会議室へ戻ると、そこにはアリアがいた。
マリアンヌとカルラ、それと師匠の姿がない。
超滅も全員いないし、アリーシャとグリセルダもいないが……どうにかしてくれと頼まれたのは二人だけ。
多分アリシアさん的にヤバいと判断したのだろうから従うが、マリアンヌの行方は気になる。
アストレアのように錯乱している可能性を考えると、突飛な行動を取りかねない。取り返しのつかないような悲劇には至ってほしくないので出来れば優先したいが……
闇マリ、マリアンヌの行方はわかる?
『我が巫女は今、カルラと共にトイレにいますよ』
……カルラが一緒なら大丈夫か?
アリシアさんも無理するなと言っていし、ここは突撃ではなく目の前にいるアリアを優先するべきだな。
と言っても、俺にできることなんてたかが知れてる。
相手に寄り添って気持ちを思いやるくらいのことしかしてやれない。
世界に反旗を翻すような特別な力はないのだから。
……あ、でも死なないのか。
死なないことで世界に逆らえるならそういう意味では力があると言った方が正しいかも知れない。死なないからこれまでより無茶できるので、アリアも強引に止められるようになったとも言える。
聖剣で切り刻まれても死なねぇんだぜこっちは!
ハッハッハ、俺とお前、どっちがより特別か勝負しよう!
『あ、打ちどころが悪いと聖剣で斬られたら普通に死にますからね』
あのさ、そういうのは早く言ってもらえる?
じゃあなんですか、先日祠でアリアの聖剣ブンブンされてた時はマジで死ぬ寸前だったってこと?
『はい。なので、ちゃんと防御してましたよ?』
ぐ、ぐううっ……!
俺より圧倒的に強い闇マリに俺の命を弄ばれてる♡
ひどいよ闇マリ、信じてたのに!
ひ、人の心とかないのか、この邪神……♡
『我が使徒にだけは言われたくないのだけれど……』
「……あ、フィン? どうしたの? 敵は? まだいるの? 私、なんでもするから言ってよ」
「アリア……!?」
な、なんでも……!?
ダメだぞアリア、お前みたいな美少女がそんなこと言ったら。
男はけだもの、俺のように理性の働く男ならば紳士的に振る舞えるが、普通の男はそうではない。アリアになんでもするなんて言われてしまったらもう終わりだ。
理性なんてねえよ。
その場で飛びつきけだものになってしまう。
俺もこの場で飛びつきたい気持ちがあるが、アリアにそんなことはしない。
大切な幼馴染にそんな裏切るような真似、できるはずもなかった。
『カルラには自慢のマラを押し付けてませんでした?』
いや、裸で風呂に入ってくる女に遠慮はいらないでしょ。
むしろめっちゃ頑張って耐えてたことを褒めて欲しい。
アリアは東方諸国の作法に染まってないから俺に裸を見せるようなことはないので、俺が暴走することもない。
まあ当たり前の話だけど、俺はアリアの家族を知ってるからね。
おじさんとおばさんのことも知ってるのに変な事できるわけなくない?
『……闇森人の罪がまた一つ増えましたね』
「ねぇ、いるんでしょ? 邪神さま、出てきてよ。今度こそ私が斬り殺してあげるから。フィンを自分のものみたいに扱って、楽しい? フィンはお前のものじゃないのに……フィンは、フィンは、わた、誰のものでもないのに……」
「……アリア、落ち着け」
「落ち着いてるよ。前もそうやってあの邪神を庇ったよね。どうして? 私は邪魔なの?」
「お前が大切だからだ」
そう答えると、アリアはポカンとした表情になった。
思考が筒抜けなこと前提で考えるが、月の女神ルルクスこと闇のマリアンヌは人智を超えた存在だ。
師匠やアストレア、アリアも人外だなと思っていたがそういう次元じゃない。
なんていうか、存在の格が違う感覚がする。
仮に俺たちが死んでもこんな風に誰かに取り憑いて死なないような力を与えるなんて芸当できないだろうが、闇のマリアンヌにとっては簡単に出来ることなのだ。
最初は俺が生み出してしまった闇人格にして罪深い生命だと思っていたが、どうやら闇のマリアンヌだけは違ったらしい。その他の俺が生み出した闇人格とは清く正しい罵られ生活を送らせていただいているものの、闇マリだけは現実に干渉してくるのだ。
闇のマリアンヌは他人の頭に棲みつき現実に干渉すら出来てしまう、文字通り神の如き力を持つ。
俺とマリアンヌ、カルラとアストレアにはなんとなく甘さが垣間見えるが、これは例外だ。闇マリなりに情を持ってくれているとしても特別扱いだと思っていい。
事実、師匠やアリアにその優しさは全く適応されてない。
それどころか本気の害意を持っている。
俺の制御を離れて好き放題できる以上、俺は二人を守るために手は尽くさなければならない。
そう、たとえこの身を差し出して、邪神様の性癖に付き合わされどんどん尊厳を凌辱されようとも……!
首を絞められ公衆の面前で失禁させられ……!
大事な会議の最中コッショリぬるりとくぽくぽされても……!
どんな責め苦にだって、耐えてみせる!
マゾバレの境目を行ったりきたりしても耐えるんだ!
『……私が言うのもなんだけど、頭大丈夫? ていうかあのね、私だって誰にでもやったりしないんだけど? 我が使徒の周りに女が多すぎて誘惑されまくってるからこうでもしないとダメだったってだけで、誰が好き好んで男の…………聞きなさいよ!』
ああ、辛いさ。
俺の力で守れたらどれだけ良かったことか。
でも、俺じゃあ闇マリを好きなように操ることなんてできない。
そもそも闇マリはやめてくれって言ったらやんなくなるし……あんまりいがみ合うこととかないし……
くうぅっ!
アリアと師匠を守るために俺が体を差し出すなんて、最高のシチュエーションだッ!
逆立ちしたって勝てない二人。
尊敬してるんだ。
大好きなんだ。
かけがえのない人達なんだ。
親であり幼馴染であり友人なんだ。
そして、俺なんかじゃ到底釣り合わない、高嶺の花なんだ。
そんな二人を、俺みたいな男が体を差し出すだけで守れるなんて……ッ!
最ッ高だ……!
盾役としても俺個人としてもめちゃくちゃ満たされる!
『…………』
おほほっいいねいいねェッ嫌そうな顔しながら攻撃されたらもう俺っ!!
「私が、大切……?」
「ああ。アリア、お前は特別で凄いやつだが……神には勝てない」
アリアの瞳が揺れる。
「俺はお前に傷ついて欲しくないんだ。これまでも、これからも……」
「…………私じゃ、役に立たないの……?」
「そうじゃない。ただ、俺なりに女神様とは折り合いを付けてるんだ」
そもそも闇マリがいなかったら俺死んでるし。
感謝こそすれど憎む理由なんかどこにもない。
闇マリの邪神っぽい部分は俺の性癖を完璧に満たしてくれるから文句なんかあろうはずもなく、外に出てきて周りを威嚇するのはいただけないが、それくらいのもの。
「アリア。お前から見れば俺はまだ未熟者で、手を差し出してやらないと不安になるのかもしれない」
「え……い、いや、そんなことは……」
「気遣わなくても平気だ。そりゃまあ、師匠やアリアから見ればまだ俺の歩みは大したことに見えるだろうけど、今は仲間もいる。全て完璧かと問われれば否で、理想的な姿でもない。それでも俺にはあるだけのモノでやっていくしかないんだ」
だから俺は闇マリも受け入れる。
いや、受け入れざるを得ないというか……少なくとも忌み嫌うことはない。
性癖が合致する云々は所詮後付けだ。
俺はもう、闇マリがいないと生きていけない。
「だからアリア。俺を、許してくれないか?」
「っっっ……!!?」
「どうか、あの時死んでしまった俺を許してほしい。アリアに追い付けなかった俺を、どうか……」
手をぎゅっと握る。
アリアは狼狽え瞳をぐらぐらと揺らした。
「……フィッ、フィンは、死んじゃったの……?」
「自覚はないがそうとしか思えない。でも、俺は俺だぞ」
この記憶も、経験も、積み上げてきた何もかも。
俺は俺のままだ。
フィン・デビュラは一筋もブレてない。
「アリアから見て俺は変わったように見えるか?」
「……ううん。フィンの、昔のフィンのまま。……あ、成長してないってわけじゃないからね? フィンのままかっこよくなったなってことだから……!」
「ありがとな。とにかく、俺はあの時力及ばず死んだ。本当なら全員死んでたんだ。それを覆せたのは他ならぬ女神様が俺を見つけてくれたからで、俺目線、とてもじゃないが憎悪や嫌悪なんて出来ないんだよ」
だからまあ、出来れば仲良くして欲しいなって思うんだ。
そんな俺の願いが通じたのか、アリアは暫く考えるように俯いた後、俺に手を握られたままギュッと口を結んだ。
「…………そう、だよね。私はそこに居なかった。フィンは死んじゃった。私達がどうこう言う権利なんてない。わかってるんだ。でも…………私も、フィンが大切だから。大切なフィンが、神に好き放題されてるのは、許せない」
「そこをなんとか……」
「それじゃあフィンは、私に男の神が宿ってて、日常的に拷問を受けてたら許せる?」
「ありとあらゆる手段でお前を救うために力を尽くすが……」
「……じゃあ私にもやらせてよ」
「お前がその男神を愛していて納得した上での関係なら何もしないが、無理矢理されてるなら放置はしておかない。そういうことだ」
純愛で寝取られとか最高だからな。
ううっ、俺が先に好きだったのに……!
そんなッ、真正面から堂々と好き合ってるなら俺が言えることなんて何もないッ! 俺が先に出会ってたのに! 俺の幼馴染なのにィッ!!
神が……憎い!
神を討つ!
これは聖戦である!
勇者を操る邪神を討つのだ!
エスペランサオアアッの加護ぞある!
「……え、あ、じゃ、じゃあ今のフィンは、もしかしてッ、その邪神のことが好き……ってこと!?」
「え? あ、ああ。まあ好きか嫌いかで言えば好きだが……」
「あ、あがッ、あがががっ……!! の、脳が壊れるぅ! いやあああっ!!」
「!?」
な、なんだ!?
アリアが急に悶え始めて……闇のマリアンヌッ、これは一体……!?
『いいですか、我が使徒。寝取りと寝取られは、許しません』
エッなに急に!?
闇マリまでおかしくなったのか?
寝取り妄想も寝取られ妄想も俺に何度も浴びせてきたのに今更言う?
『効くどころか喜んでただけじゃないの……! こっちは攻撃のつもりだったのに……!』
またまた、ご冗談を。
寝取り寝取られが嫌いなのにマリアンヌの身体で俺とえっちなことするとかありえないでしょ。
『ッッッッ……!! だっ、黙りなさいッ!!』
「があああぁぁッ!!」
「ふぃ、フィンッ!?」
「へ、平気だ、これくらいッ……」
「うっ……や、やっぱり放置しておけない! ここで斬るッ!」
「やめろアリアッ!」
「ひゃあっ!?」
うごごごごあがががが!
やばいッ、聖撃撃たれた時と同じくらい痛い!
頭かち割れるッ!
お、思わずアリアを抱きしめてしまった。
やわらけぇ……これが、幼馴染の感触……むほっ。
『きも』
いきなり!?
「ふぅっ、ふっ、ふうー……平気だ、な?」
「う、うううぅぅ……どこが平気なのぉ……」
アリアはついに泣き出してしまった。
「ふぃ、フィンン……ごめん、ごめんね、私が一緒にいれば、置いてって、ごめんねぇ……」
「俺の方こそ、弱くて悪かった」
「そんなこと言わないでよおおぉ……!」
ぽんぽんと背中を優しく撫でる。
ぎゅううとアリアが力を強めた。
う゛っ!
く、苦しい……!
だが、俺も男だ。
幼馴染を励まして抱き締め合ってる、こんな状況で苦しいとか、そんな野暮なことは言わん。
ここでこそ、さっき闇マリに導かれた力を使う時だ!
呼吸が出来なくても意識を保てる!
安心しろアリア、俺は聖剣の力にだって耐えて見せる……!
『そ、そうだけど、そうじゃない……! もうっ! 本当に思い通りにならないんだからっ!』