ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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145 曇らせ

 女神ルルクスを相手に、口火を開いたのはアリシアだった。

 

「……一人一つ質問と言ったわね。何が目的?」

 

 単刀直入な物言いに各々が驚愕する中、神とエルフが視線を交差する。

 

「目的。何に対しての目的を知りたいの?」

「……フィンくんに取り憑いて、何がしたいの?」

「あら、神が愛する子に寄り添うなんて当然でしょう」

「……と、とぼけないで。その言葉を信じる人間はいないわ」

 

 アリシアが目を逸らしながら念押しした。

 

(……あの、うん。本音なのはわかるけど、それ多分私以外に伝わらないわよ……)

 

「フッ……まあいいでしょう。始めに聞いてきた度胸に免じて教えてあげる」

 

 そう言って、女神ルルクスはフィンの頬を撫でながら続けた。

 

「私の目的は、邪神エスペランサを葬り去ること。そして、神々の世界を取り戻すことよ」

 

 その答えにヴァシリやアニカは顔を顰めた。

 

(女神エスペランサを邪神呼ばわりか。どちらが善悪かはさておき、我々の知る由もない事情があるのか?)

 

(じゃ、邪神……いやいや、〈深淵の森〉に封印されてる神の方がよっぽど邪神だろ……てか普通にDLCのボスだし。おれの知らないDLCでなんか追加されたのか?)

 

「……ふむ。目的は分かり申した。先程の物言いからして快調とも言い難い状態であることもわかる。では、フィンと親しげな理由をお伺いしたい」

 

 次に切り込んだのはカルラだった。

 彼女はすでに剣を納めているが、臨戦状態であることは間違いない。

 細められた瞳には烈火の如き熱が込められている。

 

「我が使徒とはなんだ? どんな役割を課しているのかを知りたいのだ。お頼み申す」

「……我が使徒は我が使徒。神に力を与えられた分霊にして、人智を超えた存在。我が使徒から得られた力は、我を通して我が巫女へも繋がっている」

「……我が巫女?」

「ええ、我が巫女よ」

 

 視線を向けられたのは、マリアンヌ。

 ビクリと身体を震わせて、彼女は己の手を見つめた。

 

「フィンさんの……力……?」

「ええ。我が使徒の持つ強烈な感情。一歩間違えれば転化して魔に堕ちるほどの憎悪に、身を焦がし焼き尽くしても足りないほどの劣等感。惨めで無様な己に対して向けられるこの感情こそが、我が巫女の力の源よ」

「……え、……ぁ、ぇ……」

「……待て。その……フィンのそれは、まことか?」

 

 目を見開き茫然とするマリアンヌを庇うようにカルラが口を挟む。

 目線の先には、アリシア。

 彼女は口を一文字に結び、顔を縦に振った。

 

「…………そう、か。フィン、そなた……」

「……あんまり暴露されると困るんだが」

「あら、別に問題ないでしょ? 今更我が使徒を切り捨てられるわけもないし」

「そうか? 俺よりいい性能をした盾役がいれば乗り換えられるだろう」

「……まあ、別にそれでいいけど」

 

(ねぇ、なんで一瞬こっち見たのかしら。どうにかしろって言いたいの? 出来るわけないでしょ!)

 

 アリシアは頬を引き攣らせた。

 

「それでカルラ、答えたけど……満足?」

「……うむ。答えていただき、感謝する」

 

 沈痛な表情でカルラは口を閉ざした。

 

(……わかってはいたことだが、……やはり、それはそれということか)

 

 フィンのドマゾの部分と、悲壮なまでの自己評価の低さは両立する。

 

 卵が先か鶏が先か。

 フィンがドマゾだから耐えられたのか。 

 フィンが耐えられなかったからドマゾになったのか。

 フィンの自己評価が低いからドマゾになったのか。

 フィンがドマゾだから自己評価が低いのか。

 

(……わからぬ。わからぬが……私にはどうすることもできん……)

 

 カルラがフィンにしてあげられることなど限られている。

 それをわかっているからこそ彼女は口を噤んだ。

 

「……じゃあ次、私」

 

 次に声を上げたのはアリア。

 

 勇者としての意識に切り替えている彼女は、フィンの真実を伝えられ動揺はしたが混乱はしなかった。この問答を終えた後にひどく落ち込むだろうが、それは今じゃないと切り替えたのだ。

 

「どうしてフィンなの? いつから? それを教えて欲しい」

 

 彼女にとってフィン・デビュラは幼い頃から共に過ごしたかけがえのない幼馴染だ。

 ヴァシリの元で育てられた二人の間には見えない絆が結ばれている。

 一人特別だからと親元から引き離されたアリアを追いかけた少年。

 勇者になったアリアと、王都で冒険者として成り上がったフィン。

 世界を救った褒美よりも何よりも、アリアはその思い出を大切に想っている。

 

 だから、身勝手だとわかっていても願ってしまう。

 

 どうか、フィンの想いでありますように。

 そこに何もありませんようにと。

 

「……今から四年前。かつての我が使徒(・・・・)に嬲られている最中、常軌を逸した感情を放出しているのを感知したから乗り換えることにしたの」

 

 ヴァシリと【払暁】の三人はハッと目を見開いた。

 

「……まさか、……あの時……?」

「ええ。あの時、フィン・デビュラは死んだ。正確には死の瀬戸際に契約(・・)したから死んではいないけど、人間として死に、肉体としても死んでいたのは間違いないわね」

 

 クスクス笑いながらルルクスが告げる。

 

「死……え、い、いや、でもあの時、フィンさんは、生きて……」

「おかしなことを言うわね、我が巫女」

「お、おかしな、こと……?」

「ふふ。内臓全て失って手足をもがれて頭部にすら損傷があったのに、人間が生きていられるわけないじゃない」

「……………………」

 

 言葉を失った。

 目の前で見ていたカルラとアストレアは、納得した。

 生きているわけがないのだ。

 普通に考えて、内臓と手足を失い大量出血した人間が生きていられるわけがない。

 だがフィンは生きていた。

 死んでいなかった。

 救援に駆けつけたセラフィーヌが口に手を当てて絶句するような状態でも、生かされていた。

 

「…………で、でも、フィンさんは、私の魔法で、なんとか、命を繋いで……」

「いいえ、いいえ。違うわ、我が巫女マリアンヌ。この子はね、あの時死んだの。死ぬような思いをしながら、苦痛に喘ぎながら、敵と自分に怨嗟の声をひたすら浴びせていた。かつての我が使徒への殺意と、役に立てない自分への殺意。命を失えばその場で魔に転化する激情を発していた。だから、私はこの子に祝福(・・)を授けたのよ」

「祝、福……」

 

 くすくす。

 

 ルルクスの嘲笑が響く。

 

「ええ。守る力を持たない愛し子に、守りたい誰かの代わりに傷付く力を授けました。我が使徒が苦痛に喘ぐほど、私と我が巫女の力は増幅する。傷付いて、苦しんで、己の無力さすら呪う。だけど決して周りに悪意は振りまかない、全て己の中で煮えたぎった憎悪を焚べ続ける。この子が我が使徒になったのはそんな、愚かしくも愛おしい出来事が原因よ」

 

 誰も何も言えなかった。

 深く関わりのない者は気軽に触れていた話題ではないため閉口し、深く関わりのある者はフィンの抱えていた闇を知り、顔を青白く染める。

 

 そんな中で一人、納得がいったと言わんばかりの表情で頷いた者がいた。

 

「……そうか。俺が死ななかったのはそのお陰だったのか。ずっと守ってくれてたんだな」

「そうよ。あなたが望む力も与えた。……あなたのことを一番(・・)理解してるのは誰だと思う?」

「エッ……ま、まあ、そりゃあ……め、女神様(・・・)かな、うん」

「そうでしょう、そうで……?」

 

 恥ずかしそうにフィンは照れながら呟く。 

 その視線は女神ルルクスへと向けられていた。

 ただし、その奥に、一人のエルフが入り込んでいる。

 

 ルルクスは上機嫌な表情から一転、怪訝な表情になった。

 

 後ろを見る。

 アリシアと目が合った。

 

「……チッッッッッ!! このッ、とことん邪魔を……!!」

「ぐうぅっ!?」

「フィンっ!?」

「ちょっ……なにするつもり!?」

 

 舌打ちと共に怒気を噴出させたルルクスが、フィンの首を握り締める。

 

 慌てて止めにかかったのはアリシア。

 顔を青ざめさせたヴァシリは動くことすらできず、アリアもまた、口元を抑えて見つめるばかりだった。

 

「ぐ……ぐ、る゛、し……ぬ……」

「ふ、ふふっ! 見なさい、担い手、闇森人! これが我が使徒よ! 死んでも死なない、死を受け入れながら拒絶する、冥界の使徒! 苦痛に喘ぎ耐えぬき己の犠牲を気にも止めない、哀れな子供!」

 

 二人は何も言えない。

 震えが止まらず、虚な瞳を目一杯見開いている。

 

 他の者もそうだ。

 アストレアとカルラは死んだ顔をしており、アリーシャは見たくないと目を瞑ってしまった。

 

 アリシアは目の前で行われている惨劇を見つめ、何を言えばいいのかわからないと言葉に詰まっている。

 

 混沌とした場も気にせず、首を握り締められ口の端から泡を拭き始めたフィンを愛おしく見つめながら彼女は続ける。

 

「──……今日はここまでね。また後日、気が向いたら時に顕現してあげるわ」

 

 女神ルルクスは手を緩め、ヒュッ、ヒューッ、と呼吸を繰り返すフィンへ唇を重ねた。

 

「それじゃあね、我が使徒。……また愛し合いましょう?」

 

 そうして、その姿を静かに消した。

 

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