『スーツ』と『デッキ』と『未来予想図』   作:河童の皿箱

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 アニマはひとり、消灯された暗闇の中で悶々としていた。この『グロウル・スピリッツ』を結成してから約一年にもなるが、なんというか。存外、自分は仲間たちの事を知らなかったのだなと、痛感する一日であった。

 ソリッドビジョンが怖い朋克、勝負事となれば手を抜きたくない核唯。そして、一応確認はしたが、特段嫌というわけではないトバル。…アニマは頭を回した。何度も何度も考えた。例えばタッグデュエルをするとして、じゃあどの組み合わせにするべきか。デッキの構築だって、核唯とデュエルをするなら、そう。彼がそれをしたように、こっちだって顔メタを張らないといけないだろうし。それに、デュエル中の朋克のフォローのやり方だって、考えないといけない。進級試験の時のように、人前でのデュエルになる。フリーズするのは、観客としても…それに、彼にしても良くないだろう。トバルの協力は得られそうだが…かといって、朋克のそれを伝えるわけにもいかない……。

 アニマは頭を悩ませていた。不意に、先の勝負を終えた後の、核唯のいくつかの言葉が蘇ってくる。その中で最もムカついた、『儀式召喚なんて条件が厳しい割に消費リソースばかり食うアーキタイプ、俺だったら使わない』。…遠巻きにディスられたような気もしたけれど、それを否定したい気持ちもまたあって。

 そう、多分、多分だけど、あいつは本当に、ただただ本当に、事実を言っただけなんだろう。実際、事実だ。儀式モンスターカード、儀式魔法、リリースためのモンスター…これが全部揃ってようやく、儀式召喚ができるのだから。ましてや、この《ファイア・スターター》は、対応した儀式召喚が存在しない。…未完成のデッキだなんて言われたって、言い返せやしない。

 それに比べて核唯の《ラゼン》はどうだ。《ファイア》と並ぶ高めの攻撃力、召喚時にも対応したサーチ効果、条件はあれども除去すら持ってる…まさにアイツ好みの、臨機応変なカードで…その場で出そうになって咄嗟に飲み込んだ言葉が、ジリジリと胸を焼き焦がすように苦しくなって、ため息となってこぼれた。

 

 いやいや、今考えるべきはどうやってタッグデュエルを実現するかだ。仮に、朋克と核唯抜きにして、自分とトバルだけがデュエルをした方が…いろんな問題はスルー出来る…出来るけど、でもそれは違う。皆でやることに意味があるから。…いや、ちがう。俺が、皆でやりたいから。でも、じゃあ、どうやって?

 布団を頭の上まで被る。バラバラになりたくない。せっかく出来た友達なのに。勇気を振り絞って、知らない音の世界に飛び込んで、出会って、友達になったのに。またひとりぼっちになってしまうのは、嫌だ。

 

 …嫌だ。

 

 ……嫌だ…。

 

 

 

 ふ、と。気が付くと、自分は立っていた。周囲は明るいわけでも、暗いわけでもなくて。戸惑っている間に、自分の前にひとつ、本が浮かび上がっていることに気が付いた。その本の表紙は、見たことのある、赤い、赤いヒーローが居て。…違う。この本を持つべきは、自分ではない。

 伸ばしかけた手をひっこめた。すると、後ろからちょんちょん、と。

 

 『…あの』。小さな少年が、眼鏡越しにじっと、こちらの目を見つめてくる。あぁ、彼は。彼こそが。

 『……何か、悩んでるんですか?』。少年は実に控えめで、ともすれば縮こまっているようにも見えた。けれど、知っている。彼には、頼れる相棒が居るんだってことも。

 『ボクたちは、ずっとあなたのことを見てきました。あなたの手の中から。はっきりしたのは、その…本当につい最近、なんですけど。ボクたちのこと、大切にしてくれた。…でも、それで悩んでるってことも、知っています。ええと…そのぉ…』。しどろもどろの少年、こと《Gボーイ》。…そうか、俺は、心配をさせてしまっているのかもしれないと。けれど、そんな俺とこの子の煮え切らない、会話にならない会話をぶった切った声があった。

 『おいおい、ボーイ! もっと腹から声出せよ! ったく仕方ねぇなぁ!』、と。視線を移せば、本がひとりでに《Gボーイ》のもとへと移動しては、開いて…中から表紙のヒーローが飛び出しては、こちらの背中をバンバンと強く叩いた。

 『ぃよぉ! さっきはぼっこぼこにされちまったなぁ!?』。彼は、《ファイア》は、痛いところをついてきた。あの敗北は、結構心に来るものがあった。核唯の戦略を分かっていたし、対処法も知ってはいたけれど、それだけじゃあどうしようもなかった…と思っても、ふと思い返した時に、もっと別の選択をしたのならと、今更になって思ってしまったのだ。そう、例えば…。

 「う、上手く戦えなくて…ごめん。《ファイア》、セットしておけばよかったかもって…」。そう、あの時完全に失念していたのが、《ファイア》の守備力。実は攻撃力と同じく、守備力も1800あった。それだけあれば、《パキケファロ》の攻撃も、《ラゼン》の攻撃だって、ギリギリ耐えることができた。けれど、そんな言葉に口を開いたのは《Gボーイ》だった。

 『でもたぶん、どっちにしろ《突撃部隊》にやられちゃってたと思うなぁ。時間は稼げたかもしれないけど…あ、でもそうか、《ファイヤー・フォース》…ライフポイントが多めに残ってたら、あれで全滅を狙う、みたいなことも確かにできた…かもだけど…』。《Gボーイ》は大真面目に、あの盤面を返す方法を考えようとしたが、けれど《ファイア》が止めた。『おいおい、俺たちゃぁ反省会をしに出てきたわけじゃあねぇぞ? お前の話を聞きに来たんだ』、と。

 「…俺の話、って言っても……」。話せるような内容でもない、気がしたけれど。先の言葉を思い返せば、黙っていても見透かされているのは明白だった。腹をくくるしかないだろう。でも、何て切り出そう。悩んで悩んで、それでも、いちばんは、やっぱり。

 

 「…友達と、喧嘩しちゃいそうなんだ」。正直に、白状した。俺は、友達を失うのが怖い、と。すると、《Gボーイ》はぽかんとして、《ファイア》は大口を開けて笑った。『なんだ、そんなことか!』と。…そんなことってわけでもないだろ。少なくとも俺にとっては、これ以上ないくらい大事なことで、危機で。胸の中がカッと熱くなった。けれど、ヒーローは笑うばかりで。

 『なァに、お互いのことを分かり合いたいんならやることはひとォつ! 真正面から拳を突き合わして殴り合うッ! 男ならドォーンとぶつかって行きゃあいいんだよ!』。……話すのなんて、そりゃあ初めてだけれど。やっぱり、見た目通りの熱い男だ。けれど、そんな姿に、相棒である《Gボーイ》はまた苦笑いをこぼしていて。『それは《ファイア》だけでしょ…もう。ええと、ボクからは…何か言えるわけじゃあないんですけど…その…あの人…ええと、名前が…思い出せなくて……。ごめんなさい、《娑楽斎》さんと《ワゴン》さんと一緒に居た、あなたのお友達。ボクは、あなただけがいろいろなものを背負うんじゃなくて、あの人の言葉を信じるっていうのも、大事なんじゃあないかなぁって思うんです。だってほら、頑張るって決めたことを、出来ないって思いこまれるのって、きっと……ほら、あの…たぶん、悲しいです』。

 

 …そういうものなのかなぁ。いや、でも、うん。ちょっとわかる、ような気もする。核唯が望んでいるのは、取れる手をすべて取って真正面からぶつかること。朋克が望んでいるのは、少しばかりの時間、そしてそれを待ってもらうこと。…うん、うん。ふたりの言葉は、存外、自分の中にすっと入り込んできた。

 『おっ、ちょいとイイ顔になったな!』。《ファイア》が快活に笑う。《Gボーイ》が僅かにはにかむ。『…あんまり、力になれないけど。でも、うまく行ってほしいなって、そう思います』、と。…そうだなぁ、うまく行ってほしいなぁ。でもやっぱり、核唯と勝負という舞台に上がるのは今のままでは厳しくて…デッキを見直して、使いたかったカードが抜けるだなんてことは、大好きな彼らをデッキから抜くなんてことは、したくなかった。ただそう、好きになったカードがたまたま、ちょっと勝負事に向いてないっていうそれだけで。

 「実は、うん…デッキの構築に悩んでいるんだ」。驚くほどすんなりと、そんな言葉が口から出てきた。けれど同時に、それは目の前の彼らを否定することなのではないかともよぎって、喉がつまった。…違う。俺は、別にリブロマンサーを抜きたいわけじゃあないんだ。出来ることなら、核唯に、リブロマンサーで勝ちたい。「……もっと、リブロマンサーのカードがあったらなぁ」。そうしたら、デッキとして纏める方向もしっかりすると思うし。

 すると、《ファイア》と《Gボーイ》は互いに顔を見合わせて、にっこりと笑った。そして《Gボーイ》は、《ファイア》が飛び出してきたのではない別の本を取り出しては、それをこちらへ差し出した。「…俺が、もらっていいの?」。訊ねれば、ふたりは力強く頷いた。『ボク、《ファイア》の気持ちが少しだけ、分かった気がします。どうして、ボクと一緒に戦ってくれるのか…ボクは、ボクたちを…そして、友達を大切にするあなたの力になりたい、です』、と。促されるがままに、本を手に取る。つい、癖でページを開いてみる。

 

 そこには真っ白なページだけが広がっていた。そっと添えられた大きな手と小さな手。『ボクたちは、在り得るはずの無かった奇跡で出会って、交わるはずの無かった大切な友達が出来ました』。眼鏡越しの大きな瞳がじっと、じいっと見つめてくる。『ボクの友達も、きっとあなたの声に応えてくれるはずです。そして、これは』。少年の手が、ページをめくる。突如、激しい、竜巻の如き暴風が吹き荒れては、周囲がカッと明るくなる。…いや、違う。燃えているのだ。あらゆるものが。ごうごうと燃え上がる炎が、吹きすさぶ風が、本を捲る。捲る。捲る。真っ白だったはずのページに、何かがある。少年が、何かを言っている。けれど、吹き飛ばされないようにするだけで手いっぱいで。

 

 ほどなくして、静寂と暗闇が訪れる。いつの間にか、彼らの姿が見えなくなっていた。でも、あの真っ白な本だけは、確かにあった。

 

 …誰かの声がする。誰かが、俺を呼ぶような、優しくて、淡い声がする。穏やかな光の帯が、星々のかけらのような煌めきが、暗闇の先を照らす。

 

 行かないと。胸に灯る火種が、星へと導く。この物語は、これから始めるのだから。

 

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