ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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144 月の女神ルルクスの暴威

 

 数日後、セラフィーヌとフェンナが王都へ一時帰宅した日の夕方になってから拠点に滞在する面々は集められた。

 

【星天】、【払暁】、【超滅】。

 僅か三パーティーながら世界を相手取って戦争が出来る個人戦力が結集した会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 腕を組み難しい顔をしているヴァシリ。

 眉間に皺を寄せつつ、時折ビクッと体を震わせるアリシア。

 そんな姉の様子にほのかに昏い笑顔を浮かべているアリーシャ。

 基本蚊帳の外だが最近フィンを取り巻く情勢が変化していることを嗅ぎ取っているグリセルダ。

 俯きっぱなしで表情が見えないアリア。

 

 同上、俯きっぱなしどころか髪はボサボサで明らかに不健康な顔色のマリアンヌ。

 そんなマリアンヌに声をかけて心配するカルラ。

 どうせまたフィンが何かしたんでしょうねと抱かれた経験からか謎の余裕を醸し出すアストレア。

 

 事前にヴァシリより裏ボス引いちゃったかもと報告され青白いを超えて死人に近い顔色になったアニカ。

 頭の中に響く神の無責任な愉悦に苦しめられているカトリーナ。

 一体何が起きてるのかさっぱりわからず困惑してるドレイク。

 変わらぬ無表情のミューズ。

 

 そして、腕を組み時折ピクっと身体を跳ねさせているフィン。

 

「…………さて。人も揃ったことだし、始めようか」

 

 ヴァシリが司会を務め、会議は始まった。

 

「まず、これから始める内容については他言無用、特にセラフィーヌくんとフェンナくんに対する共有を禁ずる」

「……教団に知られるのはまずい、と。異教徒認定されかねない何かがあったってことかい?」

「察しが良くて助かるよ、ドレイク」

 

 言葉の意味を読み取ったドレイクはマリアンヌに視線を送るが、それに関しては問題ないとヴァシリが告げたためそれ以上の言動は慎んだ。

 

「これまで〈深淵の森〉の調査を進めてきた攻略班だが、厄介ごとが発生してしまった。それも特大の、私の手にも余るようなことだ。今この場でどうこうする事は不可能だが、一先ず我々の中で共有せねばならないと判断した。隠し通せるようなものでもないが、だからと言って〈聖女号〉を賜っている人間においそれと教えるのは憚られる。そんな内容だ」

「……ふぅん。ヴァシリおばさんが部屋を閉じてたのはそういうこと?」

 

 アリーシャが不機嫌そうに呟く。

 

「ああ。万が一にも漏らす訳にはいかなかったんだ。君を信じていない訳じゃないが、秘密というのは知る者が増えれば増えるほどリスクが増加する。例え信じられる者であっても気軽に言えないようなことはあるだろう?」

「あー…………うん。そうだね」

「特に、アリーシャは将来的に里を背負う立場になるかもしれない。こういった事情を把握した上で腹芸を行う必要があることは理解しておいてほしい」

 

(言われてるよ、姉さん)

 

 アリーシャは無言で長姉に目線を送ったが、当の本人は知らんぷりを決め込んだ。

 

「まず、何が起きたかを簡潔に説明すると……封印されてた女神を揺り起こしてしまったんだ」

「…………女神? 女神って、エスペランサ様のことですか?」

 

 グリセルダが呟く。

 

「いいや。女神エスペランサと闘争した、月の女神とやらだ」

「…………なるほど、理解出来たよ。そりゃあ信心深い聖女様には言えないわけだ」

 

 元より様々な取引先に独自の伝手を持っているドレイク。

 当然、教団へ遺物を卸したこともある。

 信徒の大半は女神エスペランサを唯一神だと考えており、異教に染まってはいけませんよと悪意なく伝えてくることもあった。

 

「神様ねぇ……本当にいるのかい? そんな存在が」

「今では〈深淵の森〉とも呼ばれているが、かつては私の故郷があった森だ。私が生まれた時点で女神エスペランサは信奉されていたし、唯一神として扱われていた。祠の存在など知る由もなかったが、間違いなく三千年以上は昔の出来事。真実かどうかはさておき……いないと証明することはできないよ」

「……ここから先は、私が説明します」

 

 ヴァシリの言葉に誰もが口を噤んだのち、カトリーナが引き継ぐ。

 

「まず、神々のことですが……今からおよそ五千年ほど前に遡るそうです」

「…………えっと……なぜ知っているのか聞いてもいい?」

 

 グリセルダが素で困惑を示す。

 彼女もまだ二百年ちょっとしか生きていない小娘(エルフ基準)だが、只人のカトリーナが当たり前のように太古の時代に関して話を行うのは理解が及ばなかった。

 

「私の出身は魔女の里。魔女の里はかつて迫害された異教徒が女神エスペランサより姿を隠すために作られた里だそうで、里には女神様が封じられていました。光栄にも私は女神様の使徒に選ばれ、声を聞く事ができるのです」

「魔女の里……聞き覚えはないんだが、これは、疑うだけ無駄かな?」

「飲み込んでくれると、助かる」

「わかりました。話の腰を折って申し訳ない」

 

 苦笑して彼女は引き下がる。

 疑問はあるが、それに関しては自分が知らないだけだと判断。

 元より自分が世間知らずだということは理解しており、アリーシャの側近として社会にふれ成長はしたものの、世界の裏側なんてものの知識は皆無に等しい。

 

「ありがとうございます。……それで、私の女神様はテイア様といいます。大地の女神テイア。かつて太陽神エスペランサの侵略に抗った神の一柱にして、現存する僅かな女神様です」

「ふむ……なるほど。大地の女神か。今も聞こえてるんだね?」

「はい。あ、ただ、私の力が低く目と耳を共有することも出来ていないので、根本的に私の頭の中で騒ぐだけの方だと思っていただければ……あ、はいごめんなさい。いえ邪魔とかではなく……はい、はい、そうです。ごめんなさい……」

「……っ……」

 

 話の途中で急に虚な目になりブツブツと独り言を始めたカトリーナ。

 マリアンヌが顔をあげ、それを見て、悲痛な表情になった。

 

「ええと……どこまで話しましたっけ……?」

「現存する女神様のところまでかな」

「わかりました。ええっと、残りどれくらい女神様が残っているのかはわからないんですが、月の女神ルルクス様は昔から強力な神様だったみたいで。反エスペランサの旗印のように見られていたこともあるとか」

「祠に封じられちゃってたんでしょ? じゃあ負けたんだ♡」

「ちょっ……アリーシャ、しーっ! しーっ!」

「もごっ!」

 

 アリシアが焦った様子でアリーシャの口を強引に塞いだ。

 

 対面に座るフィンが何かを堪えるように脂汗を流しているが、それに気が付いたのはマリアンヌとアリシアのみだった。

 

「っ……フィンさん……!」

「フィ、フィンくんっ……!」

「…………大丈夫、何もない。話を続けてくれ……っ」

 

 マリアンヌは手をぎゅうっと握りしめた。

 爪が食い込み血が滲むほどの力で。

 アリシアは青褪めた顔でフィンを見た。

 ありえない感情が滲んできたため、何が起きているのか察したからだ。

 

 なお、そんなアリシアの反応でカルラとアストレアもまた怪訝な表情から『まさか……っ!?』と狼狽した。

 

「ひ、ヒイイッ……!! そ、そんなことまでっ……!?」

「か、カトリーナ……?」

 

 そして説明役だったカトリーナの表情は完全に血の気が引いて真っ白になっていた。

 

 瞳が揺らぎ動揺が広がり感情を抑制できていない。

 そんな、魔女のカトリーナが見せる姿にアニカは正気を取り戻した。

 自分よりおかしい状態にある人を見たからパニックが収まったのだ。

 

(ま、魔女の里が女神関係なんて知らねーよ! なんだよその情報はッ! DLC全部入り世界じゃねーかッ!!)

 

 アドバンテージ(原作知識)が泡となって崩れ落ちていく感覚。

 いや、すでに泡となって崩れ落ちていたのだ。

 ヴァシリに邂逅してもなお使えたことで「まだ行ける」と錯覚していたのが、知らない情報がワッと押し寄せてきたことで現実として落とし込まれていった。

 

(てかそれって祠の女神だろ!! DLCのボス! 詳しくは忘れたけど確か、本来の力には到底及ばないから倒せたみたいな……聖女(・・)がそんな述懐してた気が……!)

 

「……ここから先は、俺が話そう」

 

 そんな混沌とした場の中で、ぐっと歯を噛み締め何かを耐え切ったフィンが口を開く。

 

「カトリーナの説明で何に遭遇したのかは理解してもらえたと思う。俺としては彼女ともっと色々話したいが、それは今回の会議の目的とは合致しない。月の女神ルルクス様と大地の女神テイア様は別物だからな」

「……お、おう。それは、そうだけどよ……」

「彼女なりに話していなかった理由もある。どちらかといえば巻き込まれてしまったのはカトリーナだ。話してくれるようなら話してもらいたいが、それは今じゃない」

 

(デビュラ、やっぱりすげえ真面目な奴なんだよな……いい奴だし真面目でユーモアもある。正直、前世(現代日本)基準で見てもいい男だ。少なくともおれよりは……)

 

 冷静さを取り戻したアニカ。

 彼女は転生者としてのメタ視点を持ち合わせている。

 知識を得て知恵を回せれば金等級に相応しい頭脳を持っているのだ。

 

(でもまあ、やっぱこの世界の男だ。完璧な外面とかけ離れた中身があってもおかしくねーと思ってたが…………そういうことだよなぁ。特異点は、お前かぁ……)

 

 特異点。

 原作との相違点。

 蝶の羽ばたき、その終着点。

 

「……女神ルルクス。そうだと知ったのはつい最近のことだが──」

「──良い、我が使徒」

 

 部屋に重圧がひしめく。

 以前に経験していた三名は身体をぴくりと反応させただけだったが、初見の者は驚愕させる。

 

「ぐっ……」

 

 ヴァシリは苦悶の声をあげつつも堪えた。

 アリーシャは声を上げる暇もなく押し潰されそうになったが、長姉に庇われた。

 カルラは驚愕と共に戦闘体制に移行し堪え、アストレアは特に何もせず普通に平然としていた。

 アニカとドレイクは耐えきれず身体で椅子を押しつぶすように崩れた。

 

(ちょっ……闇のマリアンヌちゃん!? 明らかにこっちにだけ重たくない!?)

 

 声の主はすでに顕現している。

 フィンの背後で浮遊しつつ後ろから抱きしめている彼女は、チラッとアリシアへ視線を向けて、一瞬殺意を向けた。

 

(神のくせにめちゃくちゃ私情混じりじゃない!!!!) 

 

 二人分どころかなんらかの感情を込めて圧されているアリシアだが、なんだかんだ言いつつ耐えた。

 

「……そこまでにしてくれ」

「……ふふ。ええ、わかったわ。我が使徒は優しいものね」

「はぁ……感謝はしてるが、俺の仲間を傷つけたりしたら……」

「ええ、ええ。我が使徒の言う通りにしましょう。それが、あなたの願い(・・)ですもの」

 

 フッ、と重圧が消える。

 それと同時に息の詰まった感覚も消え失せた。

 

「フッ、フーッ、ハッ、ハァッ……!! な、んだよ、今の……!?」

「ったく、とんでもない相手だねぇ……!」

 

 アニカとドレイクが身体を震わせながら椅子に座り直す。

 

「……なるほど、これが、神か……」

 

 ヴァシリはその力を受けて冷や汗を流した。

 

「……おう、そなた、なんともなかったのか?」

「え? ええ、まあ。森の中ならともかくここなら別に……なんならそっちのも普通に防げたけど……」

「…………そうか……」

 

 カルラは隣で平然としていたアストレアにドン引きした。

 

「……ね、姉さん。大丈夫? 怪我してない?」

「っ……平気よ。アリーシャ、冗談でも煽ったりしたらダメだからね」

「う、うん。ごめんなさい……ありがと……」

 

 ぎゅ、とアリーシャは怯えた表情でアリシアの服を掴んだ。

 

 違いはあれど、ここにいるすべての者が、神という存在を認識する。

 

 月の女神ルルクス。

 DLC第一弾、滅びの神々と救世の聖女にて実装された裏ボス。

 エンドコンテンツにおける裏ボスとされ、その性能は作中最強のステータスを誇る。

 

(…………あ、れ。待てよ。そういや、この世界って多分高難易度パッチ当てられてんだよな)

 

 アニカは嫌な予感を抱いた。

 

(世界全体の難易度が上がる高難易度パッチ。それは、ボスも例外じゃねえ……いや、ボスこそが本命と言ってもいい……)

 

 女神ルルクス、マリアンヌに似た女に視線を恐る恐る向ける。

 

「……ま、外じゃこの程度か。アストレア、ちょっといいかしら」

「……え? 私? な、何よ。マリアンヌみたいな見た目して」

「あなたとカルラは特別に、親愛を込めて闇のマリアンヌと呼んでもいいわよ? それよりも、どうだった?」

「や、闇の……? どうって、何が?」

「今の力はいろんな制約の中で何事もなく収められるように手加減したわ。まだ余裕はあった?」

「まあ……そうね。別に、普通に過ごせたけど」

 

 アストレアの答えに周囲が困惑するのと同時に、ルルクスは頷く。

 

「流石は逸脱者(ハイペリオン)。後は、闇森人と勇者と、カルラ……そして、あんたね」

 

 ジロリと、アリシアを見るときだけジト目になった。

 

「ま、待ってくれ、女神ルルクス。ちょっと……情報が多すぎる」

「闇森人。喋っていいとは言ってないわ」

 

(──あ、まずい、殺……)

 

 ヴァシリの脳に鮮明に浮かぶ死のイメージ。

 

 強烈な圧を叩き込まれたヴァシリの脳が死を受け入れそうになった瞬間、フィンが口を挟んだ。

 

「おい。何をしている」

「……躾のなってない闇森人に現実を教えてあげようとしただけよ?」

「黙れ。わからないと思うか?」

 

 珍しく、言葉にすら怒りが籠っている。

 アリシアはフィンの強烈すぎる怒りと裏側にある後悔を受け取った。

 

「やめろ。俺はそれを望んでいない」

「…………はいはい。かわいい我が使徒の言うことに従うわ。命拾いしたわね、闇森人」

「師匠、すまない。俺が完全に制御できるような奴じゃないんだ」

「あ……あ、ああ。問題、ない。助かった……」

 

 自分の首を撫でながらヴァシリは呟く。

 

「……これで思い知ったかしら。言葉で説明するより先に、絶対的な力の差を教えた方が早いでしょう? 残念なことにここ()じゃあ本来の一%程度だけど、それでも逸脱者(ハイペリオン)以外を皆殺しにすることくらい訳ないの」

 

 クスクスと笑みを浮かべ、フィンの頬を撫でながらルルクスは続ける。

 

「私が神だと信じてもらえたところで……そうねぇ。一人一つずつ質問する権利をあげる。こうやって表に出ている時間は短いから出来るだけ早く簡潔にね?」

 

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