良く見知った顔たちが、おれを、置いていく。あの子も、おれを置いて行って……自分だけが、海の底へと引きずり込まれていく。
――嫌だ!
重い重い水の中、もがき、足掻き、手を伸ばす。必死に、必死に、上へ、上へ。
その手を、誰かが掴み取っては、ぐいと水面まで引き上げた。
「っ、は…ぁッ…!」
ようやく息ができる様になって、肺に酸素を送り込む。ぜえ、ぜえ、と切れる息の中、未だぐらぐらとする頭を支えて前を見れば、そこに広がっていたのは、故郷のぼやけた海岸線であった。
試験は、どうなった?
そんな疑問のもと、左腕を見てみても、デュエルディスクはない。靄のかかる海岸線、果ては見えず、薄暗く。…そういえば、誰かに助けてもらった様な…気がするんだけど。あたりを見ても、誰もいない。
ざあ、ざあ、と。細波が寄せては返す。そうか、これは、夢か。夢、眠ってもいないはずなのに、夢を見るなんて。でも、戻らなくては。今度こそ、置いていかれないために、歩き始めるために。
からん。
からり。
ふと、不思議な楽器の音がした。懐かしい様な、新しい様な。朋克は霧の中を、音に導かれる様に歩く。さくさくと、砂浜に足跡が残る。夏の風物詩、海の霧。ずぶ濡れの体に、ひんやりと纏わる。
からり。
からん。
深くなっていく霧の奥。辿り着いたのは、実家だった。ここから離れた今になって思えば、結構大きな家だったんだな。ガラリと門を開けて、ガチャリと扉を開けて、トントンと階段を登り、あぁ、たった1年しか離れていないのに、懐かしい…自分の部屋の襖の前に、立つ。
『よう』、と。突然、襖の奥から、聞いたことのない男の声がした。知らない誰かが、自分の部屋にいる。けれど、不快感はない。この気配は、感じたことがある。夜に、見守ってくれていた、あの気配だ。
『ふむ、目が覚めた様だな』。穏やかな、けれど力強い声は、責めるでもなく、呆れるでもなく、褒めるでもなく。
『お前は、このくだらねぇ檻をぶち壊したいんだろ?』。…随分と、荒っぽい言い方をする。でも、その通りだ。いつまで経っても、幻に怯えてばかりの自分が、嫌で。
『なら、ここを開けてくれよ。幻だって、怖いばかりじゃないんだ』。微笑むかの様に、愉快そうに。声はあくまでも、こちらが扉を開けるのを、待っている。
襖に手をかける。す、っと。横に動かせば、その小さな隙間から、鮮やかなネオンカラーの波が、雅なるいにしえの旋律が、溢れ出した。
……さあ、俺たちを喚べ。