掌上世界   作:ツバメボール

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第9話 闇市に転がるモノ達

便利屋68の面々が、作戦の失敗を確信したのは真っ白なヘリコプターが現れ、援護射撃を開始した瞬間だった。

「な、何が起こってるの!?」

「やっぱり…」

驚愕の表情を浮かべる陸八魔アルに比較して、鬼方カヨコは冷静だった。

「どうする?社長」

短時間で終わった射撃の後、カヨコはアルの状態を確認しつつ聞く。

想定外な事態に困惑と混乱が見られるが、依頼を達成する意思はその一切が失われていない。

「き、決まってるじゃない!このまま引き下がるなんてアウトローじゃないわ!!」

「何言ってるのよ!この恩知らず!!」

アルの決意は、怒り心頭のセリカに一蹴された。

再び銃撃戦が開始されると誰もが確信していたが、時報を告げる鐘の音によって構築されていた空気が破壊された。

「あ〜終わった、終わった」

「へ?」

傭兵の生徒達の間の抜けた声がショウカ達にも届いた。

「傭兵は高くつきますからね。特に、数を必要とする場合は」

メリンは僅かに口角を上げ、悪童の笑みにも似た表情を作り、一人呟いた。

「"メリン、怪我は無い?"」

「ご安心を。擦り傷一つなく健在です」

不安の混じる声で問う先生にメリンはその身の堅固さを伝えるかの様に力強く返答した。

先生は、メリンが無事である事を再び確かめ、安堵の表情を浮かべていた。

一方、対極にいるアルは三流悪党の様な台詞を叫びながら仲間と共に撤退していった。

「追撃は無用です。無理に追っても、失うものばかり大きくなってしまいます」

「"そうだね…みんな、追撃はしないで。一旦集まろう"」

集合指示にセリカやシロコは若干不服そうだったが、メリンに追加して先生にも指示されては従うしかないと考えた様だ。

「ひとまず、撃退には成功しましたが…」

「何か、懸念が?」

便利屋68ら襲撃者が撤退していった方向を見つめるメリンにショウカは質問した。

「いえ、今は休みましょう。流石に私も疲れました」

足取り重そうにメリンは歩きながら校舎に戻っていった。

その後を追いかけるショウカは、一度校庭を見渡して、小走りで校舎へ戻るのだった。

 

翌日、対策委員会部室では情報の整理とささやかな朗報が共有されていた。

「ようやく、補給面が改善出来ました」

デウス・エクス・マキナ工業高校からの正式な弾火薬及び銃火器の補給認可である。

同校の統括運用委員会委員長テンリュウは、アビドス高校の現状を鑑みて優先的な判断を下したのだった。

そして、今日がその第一便が到着する日だった。

「現金輸送車を見た生徒さんの顔が引き攣ってましたけどね…」

アヤネが苦笑いしながら言う。

補給車両がカイザーローンの現金輸送車の直ぐ後に来たため、受け渡しの光景を見られてしまったのだった。

「まぁ、これでやりくりがしやすくなったよね〜」

「でもいいの?『支払いは余裕のある時にでも』って書かれてるけど。何か裏があるんじゃ…」

セリカは首を傾げ、不安を述べた。

アビドスに対して行われるデウス・エクス・マキナ工業高校の厚意は、補給の優先だけでなく当面の支払い免除や減額、後払いを認めると言った細かな部分に及んでいた。

日常的に騙され易いセリカですら、この厚意には怪しさを感じる様だ。

「何かあったとしても、現状はこの厚意を受け取るしか無いでしょう。我々としては、裏にあるものが牙を向かない様に祈るしかありません」

メリンはノノミに言い聞かせる様な口調で言った。

「…取り敢えず、情報を整理しましょう。海風委員長の善意、悪意は目の前の問題を片付けてからです。奥空さん、お願いします」

アヤネに進行を委ね、メリンはタブレット端末を高速で操作し始めた。

「分かりました。では、まず昨日校舎を襲撃した集団についてです。ゲヘナ学園所属の生徒達で便利屋68と名乗っている様です」

「"便利屋68?"」

ゲヘナ学園所属の生徒達で組織された便利屋68については、メリンが事細かに説明した。

陸八魔アル以下4名の詳細から、ゲヘナ学園風紀委員会の対応まで実に細かな情報が共有された。

「すごく詳しいんですね」

「所属柄というのもありますね。こう言った各校の手配生徒情報に触れる事が多かったもので」

やや苦笑気味にメリンは言った。

「そう言えば、奥空さん。黒見さんを誘拐したヘルメット団の方はどうでしたか?」

「はい。そちらについても報告致します」

セリカを誘拐したヘルメット団はカタカタヘルメット団の残党であったが、対空砲等の重火器を装備していたことが共有された。

また、ショウカが収束手榴弾で破壊した戦車についても現場にいなかったメリンに伝えられた。

「確かに、見ない型式ですね。全景は、クルセイダー巡航戦車に似ている様ですが、連装砲等異なる点が多くあります。トリニティ総合学園ではこの型式は使用していません」

アヤネが撮影していた遠景の写真を見ながらメリンは断定した。

「この戦車は何処から出てきたのでしょうか?」

「トリニティ総合学園が新型を開発中と言う情報も無いはずですから、表立って製造されたものではないでしょう。加えて、ヘルメット団が有していたことを考えれば、ブラックマーケット辺りではないでしょうか?」

ショウカの疑問にメリンは然程の間を置かず答えた。

「"ブラックマーケット?"」

「連邦生徒会が管理出来ていない無法地帯です。各学園から様々な理由で離脱した生徒達が集団を形成し、更に一般には流通出来ない物品の取引等も行われています」

「わからないことが多い以上、実際に行ってみるしかないんじゃないかな〜」

ホシノの発言にその場の一同は即答せずに互いの言葉を待った。

「良いと思いますよ」

「メリンさん…」

「いつまでも守勢では、状況は好転しないでしょう。相手を知る事は、些細な事であっても無駄にはなりませんから」

メリンの言葉が決定的となり、ショウカ達は出発の準備を開始した。

 

先生、ショウカ、ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカのいつものメンバーで構成された遠征組は、ブラックマーケットの規模に圧倒されていた。

「メリンさんは、『エスコートをお願いした』らしいですが、それらしい人は居ませんね」

「"早く来すぎたかな…"」

校舎残留組のメリンは、ブラックマーケットに向かうにあたって同地に詳しい生徒に案内を要請していた。

だが、何か問題があったか、早く到着しすぎたのかそれらしい生徒はまだ居なかった。

「どうしましょう?」

「この辺りちょっと回ってみる?」

「勝手に動くのは…」

今後をどうするか話し合っていると、聞き慣れた音が耳に届いた。

「銃声?」

音の方向へ視線を向けると、特徴的な制服の生徒が不良集団に追いかけられていた。

「あれ?こっちに…」

「うわぁぁぁ!」

ショウカは、追われていた生徒とぶつかって転んでしまった。

「ご、ごめんなさい!」

「丁度いい!!そこのお前ら、そいつ抑えとけ!」

仲間、あるいは同業と考えたのか、不良生徒達は囲い込む様な姿勢を取る。

追いかけられていた生徒は若干涙目になりながらも、この状況をなんとかしようと必死に思考している様だが、良策は浮かんでいない様だった。

「うーん」

ホシノがわざとらしく言うと、シロコとノノミが不良生徒に近づいていった。

二人は、即座に不良生徒を制圧すると残りの不良生徒へ突っ込んで行った。

「援護するわ!」

「やめろ!ここで撃つな!!」

セリカが援護のためにアサルトライフルを構えるが、何処からか怒鳴り声が響き発砲せずに終わる。

変わって現れたのは、空から降ってきた三人組だった。

新たに現れた三人はシロコ、ノノミと共同で不良生徒達を瞬く間に制圧してしまった。

「待たせた」

「タカオさん!?」

新たに現れたのは、以前に誤認によってシロコと殴り合いをしたタカオだった。

「もしかしてブラックマーケットのエスコート役って…」

「ああ、私だな」

当然だと言いたげな表情でタカオは腕を組んだ。

「タカオ課長、マーケットガードは揺動隊に釣られました。しばらくは大丈夫でしょう」

報告を上げた生徒にタカオは頷き、事後処理を粛々とこなしている間、追いかけられていた生徒がショウカに声をかけていた。

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったらどうなっていたか…」

「無事で良かったです。その制服…トリニティの生徒さんですよね?どうしてこんな場所に…」

「あはは…その…こっそりと抜け出して来まして…」

追いかけられていた生徒こと阿字谷ヒフミは、苦笑いなのかわからない表情を浮かべ説明した。

その内容にショウカは、引き攣った笑顔を浮かべていた。

 

ヒフミが一通りの訳を説明し終えるとタカオは困った表情で呟いた。

「理由は…まぁ、分かったことにしよう。だが、ここは危険だ。一人で行動させる訳にもいかないが…」

「護衛をつけるとしても2、3人が限界です。無事に送り届けるには些か無理があります」

「分散させすぎたな。まさか、ここで困る事になるとは…」

マーケットガードの揺動やその他にも人員を割いていたらしく、ヒフミに護衛をつけてトリニティまで送り届ける程の余裕は、タカオ達には無い様子だった。

「まぁまぁ、それならヒフミちゃんも一緒に行動した方が安全だよね〜」

「ん、確かに」

ホシノの提案にシロコが頷く。

アビドスとシャーレの力があればヒフミを無事にブラックマーケットから外へ連れて行けるだろうと、二人は考えていた。

「一理あるが…トリニティの制服は目立つからな、大丈夫だろうか?」

「大丈夫だと思います。話を聞く限り、何回か来ている様ですし」

「それは、『顔を覚えられている』と言うのだが」

呆れた口調で首を横に振るタカオに、先程報告をするために来た生徒が考えを述べた。

「一応、シャーレの顧問と補佐官も付いていますから、マーケットガードにさえ注意すれば問題は無いと考えます」

「マーケットガードってそんなに危険なの?」

セリカが気になっていた事を問うと、タカオは頷いて説明した。

「マーケットガードは、ここの治安組織みたいなものだ。ただし、そこらの治安組織と違って違法物品で完全武装した連中だからな。しかも、話も通じないとなれば、どれだけ危険かは理解出来るだろう?」

「逆に言えば、そんな武装集団が跋扈する場所に単身来ているヒフミさんがどれほどの勇者かも理解できるかと」

「なるほど…」

ショウカ達は説明を受けて、ブラックマーケットの危険性を改めて認識すると共に、ヒフミの無鉄砲ぶりを理解した。

「あはは…ところで皆さんは何故ブラックマーケットに…」

話題の中心になっている事に耐えかねたのかヒフミが言う。

「探し物のためかな〜。ヒフミちゃんとそこまで目的は変わらないかもね」

「ペロロと違法物品を同一扱いするな。違法物品に失礼だろう」

「そっちが失礼になることあります!?」

唐突に始まった悪ふざけにショウカは頓狂な声を出した。

「まずは例の違法物品が何処から流れて来ているかだな。一通り見回れば見つかるだろう」

タカオはタブレットを確認して、通りの奥の方へ指を向けた。

「うへ〜おじさんには辛いな〜。誰か背負って欲しいな〜」

「何言ってるのホシノ先輩!さっきまで平気な顔して歩いてたじゃない!」

楽をしようとしたホシノの策はセリカによって最も容易く失敗してしまった。

 

「あの、タカオさん」

「どうした?」

幾つかのチームに分かれてブラックマーケットを見回っている中、ショウカはタカオに声をかけた。

「タカオさん達は、何故エスコート役を引き受けたんですか?アビドス高校はまだしも、私や先生は連邦生徒会の関係者ですよ?」

「特段、理由は無い。上から言われてやっている事だ。まぁ、強いて言うならば奴に借りがある程度だが」

タカオは淡々としつつもやや苦々しげに答えた。

明言しなかったが、「奴」が指す人物をショウカは察していた。

「その…奴なんですが、そんなに凄い…と言うか、手強い人物なんですか?」

「私は、これでもそれなりの場数を踏んできた自負があるが、あそこまで性格が悪いのは見た事がない。現に、ここの案内と護衛を頼んだと思ったら本人は出てこないからな」

随所にため息を混じらせながらタカオは言った。

怒りよりも呆れを感じさせる口調であり、タカオにとっては想定していたが実行されるとは思っていなかったのだろうとショウカは推測した。

「"アビドス校舎の防備に注力してもらってるから…"」

聞き耳を立てていた先生が、本人の名前は伏せつつ答えた。

今回、同行していないアヤネとメリンは再びの便利屋68や傭兵、ヘルメット団残党を警戒してアビドス校舎の防備強化に当たっている。

だが、アヤネはオペレータとしても動かねばならないため、メリンが主だって対処しているのが現状だった。

「チンピラ相手に仕掛けた罠を殆ど使ったのが悪いのですよ。少なくとも以前であれば奴単独でも余裕で撃退出来た」

先生への返答のため、タカオの口調は幾分か柔らかかったが、言葉の節々からは非難とも感じられる空気が漏れていた。

「タカオさんは、確信があるんですか?」

断言しきるタカオの自信の出どころが気になったショウカは疑問を投げかけた。

「無ければこんな事は言わない。戦闘は苦手と言いながら一歩も動かない様な奴だからな」

ショウカもこれまでの戦闘を思い返すと、メリンは基本的に後方支援を担当して突破口を作る役割に終始していた。

便利屋68の時などは緊急事態であったため、例外ではあるがそれでもメリンは機動的な闘い方はしていない。

「まぁ、あんな事が───」

言いかけたタカオの発言を遮ったのは一つの通信だった。

「タカオ課長、直ぐに来ていただけますか?」

その声は、先にタカオと共に救援に駆けつけてくれた生徒だった。

ホシノ、シロコ等と別グループを形成して案内をしていたはずだが、その声には焦りの様なものが感じられた。

「何かあったんでしょうか?」

「わからない。行ってみるしかない」

ショウカはタカオと頷き合い、先生を引っ張って指定場所へ向かった。

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