掌上世界   作:ツバメボール

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第5話 反撃と来客

ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ、ショウカの五人は先生の指揮の元、ヘルメット団の集まる公園へ突入していった。

「ん、さっきぶり」

「やっほ〜。授業料の回収に来たよ〜」

「ア、アビドスの連中だぁぁぁあ!!」

ホシノとシロコの姿を確認したのだろう、ヘルメット団の生徒が悲鳴をあげたのを皮切りに、まとまって公園の外へ逃げ始める。

ヘルメット団の中には、包帯を巻いていたりする生徒が何人か確認できる。おそらく、先程の襲撃時のグループも含まれているのだろう。

「おとなしくやられなさい!」

「逃しませんよ〜☆」

セリカ、ノノミもヘルメット団が逃げ始めている事に気がつき、撃ち始める。

ヘルメット団側は、一部の生徒が対処するのみで他は続々と逃げて行く。

時折、「なんでこいつらが!?」「先に行った奴らはまだか!?」等々叫び声が聞こえて来るが、アビドス側に慈悲や容赦と言う言葉は無い。

しかし、一部のヘルメット団生徒は道路を逃げつつ遮蔽物を使った有効的な妨害射撃をして来るため、アビドス側もなかなか距離を詰めることができずに追撃戦となっていた。

「面倒だな…」

数度目となったヘルメット団からの妨害射撃にショウカは無意識に呟きつつ、遮蔽物に頭を隠した。

既にヘルメット団は大きな道に出て、アビドス側からの攻撃を幾度も受けている。

しかし、負傷しているヘルメット団を無傷のヘルメット団生徒が庇いながら逃げる形は崩せていない。

それどころか、細道に隠れていたのか援軍のヘルメット団が何度か現れ、無力化しても数が減らない。

「"ノノミ、今から指定する場所に移動して!ホシノ、シロコはそのまま無理せず追撃!セリカ、ショウカはこの先に移動してヘルメット団を誘導して!"」

このままでは弾薬が欠乏すると判断した先生は、一気に状況を好転させるべく指示を出した。

「アヤネちゃん。応急キットを送ってください」

「分かりました、ノノミ先輩。すぐに送ります!」

「アヤネ!こっちにもお願い!ショウカ、いくわよ!」

「分かりました!」

これまでの30分あまりの戦闘で、追撃の態勢をアビドス側は維持していたが、無傷に戦闘を行うことはできない。

ノノミが右方向、セリカとショウカが左方向にそれて各々の役割を果たすべく動き出した。

 

セリカとショウカは、先生からの指示に従って疾走していた。

「チッ!」

ヘルメット団がわき道から現れるが、即座に射撃して沈黙させる。

想定外に長引いた戦闘で、ショウカは自身も気付かぬうちに、感情的になってしまっていた。

「ショウカ!前に出過ぎないで!」

「わかってる!」

セリカの注意も今の状態のショウカには戯言に等しく、一蹴してそのまま指定場所へ走り続ける。

「───!」

遠くは無い距離から銃声と叫ぶ様な声が絶え絶えではあるが、聞き取れる。

ホシノ、シロコがヘルメット団を確実に誘導しつつ追っているのだろう。

「またか!」

再びヘルメット団が現れるが、ショウカは即座に射撃を開始する。

走りながらのため照準精度は低く、初めは障害物や建物の壁に命中するのが大半だが、その都度修正して命中数を高める。

新たに現れたヘルメット団の生徒達は、側面方向から攻撃は想定外だった様で反応が遅れ、その間にショウカとセリカは十分な射撃修正時間を得ることができた。

「なっ!」

「邪魔っ!」

ショウカは近距離まで接近してベレッタM9A1を容赦無く叩き込む。

引き金に指がかかっていたため、倒れ込む寸前に弾倉にの後っていた弾が発射されるが、虚しく空を切るだけだ。

そして、その間にも二人は走り続ける。

「ついた!」

幾度の妨害に遭いながら、指定された大通り先の交差点に二人は到達した。

ショウカは、建物の影から僅かに顔を出すとこちらに向かって来るヘルメット団達を確認した。

「セリカ!準備を!」

「えっ、ええ。わかったわ!」

いきなり呼び捨てされたことにセリカは驚きながらもすぐに弾倉を交換して構える。

「…」

二人は交差点すぐの物かげに隠れ、ヘルメット団が来るのを待った。

「今だ!」

交差点に入ったヘルメット団の戦闘集団に射撃を集中し、足を止めさせる。

逃げる事に夢中になっていた事で、左側の注意が完全に抜け落ちていたヘルメット団達は右方向へ進路を変える。

しかし、右側には射撃体勢を取るノノミがいた。

「逃しませんよ〜☆」

途切れのない発砲音と共に、雨霰の如く放たれた弾丸はヘルメット団達を薙ぎ払ってゆく。

合間に悲鳴らしき声が聞こえるが、発砲音がそれらをかき消す。

先程までの苦戦が嘘かの様に、ヘルメット団の生徒達は倒れ込んでいた。

「ん、早くここから出ていって」

シロコが、まだ意識のある生徒に銃口を向けながら告げた。

「わ、わかった!わかったから!もうやめてくれ!」

声を震わせ、そのヘルメット団生徒は叫ぶ。

シロコとヘルメット団生徒のやり取りを横目に、ショウカは時計を見る。

戦闘開始前と比較して短針は一つ先へ進み、長針は更に半周回っていた。

「"みんな、お疲れ様"」

「お疲れ様です。先生」

やや乱れた息を整えつつ、ショウカは先生の方へ顔を向けた。

ヘルメット団が居る方向からは「ん」、「うへぇ」

と言う声と発砲音が数度聞こえた様な気がしたが、ショウカは触れなかった。

「"取り敢えず、あたりのヘルメット団は撤退したみたいだね"」

「これで、暫くは安全ですね☆」

「流石に疲れたわ…」

特に疲れた様子が見えないノノミに対してショウカと共に駆け回ったセリカには疲労の色が見える。

セリカは、自分達よりも体力の消耗する誘導の役割を担ったシロコとホシノが全く疲労感を感じさせない事に改めて驚愕させられていた。

「"アヤネ、そろそろ戻るね"」

先生が通信機に呼びかける。

「どうしました?」

やや顔色が悪くなった様な見えた先生にショウカは声をかけた。

それを契機としたかの様にそれぞれの顔色に焦りや不安が滲み出始めた。

(まさか!)

ショウカはつい先程までの先生と同じ様に、通信機に呼びかける。

しかし、応答は無い。

「急いで戻ろう」

ホシノは普段の緩い空気を、限界まで締め付けた声で告げた。

 

(してやられた。まさか、ヘルメット団が間を置かず第二陣を出していたなんて…)

先の戦闘の熱が冷めたのも束の間、ショウカの脳は自分に対する責と招いた事態への後悔で更に熱せられていた。

「…」

ホシノは先程から何も発さない。

作戦を立案した立場としての責任以上のものをホシノが抱え込んでいる。

ショウカがそう感じる程に、ホシノから余裕と言う表現を見出す事は出来ない。

同様に、シロコに背負われている先生の表情も硬い。

アビドス高等学校へ戻る道が、途方も無く長い距離に感じられた。

(もし、戦闘が続いていたら)

ショウカはその可能性に望みをかけていた。

まだ戦闘が続いているとなれば、アヤネがなんとか戦っているかメリンが動ける状態、あるいはその両方であると考えられる。

逆に戦闘が終息している場合は、ヘルメット団に占領または破壊された可能性の方が高い。

(発砲音…は聞きたく無いけど。せめて…)

アビドス高等学校の校舎が見え始める。

「メリンさん!」

昇降口付近に身長の低い人物の姿を見つけ、ショウカは叫んだ。

だが、その人物を挟む様に二人の影があった。

「ん、先生」

「"任せて!"」

シロコに背負われたまま、先生はタブレットを取り出し戦闘の用意をする。

「行くよ!」

ホシノの一喝で、全員が更に緊張を高める。

その二人は全速で突撃してくる一同に最初は笑みを浮かべていたが、ホシノとショウカが銃口を向けた瞬間、表情が一変した。

ショウカ達から見て左の人物がメリンを掴んで物陰に隠れる。

右に位置する人物は、「止まれ!止まれ!」と叫びながらもホシノと相対する位置だ。

「こっちは任せて、ショウカちゃんはメリンちゃんを」

「はい!」

「ホシノ先輩、援護します☆」

「ショウカ、手伝うわ!」

ノノミ、セリカがそれぞれの支援に入る。

シロコは適当な場所で先生を下ろすため、戦闘の参加はもう少し後になると思われた。

「馬鹿!敵じゃねぇ!」

ホシノとやり合っている生徒が叫ぶが、誰も気にする事なく攻撃を開始する。

ホシノ、ノノミとやり合っている生徒はメリン達と一定の距離を保ちつつもホシノと近接格闘をしながらノノミの攻撃にも対処している。

「ん、私も」

「ふざけんな!」

さらに、先生を背中から下ろしたシロコが加わると、その生徒は罵声を上げながらも徐々にメリン達と引き離されてゆく。

「ムサシ!」

「気にすんな!そいつを守ってろ!」

ムサシ(時雨ムサシ)と呼ばれた生徒は、三対一の戦いを拮抗状態に持ち込んでいた。

極めて至近距離から撃ち込まれるショットガンとアラルトライフル、支援射撃のガトリングガンを浴びつつもホシノ、シロコに近接格闘戦で徐々にダメージを与えている。

「ん!」

「チッ!」

ホシノが下がると、一気にシロコが接近してアサルトライフルを打撃武器に変化させてムサシに殴りかかる。

ムサシは打撃を受け流しつつ足技を駆使してシロコの体勢を崩す。しかし、ホシノが即座に盾でムサシを押し飛ばし、シロコを助ける。

あまりにも近い距離で行われる戦闘にノノミは援護射撃するのが難しく、先生と共に状況を見ていた。

「メリンさんを放せ!」

もう一人の生徒にショウカとセリカが取り付くと、その生徒はメリンを守る様に腕を広げつつハンドガンの銃口をしっかりとショウカ達に向けていた。

「連邦生徒会の…?」

目の前の人物はショウカの服装を見て驚いた様な表情を浮かべていた。

「私の同僚ですよ。吹雪(吹雪ソウヤ)さん」

メリンがその生徒に声をかけた。

「メリンさん!無事ですか!」

「大丈夫です。奥空さんも無事ですよ」

「そうですか…良かった」

その言葉で、ショウカとセリカは安堵することができた。

「あの、もしかしてアビドス高校の生徒さんですか?」

ソウヤがセリカに聞くと、セリカは頷いた。

「事情説明は後にしましょう。今は、あれを止めなければ」

メリンに言われて三人は、単なる銃撃戦のそれとは全く異なる音が鳴り響く方へ目線を向けた。

 

「痛い…」

「ガチでやる事ないだろ」

「軽い力でしたよ。すぐに辞めないからです」

廃校対策委員会の部室でシロコとムサシの治療をするソウヤを眺めながら、ショウカは氷袋でたんこぶの痛みを誤魔化していた。

二人を襲撃者と勘違いしたアビドス側と、アビドス側を襲撃者と勘違いした二人の壮大かつ悲惨なすれ違いから発生した戦闘は、最終的に本気でやり合い始めたシロコとムサシを先生含めた七人で止める戦いになった。

ショウカのたんこぶやセリカの引っ掻き傷、ノノミの打撲傷等それぞれが何かしらの負傷を負う程度にはシロコとムサシの戦いはまさしく怪獣のぶつかり合いだったのだ。

最終的に、ホシノとメリンがシロコとムサシにゲンコツを叩き込んだ事で、怪獣バトルは終息したのだった。

「"ヘルメット団の方は大丈夫だったの?"」

「それについては私から説明します」

安全が確認されるまで校舎に身を隠していたアヤネが、順序立てて報告する。

前哨拠点を壊滅させた直後に、ヘルメット団の別働隊から襲撃されたアヤネとメリン。

メリンはアヤネに身を隠す様に指示し、ヘルメット団に対処していた最中、ソウヤとムサシが現れて助けてくれたとのことだった。

「お二人はどの様な用件でアビドスに?」

「弾薬等の補給のために…より正確には補給線の構築のための下見とアビドス高校の調査です」

ノノミの質問にソウヤが答える。ムサシが暴れた事もあってか、申し訳なさを感じさせる声だ。

「でも、お二人とも連邦生徒会の人では無いですよね?」

「?…!…あー、えっと…」

ソウヤは短時間に表情を転々とさせ、やや困った様な表情を浮かべた。

「言えない事情でもあるの?」

セリカの問いにソウヤは首を振った。

「いえ、そう言うわけでは無いんですが…」

「デウス・エクス・マキナ工業高校。ソウヤは統括運用委員会で、私は防衛委員会所属だ」

「デウス・エクス・マキナですって!?」

ムサシから発せられた当然と言いたげな言葉にショウカは驚いた。

「うへ〜。弾薬とかって連邦生徒会が管理してるんじゃなかったっけ?」

「そうよね?なんで他校の人が来るの?」

「それに…デウス・エクス・マキナ工業高校と言えば連邦生徒会と対する学園連合の所属ですよね?」

「あー…そう言うことか…」

ホシノとセリカ、アヤネの反応からムサシもある確信を得たらしく、ソウヤの方に目配せした。

「えっとですね、一昨年度までであればその認識で間違いはありません」

ソウヤはそう前置きして説明を始めた。

「これまで各校の弾薬及び銃火器は、生産を我が校が、管理を連邦生徒会がしてきました。しかし、我が校の独立と新体制構築によってその形が崩れたのです」

「ちょっとまって!弾薬って連邦生徒会が生産してたんじゃ無いの!?」

今までの常識的認識とは全く異なる話にセリカは驚きの声を上げた。

「品質の管理は連邦生徒会がやってる。その時点で不良品は弾くから、連邦生徒会が生産してる認識になるのは仕方ない。まぁ、連邦生徒会自身が生産してると言ってた以上、知らなくとも当然だ」

ムサシは先程まで殴り合いをしていたシロコとあっち向いてホイをしながら言った。

「話を戻しますと、独立に伴って我が校は連邦生徒会との取引を停止しました。そして、連邦生徒会が供給していた各校に新しい供給線を構築することになったのです」

ソウヤは説明を続けた。

これまで、学園都市キヴォトスで弾薬、銃火器を入手するには連邦生徒会の供給か非合法な手段を使うのどちらかであった。

独立後、連邦生徒会の供給では解決出来なかった迅速な輸送や各校で異なる品質要求に対応する等の条件付きで、デウス・エクス・マキナ工業高校は各校別に自治区の土地を借りて工場を建築した。

もっとも、各自地区に工場を置いて需要に対応する計画自体は過去幾度も実行されある程度の進捗はあったため、いきなり移行したと言う事もなかったが。

「キヴォトスには数千と自治区がありますし、連邦生徒会から受け取る形を固守する学園もありました。そのため、各校が申請する形をとっていたのですが、まさかこの様なことになっているとは想定しておらず…」

頭を下げて謝罪するソウヤにアビドス組は沈黙していた。

特にホシノは思うところがある様で、眉をわずかに歪ませる。

「今日、来た理由はそう言った事情からだ。アビドス高校は連邦生徒会の供給利用。そのはずの学校から連邦捜査部を介して要請が来た。そして、いざ来てみれば校舎が不良生徒に襲われていた」

ムサシはシロコの頬をつねり、左右に伸ばした。

「メリンを手助けして、いざ間抜け顔を拝もうと思ったら、獲物を見つけた猛獣の様に襲い掛かられるし」

「ん、痛い」

シロコがムサシの手を振り解くとムサシは謝りつつ、頭を撫でた。

「いずれにせよ、弾薬銃火器やその他についてもこちらは対応する。そうだろう、ソウヤ」

「現地生産が出来ないとなると、多少割高になると思いますが…商務部と財務部がなんと言うか…」

ソウヤは頭を抱えて左右に振る。

商務部は自治区内外の取引や売買を、財務部はデウス・エクス・マキナ工業高校の財政を管理しており、この二つの部署は赤字商売を容赦なく切り捨ててきた強敵だ。

現状、自治区面積も学園規模も極小かつ財政的にも問題を抱えているアビドス高等学校では、承認印以前に書類をシュレッダーにかけられて終わりだろうと思われた。

「なんとかならないでしょうか?」

ショウカは目線の先に座る、業務に追われる先輩と似た空気を生み出しているソウヤに問いかける。

「今はなんとも…開発部と製造部に声をかけてみるしか…」

脳内で幾多もの案が浮かんでは消えているのだろう。ソウヤの発言は、自分自身に言い聞かせている様にも見えた。

そんな中、前進を続ける会話を遮断する声が響いた。

「ちょっと待って!お金取るの!?」

「まー、商売だしねぇ。だよね?ソウヤちゃん」

「ええ、まあ…」

セリカの言葉にソウヤは再び困り顔になる。

「ホシノ先輩!私達には借金があるのよ!その上、弾薬の代金なんて…」

「ん?」

「"ん?"」

ショウカと先生は寸分違わぬ動作とタイミングでセリカに視線を向けた。

「あっ」




遅くなってしまい、申し訳ありません。
どうしても、理屈付けしたかった弾薬周りの部分です。かなり乱雑になっていると思いますが、連邦生徒会とカイザーコーポレーション周りを考えると「こんな感じかな?」と考えた次第です。
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