブを手のひらに打ち付けて彼女の方を振り返った。
「テメェ....ちんちくりん女っ!」
「はぁ?!ひどくないですか?ちんちくりんって...ちんちくりんですよ?」
「ふふっ...えぇ」
カッコつけた後に、ゴーグル男の言い様にぶんすかしている時雨に汐留はこんな状況ながら笑みが溢れる。
「シゲモチさん、援護お願いします。」
『!』
汐留はシゲモチさんを分割して時雨の肩へと乗せる。
「あ、お願いします。...っう...卑怯なパイナップルですね...っ!」
肩に乗ってきたミニシゲモチさんに挨拶していると、時雨は不意打ちで飛んできたダトツを掴み、カワキガを掴み守っているハガイジメへと投げて撃ち落とした。
そして、彼女は汐留らを背にしてゴーグル男の方へと突き進む。
「才亮さん。私たちの後輩は、もう立派な即応科隊員です。いつもあなたに頼ってばかりなので、今回くらいは私たちが才亮さんを支えます。忘れないでください。」
ーーーー才亮さんは、一人じゃないです。
ーーーー・・なぜあなただけが生き残ったの?
ーーーー・・お前のせいだ...
ーーーー・・お前さえいなければ...
彼らの手が全身を伝い、死体の山に体が沈む。
湿気にやられ腐った葉の匂い、喉に張り付く血反吐、じっとりと首にまとわりつく返り血の体温、焼いて塞いだ傷口から漂うアイロンの匂い、ブーツの中で蠢くヒル、担ぎきれない戦友たちの屍、遺族たちの慟哭。
ーーーー・・ぁ...ない....許さない。許さない許さない許さない許さない...
断末魔に焦がれた声を背に、それら皆を背負って進み続けたからといって、許されるつもりはない。
(永遠にこの中で苦しみ続けるのが償いになるのであれば、俺は....)
全てを受け入れようとして、屍に塗れて黒い渦の中へとゆっくりと沈んでいく彼の背中に誰かが手を当てる。
ーーーー・・っ...な....く....
それはこれまでとは異なり、何を言っているのかはわからなかった。
しかし、その手に痛みはなく、ただひたすらに暖かく、小さい手、ごつごつした大きな手、しなやかで細い手となって重なりを増し彼の背中は天へと押し上げられて行く。
ーーー・・ったく、こんなところで往生すんなよ......勝馬先輩。
(...阿蘇っ..)
黒くヘドロで満ちていた空間から、さらに上へと行き、懐かしく遠い声と何かのしっぽが首を伝い、振り返ろうとしたその時黒い何かに飲み込まれてしまった。
「ーーーーー・・スゥ...ふぅ...他の召喚獣呼び寄せんとか?パイナップル」
「っ..ぅ...」
サイ型召喚獣リョクエンを銃弾のような頭蓋をした虫型召喚獣ダトツで脳天かち割った時雨はリョクエンを足場にしながら、正体の構えを取ってゴーグル男の方へと向く。
「っ...」
「....!」
そして、カワキガをハガイジメでがんじがらめにした事で倉庫内の湿度がゆっくりと戻ってきて、シゲモチの総量が回復してきたのを時雨は汐留にアイコンタクトで確認し、汐留があともう少しで復帰できるのが見えてきた。
「ふは....ふはははっ....」
「?....っ!...汐留さんっ!!」
「時間稼ぎ成功。チェックメイトです、か。」
追い詰められた悪党は投げやりの高笑いをし始めたと思ったが、フミダイの影に隠れてずっと氷柱を溜めて精錬していたユキアラシの姿が目に入り、時雨はせめて肉壁になれと汐留の方へ駆け寄って最前線で構えた。
『キィぃぃぃぃ!!』
ユキアラシの氷柱飽和攻撃は彼女らを覆うように発出された。
ーーーピピピピピピ...
「!...っぬぁ!!」
ーーーーバァぁぁんっ!!
このタイミングで黒グローブの耐久値はマックスになり、氷柱の方へと投げるが一幕だけしか相殺できず、汐留は急いで携帯槍を才亮の腰から取ろうとした。
「...っ!!」
その瞬間、氷柱は空中で静止し、彼の腰へと差し込もうとした彼女の手は大きくて暖かい手に握り返されていた。
「....よく踏ん張った。後は任せろ。」
「スゥ....全く、間に合うのが遅いですよ....」
先まで苦悶していたのが嘘のようにケロッとしている彼の様子に、汐留は張っていた気を緩めそうになる。
「悪いな...っ....動いたら、命の保証はできない。」
「っ....ぁ....あい。」
彼は彼女の頭をポンポンして、立ち上がり空中で静止する氷柱をゴーグル男へと向けて、制圧を完了させた。
「えぇ....ん、あれ...クゥさん?」
『んぁぁ.....』
時雨はあっさりと制圧した才亮に感嘆していると、ぶくぶくに太った鳥型の上で大欠伸をして体を伸ばしていたクゥさんが目に入った。
『!....んなっ....んぅ..なぁ』
すると、クゥさんは鳥型召喚獣の首元へと飛びついて噛み締めて、食い始めた。
『!!...ピィぃぃぃ....っ....』
そして、一噛みで締められた鳥型は口の中から白い何かを大量に吐き出して、みるみると萎んで行き体長1m程に収まるとボーリング玉くらいの金の卵を吐き出して骸となってしまった。
ーーーーっ....ゴロゴロゴロゴロ....
『ん..なぁ...ぁ..』
呼び寄せられていた召喚獣などはどこかへ消えていき、特大の金の卵は才亮の足元へと到達しクゥさんがその卵に頬をすりすりし始める。
「あっ...クゥさん、それ押収品ですから」
『んなぁー...なぁお...』
「クゥさんに全部持ってかれましたね。」
「....あぁ。」
時雨がクゥさんを追っかけているのを前にして、才亮らは初手王手だったクゥさんの手のひらで踊らされていた気分であった。