『スーツ』と『デッキ』と『未来予想図』   作:河童の皿箱

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第1章:『バンド』と『学校』と『仲間たち』
01


 みなさん。大人になったら、何になりたいですか? 校長の問いかけは、実によくある問であった。小中高一貫の全校生徒が一堂に会し、或いは舟をこぎ、或いはシャンと背を伸ばし、或いは今日の昼食は何だったかと思いを巡らす。けれども壇上の校長は、その長話を続けた。

 みなさん、それぞれに夢があることでしょう。今年、入学した皆さんも、進学した皆さんも、これからは自分が何者なのか、何者になるべきなのかを、よく考えて行動をしていただきたいと思います。――そんなことは、分かり切っていて。少年、海霧朋克はあくびをこぼした。

 

 幼いころから大人たちは、繰り返し繰り返し、お前は誰なんだと訊ねてきた。それに納得のいく答えは、返せたためしがない。

 本当に、大人になったら、何者かになれるのだろうか。スーツを着込んで、革靴を履いて、ヘコヘコ媚び諂って、自分を殺す。もしくはあの先生みたいに、未来ある人間を叩き潰すことばかりに専念するようになるのだろうか。

 

 ――嫌だなぁ。

 

 少年は思い描いた未来と、今を比較した。仲間とバンドして、デュエルしてる今の方が、楽しいに決まってる。でも、否応なしに時は過ぎて、何時かは大人になってしまう。それに…ちらり、隣を見た。意外と真面目に聞いているアニマと、遥か遠くを見ている核唯、腕を組んで寝ているトバル。…彼らは今、一体何を考えているんだろう。これからもずっと、友達でいてくれるのかな。…居てくれるよね?

 

 少年は、まだまだ続く大人の自己満足に、不意に抱いた曖昧な展望に、またあくびをこぼした。

 

 

 

 桜舞い散る並木道。山の上に作られたこの学園には、名所もかくや、良く手入れされた桜が植えられていて、新入生も、進学生も、あちこちのベンチを陣取っては花見に臨む。昼食にと配られた焼肉弁当はどこを向いても好評で、これからの一年の景気づけには持ってこいであった。

 さて、けれども今日は、さらなる景気づけが待っている。始業式と昼食を終えれば、新歓ライブの会場であるデュエルホールには、続々とたくさんの学生たちが詰め寄ってきていた。吹奏楽部たちが楽器を携えて席を整える中、バックヤードこと備品倉庫には出演者が集い…そして、一年にして伝説を築いたインストゥルメンタルバンド、グロウル・スピリッツの姿もまた、そこにあった。最終調整が進む部屋の中、進級したばかりの4人は互いに顔を突き合わせ、取り出したのは、散々書き直された楽譜と、それをもとに整理した楽譜。なんとか間に合ったそれを朋克は配り、3人はじっくりと、目を通した。

 

 

 

 …時は戻り、進級直前の春休み。グロウル・スピリッツが自室で模様替えをしていた時のことであった。インターホンが鳴らされたと扉を開ければ、そこに居たのは吹奏楽部長――音揃イロハであった。「…おい、ここは男子寮だぞ。なんでここまで追って来てんだ? 先輩」と核唯がため息をつけば、けれど彼女は一切引くこともなく、「んっふっふ~…ここがあのグロウル・スピリッツの本拠地ってわけね…。……? …んまぁ、安心しなよ。アタシは生徒会の代理だから」、と。

 奥に組み立て途中の電子ドラムセットを見て怪訝な顔をしたが、イロハはけれど背を伸ばして胸を張った。生徒会…と聞けば、朋克の脳裏に浮かんだのは、幼馴染の顔であった。…ともかく、突如襲撃してきた吹奏楽部首位をなんとかしなくてはならぬ。長身なトバルが睨もうが何だろうが、「あぁー、イケメン…まさにここはイケメンパラダイスだわ…」とか何とか言って、一切効いていない。「それで、用事って?」、後ろから掻き分けてアニマが訊ねれば、そうだったそうだった、と、懐のバインダーから取り出したのは、一枚の書類。

 「新歓、出るでしょ?」、なんて、もう答えは決まっているかのように問いかけては、責任者のアニマに手渡した。「あー…あったなそんなん」。アニマはざっと目を通しては、メンバーたちもまた、共に覗き込んだ。とはいっても、参加意思の確認と、使用機材、必要な搬入やれ、楽曲やれ所要時間やれを書け、とそれだけのものだ。締め切りはまだまだ先だが、「早めに出してくれたら、こっちも調整利かせられるから」、と。

 「あっ、それと…千寿からもうひとつ。昨年度からデュエル教育に力を入れてるってのは知ってると思うけど…あなたたちにもデュエルをしてほしいんだって。カンタイルが輩出した大人気バンドのデュエル…しかも、大会常連のデュエルも見れるとあらば、きっと大きな宣伝材料にもなると思うのよ。せっかくでっかいデュエルホールがあるんだし、考えてみて」。

 それだけ言って、彼女はあっさり引き下がっていった。サラリたなびく青髪に、淑やかなるモデルウォークに、寮の男たちがメロメロになる光景を、そしてたった今用事があったにもかかわらず、ひどく恨めしそうな目が向くのをよそに、扉を閉めた。

 

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