第4話 砂海へ
連邦捜査部の祖月輪ショウカは同部活動顧問の先生と共に極めて危機的な状況に陥っていた。
「あ、あついですね。先生」
「"そ、そうだねショウカ"」
見渡す限りの砂漠景色の真ん中、容赦なく照りつける太陽光に恨みを募らせつつも、一向に見えてこないアビドス高等学校を探すためあたりを見渡す。
(まさか、ここまで砂漠化が進行してたなんて…)
数日前、連邦捜査部にアビドス高等学校から救援を求める手紙が届き、緊急性が高いと判断した先生はタブレット片手に飛び出そうとした。
ショウカとメリンは必死に止めたものの、遂に先生を説得すること叶わなかった。
結果、諸所の手続きと処理を済ませるためにメリンが残り、ショウカがアビドス自治区に到着する道中で準備を整えると言う、計画と言う概念をかなぐり捨てた計画の元、アビドス自治区に突入したのである。
(地図が全く役に立たない!)
事前に購入した紙の地図を見るが現在地を消失し、スマホの位置情報ではD.U.区程の精度が確保出来ず、両者を合わせて位置の整合をとっても作業をするほど違う位置が算出される。
「先生、一度日陰で休みましょう」
「"そ、そうだね"」
既に飲料、食料は底をついている。
現在地もわからない状態のため、あてもなく歩く旅に変わってしまっている。
ショウカは、先生の様子を伺う。まだ、深刻な体調不良は起きていない様だが、予断は許さないだろう。
(ダメかもしれない)
ショウカはそんな事を考えていると、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえ始めた。
「ん…大丈夫?」
銀髪の青い瞳の人物が、ロードバイクと共に現れた。
ショウカは、何処か既視感的なものをその人物に感じたが、それについて思考する程の余裕は無く、隅に追いやった。
「す、すみません。助けていただいても良いでしょうか?」
「連邦生徒会の人?」
その人物はショウカの服から所属を予想したのだろう。ショウカは頷いて、名前を名乗った。
「はい…連邦捜査部の祖月輪ショウカです。こちらは、顧問の先生です」
「!?。わかった、アビドスに連れてく」
「?」
いきなり途切れた会話の流れにショウカは困惑したが、質問する余裕も無くロードバイクを預けられ、背負われた先生と共にアビドスへ案内されることとなった。
道中、空腹を紛らわすために貰ったエナジードリンクを先生が直飲みしていたが、ショウカがその行為の問題点に気づく事はなかった。
「メリンさん!?」
「遅かったですね…」
アビドス高等学校の校舎、廃校対策委員会と書かれた部屋で待っていたのは、僅かながらに疲労感を滲ませた表情のメリンだった。
曰く、出発した翌日に二人がアビドス高等学校に着いていないことを知り、連邦生徒会からヘリコプターを幾つか無断拝借して不眠不休で捜索を行っていたらしい。
ついで、アビドス高等学校で不足している医薬品や弾薬、銃火器の整備部品等をツテで横流ししながら最終的に拝借したヘリコプターの所属も連邦捜査部に書き換えたとの事だった。
(いや、この人どさくさに紛れてヘリ泥棒したって事?)
自己紹介をしつつ、体調が整ったショウカの脳が叩き出したのはその事実だった。
「兎も角、先生と祖月輪さんが無事でよかったです。砂狼さんには感謝しなければ」
「ん…問題無い。見つけられたのは幸運だった」
「…最悪、広大な砂漠の中で死亡と言う事もあり得たのですから。先生、今回はこの書類に書名していただくだけで咎めはいたしませんが、次からは慎重な行動をお願いします」
「"うん…ごめん"」
先生はメリンの差し出したタブレットに名前を書き込み、経口補水液を飲み干した。
メリンは奥空アヤネに伝えた。
「奥空さん、補給については問題ありません。たった今、連邦捜査部の名前で正式なものを出しました。今後は、各種物資に困る事は無いでしょう」
「あ、ありがとうございます」
アヤネはメリンの手口に何か言いだけだったが、突如鳴り響いた銃声によってその機会は失われた。
「じゅ、銃声!?」
「定期便ですね」
十六夜ノノミの驚愕した声にメリンは若干呆れの混じった様な声で言った。
「ヘルメット団の襲撃です!」
アヤネの言葉で、ショウカは状況を把握した。
持ってきていたベレッタM9A1を確認し、迎撃態勢に移る。
緊張した雰囲気が徐々に強くなるが、意外にもその空気は容易く破壊された。
「ホシノ先輩(小鳥遊ホシノ)!起きて!寝ぼけてる場合じゃないよ!」
「うへぇ〜?」
先程、ホシノを呼びに行った黒見セリカが戻ってきた。
(朝から居眠りかぁ)
出鼻を挫かれた様な気持ちになったショウカは内心で呟いた。
「小鳥遊さん、ヘルメット団の襲撃です。準備をお願いします」
「あ〜、メリンちゃん。そりゃ大変だね〜」
ホシノは一瞬、先生のことを見る。
獲物を見る狩人の様な眼光が刺さるが、直ぐに元に戻り、メリンとの会話を続けた。
「昼寝もできないね〜。メリンちゃん、指揮頼むよ〜」
「分かりました。皆さん、次の補給は確実なので、弾数制限は無しです。先生に感謝ですね」
「ん、ありがとう。先生」
シロコの感謝が何を意味しているのか先生は特に分かっていない様子だったが、「気をつけて」と心配する事は忘れていなかった。
「はーい、みんなで出撃です☆」
ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ、ショウカの五人が昇降口へ向かう中、メリンは先生にワイヤレスイヤホンを渡した。
昇降口を飛び出した五人を迎えたのは、熱烈な銃弾の雨だった。
「ショウカ、隠れて…!」
「は、はい!」
ショウカはシロコと共に、近くにあった遮蔽物へ退避する。
「"みんな、大丈夫!?"」
「先生?どうして先生が?」
メリンと通話中の筈だったのだが、唐突に聞こえた先生の声に、シロコは疑問声で質問する。
「餅は餅屋、と言う言葉がありまして。私が指揮するよりも的確であると判断しました」
「うへ〜。メリンちゃんはおサボりってことかな〜」
「起きている分、居眠りよりはタチが良いと思いますが、小鳥遊さんはどう思われますか?」
「そんな事言われたら、おじさん頑張らなきゃいけないな〜」
「ホシノ先輩にメリン先輩!そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
放っておくと永遠に続きそうな会話をセリカが制止させた。
そんなやり取りをしている間にも、ヘルメット団の生徒達は残弾を惜しむ様子もなく発砲を続けている。
「奥空さん。相手の数は分かりますか?」
「人数は前回より少ないみたいです。おそらく20人くらいだと思います」
(20人!?流石に多すぎる!ヘルメット団って暇な生徒の集まりなのか!?)
メリンとアヤネの会話を聞いてショウカは驚愕した。
シャーレの部室奪還作戦では早々にメリンの攻撃で大部分を無力化したため、そこまでの戦力差を感じなかった。
むしろ、ショウカはワカモの襲撃に対処するのが精一杯だったため、実質的には1対1の戦闘しか経験していない。
だが現在、三倍以上の数の差を前にしている。
ショウカにとって恐怖心を煽られるのはごく当然のことだった。
「ショウカ、大丈夫?」
やや顔を青ざめさせているショウカに気がつき、シロコは声をかける。恐怖心を全く感じさせない、凛とした声だった。
「シロコさんは、怖くないんですか…?」
「何度も返り討ちにしてきた。それに、今日は先生とメリンもいる。大丈夫」
シロコの声に応えるかの様に、先生達の声が届く。
「"みんな、ヘルメット団の攻撃には途切れる瞬間がある!そこを狙って一気に切り崩すよ!"」
「リロードの隙を狙います。それまでは隠れてください。『合図』を送るので、一気に最大火力を叩き込んでください」
シロコは「了解」と返答し、遮蔽物の向こう側にいるであろうヘルメット団を見据える。
ショウカは、自身が遮蔽物に背中を預けている状態である事に気がつき、体勢を変える。
背中から聞こえていた発砲音や「隠れたままかぁ!!」「おらぁ!反撃してみろぉ!」と言った声が目の前から聞こえてくる。
震えを落ち着かせつつ、ショウカはシロコと共に待った。
ヘルメット団は、自分達の攻撃で相手が怯んでいると思っているらしく、心なしか更に銃撃が激しくなる。
ともすれば、立ち上がって応戦するかそのまま逃げたくなる衝動に駆られるが、いま動けば確実に位置を露呈させ、ヘルメット団を有利にするだけだ。
時間が無限に引き延ばされている様な感覚に陥りそうになるが、幸運にもショウカはその寸前で元の感覚に戻ることが出来た。
(…!)
銃撃が止んだのである。
「"今!"」
先生の声と共に、シャーレの部室奪還作戦でみた水柱が轟音と衝撃と共にそそり立った。
「行くよ!」
ホシノの声と共に一斉に攻撃を開始する。
ヘルメット団は装填作業に入った直後に、巨大な水柱が噴出したことで混乱しているらしく、反撃らしい反撃は無い。
水柱がちょうどショウカ達を隠す壁として機能したことで、ヘルメット団は残弾のある生徒がただ乱射しているだけだった。
「ショウカ、援護お願い」
シロコは遮蔽物を足場にして一気にヘルメット団へ接近する。
ホシノは射撃音と火線から発砲位置を予測して接近しながら射撃を叩き込む。
ノノミ、セリカは水柱噴出前までヘルメット団のいた場所に銃弾を撃ち、牽制する。
水柱が崩れるのとほぼ同時にシロコはヘルメット団のいるあたりまで突入し、近接戦へと移行した。
ヘルメット団達は間に割り込んできたシロコに射撃しようにも対面には仲間がいる状態になってしまい、躊躇する間にシロコから射撃か、蹴り技を受ける。
既に倒されたヘルメット団の生徒が、再び銃に手を伸ばそうとするが、ショウカが射撃して銃を吹き飛ばす。
「引け!撤退だ!」
リーダーのヘルメット団らしき生徒が叫ぶと、仲間達も散り散りになりながら撤退してゆく。
「覚えてろよー!!」
リーダー格の生徒は、捨て台詞を残して走り去っていった。
ショウカは、シロコやホシノに顔を向ける。
追撃するかと考えていたが、二人は去って行くヘルメット団を確認するだけだった。
廃校対策委員会の部屋に戻ってきた面々は、戦闘に不慣れなショウカと不眠不休完徹完遂のメリンを除いて、特に疲労の色なく改めて自己紹介をしていた。
「ショウカさん、戦闘が、苦手なら、こちらに、居ても、良かったの、ですよ」
先生が無事到着し、ヘルメット団を撤退させた事もあって、メリンは既に充電切れ寸前だった。しかし、それだけは伝えたかった様で、まさに最後の力を振り絞っていた。
「メリンさん…まず寝ませんか…?」
「今…寝ては……皆さん………」
少しづつ声量が小さくなり、遂にメリンは沈黙した。
(そんな事、自分が一番わかってる)
充電が切れた様に静かに、呼吸の音だけが発せられるメリンを見ながらショウカは心中で呟いた。
「あれ〜?メリンちゃん寝ちゃった?」
「はい…相当疲れてたみたいで…」
「まぁ〜、しょうがないね〜。先生が来るまで頑張ってくれてたし」
ホシノがメリンの頭を撫でる。糸目のため分かりにくいが、本当に寝ているらしくメリンは一切の反応を見せなかった。
「でも困ったな〜。素晴らしい計画をメリンちゃんにも聞いて欲しかったのに」
「素晴らしい計画?」
ホシノ曰く、「数日の間をおいて襲撃をして来るヘルメット団に対して、現状では消耗戦になっており、それらを打開するために今から前哨拠点に攻撃を仕掛けて暫く行動不能にする」との事だった。
(魅力的な策ではある。だけど…)
メリンの方を見ながらショウカは思案した。
先程襲撃してきた人数は20人より少し多い程度。
ヘルメット団は、派閥や分派の様な集まりがあり、主だって襲撃を仕掛けているのはカタカタヘルメット団だが、他のヘルメット団も仲間と想定すると全体総数は膨大になる。
前哨拠点に何人居るかがわからない以上、返って大損害に繋がってしまうのでは無いかと言う懸念がショウカの中で渦巻いていた。
だが、同時にショウカは今までの戦い方からある方法であれば、解決出来るかもしれないとも考えていた。
(奇襲攻撃であれば…)
シャーレの部室奪還作戦時、メリンの謎の水柱攻撃から一気に敵を切り崩した。先程の戦闘も、ヘルメット団が動きを止めた瞬間に同じ手段で切り崩す機会を作っている。
現状、メリンを叩き起こす訳にはいかないが、ノノミの武器であれば効果を発揮出来る可能性がある。
「どう?ショウカちゃん」
ホシノが期待に満ちた様な表情で返答を待つ。
ショウカは僅かに先生の方を向いた。もし、先生が反対であれば、ショウカの賭けは不発に終わる。しかし、先生も乗り気の様だった。
「出来る…と思います」
「じゃ〜、決まりだね。いっちょやってやろうか〜」
睡眠中のメリンとオペレーターのアヤネがアビドス高等学校に残り、それ以外の六人はカタカタヘルメット団の前哨拠点があるとされる場所に来ていた。
「廃棄された都市区画…」
「砂漠化の影響で、アビドス自治区にはこんな場所がいっぱいある」
ショウカはシロコと話しつつ、周囲を見渡す。
建物は所々に砂が付着しているものの綺麗で、時折見る信号機からまだ此処には電気が通っている事がわかる。
だが、街路樹は既に枯れ果て、道路には落下物が自然に作ったであろう不完全なバリケードが行手を阻む。
人の営みの、人の部分だけが抜け落ちてしまったような場所だった。
六人は暫く歩き、細道を進んでいくと唐突に先頭のシロコが動きを止めて振り返った。
「…!。ホシノ先輩」
「うへぇ〜。シロコちゃんも気づいた〜?」
「"どうしたの?"」
「この先に誰かいる」
シロコはそう告げると、少し先の様子を確認するため先行していった。
先生達は一度足を止めてシロコが戻るのを待った。
「ヘルメット団見つけた。この先の、大きめの公園にいる」
「うへ〜。実力行使と行こうか〜」
シロコの報告にホシノは武装を整える。
「ヘルメット団に自分たちが何をしたか教えてあげるわ!」
「セリカちゃん、やる気十分☆ですね」
セリカ、ノノミも戦闘態勢へと移行する。
「"みんな、一気に行こう!"」
先生が告げると、五人はヘルメット団の集まる公園へ突入した。
対策委員会編を読み返しながら書いているのですが、数日ほぼ飲まず食わずで生きている先生すごいなと感じました。
メリンのヘリの件はギャクと言うよりもシャーレの使用しているヘリに対する自分自身を納得させる勝手な理由付けなので、特に捻ったものはないです。