「なあ、どうしておれ達は話ができるんだろう。他の奴らって、こうして話したりしてるのかな。それとも、おれ達だけなのかなって」。薄靄に包まれた夢中の海辺にて、朋克は己がカードたちに問いかけた。ひとりは幻を描く浮世絵師《娑楽斎》、ひとりは古の雅を奏でる雅楽師《ワゴン》。ふたりは顔を見合わせてしばらく考え込んだり、首をかしげたが、けれど肩をすくめた。『やぁ、俺たちにもわかんねぇや。強いて言うなら、俺たちはサイキックだってことくらい?』、と。
「…サイキックだと、何か特別なの?」。朋克は問いかけた。ふたりはさらに顔を見合わせたが、次に口を開いたのは《ワゴン》だった。『サイキック…超能力…神通力というのは、往々にして不可思議を引き起こすものです。実のところ、私たちにも詳しいことはわからないのですよ。気が付けばここ――君の世界…それとも、君の心の世界でしょうか? さておき、ともかくここに居て、君の手の中にカードとしてあり、そして夢の中でなら話すことができた。それが神通力によるものなのか、はたまた別の力によるものなのかは、未だ』、と。
朋克は頭を抱えた。それじゃあ、自分の悩みは何も解決しないじゃないか。せっかくいい人たちなのだ、仲間に自慢してやろうと思っていたのに。…そんな思いよりも、まだまだ積みあがっている疑問が、どんどんと口から飛び出ていった。
「まだここに居ない仲間って、どんな人?」。すると今度は、《娑楽斎》が笑って答えた。『俺は浮世絵師。《ワゴン》は雅楽師。《スパイダー》は人形師。…そして最後のひとりは、能楽師の《セアミン》ってやつだ。お前くらい小さい奴で…俺たちの中で一番腕っぷしが強い。可愛い奴だが、頼りになる。…ま、そのうちアイツも来るだろ』。すると、朋克は目を見開いた。「かわいい?」、と訊ねれば、《ワゴン》も笑った。『あぁ。実に愛らしい。いじらしい、とも言うか。なに、君が今の調子で頑張っていれば、自ずと向こうから来るはずですよ』、と。
……かわいい、かわいんだ…。朋克は少し、胸を躍らせた。どんな人なんだろう、と。でも、こうも思った。体がバキバキに仕上がっている《娑楽斎》、長身で華やかで美しい《ワゴン》、そして全てを黒で覆い隠している《スパイダー》と並んで立てる、かわいい…能楽師…? …朋克には、全く想像ができなかった。それは、楽しみにしておくとして。
「向こう、ってことは、もともと居た場所があるの?」。さらなる疑問をぶつければ、ふたりは迷いなく頷いた。『そのはずだ。鮮明に覚えているぜ。天空に浮かぶ、最新鋭の技術都市…俺たちはそこで一夜にして名を馳せた、超~人気のアーティストなんだ』、と。……それは…なんだかすごい人たちを呼び出してしまったような、そんな気もする。けれど、《娑楽斎》の筆遣いは大胆ながらも緻密で、《ワゴン》の演奏は野蛮ながらも繊細で、とても練習を積んでいないような素人にできるものではないと、朋克は感じていた。それに、彼らの装備というか、衣装というか。恰好を見ていれば、相当に技術力が高いというのも説得力がある。なにせ、《娑楽斎》の体ほどもある筆は、ひとりでに浮かび上がっているし、ホログラムは勝手に動いてまるで生きているかのようだし。
突如として、黒に視界が埋め尽くされた。黒に灯った青白い光が、じいっと、こちらを覗き込んできていて。「うわっ!?」。咄嗟に仰け反れば、そこに居たのは《スパイダー》だった。無言で、ただただ、じいっと。『この間、呼ばれなかったこと、悔しかったんだってさ』。《娑楽斎》がそう言えば、《スパイダー》は頷いた。けれど、何を言うでもなく、じぃっと。
「…ごめん。でもあの時は、《娑楽斎》を2体呼び出さないと、攻撃力が足りなかったんだ」。朋克がつい謝罪を口にすれば、けれど《スパイダー》は頷いて、そっと離れては、《ワゴン》の背中にすっと隠れていった。
「…なんだか、不思議な人だね」。朋克が言えば、ふたりは笑う。『悪い、ちょいと人見知りでな。なに、次にゃぁ出番あるって。俺からも言っておく』。
そんなこんなで話をしていると、薄靄の向こうに、陽が昇り始める。目覚めの合図だ。『ほら、今日こそちゃあんと起きろよ寝坊助』。「起きるよ、大丈夫だって」。『私たちはいつでも、側にいますからね』。
手を振る影が、乱反射する光に包まれて、薄れていく。真っ白になって、真っ黒になって…。
ふ、と目を覚ますと、目の前にはいつものように、アニマが起こしてくれていた。おはよう、と言えば、おはよう、と。
…全く、不思議な夢だ。夢としてだったら、話してもいいのかな。…いや、自分の持ってるカードと話するって…子供の妄想じゃあるまいし。朋克はまだ、自分だけの秘密にしておくことにした。