ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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137 大浴場の後始末

「すぅ……はぁ……」

 

 アリアンロッド・モーナは脱衣所にて呼吸を整えていた。

 

 なぜ脱衣所で戦地に赴くかのような気迫を纏っているのか。

 

 それは、彼女が焦っているからだ。

 

 幼馴染との別れからすでに五年と半年。

 師との旅で成長した彼女はかつての未成熟な身体から、豊満な乳房にくびれたウエスト、肉付きの良いヒップという正に夢のスタイルに至った。

 顔立ちも幼さが残りながらも美人で愛嬌があり、本人の朗らかな気性も相まってどこぞのお偉いさんなんかには求婚(とは名ばかりで『わしの妻になることを許す』などの発言)をされたこともしばしば。

 

 女としての魅力にも磨きがかかりこれから更に成熟し完成していく、適齢期に差し掛かりつつあり彼女は世界を救い自信満々で王都に凱旋した。幼馴染との約束を果たすために、大好きな幼馴染と結ばれるために。

 

 金はある。

 地位は師が整えてくれた。

 なら、あとはフィンを迎えにいって一緒に暮らすだけ──そう思いデートで同居を申し出たのだが、あっさりと拒否。今の生活があるからと、美女三人との同居があるから無理だと断られてアリアの脳は爆発した。

 

 脳が破壊され寝取られた(※寝ていない)ダメージでしばらくウジウジしていた彼女だったが、マリアンヌと結んだ幼馴染同盟(笑)の存在もあり、王都から遠く離れた陣地にてついに攻めることを選択しようとしていたのだ。

 守りに長けた幼馴染の堅牢な壁を越えるにはこれしかない。

 生半な攻めでは寄り付く島もないのは、他ならぬマリアンヌが証明している。

 なら自分はどうするべきか。

 この幼馴染という立場を活かしてどうにか足掻くべきではないか。

 嫌われるようなことをする気はないが、逆に言えば、嫌われないように慎重にアピールしていけば良いのだ。マイナスにはならない行為を働く、それこそが彼女ら〈幼馴染同盟〉の戦略である。

 

(ひっひっふー……ふうっ! やるっやるぞやるぞ私はやるぞっ! 裸で突撃がなんぼのもんだい! カルラさんだって一緒にお風呂入ってるのにえっちな雰囲気になってないんだから、私が堂々と入ってもなんの問題もないじゃんね!)

 

 血走った目と荒い鼻息。

 すでに衣服を脱ぎ去り裸一貫に変身したアリアに退路はない。

 フィンはカルラと風呂に入っている=フィンは風呂に入っても変な空気にならないしえっちな空気にもならず淡々とアピールすることが可能だと理解した彼女は覚悟を決めたのだ。

 

 備え付けの姿見で自分の身体をチェックしつつ、アリアは思案する。

 

(ん〜……どうやって入ればいいんだろ。気にしてない風に? それとも知らなかった感じ? たまたまフィンがいたんだ〜って感じの方がいいかなぁ。あんまりえっちな女だって思われても逆効果になりそう……)

 

 ここまで純潔を保っているフィンのことだ。

 

 きっと女を押し付けるようなアピールは好みではないだろう。

 

(やっぱりここはさりげなく。そう、まさかフィンが入ってるだなんて思わなかった〜って感じが一番だよね。そうなると、恥ずかしがって身体を隠してくのもおかしいから……ウッ)

 

 身体を見せる必要がある。

 そう悟った瞬間、アリアは呻いた。

 

(う、うごごご……い、いや、見せても恥ずかしくない身体だもん。シミひとつないしムダ毛もない! フィンだってあまりの魅力にメロメロになっちゃうかもしれないじゃん!)

 

 ぐ、と拳を握りしめた。

 

(怖気付くなアリア! 私はもう、あの頃の私じゃない! フィンに守られてばかりだったあの頃とは違う! 私は今、フィンの隣に立つために戻ってきたんだから!)

 

 そうだ。

 アリアンロッド・モーナは立ち止まることをやめるのだ。

 〈深淵の森〉で駆け回った数刻前の記憶が鮮明に脳裏に焼き付いている。

 夢にまで見た、幼馴染との共闘。

 息のあったコンビネーション。

 あの日叶わなかった光景。

 もちろん、自分たちだけの力で出来たことではない。

 周りの協力あってこそだと理解している。

 だからこそ、アリアはより強烈に胸に焼き付けられた。

 自分は、こうありたかった。

 フィンと一緒に歩んでいたかった。

 フィンと共に生きていたかった。

 とくべつな自分を肯定してくれた、置いていかないと宣言してここまで走ってきた大切な幼馴染と──そう思い直せたからこそ、アリアは勇気を振り絞ってここにいる。

 

(負けない。負けないもん! 私より魅力的な人が相手でもっ、フィンの隣だけは譲りたくない!)

 

 そうじゃなきゃ──そうでなければ。

 フィン・デビュラの人生に自分がいなくても大丈夫だなんて、信じられない。信じたくない。思いたくない。

 そんなの嘘だ。

 自分がいないとダメであって欲しい。

 アリアがいないとダメだと言って欲しい。

 私が欲しいと言って欲しい。

 私の隣がいいと言って欲しい。

 

 私は隣がいい。

 フィンは?

 

(……よし。行こう)

 

 覚悟を決めたアリアは、一歩踏み出した。

 

 今回、彼女は勇者としての能力を意図的に切っている。

 かつては制御出来ずにフィンを轢き殺しかけた〈聖剣〉の力だが、すでにアリアにとっては手足の延長線のようなもの。慣れ親しんだ力であっても外部から入力されたものである以上、オンオフできるようになったのは彼女なりに考えがあってのことだ。

 

 ──赤ちゃん抱っこするとき困るでしょ?

 

 とはいえ、街中や寝る際にも切ることはない。

 基本的につけっぱなしだが、意識があり、なおかつ自分が警戒しなくても大丈夫だと確信している時しか行わない。

 

 今回はヴァシリの築いた拠点内であることと、エルフ達が警戒を行っているということが大きい。

 

 アリシアと旅を共にしたことでエルフ、特に風の制御に長けた人物の技術が並外れたものだと理解しているから安心して背中を任せられた。

 

(フィン! 今度は私が踏み出すから待っててよ! 絶対にフィンの隣に、立って見せるから──!)

 

 そして彼女は、浴場の扉を開いた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「…………それで、フィンくんとカルラの生々しい行為、いや交尾を見たアリアが卒倒したと。そういうことね?」

「うん♡ 脱衣所で一人くねくねしてて面白かったよ♡」

「止めなさい。あんたちょっとひどいわよ?」

「見せつけられたこっちの身にもなってよ」

 

 アリーシャは無表情で呟いた。

 触らぬ神に祟りなし、アリシアは無言で矛先を変えた。

 

「…………はぁ〜〜……あのね、二人とも。何考えてるの?」

「反省はしている」

「やばいと思ったが性欲を抑えきれなかった。本当に悪いと思っている」

「おうコラ。こっち見て言いなさいよ」

 

 カルラとフィンは正座していた。

 部屋で仮眠をとっていたアリシアは交代時間にもなっていないのにアリーシャの風で呼び出され、仕方なく脱衣所でへ向かうとそこには白目を剥いてタオルを巻きつけられたアリアの姿が。

 

 その時点で既にアリーシャに説教をされていた頃から正座しており、既に二十分ほど経過している。

 

「二人とも確かにこれまで長い間そういう関係じゃないまま溜め込んでたのはわかるけど、みんなが使うお風呂で一線越えるのはダメでしょ。バレルバレないとかじゃなく常識としての話よ? この後入るのよ?」

「エッ……複数人でヤッといて今更……?」

「場の雰囲気ってのがあるでしょうが! フィンくんだって行為の一環として辱められるのと脈絡なくその辺歩いてる時に突然殴られたら困惑するでしょ?」

「ムッ……ムムウッ!」

「…………」

「姉さん、これ悦んでるよね?」

 

 エルフの二人が呆れ始めたその時だった。

 

「ウ……うああっ……う……?」

 

 アリアが呻き声と共に目を覚ます。

 

 瞬間、場を取り囲んでいた四人は素早く行動した。

 

 アリーシャは風で脱衣所どころか拠点周辺を強引に掌握し、アリシアはその補助として万が一にもヴァシリに漏れないように制御を絡め、カルラとフィンは立ち上がった。無論、既に服は着ている。

 

「あ、れ…………フィン? え、なんでみんないるの?」

「おはようアリア。記憶は定かか?」

「記憶? …………うーん……あ! お、お風呂、上がっちゃった?」

 

 ──ピリ……

 緊張が奔る。

 アリアも感じとったそれはさながら戦地のようで、かつて魔王軍と相対した時の決戦場の如き空気だった。

 

「えっ、何この空気……」

「……ええ。なんでも、フィンくんとカルラがお風呂に入ってる時にアリアが乗り込んできていきなり倒れたっていうから慌てて来たのよ。介抱してる間に二人とも着替えまでしちゃったわ」

「そっかぁ……え、私倒れたの!?」

「……記憶、ないの?」

 

 アリシアは鋭い瞳で問いかけた。

 

(え? なんでそんな厳しい目で見られてるの!? ……ア!! も、もしかしてっフィンと一緒にお風呂入ろうとしてたのがバレたとか……!?)

 

 アリアにとってアリシアは良い仲間であり良い友人であり良い庇護者でもある。

 世間知らずな部分があったとはいえアリアより二百五十歳近く年上だ。

 頼れるところも多く、彼女としては姉のように慕っている。

 当然、はしたないとか、だらしないとか、叱られたこともしばしば。

 

 アリアはアリシアに、『男の子のお風呂に入るとか何考えてるの』──そう注意されると思った。

 

 カルラに関しては東方諸国を訪れた際に混浴という文化があることを知っていたため特に口を出すこともないだろうが、アリアは別だ。明らかにフィンを目的としている以上見逃さないのではないか、そう思った彼女は、記憶を捻り出そうとして……一歩踏み出したところまでしか思い出せなかった。

 

(あ、あれー……? 思い出せない……う、うごごご……! せめてフィンの裸だけでも……! あっ、ちょっと出てきた……? かも……? いやでもこれは……子供の頃のフィンだこれ!)

 

(……この娘も大概よねぇ。覚えてないのは幸いなんだけど、どうしてここで性欲が出てくるのかしら)

 

「……ぜ、全然思い出せない……」

 

 百面相を終えたアリアは肩を落として告げた。

 

 その瞬間、四人の視線が交差する。

 

「……そう。フィンくんの裸は刺激が強すぎたかしら?」

「エッ、な、ナニのこと!? 私知らない! フィンが入ってたなんて知らなかったもん!」

「へぇ〜、ふーん……」

「本当に知らないから! だって思い出せないもん! 見たはずのフィンの裸ッ! …………あ」

 

 アリアはピシッと固まった。

 そのままゆっくりと、ギギギ、と機械仕掛けのように首を動かしてフィンを見る。

 

「……いやん、えっち」

「い、いやああああああっっ!!!!! ──…………あうっ」

「あ、倒れた」

 

 フィンがおどけてそう言った瞬間、アリアは叫び、泡を吹いて倒れた。

 

 ぶつかる前にフィンが支えたが、そのままそっと床に横たわった。

 

「……どうする?」

「……とりあえず、記憶に関しては大丈夫じゃないかしら。問い詰められても夢で誤魔化せそうだし」

「……よし。じゃあフィンくんとカルラは二人でお風呂掃除して。アリーシャは外警戒しつつアリアに服着せるの手伝ってちょうだい」

「あいわかった。迷惑かけてすまんな」

「これに懲りたら時と場所を選んですることね」

 

(……姉さんに言ったら絶対怒るからいえないけど、どう考えてもおかしくなってるよね。こんな平然と仲間の痴態を隠蔽するなんて昔の姉さんならできなかったと思う。一番染められてる♡)

 

 こうして、アリアの覚悟は犠牲となった。

 

 それ以上の覚悟に塗り潰されたのだ。

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