無機質な声が告げた決着の宣言に、試験会場は大きく沸きあがった。歓声、悲鳴、悲喜こもごもの感情が混ざりあい、けれどその中心…黒い霧に覆われた受験生、海霧朋克は長い長い息を吐いた。決着まで、5ターン……短いはずなのにやたらと長く感じたのは、やはり自分の恐怖のせいか。
でも、勝った。勝てた。
その喜びが、じわり、じわりと、足元から湧き上がってきた。胸の高鳴りが、心地よいと感じたのは、いつぶりだろう。
ソリッドビジョンがデフォルト状態に戻るその最中、ひとりだけ残った《娑楽斎》が、その巨大な筆を肩にのせて、歩いてくる。手が届くほど近くまでやってきた彼は、片手をあげて、つい、その仕草を真似た。
『やったな』
無音でありながらも、ひらり言の葉をこぼした唇。ハイタッチをするかのように、彼はその大きな手でそうっと朋克の掌に触れ、そして幻としてかき消えていった。
「トモ! やったなぁ!」
後ろから、ひときわ大きな声で名を呼ぶ友の声。振り返れば、大手を振ってにっこり笑っているアニマと、サムズアップしている核唯と、腕を組んで少しだけ微笑んでいるトバル…と。背を向けて、離れていく背中。あれは。
「……千寿…?」
ふと、追いかけようとした。が、採点と結果がまだだ。告げられるまで、ここを離れられない。……と、いうか……。
講師を見る。ハンカチをギリギリと噛みしめて、如何にも悔しそうにして……。……これ、どうあがいてもダメなんじゃ、と思っていたのもつかの間。あちら側のコートのそばで観戦していた別の教師が、講師にいくつかの事実を告げた。
まず、今回のデュエルは勝ち負けに問わず、如何にデュエルに習熟しているのかをみるものであること。勝手に採点基準を変えられては困る、と。第二に、優先権の管理といった厳密なことよりも、デュエルの楽しさを伝えるための授業であったはずなのに、あんな戦略はそれこそマナー違反である、ということ。第三に、このデュエルシステムは最新のものではあるが試験運用も兼ねており、本来は不可能なはずなのにデュエルが進行する不具合が多々みられる……《死霊ゾーマ》は、攻撃表示では特殊召喚できない。そんなルール違反を、講師は起こしていた、と。
「ごほん、最後に。試験中に生徒の成績を盾にして、自分だけが有利な立ち回りを行うなど、教師として言語道断。何を思ってそのデッキを試験用に持ち込んだのかは知りませんが、今回の悪用の件をみてひとまず預からせていただきます。……詳しい処分は、追ってお伝えします。今日はもう帰りなさい」
背のピンと伸びた校長の、冷酷な宣言。講師は持ち込んだデッキを没収され、とぼとぼと帰っていった。
「……さて、受験番号151番。海霧朋克くん」
「は…はい」
「《ゾーマ》の件や、君にも途中で出たでしょう、エラーなど…システムの不具合もあり、今回の自動採点では信用に欠けます。そのため、手ずから採点する時間をいただきたい。それと、今回の試験、持ち込むデッキは教師個々人の裁量に任せていましたが…まさか【ジャッジキル】を持ち込むとは。このような暴走を引き起こしてしまって申し訳なかった。……それと。お腹が空いたでしょう。もう夕食時になりますので、今日は解散といたします」
「…おれ、じゃない…私の、合否は?」
「ううむ、確かに。君だけ合否が分からないというのも、ドキドキして休むに休めないでしょうか。……ですが、ハンデスやロックにうまく対処した部分、最後まで諦めなかった姿勢、それに…気に入ったカードに出会ったのでしょう。……ふむ、では。校長の権限により。…合格ですよ、海霧くん」