掌上世界   作:ツバメボール

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第11話 暴かれた事実

「全員動かないで!!」

「動くと痛い目に遭いますよー♪」

「うへ〜、警報なんておさせないよ〜」

銀行に突入したアビドス組は、先程の怒りも手伝って完全に襲撃者のそれになっていた。

「み、みなさん動かないでくださいね!怪我してしまいますから!」

そんな中で一人悪役になりきれない、紙袋を被った生徒は異質だった。

「なんか…みんな楽しんでますね」

先生の護衛を託されたが襲撃の予兆がないため暇を持て余したショウカが、先生に声をかけた。

「"まぁ…今までのこともあるだろうし、多少はね?"」

時間を確認しながら、先生は返答する。

マーケットガードを誘引するため、タカオ達と別れた対策委員会とシャーレに与えられた時間は二十分。

既に四分が経過しているが、内部では順調に帳簿の確保が進んでいるようだ。

タカオ達の誘引も成功しているらしく、マーケットガードが急行してくる気配は無い。

急場の作戦となったため、少なからず不安があったが杞憂に終わりそうだ。

「あ、出て来ます!」

青い覆面の生徒が自動ドアに向かっているのを発見し、ショウカは声をあげる。

「"よし!。じゃあ、安全な場所まで逃げよう!"」

「はい!」

続々と外へ出て来た銀行襲撃者達と同じ方向に先生とショウカは走り出した。

おそらく、何も事情を知らない者であればシャーレの二人が覆面の泥棒を追いかけている様にしか見えないだろう。

「ん!」

並走したあたりで、ショウカはシロコの方へ顔を向けると、シロコは成果を示すかの様に親指を上げてみせた。

 

「と、言う事があったんです」

「…随分と刺激的な旅でしたね」

一行は途中便利屋68の接触を受け、どさくさに紛れてお金を押し付けるなどの予想外はあったが、無事アビドス校舎に戻って来たのだった。

「そう言えば、タカオさんが言ってましたよ。『人使いが荒い』って」

「性格が悪い」を可能な限り中和したショウカなりの言葉だったが、メリンは鼻で小さく笑って言った。

「私がそうなら、もっと酷い方は五万といますよ」

校舎の外の砂漠に埋もれた家々に視線を向け、メリンは言った。

連邦生徒会と言う巨大組織に属して来た一人の知られざる苦悩とも表すべきかもしれない姿だった。

「それより、当初の違法物品に関しては特に情報を得られませんでしたか…」

メリンはショウカに向き直り、僅かばかりの残念さを含ませて呟いた。

「うう…申し訳ないです」

「致し方ありませんね。対策を更に練らなければ…」

「何か、お手伝い出来ることはありますか?」

ショウカの質問にメリンは優しく微笑みながら首を横に振った。

「祖月輪さん含め、皆さん疲れているでしょうからまず休んでください。無理をしては、この先倒れてしまいますよ」

「分かりました…でも、必要な時はすぐに呼んでくださいね!」

「ええ。必ず」

肩を落としたショウカは、メリンの答えに満足して頷くと一時休息のため退出していった。

「さて…どう対処しましょうか…」

タブレットを机に置いて再び外の様子を見るメリンの表情は常時のそれと変わりはない。

タブレット画面には、一通のメールが表示されている。

「ゲヘナ風紀委員会に大規模な動きあり」

 

休憩の時間をおき、ヒフミ含め全員で銀行から入手した書類を確認していた。

「なんなのよ!!これ!!」

真っ先に声を上げたのはセリカだった。

両手で机を打撃しながら立ち上がり、その顔には明らかな怒りの表情が浮かんでいた。

「アビドス高校回収額は788万円。その直後、500万円の補助金支給…」

「前後に同額程度の取引が無く、時間的な猶予も考えますと、おそらくアビドス高等学校から回収した中から出されていますね」

シロコの呟きに、該当箇所を確認したメリンが冷静に分析した。

残酷な言葉ではあったが、メリンは自身の考えを告げた。

「おそらく、カイザーローン…いえ、カイザーグループは、貸し付けた金額以上の価値をアビドス自治区に見出した結果、アビドス高等学校を廃校にする事が主目的になったのでしょう」

「その、金額以上の価値ってなんでしょうか?」

ショウカがメリンに疑問点を伝えると、少しの思案時間をおいてメリンは言った。

「まだ、分かりません。ですが………」

露骨に言葉を詰まらせるメリンに全員が続きを待った。

先程まで怒気を纏わせていたセリカも、少し落ち着いたのか席に座り直していた。

「私の友人達の中には噂があるのです。カイザーコーポレーションは、キヴォトスを覆すかもしれないモノを持っている、と」

「キヴォトスを覆す…」

突飛な言葉に、ショウカ含めた面々は理解が追いつかず首を傾げた。

「キヴォトスを覆すと言うのは、どんなモノなのでしょうか?」

一同の感じていた疑問を紐解くため、ノノミがメリンに問う。

キヴォトスを覆すと端的に出たオカルトや陰謀論の様な言葉だが、事の捉え方によってはアビドスの抱える諸問題よりも深刻になる。

ある種確信的な思いがあったからこそ、踏み込む方向へ舵を切ったのだった。

「あくまでも噂程度のものです。それが、実体を伴うのか、仮想空間上の情報なのかも分かりません。もしかすると、物質に関する情報かもしれませんし、情報に関する物質かもしれません」

「それじゃ、何も手掛かりにならないじゃない!」

あまりにも曖昧なメリンの言葉に業をにやしたセリカが声を荒げる。

「でも、あくまで噂なんですよね。それなら、カイザーコーポレーションがそれと全く関係の無い目的で動いている可能性もあるんですよね?」

「十分にあります。私個人の考えでは、噂が関係しているかもしれないので、みなさんにお伝えしておきたかったのです」

セリカを抑えるため、食い気味に確認をとったショウカの意図をメリンは理解していた。

「真面目な雰囲気を醸し出してたのに損した気分だわ…」

「ん、セリカは深刻に捉えずきだと思う」

「そ〜だよ〜。もっと肩の力を抜かないと〜」

項垂れたセリカにシロコとホシノがフォローとも言えない言葉をかける。

「ひとまず、今後どうするかです。カイザーコーポレーションが我々の敵である事は確定しましたが、安易に動けば負債を理由として更に首を締め付けられます」

「それは、打つ手がない…と言うことでは…?」

絶望と悲観を混合させた声色でアヤネが呟く。

「現状は打つ手無しですが、やるべきことは多々あります。まず、アビドス自治区がどこまでカイザーコーポレーションに侵食されているかを調べる事。次に、アビドス校舎の防備や自治区の治安維持に務める事。そして、他校の協力を要請する事」

最後の案は、ホシノとセリカは眉を歪ませ、アヤネとノノミは平常を保っているが疑問の空気を纏っている。

シロコは表情を変えずメリンを見つめ、ヒフミはやや気圧されながらもこの場にいる唯一の他校生であり、ティーパーティに出入りできる立場として協力を惜しまないと言いたげだ。

「ん〜、他の学園が協力してくれるかな〜」

ホシノは睨む様にしてメリンを見つめている。

不可能な事を言うな、明確な言葉ではなかったが、聞いた全員がそう受け取れるほどには空気が一気に硬化していた。

「メ…メリンさん…」

ショウカは小さくメリンの名を呼んだ。

「…」

メリンは敢えて何も言わずホシノの言葉を待っていた。

十秒、二十秒と時計の針が音を立てて進んで行く。

「…それに、トリニティしかりゲヘナしかり、エデン条約で各学園多忙でしょ。今、手を貸すだけの余裕のある学園なんてあるのかな?」

沈黙に耐えきれなくなったのか、ホシノはゆっくりと告げた。

「その通りです。本格的な協力体制はエデン条約が無事に調印されてから、と言うことになります」

「どんなに急いでも時間はかかってしまいますね…」

この状態がまだ続く事実に、アヤネはため息を出した。

「で…でも、解決の糸口がエデン条約調印式頃には見えてくるってことですよね?」

「そうじゃない!あと少し耐えればマシになるかもしれないってことでしょ!」

ショウカの言葉に感化されたのか、セリカが希望に満ちた顔で立ち上がった。

先の見えない借金返済をしてきた彼女にとって、掴みかけている希望の糸に期待するのは当然のことと言えた。

「いや…そうじゃ───」

「そう言う、事で、もう少し、耐える事はできそうでしょうか?」

珍しく声を大きくしてメリンは全員に質問した。

「当たり前じゃない!やってやるわ!」

「そうですね。今までと比べれば、全然問題ありません!」

「ん、私も」

セリカ、ノノミ、シロコが頷き、決意をあらわに気合を入れた。

「奥空さんは如何でしょうか?」

「…分かりました。私も大丈夫です」

「小鳥遊さんは?」

アヤネの回答を待って、メリンは満を持してホシノへ確認を取る。

ホシノは一瞬視線を鋭くさせた直後、下を向いてため息を出した。

「まぁ、可愛い後輩達がやる気を出している事だし、おじさんもつきあってあげるかぁ〜」

にこやかな表情になったホシノは、いつもの調子で答えた。

「メリンさん。私達は…シャーレは何が出来るでしょうか?」

「まずは、廃校対策委員会の独立性を保証してアビドス高等学校の生徒会代行と言う事を証明しましょう。先生、多少権限を使うことになりますがアビドス高等学校を救うためです。我慢してください」

「"うん。私の出番だね"」

 

「では、皆さん。色々とありがとうございました」

「じゃあね〜。ファウストちゃん」

「そ、その名前はやめてください!」

「ははは…まぁ、もう覆面はもう被らないと思いますし」

ショウカはヒフミとホシノのやり取りを苦笑いしながら見ていた。

「では、いきましょう。奥空さん、仕掛けた罠の詳細はそちらに送りましたので、何かあった際は活用してください」

「ありがとうございす。メリンさん」

当初メリン達は、ヒフミを見送ってからシャーレビルに戻る予定を立てていた。

だが、アビドス自治区にヒフミが不慣れな事と徒歩では駅に着くまでに時間がかかり過ぎることから、急遽送り届ける事となったのだ。

「ヒフミ先輩、バレないように戻ってくださいね!」

「面倒な事になるので」

ショウカとメリンが最後に声をかけ、ヒフミを乗せたUH-60は出発していった。

「我々もいきましょうか」

「"うん"」

先生、ショウカ、メリンの三人を乗せたUH-60も飛び立った。

少し経てば、大きかったアビドス校舎も建造物の一つ程度の大きさになり、景色は黄金色の海原から灰色に変化していった。

「"メリン、何か話したいことがあるんじゃない?"」

先生はメリンに視線を向けて無線越しで聞いた。

メリンは小さく頷いた。

「はい。ここであれば、誰かに聞かれる恐れはありませんから」

無線越しかつヘリコプターの音で声がくぐもって聞こえる。

「話したいことって?」

「先の噂についてです。あれは、嘘を含んだものですから、先生には嘘のない方をお伝えしたかったのです」

「嘘だったんですか?」

キヴォトスを覆すものなど無かったのかと受け取ったショウカは安堵して胸を撫で下ろした。

「『キヴォトスを覆すモノ』は確実に存在しています。そればかりか、それを実際に持っていた学園もあります。いまは高校ですが」

「!?」

ショウカは、自身が目玉が飛び出さんばかりに目を見開いて、口が半開きになっていることにすら気が付かず、メリンを凝視していた。

「"それは、デウス・エクス・マキナ工業高校かな?"」

「…気づいていたのですね。おっしゃる通りです」

「!?」

先程と同じ表情で、ショウカは先生に視線を移した。

首を痛めかねない速度で顔の向きが変わり、ショウカの視線の中心はメリンから先生に移っていた。

「"デウス・エクス・マキナ工業高校のアビドス支援がかなり早いように感じたからね。連邦生徒会ですら時間がかかっているものを即断できるだけの何かがアビドスにはあるんじゃないかって思ったんだ"」

先生は先の会議で確信を得ていたようだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!つまり、デウス・エクス・マキナは『キヴォトスを覆すモノ』を再び手に入れるために支援要請を受諾したってことですか!?」

「はい。そして、ここからが重要です。この状況下で窮地に立たされたのは誰でしょうか?」

クイズを出す司会者の様にメリンは手袋をはめた両手を一回叩き、ショウカと先生に質問した。

「誰って…カイザーコーポレーションでは?」

「表面上はそうですね。カイザーコーポレーションの好敵手であるデウス・エクス・マキナ工業高校が宝探しに横槍を持って参加してきたのですから」

含みのある言い方で答えたメリンは、先生の回答を聞くため視線を移した。

つられてショウカも先生を方を向くと、いつもの優しくにこやな先生と異なり、鋭い視線で思案するまさしく大人と言う表現が合う表情になっていた。

少し間をおいて、先生は答えた。

「"トリニティとゲヘナかな?"」

「はい」

理解が追いつかず、ショウカはメリンと先生を交互に見ることしかできなかった。

「両校は、アビドス自治区におけるカイザーコーポレーションとデウス・エクス・マキナ工業高校の戦争が、エデン条約に影響する事を懸念しています。何より、今まで『カイザー防波堤』だったアビドス自治区がその役割を喪失する事を心配しているはずです」

「"そして、デウス・エクス・マキナ工業高校だけでなく私達シャーレもアビドスを支援している事が、トリニティとゲヘナにとってさらに心配を強める遠因になっているってことだね?"」

先生の言葉に、メリンは肯定する様に頷いた。

話を黙って聞いていたショウカもようやく理解が追いつき始めた。

「私達とデウス・エクス・マキナが繋がっていると思われているって事ですか!?」

あり得ないとの言葉をなんとか押し留め、ショウカは声を荒げた。

メリンは杖を持っていない方の手でショウカを制した。

「"そう見えてしまう事が問題なんだ。トリニティやゲヘナ規模の学園がそれをこじ付けでも指摘すれば、周りは続かなかればならないんだ"」

先生は自身の経験を元に、現状を噛み砕いて説明した。

トリニティ総合学園、ゲヘナ学園、規模はやや劣るがレッドウィンター連邦学園、急速に規模を拡大するデウス・エクス・マキナ工業高校等の巨大校は、規模に見合った声の大きさと表すべき政治的発言権がある。

一方で、現在のアビドス高等学校を筆頭とした規模の小さい学園等は、大きな声は出せないため簡単にかき消される。

かき消されないための方法はいくつもあるが、この様な場合には大きな声を出せる奴と友好関係になるのが多用されてきた。

友好関係の維持においては、小さい方が大きい方に従うと言う単純ながら十分な効果が出る方法があることもあり、巨大校の一言で盤面がひっくり返る事件が多々あった。

「おそらく彼女達の想定では、エデン条約調印式までは持つはずの『カイザー防波堤』に想定を超えた圧力がかかった事で、崩壊間近と見ているのでしょう」

加圧過多な状態を正常にするには、圧力源を減らす必要がある。

だが、デウス・エクス・マキナ工業高校が「契約の元で行われる正当な支援」の姿勢をとっている限り、両校は手を出せない。

仮に、強硬手段に出たとしても「戦争行為」として先に待つものは全面戦争だ。

従って、同陣営内かつ新進気鋭で、規模が小さく対面を気にする組織の下部にあるシャーレが取り除くべき圧力源となったのだろうと先生とメリンは考えていた。

話を聞き終えたショウカはある点に気がつき、二人を交互に見ながら言った。

「もしかして、今私達がD.U.区に戻っているのは…?」

「第一歩…あるいは第二歩を可能な限り挫くための先手打ちです」

シャーレ設置までの連邦生徒会内部の派閥闘争と引き起こされた失態の数々で、現時点での連邦生徒会は「蹴れば崩れる腐った納屋」と同じだ。

トリニティ総合学園やゲヘナ学園の圧力に耐えうる力など無い。

「敵の敵は味方とは言うつもりも毛頭ありませんが、今回ばかりは力を借りるしか無いですね」

現在の連邦生徒会は大きく分けて、代表の七神リン筆頭の「保守派」、歌岡ミルや板橋カツミらの「改革派」に分かれている。

最も勢力が大きい保守派とその他の決して規模は大きく無い派閥達が現状維持と協調路線をとっているため、思考的に反対な改革派は肩身が狭い。

しかし、重要ポストは以前のまま維持しており、特に情報部を掌握しているミルが残っていることは幸運と言えた。

「交渉については、お任せください。先生は、廃校対策委員会の正式な承認の準備をお願いします。私の予想が正しければ、相応の困難が時間を奪って来るはずですから」




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