『スーツ』と『デッキ』と『未来予想図』   作:河童の皿箱

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 結果から言おう。アニマの『良いこと』は失敗に終わった。黒い霧に描かれた、光り輝く筆跡は、残念ながら朋克やアニマには判読できるものではなかった。長い時間をかければ、《娑楽斎》の書いたその文字が読めるようになるのかもしれない。長い時間をかければ、《娑楽斎》達にこちらの文字を教えることができるかもしれない…が、いつまでやればできるようになるのかも分からない以上、そこまでする気は残念ながら起きなかった。企みが外れてしょげるアニマに、《ファイア》が背を叩…こうとして、やはりすり抜ける。ソリッドビジョンであることに変わりはない。しかし、不可思議な気分であった。こうして、自分のカードとコミュニケーションが取れる、というのは。今の今まで、デュエル以外で使ってみようなんて発想、無かったものだから。これは学園の最新鋭だから出来ることなのか、それとも他の物でもできたのか…。

 アニマが頭をグルグル回すその最中、首をひねって、じっくり見て、そんな様子に、朋克は噴出した。「変なの」、と。アニマは突拍子もないその言葉にむっとしたが、けれど朋克は弁明した。「あぁ、違う。アニマが変なんじゃなくて、今起きてるこれが」。…それは、その通り。思い立ってカードを外そうとすると、《ファイア》も《Gボーイ》も、《娑楽斎》にしがみついて名残惜しそうに抵抗を示したので、やめた。まさかいっかい消えると同じ個体じゃなくなるのか…何て問いかければ、《娑楽斎》は首を横に振った。からかうように《ファイア》を指さして笑えば、《ファイア》は怒ったように《娑楽斎》を追いかけまわし、《ワゴン》と《Gボーイ》はまた苦笑をこぼしていた。…単純に友達と遊んでいたいだけらしい。

 

 …何て愉快な人たちなんだ。そういうふうに動くように、プログラムされているのか? アニマは朋克とこの現象について討論したが、少なくともここに居るのは、ちょっと音楽が得意で、本を読むのが好きな高校生ふたり。プログラムの知識なんて、これっぽっちもありはしなくて。考えても、考えても、答えは出そうにない。けれど、この不可思議なアニメーションは、話題に困っていたアニマにとって、朋克にとって、話のタネにはなった。それは間違いない。

 「なあ、トモ。さっき、話に来たって言ってたけど」。アニマが問えば、朋克は俯き、けれど答える。「うん。あー…おれ、ああいうふうに、自分が関わっているんじゃなければ大丈夫なんだけど…ガーっ! って…喰われそうになると、さ。ソリッドビジョンってほら……すごいリアルだろ? だから、あー……」。言葉尻を濁しては、落ち着きなく。けれど、アニマはじっと、朋克の言葉に耳を傾け続ける。「……まあ、だから。《スパイダー》に頼んで、ちょっと、ビックリさせてもらってたんだ。…知ってるか? 浄瑠璃人形って、おっかない顔するんだよ。ただ……やっぱ、ちょっと……苦手、で……でも、皆とのデュエルは、したいって思ってる。おれが慣れれば…大丈夫だと思うから。もうちょっとだけ、時間が欲しいんだ」。そう言って、彼は自分のデッキを、じっと見つめていた。

 …なるほど。それなら、彼の言うとおりにしよう。デュエルはやりたいと思っている。それが分かっただけで十分だ。この件をこれ以上掘り下げるのは、きっと良くない。「わかった。ごめんな、時間が欲しいって言ってたのに、追っかけちまって」。アニマが口にすれば、朋克は首を横に振った。「ううん、こっちこそごめん。何にも言わずに……」。「気にすんなって! そんじゃ、また後でな!」。

 

 ディスクからカードを片づける。遊んでいた《ファイア》と《Gボーイ》はP.U.N.K.のメンバーに手を振って搔き消えれば、アニマは朋克を残してデュエルホールを立ち去った。…さて、残るは核唯だ。あっちはあっちでまた、別の事情を抱えていそうな予感はある。

 

 思い出してみればこの一年間、バンドとデッキの話しか、してこなかったな。プライベートにあんまり踏み込むのも、良くないのはわかってるし。

 

 …こっちも、踏み込まれたくないことは、あるし。

 

 

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