掌上世界   作:ツバメボール

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第8話 セリカ救出作戦

UH-60の編隊が散開し、各々の捜索ルート上を沿うように飛行を開した。

先生とショウカの乗る一号機は、隊長機を務めているため情報が逐次入ってくる。

ホシノ、シロコの乗る二号機、ノノミ、アヤネの乗る三号機、他四号機から六号機までが今回セリカ救出作戦に投入された機体であり、シャーレ保有全機であった。

「本機は方位300度から0度を担当します」

操縦を担当している生徒からインカムを通じて報告が届いた。

ヘルメット団の拠点と思われる廃工場を指点として、六方位に分けて偵察を行う事になっていた。

(下は完全に砂漠だなぁ…)

一面に広がる黄金色にショウカは凝視していた。

地上から見たアビドス自治区と空から改めて見るアビドス自治区の違いはD.U.区が見慣れた光景だったショウカにとって新鮮なものだった。

地上からは、見ることのできた建造物が上空からでは殆ど確認出来ない。

ともすれば、自位すら見失いかねない危険な景色にも感じられるが、UH-60は引かれた線を引くように安定した飛行を見せている。

(メリンさん…絶対に…待っててください!)

砂海の景色の遥先、廃校寸前の高校の正門に仁王立ちしているであろう同じ所属の先輩の勇姿を思い浮かべながらショウカは歯を食いしばった。

「先生のサポートをお願いします」

心中にその言葉がこだまする。

「先生、私たちの機体以外がセリカさんを発見した時の集結と攻略法を共有しておきましょう」

「"…!。そうだね、みんな聞いてほしい"」

二、三号機に乗るホシノ、シロコ、ノノミ、アヤネの四人と各機長に通信を継なぐ。

「"ルート上にセリカを発見した場合、発見機は一度距離を置いて待機。残り全機は直ちに集結して、四から六号機は前面に展開して圧をかけて。私たちは直ぐに降りて後方から奇襲する"」

先生の説明にシロコがある提案をした。

「ん、先生。私とホシノ先輩は上空から攻撃する」

「うへ〜。シロコちゃん大胆だね〜、いいよ〜」

二人は、前向きだったが先生は少し考え込んでいた。

3機で揺動をかける間に認識外から奇襲するとは言え、後一手ほしいのは事実だ。しかし、上からの奇襲は順序が狂えば崩壊の可能性がある。

何よりも、生徒に危険を背負わせたくはないとの思いの強い先生にとって、必要の度を超した博打は打ちたくはなかった。

安定か冒険か、その答えを出す決定的な力はショウカから提供された。

「先生、以前メリンさんから言われた事があります。『奇襲には何重にも積み重ねられた挑戦が必要だ』と」

「"挑戦…うん…やろう。シロコ、ホシノ頼んだよ!"」

「ん、了解」

「おっけ〜」

力強く答えた先生にシロコ、ホシノも同様に決意ある返答を返した。

次いで、先生は先の決定とは全く異なる判断を下した。

「"作戦変更!二号機は上空にて二人を降下、三、四号機は一度着陸。アヤネは四号機へ、ノノミは降りずに三号機は即時離陸。五、六号機は揺動。以上!"」

「待ってください!それでは、ホシノさんとシロコさんが孤立する上に、ノノミさんの火力を完全に殺してしまう事に───!」

ショウカが先生に言いかけた時、五号機から緊急通信が入った。

「大型車発見!周辺にバイク煙と思しき痕跡複数!目標の可能性大!位置、廃工場より方位95度、距離12000メートル!」

「"全機、作戦開始!五号機は距離をとって偵察続行、一号機到着後は交代!二号機以下は通達通りに!"」

「了解!」

四人と各機長は同時に、先生の指示に返答し動き始めた。

「先生!」

揺れ動く機内でショウカは可能な限りの声量で怒鳴った。

このままでは、作戦はうまくいかない。ホシノ、シロコを失うと言うことは、メリンとアビドス高校そのものを失う事を意味する。

戦力も時間も失う事は一切許されず、最短で攻略しなければならないとはいえ、あまりにも博打過ぎた。

「"大丈夫、ショウカ。私を信じて"」

日常の優しさと温かさを兼ね備えた表情とは異なり、湧き出てくる自信と可能性の高揚感に満ちた表情の先生は、ショウカにとって力強さと共にそれと異なる危険性を感じざるおえなかった。

だが、ショウカはその危険性を訴える事はできなかった。

眉を歪ませショウカは決断した。

「分かりました!私は作戦に従って後方から攻撃します!」

「行くぞ、捕まってろ!」

機長が叫ぶと、二人の乗るUH-60は五号機の報告位置へ急行する。急速に高度を落としながら。

外の景色が下から上へ猛然と動く中、ショウカはベレッタM9A1の弾倉を確認する。

いつの間にか、景色は前方から後方へ高速で移動している。砂の海に密着する様な高度でUH-60は進んで行く。

五号機と合流した六号機は連携して揺動を続けているらしく、空に黒い点が複雑に混じり合う。

「こちら五号機!車列は完全に停止した!」

「"ありがとう!"」

五、六号機の機長に先生はお礼を送る。

一から四号機の一連の行動が成功するかは、この二機にかかっていた。

極低空を飛行する一号機と同じ行動を取る機体が二機ある。

ノノミ、アヤネの乗る三号機、アヤネが乗り換える四号機だ。

特にこの二機は一号機以上に着陸脚を引きずりかねない程の高度であると共に両機とも接触せんばかりの間隔で飛行を続けている。

「あのバカども…頭のネジが数本飛んでやがる」

機長がそんな事を呟くのをショウカ達は聞き取るが、苦笑せざるおえなかった。

元々、メリンが連邦生徒会から勝手に拝借してシャーレ所属にした六機だったが、操縦桿を握る生徒たちは粒揃いの様だ。

アビドスの砂漠をものともせず、むしろ自分達の技量を思い知らしめるかの様に飛行を続けている。

「もう間も無く!準備しろ!」

「はい!」

一号機、三号機、四号機が一気に減速をかけてホバリングへ移行する。

「"ショウカ、頼んだよ!"」

「はい!」

ショウカは力強く返答し、UH-60のハッチを開けて飛び出した。

「こちら二号機!降下準備良し!」

「三号機、離陸準備よし!」

「四号機、準備よし!」

その報告を待っていたかの様に先生は指示を出した。

「"五、六号機は車列を掠める様に三、四号機方向へ移動!二機が車列通過後、シロコ、ホシノ降下!ショウカは車列後方から攻撃して二人の援護!ノノミは三号機に乗ったまま火力支援!アヤネは四号機と共に戦闘サポート!"」

(ガンシップ!)

全力で車列に向かうショウカは先生の意図を察した。

圧倒的な火力を提供する代わりに機動力の低いガトリングを使用するノノミは、基本的に固定砲台的運用が限度だった。

先のヘルメット団前哨基地攻略戦でも、あらかじめ先回りさせて誘導する事でその火力を発揮させている。しかし、UH-60の機動力があればそれは飛行する砲台へと化させることが出来る。

「いくよ〜」

前方では既に銃撃戦が開始されている。

悲鳴と怒号が響く中、ショウカも愛銃を手に一人一人に正確な射撃を叩き込む。

「"ノノミ、ヘルメット団の車両の足を破壊して!"」

「分かりました☆」

ハッチを全開にした三号機は横腹をむけて車線を確保する。ホシノ、シロコが戦闘しているのは中央のトラック付近。外縁のバイクは射撃しても問題は無い。

ノノミは、正確にバイクを破壊してゆく。三号機はまるで横腹から火炎を吐き出しているかの様だ。

地上のバイクと近くにいたヘルメット団達は三号機の吐き出す業火に次々と飲み込まれてゆく。

上方、後方、航空支援の三方からの種を変えた攻撃に明らかに対応出来ていない。特に敵中突撃したホシノとシロコはアヤネの適切な支援のもとで戦闘力を失わず存分に力を発揮している。

既にシロコに至ってはトラックに取り付きつつある。

「ん、泣き顔のセリカ発見」

「な、泣いてなんかないし!」

シロコとセリカの会話が聞こえ、ショウカは無事である事に安堵した。

「せ、先生までいるの!?」

「"伊達にストーカーやってないからね!"」

(それは自慢にならないですっ!)

先生の言葉にショウカは内心でツッコミを入れる。

「"セリカ、助けた直後で悪いんだけど、急いでアビドスへ戻るよ!"」

「えっ、ちょ、ちょっとくらい休んじゃダメ!?」

全く事情を知らないセリカは先生達が焦っている事に理解が追いつかず、若干取り乱し気味であった。

「こちら二号機!廃工場から戦車を含む多数の影が出現!戦車は識別に無い奴だ!」

「"了解!一、三、四号機は着陸。全員を乗せて撤退!"」

「ちょっと待って!あいつら倒さなくていいの!?」

「まぁまぁ、セリカちゃん。事情はちゃんと話すから」

セリカのことをホシノが宥めつつ、超低空飛行の3機に各々乗り込む。ショウカが一号機へ、シロコが三号機へ、セリカとホシノが四号機へ乗り込み、一斉に離陸した。

「これでも、くらえ!」

ショウカは、カバンから特製集束手榴弾を二個程投擲する。

初弾はあらぬ方向へ飛んでいって爆発したが、二発目は運良く戦車の天板部にくっついたらしく、轟然たる爆音が響いて黒煙が上がっていた。

ヘルメット団達は一撃で戦車を破壊された事が衝撃だった様で、唖然とした様子で炎立ち上る戦車だったものを見つめていた。

 

離脱した先生達は、二号機を偵察隊として先行させ、一号機を先頭に最高速度でアビドス校舎へと向かっていた。

「つまり、今メリン先輩が一人で襲撃して来た奴らと戦ってるってこと!?」

「そうなるね〜」

「流石に無茶が過ぎるわよ!」

「ん、だからセリカを急いで回収した」

事情を十分に聞いたセリカは、血相を変えながら叫ぶ。

メリンとの通信が切られた時刻から67分が経過している。戦闘が始まった正確な時間がわからないため、なんとも言えないがメリンが保証した60分の時間制限はおそらく間に合わない。

先行の二号機はまだアビドス高校を確認出来ていないらしく、連絡はない。

「どうするのよ!?ヘルメット団の前哨拠点を叩いた時と同じ状況じゃない!」

「いや、ソウヤとタカオは今回はいない」

「当然の様に言わないで、シロコ先輩!更に状況悪くなってるじゃない!!」

「"ごもっともだね…"」

苦笑いすることしか出来ない先生とショウカの耳にはセリカの声がよく聞こえた。

苦渋の決断で、メリン単独の迎撃を認めた先生だったが、セリカに正論で殴られているうちに徐々に気弱になり始めていた。

ただ、メリンの「柴関ラーメンを奢らせてあげる」との約束が先生の精神力を保たせていたと言える。

「ちょっと!もっと速度出ないの!?」

「無茶言わんでくれ!これでも限界一杯に出てる!」

ついにセリカは我慢に耐えかねて機長に問う。既にUH-60は、出しうる最高速度でアビドス高校へ向かっている。

機長としても、もどかしい状態だった。

「先生、着いた後はどうしますか?」

ショウカが先生に聞くと先生は少し考えて答えた。

「"まず、メリンが健在か否かだね。前者ならメリンに状況を聞きつつ連携。後者だと…兎に角アビドス校舎を取り戻そう。多分、メリンもそっちを望むと思う"」

先生の答えにショウカは疑問や反対意見を持たなかった。ショウカ自身、メリンであれば自身を助けに来る事よりも校舎を奪還死守する事を最優先と言う確信があった。

一歩引いて見れば、メリンを見捨てる事を容易に決めてしまっている時点で非人道的だと批判されるだろう。

理性を無くしてそんな決断をしたのか、理性的だからこその決断なのかは当事者達ですら分からなかった。

「どの方向から行きますか?」

「"うーん…理想は校舎側からだけど"」

ある程度の大筋が必要であるとは言え、情報が決定的に不足している。

メリンがどうなっているかでそもそもの前提が大きく変わってくる。

「"二号機、状況どう?"」

「こちら二号機。まだアビドス高校は見えない。もう少し待ってくれ」

先生が確認すると、二号機機長は間を置かず即座に返答した。

高度はそこまで高くないため、真下の景色はよく見えるが遠くの景色は見えずらい。

加えて、地上の砂が太陽光と相待って光り輝くため長い間凝視することが難しく、確認作業を手間取らせていた。

待つことしばし、広大な砂海と時々見える都市という孤島が視界に入っては出ていくのを繰り返す。

「こちら二号機、アビドス高校方面から爆発音らしき音を捉えた!このまま接近する!」

「"分かった。音以外には何かある?"」

「まだ分からない。だが、距離と音の規模的に相応な規模の爆発が何度も起きている様だ。銃撃戦の音とは思えない」

(どっちだ…どっちの音なんだ…)

ショウカは少しでも早くメリンを見つけるため、窓に顔を押し付けて目を見開いていた。

メリンが使用している謎の水柱なら爆音は鳴るが閃光はそこまで発生しない。一方で、単純な爆発物であれば水柱のそれと異なる閃光が発生するため発見は容易だ。

その答えは意外にも早く訪れた。

「こちら二号機、多数の人影と発射炎らしき閃光を確認!位置は正門前面!」

先生は腕時計に一瞬視線を落として、指示を伝えた。

「"了解!一、三、四号機はアビドス高校校庭に着陸、二、五、六号機は他三機が着陸している間なるべく相手の目を引きつけて!"」

「先生、搭乗の三機は相手の隊列をなぞる様U字に飛行してください」

先生の指示に修正を具申したのは戦闘中のメリンだった。

距離が近づいた事と、メリンが通信をしても問題は無いと判断したため、ようやくメリンと再開を果たした。

「メリンさん!」

「帰還をお待ちしておりました。皆さん、無事ですね?」

「当たり前じゃない!」

セリカが自身の健在を伝えるため、真っ先に返答した。

通信の向こうから阿鼻叫喚の声が断片的に聞こえてくる中、メリンは優しく答える。

「黒見さんが無事で良かったです。こちらの状況をお伝えします。足止めで現状を維持していますが状況は厳しいです。上空からの射撃で隊列を乱してください」

「特製手榴弾も使いますか?」

ショウカはカバンに残っていた集束手榴弾を取り出した。

先の戦闘で二発を使用したが、メリンからは三発貰っていたため、後一発残っている。

アビドスを襲撃している集団に装甲目標はいないが、うまく使えば巻き込めるだろう。

「そうですね、隊列前面に投げてください。なるべく後退させる様にお願いします」

「分かりました!」

近づくにつれて状態が鮮明に見えて来る。

メリンは正門部で鉄壁の布陣を敷いている様だ。

前面に大量の襲撃者集団を見据えて、例の水柱を幾重にも発生させて前進を妨げている様だ。

「─────!」

「んっ?」

「"どうしたの、ショウカ?"」

「あっいえ、今何か…いた様な?」

ショウカは一瞬、甲高い鳴き声の様な音とアビドス高校の校庭に大きな魚の影の様なものを見たが、瞬きをした次の景色ではその影は完全に姿を消していた。

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