ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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143 深夜の訪れ

 夜。

 拠点の見張りの交代としてアリシアが出て行ったのを見送ってから、俺は一人でベッドに寝転がっていた。

 

 今日は、随分と色んなことがあった。

 闇のマリアンヌの正体が判明したり、俺が実は女神様の使徒だったり、カトリーナも同じだったり、マリアンヌは闇のマリアンヌに我が巫女と呼ばれていたり、エスペランサオフッの名前を呟いたり考えるだけで闇マリが攻撃してくるようになったり。

 

『その名前は考えないでください』

 

 闇マリが当たり前のように添い寝しながら言った。

 

 俺は別に信心深くはないが、それでも当たり前にあったもんだからなぁ。

 

 闇マリがどれだけエスペランサンフッ様アァッを嫌ってたとしても、口にもせず考えもしないってのは無理がある。だから諦めてくれ。

 

『いやです。私の使徒なのに、あんな汚物のことを口にするなんて……悍ましい……』

 

 闇マリはもっと悍ましいもの口にしてるけどね笑

 

 おぼぼぼぼぼっ!!?

 お、溺れるッ!

 溺れ死ぬっ!?

 

『溺れ死んでください、下衆使徒』

 

 おぼっぼぼっ!

 こ、これが水責め!?

 咳と、息を求める呼吸が合わさって、ゲホッゴホッ、く、苦しいッ! たまらん! カルラに一度聞いたことがあるが、なんでも東方諸国では間者を水車に括り付けて無限に回転させ拷問するとか……! まさに飴と鞭! 闇マリ、頼んだ!

 

『…………』

 

 あっ、無言で水が消えた。

 

『実際に出してるわけではなく、我が使徒の感覚を弄っただけなので』

 

 実害なく永遠に俺に責め苦を味わわせるってこと? 

 ほんと素敵だな、闇のマリアンヌ。

 それでいて俺のことを愛している。

 肉体のアリシア、魂の闇マリ。

 俺はこんな素敵なお嫁さんがもらえて本当に嬉しいよ。

 

『……ああ、こういう時に限っていないのよね、あの森人……』

 

 アリシアも暇じゃないからな。

 当たり前のように俺とエッチなことしてくれるから忘れがちだが、あの人は本来ハイエルフの王女様でアストレアよりも格が高い人だ。

 

 長女だってことに加えて世界を救った戦いにも同行してるし、本当は本人の望みとか関係ない婚姻とかしなくちゃいけない立場の人なんだ。

 

 ていうか、ここにいる面子は全員俺より格式高く圧倒的に尊い人達だ。

 

 生まれと血って意味では唯一アリアが俺と同じ。

 だがそんなアリアも世界でただ一人の【勇者】にして〈聖剣〉の担い手で、国から考えれば引く手数多の存在……ふ、ふふっ、そんな当時人々に混ざってる、唯一畜生生まれの俺ッ! ハーレム築いてる俺! 興奮するっ! ドマゾとか関係なく、男として興奮する!

 

『……でも、我が使徒はその獣性に身を任せたりはしない。どうして我慢するの?』

 

 そんなの決まってる。

 俺がそうありたいと決めたからだ。

 

 てかこの問答何回目だ?

 師匠に育てられた俺が師匠に顔向けできない真似するわけないだろ。

 ドマゾ趣味はほら、その、あくまで趣味だから。

 本当は誰にも言うつもりなかったし……アリシアが悪いよ、アリシアが。

 

『…………ま、そうよね。あんたがそんなんだからこっちもこんなんになっちゃったし、今更か』

 

 そう言って、闇のマリアンヌは仕方ないなと言いたげな表情で微笑んだ。

 

 くっ……かわいいな。

 かなりかわいい。

 やっぱり俺マリアンヌのことめちゃくちゃ好きだからさ、闇マリはマリアンヌの闇バージョンだから当然顔も姿もそっくりだ。違うのは髪色くらい。

 そんなマリアンヌそっくりの女が俺に向かってそんなベッドに添い寝して微笑んで……

 

 …………ッッッッッッ!!!?!?

 

 や、闇のマリアンヌ……

 俺は今、恐ろしい事実に気がついてしまったかもしれない……

 

『…………一応聞いてあげましょう』

 

 君の姿はマリアンヌに似ている。

 マリアンヌに似ている君が俺に添い寝している。

 これはつまり、マリアンヌが俺に添い寝しているようなものではないか……?

 

『そんなこと何度もあったではないですか、フィンさん』

 

 エッ。

 た、確かに何度かのんびりしてる時にマリアンヌが一緒に寝ることはあったが……でもあれは昼寝とかそういう奴で……エッチなのとは違うじゃん。

 

 俺はエッチな添い寝をマリアンヌにして欲しいの!

 マリアンヌにエロい目を向けるのか!?

 俺の馬鹿野郎が……!

 マリアンヌみたいな聖女にそんな目を向けていいわけねえだろッ!!

 でも俺の隣に闇のマリアンヌは寝てるし、なんならお口でキレイにしてもらったことあるよ?

 黙れ、闇の俺! 俺の心に潜む薄暗いやつめ! 貴様は人ではなく獣、畜生だ!

 マゾ、サド、大いに結構。

 だが俺はそれを取り繕えなくなった俺を侮蔑する。

 たとえ闇のマリアンヌがお掃除していようと、たとえカルラに浴場で欲情していようと、アストレアと二人で甘々ラブラブしてようと、アリーシャの容赦なさすぎる責めでちょっと肉が裂けて思わず怯えられても、決してこの獣性をマリアンヌやアリア、師匠に向けてはならんのだ……!

 

『寝取られるわよ? そんなこと言ってたら』

 

 ホゲッッッッッッホワキャッッッッッッ

 

 …………ふぅ、すまん闇マリ、もう一度頼む。

 

『きも』

 

 そんな風に闇マリとイチャイチャしている時のことだった。

 

 ──コンコン。

 

 扉がノックされる。

 その後すぐに声が響いた。

 

「……フィンさん? いらっしゃいますか?」

「……マリアンヌ? どうしたんだ、こんな夜更けに」

 

 静かに跳ね起きてベッドメイキングを高速で終わらせてから扉を開ける。

 

 そこに居たのは闇ではない本物のマリアンヌ。

 

 しかし、彼女の目元には、黒ずんだ隈がうっすらと浮かんでいた。

 

「……えへへ、ちょっと、眠れなくて。フィンさんはどうかなと思いまして」

「……俺もちょうど、女神様について考えてた。考えることは同じか?」

 

 そう告げると、彼女は困った表情でにへらと微笑んで肯定する。

 

「よろしければ、少し……お話ししませんか?」

 

 

 

 

 

 マリアンヌを招き入れ、ベッドに腰を下ろす。

 

 俺、マリアンヌ、ふわふわ頭上に浮いている闇のマリアンヌ。

 

 手元には彼女が入れたホットミルク。

 ほんのりと緊張をほぐしてから会話が始まった。

 

「……フィンさんは、女神様と付き合いが長いと仰っていましたが……」

「……そうだな。三年、いや、今となっちゃ四年になるか。や……、女神ルルクスが頭の中にやってきたのは、あの事件の後だ」

 

 つい闇のマリアンヌって言いかけちまう。

 あ、危ねぇ。

 流石に脳内闇人格云々は言えない。

 アリシアやカルラなど俺の恥部(物理的にも精神的にも)を見て受け入れた人たちはともかく、マリアンヌに闇のマリアンヌと仲良くしててさぁ! なんてことを言えるわけがない。

 

「ある日、突然声が聞こえるようになった。本当に唐突だった。何か切っ掛けがあったのかもしれないが、少なくとも俺は覚えてない。……そいつは己を名乗ることもせず、マリアンヌの声を口調を真似ていた」

「……私の…………」

「ああ。初めは俺の頭がおかしくなって頭の中に人格を作り出してしまったのかと思ったよ」

 

 冷静に考えていくら俺の頭がおかしくても闇人格など生み出すわけもない。

 あれら全て、闇のマリアンヌの仕業なのだ。

 つまりは女神が悪戯に俺の脳内に生やした何かに過ぎない。

 エッチだよね。

 

『あの、ちなみに言っておきますが、闇のカルラと闇のアストレアと闇のフィンさんは私じゃないですよ?』

 

 え?

 …………。

 ちょ、ちょっと待ってくれ。

 待て! おい闇マリ、顔逸らすな!

 

「……フィンさんはおかしくなんてありませんよ」

 

 お、おう、ありがとなマリアンヌ。

 くそっ、闇マリめ、急に気になること言いやがって……!

 じゃあなんだよ、闇のカルラと闇のアストレアと闇の俺は本当に俺の脳内闇人格なのかよ! こないだの短期は!?

 

『あれは短期で、他はフィンさんの生み出した脳内闇人格です。おそらく私が現れたことで逃げ道(・・・)を作り出したのかと』

 

 すまんマリアンヌ、俺の頭がおかしいのは事実だったみたいだ。

 

 全部闇マリの所為にしようとしてたけど普通に俺が異常だったらしい。

 

「…………フィンさん?」

「……いや、改めて仲間ってのはありがたいと思ってな……」

「……いえ。そんな、私なんて……フィンさんがそんな状況にあると、気がつくこともできなかったのに……」

「そりゃ、隠してたんだから当然だ。逆にマリアンヌの頭の中に俺が現れたら言えるか?」

「フィンさんが…………」

 

 そう聞かれたマリアンヌが考えるように天井を見つめ、ほんのりと頬を赤くする。

 

「い、いえ。言えません……」

「だろ? 隠すだろ?」

「は、はい。隠します……」

 

 そうだろうそうだろう。

 気持ち悪いって思われたら終わりだもんな。

 

『……我が巫女ながら、徹底的に勝ち筋がないわね……』

 

 闇マリは空に浮遊しながら頭に手を当ててため息を吐いた。

 

「ま、俺が我が使徒なんて呼ばれ方するようになったのはつい最近のことだ。一年前までは声しか聞こえてなかったのに頭にイメージが浮かぶようになって、半年前には現実に干渉するようになって、今じゃあ姿も見えてる。黒髪のマリアンヌの姿だよ」

「……えっ。で、でもフィンさんは女神様だって、思って、なかったんですよね……?」

「そりゃあな。幻覚だと思ってたし」

「…………そ、その。幻覚を日常的に見て、それを当たり前だと思ってたんですか……?」

「まあ……そうなるか。見えてるし聞こえてるが、俺以外の誰にも見えてないし聞こえてなかった。なら幻覚で、俺がおかしいんだと理解すればそう難しい話じゃない」

 

 マリアンヌの顔がサァッと青くなる。

 

「……ごめんな。気持ち悪いだろ、こんなの。自分の姿をした幻覚を日常的に見てる男なんて」

「い、いえ! そんな、そんなんじゃなくて……」

「……マリアンヌの姿と声をしたナニカだって、わかってた。わかってたんだけど、俺は受け入れちまった。人にも言えないことを相談できたし、俺のことをわかってくれたから。……マリアンヌの姿をした奴がさ、俺のことを、否定せずに受け入れてくれたんだ。許容してくれたんだ。満たしてくれた。ごめん。マリアンヌ、気持ち悪いだろう。本当にごめん」

 

 エッチなことまでしてもらってます。

 本当に気持ち悪いよ、俺……。

 でもこれはいつまでも隠しておけることじゃない。

 マリアンヌからすれば、自分の偽物を相手に感情を寄せている男ですと吐露されているのだ。気持ち悪くて仕方ないと思う。

 

 でも、嘘はつけない。

 俺から誠実さをとったら、何も残らない。

 

 マリアンヌは俯いた。

 

「…………俺はさ、そんな奴なんだ。これまで必死に取り繕ってきた仮面がなければ、そんな……気持ちの悪い男だ。幻滅したよな。でも安心してくれ。俺は決してマリアンヌの嫌がることはしたくない」

「……それは、…………女神様が、私の姿をしていたから、ですか?」

「いいや。マリアンヌのことが大切だからだ」

 

 闇マリは我が使徒なんて言うけど、それ以上にフィン・デビュラなんだ。

 

 師匠の弟子で、アリアの幼馴染で、【払暁】の盾役。

 

 仲間を最優先するのは当たり前だ。

 

「マリアンヌ。俺は君のことが好きだ」

「…………へっ?」

「もちろんカルラのこともアストレアのことも好きだ。俺は、【払暁】が好きなんだ」

「……あ、ああ、そういう……私もです、フィンさん」

「……君は、こんなに気持ちの悪い俺のことも、まだ好きと言ってくれるのか?」

「……はい。好きです。大好きです、フィンさん。……ふ、【払暁】も、好きです……」

 

『何日和ってんの!!!!?!?!』

 

 ウオワッ闇マリ声デカっ!?

 

『バッ……バカ娘!! 我が使徒にそんな逃げ方したらいつまでも相手されないんだから気がつきなさいよ! こ、こうなったら森人にとっとと巻き込ませるしか……!!』

 

 闇マリ?

 ちょっと今いいところだから静かにしててくれ。

 

『死ね!!』

 

 ──バキッ!!

 

「うぐっ……!!」

「フィ、フィンさん? どうしました?」

「いや……気まぐれな女神様が怒ったみたいでな。少し……」

 

 い、痛ぇ〜♡

 シンプルに殴られて気持ちいい……!

 見えないのに干渉できるってどういうことなんだろうな。女神パワー?

 

「…………フィ、フィンさんは、いつもそうだったんですか?」

「……たまにな。代償でもあるから仕方ない」

「代、償…………」

 

 闇マリのご褒美だからね。

 暴力賛成! 可決! 新たな法として、フィン・デビュラを美人がいじめる時だけ何をしてもいいことになりました! ウオオオオオッ、これが新時代だ! 俺が王になったら全世界に向けてこれを普及してみせるッ!

 

『そんな恥を晒す前に殺します』

 

 ががががあがががばばば頭がッッ割れるッッ!!

 

 ウオっ世界中の人にいじめられてるイメージ!?

 た、たまらんッッ!!!

 

「ぐううっ!」

「フィ、フィンさんっ!! 気を確かに!!」

「ハァッ、ハッ、だ、大丈夫だ。少し、頭の中にイメージが……浮かんだだけだ」

 

 そう言って、心配そうに涙目になってしまったマリアンヌの肩を優しく押す。

 

「マリアンヌ。君の信頼に俺は報いたいんだ。仲間の役に立ちたいんだ……」

「……フィン、さん……どうして、そこまで……」

 

 微笑んでから、一言告げる。

 

「俺は盾役だ。みんなを守るために出来ることがあるなら、なんだってするさ」

 

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