アニマはまた、学園内を駆けずり回っては、核唯を探した。けれど、学園内でも力のあるプレイグループのところに顔を出そうが、楽器が置いてある準備室を覗こうが、買い食いでもしているのかと購買に足を向けようが、探している姿は見つからなかった。すっかり日も傾いて、今日は諦めるかと部屋に戻ろうとした時、駅周辺まで走るシャトルバスが戻ってきているのが見えた。夕食の時間に間に合うようにと混みあっているだろうバスから流れ出る行列をぼんやり眺めていれば、アニマははっとして駆け出した。あいつ、外の店に行ってやがったのか、と。
何とかバス停までやってくれば、散り散りの学生たちの奥に、鞄を持った核唯が居た。「おい、おい! 核唯! やぁっと見つけた、探したんだぞ」と、乱れる息を整える。けれど向こうは面食らったような顔をしていて、「どうしたんだ、アニマ」と。「どうもこうもねぇよ。なんか、ほら。朝のアレ…タッグデュエルの」。そこまで口にすれば、核唯は頷き、「そうだな」と。…なんというか、こっちと向こうの空気が噛み合ってない、ような。大きく息を吸って、吐き出す。もう一度吸って、吐き出す。改めて背筋を伸ばして、問いかけた。「…もしかしてだけどさ。タッグデュエル、嫌か?」と。その問いかけに、核唯は僅かに俯いた。口が半開きになって、けれどまた閉じて。「……タッグデュエルが、嫌なわけじゃあない」と、ぼそり。
「でも丁度いいとも思っていた。…アニマ、時間あるか。相談したいことがある」と、核唯は真っすぐに、アニマを見つめた。けれどもそこに、ぐぅと。腹の音が割って入った。それがどちらのものかまでは分からなかったけれど、思わず吹き出してしまった。
「わかった。もちろん相談は乗る! …でも、先に飯にしようぜ」。「そうだな。今日の夕飯は何だった?」。「なんだったっけ。まあ、行きゃあ分かるよ」。
さて、夕食のコロッケもすっかり腹に収まった頃。アニマと核唯は改めて、デュエルホールの一角で向かい合った。ここに来るのは本日二度目。けれど、真っすぐに視線を交わす核唯はついに口を開いた。「構えろ」と。直後、展開されるデュエルディスク。反応する、左腕のデュエルディスク。お互いにドローを行い、手札を補充すれば、始まるはひとつ。だが、宣言は核唯の方が早かった。
「俺の先攻、メインフェイズ。手札から《フォッシル・ダイナ パキケファロ》を通常召喚。カードを2枚セットして、そのままターンエンド」。…このモンスターは見たことがある。あいつのデッキに入っていて、強くて…そして、このデッキとすこぶる相性が悪い、ということも。
「ターンを、もらう。ドロー!」。改めて手札を確認する。儀式モンスターもある。【リブロマンサー】のふたりも居る。だがどうだ。あの化石の恐竜は、全ての特殊召喚を封じる。彼らの効果を使うことはできないし、今すぐに除去ができる様な魔法カードも引き込めていない。そして、仮に《ファイア》を通常召喚して、アレを殴りに行けば、恐らくは罠に返り討ちになる。
「…スタンバイフェイズ、メインフェイズ。カードを1枚セットして、ターンエンド」。…分かっている、こいつが強い奴だってことは。こいつが、勝利のためにはどんな手段も使う奴だってことは。
「ドロー。手札から《VS ラゼン》を通常召喚」。次に召喚されたのは、青い髪の男。好戦的な笑みを浮かべては、大きな筒を握りしめ、構えている。「召喚成功時、《ラゼン》の効果を発動する。デッキから【VS】モンスター…《VS Dr.マッドラヴ》を手札に加える。バトルフェイズだ」。あぁ、ダメだ。もうすでに敗北の二文字が脳裏に焼きついて、消えない。
「《パキケファロ》、《ラゼン》。ダイレクトアタックだ」。恐竜と戦士が、互い違いに襲い掛かる。思わず身構えて、けれどライフカウンターの電子音に耳を済ませれば、昼間のことをふと思い出した。
「…ターンエンド」。その宣言に、またデッキの上のカードを引く。
「ドロー! …クソッ」。ダメだ、いいカードではあるが、このターンになんとかできるカードじゃない。これ以上の攻撃は恐らく、耐えられそうにもない。「…俺は、……俺は。《リブロマンサー・ファイア》を召喚する」。スタジャンを着込んだ、燃える髪のような男。ごめんな、こんな使い方しか、今はできなくて。
「バトルフェイズ! 《パキケファロ》に《ファイア》で攻撃だ!」。「なら、リバースカードオープン。《強制脱出装置》。《ファイア》を手札に戻す」。突如、《ファイア》の足元が破裂して、その姿が高く打ち上げられる。ディスクに促されて、ヒーローのカードを手札に戻せば、もう場には何もなくて。
「…カードを1枚セットして、ターンエンド…」。先より伏せているカードは、《高等儀式術》…デッキの通常モンスターを墓地へ送って儀式召喚ができる、ただの儀式魔法カード。当然、相手の動きを止める何かにはならず…ブラフも、この劣勢じゃあ何ひとつ効果がない。
「俺のターン、ドロー。手札から《ゴブリン突撃部隊》を召喚。合計打点は5300。バトルフェイズ…総攻撃だ」。でも、まだ、抗うことはできる。
「《パキケファロ》の攻撃宣言時、リバースカードオープン! 《次元幽閉》ッ! 《パキケファロ》は除外だ!」。頭蓋が発達した恐竜が突撃するその正面、空間に亀裂が入り、飲み込…「チェーンして、ライフポイントを半分支払って手札からカウンター罠、《レッド・リブート》を発動。《次元幽閉》を無効にし、セットさせる。お前はこのターン、罠カードを発動できない。…で、お前はデッキから罠カードを1枚セットできる」。…対処できるカードは、当然無い。「デッキから、《業炎のバリア−ファイヤー・フォース−》を…セットする」。「処理は終わったな。改めて全員でダイレクトアタック…」。…使いたくない手だが、もうここまで来たら。
「《パキケファロ》の攻撃宣言時、手札から《颶風龍−ビュフォート・ノウェム》を捨てて、効果を発動する…《パキケファロ》の攻撃を無効にして、効果を無効化する……通るか?」。「通す。だが、《ラゼン》と《突撃部隊》の合計攻撃力、4100は受けてもらうぞ」。アレ1枚を処理するにあたって、どうしても使いたくなかった手。けれどこれなら、多少は…。
「バトルフェイズを終了し、メイン2。《パキケファロ》と《ゴブリン突撃部隊》の2体でエクシーズ召喚。ランク4《御影志士》。X素材の《パキケファロ》を取り除いて、効果を発動。デッキから2体目の《パキケファロ》を手札に加える。これでターンエンドだ。…さあ、お前は儀式モンスターカードを持っているか?」。…完全に見抜かれている。《ノウェム》をずっと捨てたくなかった理由が、ここにある。【リブロマンサー】たちは、儀式モンスターを手札から見せることで、手札からどんどん特殊召喚ができる。でも、すべて《パキケファロ》に封じられて、プランは崩壊して。なにより、あいつのデッキは、リソース切れを起こさせない構築がなされている。だが、ここでドローができれば、まだ。
「…ドロー!」。ちらりと、覗く。そこには、罠カード…《煉獄の落とし穴》。…もう、打てる手は、ない。悔しいが、構築も、引きも。核唯のほうがずっとずっと上で…デッキの上に手を置く。それとともに、フィールド上のソリッドビジョンもまた、淡く消え去っていく。
「…はは。やっぱりさ、お前…強いなぁ。俺じゃあ、全然敵わな…」。そこまで口に出してみて、あぁ、そうか。こいつがタッグデュエルについて躊躇していた理由が、わかった。盤面上のカードを片付けて向き直れば、彼の視線は手元の、1枚のカードに向いていた。