アニマは寮の男子陣から、仲間たちの行方を聞き出しては、あっちへいったり、こっちへ行ったり。けれど、朋克も核唯も見つからなくて。困って寮まで戻って来ると、なにやらニヤニヤニタニタしてて。ははぁ、なるほど。嘘を吐かれたのか。アニマの直感はそう語りかけていた。あまり悲観をするものでもないけれど、小さい頃からのそれはどうにも染みついて抜けることはなかった。
かれこれ2時間うろついて、ようやく見つけた朋克は、珍しくがらんどうのデュエルホールに居た。朋克は貸し出しのデュエルディスクを用いてはソリッドビジョンシステムを起動させ、あぁ、あの姿は。大きな筆を持つ絵師と、数多の楽器を従える雅楽師と、人形を携えた人形師と。【P.U.N.K.】のモンスター、というよりも、メンバー? に、朋克は囲まれていた。けれど、どうにも様子がおかしくて。
朋克の両脇に、《娑楽斎》と《ワゴン》が立ち、朋克の背をそっと支えているようにも見える。…ソリッドビジョンなのに? アニマが疑問を抱くのをよそに、正面には《スパイダー》の人形が立つ。何をしているのかと眺めていると、その口を大きく割いて、持ち主たる朋克に目と牙を剥いた。朋克が悲鳴を上げるのを見れば、アニマは駆け出してしまった。
咄嗟に退く《娑楽斎》と《ワゴン》、そして、人形の顔をもとに戻す《スパイダー》。互いに顔を見合わせるのも知らず、仰け反ったまま動かない朋克の肩をアニマは思わず掴みかかって、「おい、おい!」と揺さぶれば、けれど朋克もまたハッとして、アニマを押しのけた。
「アニマ…」。朋克は口を開いた。その言葉の続きを待とうが待とうが、続かず閉じて。アニマはふうと息を吐き、「探したんだぜ?」と、それだけ。押し黙る朋克がたっぷりと時間をかけて、小さくつぶやいた「ごめん」に、アニマは笑った。「何にも悪くないって。ただ…えーっと…」。けれどアニマもまた、次の言葉に詰まってしまった。
話には聞いたことがある。世の中には、ソリッドビジョンに対して恐怖を抱く人が居るということを。けれど、こいつの性格からして、あんまり言及するのも良くないし。ってか、勝手に人をそういうの扱いするのって、そもそも失礼だし。アニマは内心、焦っていた。何をどこから切り出せばいいのか。恐怖症なんじゃないかって思いこみだけで、突っ走ってしまったし。
互いに押し黙っていると、ふと、ふたりの隙間に黒い手袋が挟まっては、ひらりひらりと視線を誘った。思わずそちらに目を向けると、《娑楽斎》が不敵な顔をして笑っている。…さっきから、なんか…まるで人格があるみたいに動いてる…ような? アニマの目が向いたとわかったのか、《娑楽斎》はアニマの腰のデッキケースを指さした。
「ちょ、ちょっと《娑楽斎》!」。朋克もまた、《娑楽斎》が何を企んでいるのか、皆目見当がつかなかった。でも、なんでだろう。悪い予感はしなくって。アニマはなんとなく、彼のしぐさの通りにデッキを取り出してみれば、《娑楽斎》は左腕を前に構えては、右手の指先でちょんと、左腕に触れた。それから、デュエル準備室を指さして、次には朋克の腕につけたデュエルディスクを指さした。
たぶん、ディスクを取って来いってことだと思うけれど…。そんな視線を交わしてから、アニマはディスクを装着し、展開して見せた。すると《娑楽斎》は、今度はファイティングポーズをとっては、口をツンと尖らせてみせた。…戦えって? いや、ええと、なんだか見覚えのある構え方…。
アニマははっとしては、デッキの一番上に置いたカードを見た。《娑楽斎》は確かに、《ファイア》のポーズをとっている。それに気づけば、《娑楽斎》は嬉しそうに笑って、また左腕の上に、右手の指をチョンと置いた。…ソリッドビジョンって、ここまでできるんだったっけ? デュエルしているときにしか使わないから、知らなかった…それに、《ファイア》を召喚しろって? なんで? アニマの中にはいくつもの疑問が渦を巻いていたが、けれど《娑楽斎》は待ちかねるようで、隣の《ワゴン》は苦笑をしながらも、頼むこむように両手を合わせていた。
アニマは、また朋克をちら、と見た。けれど朋克もまた、困惑しているようで、こちらをちら、と見ていた。…まあ、でも、やってみよう。アニマはデュエルディスクに、《ファイア》と《Gボーイ》を攻撃表示で置いてみる。
即座にシステムが《ファイア》と《Gボーイ》の姿を投影し、《娑楽斎》は飛んで喜んでは、《ファイア》に手を挙げて近づいていった。そして《ファイア》もまた、満面の笑みでハイタッチ。すぐ近くの《Gボーイ》が眼鏡を直して周りを見るあいだにも、《娑楽斎》は膝をついて《Gボーイ》の前で両手のひらを差し出し…《Gボーイ》も控えめにハイタッチ。すると彼らは、会話をし始めた。けれど、何故かドラゴンの声やれ、悪魔の声やれが再生されて、彼らは耳を塞いでは、《娑楽斎》はこりゃダメだとばかりに手を振った。…おそらくは、彼らの声がシステムに存在しないから? いや、でも、それよりも。
「…もしかして《ファイア》と《娑楽斎》って…知り合い?」。アニマはつい、そんなことをこぼしたが、けれど振り向いた《娑楽斎》と《ファイア》は互いに肩を組んでピースサイン。並んだピンクと赤のサングラス、並んだムキムキマッスル。見るに、本当に知り合いなんだろうけど。側の《ワゴン》と《Gボーイ》もまた、笑っていた。
「あー…よくわかんないけど、嬉しいんなら、良かった」。アニマは自分と朋克のディスクをじっと見つめた。デュエルの時と同じように、カードが乗って、投影されて。それだけなのに、そこに人が居るかのようで。
「…おれ、ここに、話をしに来たんだ。あの人たちと。…変、だよな」。彼らの戯れ、或いは再会の喜びを眺めていると、朋克はそうつぶやいた。「なあ、アニマ。おれ、ずっとデュエルしてなかったから知らなかった。ソリッドビジョンって、なんか…すごいんだな」。けれどアニマもまた頷いた。「…いや、オレも…知らなかった。こんな機能、あったんだなって……」
《Gボーイ》と遊ぶように《娑楽斎》は筆を執り、《ワゴン》は楽器を手に取った。…どうやら、投影や楽器の音は、データがあるようだった。…あれ? でも、これだったら…。
「あっ! 良いこと思いついた!」。アニマが大きな声を挙げれば、この場の6人の目が一斉に、アニマへと向いた。