2014年当時、アメリカ陸軍は混乱の最中にあった!
「うおおおおおおおおパワー!!」
「オレが!オレこそが!マイティーソー!」
「悪ならぬ呪いを打ち砕くヒーローはオレさ!」
「フォースを感じる・・・。」
「おい、上の連中は何時からコスプレイヤーを雇ったんだ?」
「大佐、現実を見てください。空想の様ですが、これが今の我々の現実なんです。」
埋め込んだベルトによりカースを身に宿し、超人的な力を発揮できるようになった者達、即ち呪術師。
エリア88で行われた研究により、ある程度安定して呪術師を量産できるようになったものの、その運用に関してはまだまだデータが揃っていないのが現状だ。
亡命してきた研究者の情報によれば、某国では密かに国中で呪霊や犯罪者となった呪術師、即ち呪詛師の祓いや捕縛又は殺害が主な任務だが、その支援体制はお世辞にも盤石なものではなかった。
人的資源が少ないというのもあるが、呪術師同士で任務に託けた妨害や暗殺が横行しているらしく、とても参考になるものではない。
全く嘆かわしい事だが、前時代的制度が今も狭い業界で運用されているのだから仕方ない。
そこでアメリカとしては国情にあった呪術師の運用体制、それも通常戦力との連携はどう行うべきかという前代未聞の課題に対し、アメリカ政府首脳はこう考えた。
「実際に運用してみてデータを取るしかあるまい。ついでに呪具の実戦運用データも頼む。」
秘技、現場への丸投げ!
そうするしかないと分かるのだが、投げられた現場の大佐はF○○k!とホワイトハウスの方へ向けて呪詛を放った。
「で、実際問題どうなんだ連中の性能は?」
「多少の個人差はありますが、どいつもこいつも凄いですよ。何せ全員がデッドリフトで1tを超えてます。パルクールもまるで猿みたいです。」
「確か公式の重量挙げ世界記録が約500kgだったか・・・?」
「最大時速は最低でも時速60km、耐弾性も5.56mm弾のフルオートに耐えます。対戦車ロケットの直撃は無理のようですが、超能力次第では迎撃や防御は十分可能だそうです。」
「人間サイズでそれなら一級の術師やカースゴーストの相手は戦車じゃキツいと言われる訳だ。成程な、確かにこれでは術師に頼らざるを得ない。」
呪霊はそもそも物理攻撃が通じず、呪力でしか祓えない。
完全に消滅させるには+の呪力が必要であり、祓って非活性呪力に戻すにも術師頼りになってしまう。
呪力の満ち溢れる日本で生き残るには、どう足掻いても術師の力を知ってか知らずか頼る事になる。
その事がデータだけでなく、実感としてアメリカは知る事となった。
その上で、彼らは術師の効率的な運用方法を探っていく。
「やはり術師の投入は最後の最後だな。貴重な対カース戦力の消耗は可能な限り避けねばならん。」
「幸いにもカースを記録可能なカメラやゴーグル、スコープの調達は出来ています。カースゴーストのいる可能性のある場所には先んじて無人偵察機等を投入する等の支援体制を整えた状態で運用していくべきでしょうな。」
「あのメディカルバスタブのお陰で人員の消耗は抑制できているとは言え、慎重にいくべきだ。」
アメリカが研究しているのは何も軍事と発電だけではない。
電子顕微鏡よろしくコピー六眼を用いた呪力式顕微鏡や天体望遠鏡のみならず、治療用浴槽型呪具の利用と+の呪力に関する研究、術師の効率良い繁殖方法、呪具ベルトやケモ耳呪具を装着した者達の変化を記録する経過観察、それらで得た研究データの他分野での応用やアメリカ社会への受け入れ体制の準備など、極めて多岐に渡る。
これも全ては次の時代、カースの利用を前提とした新たな社会構造に先んじて対応するためだった。
日本では呪術を隠匿する方針なので全く進んでいない分野だが、ならば我らアメリカこそが先んじて実現すると大統領以下閣僚関係者は大いに乗り気だ。
既に呪力発電や術師達という分かりやすい成果が出ている現状、彼らに止まるという選択肢は無かった。
「しかし、全米のカース災害を防ぐとなると、とても数百人では足りんぞ。」
「上もそれを分かってるから増員を急いでるそうです。そのためにも現場での運用方法の確立を命じたのでしょう。」
「OKOK、我々の苦労が後の我が国の利益となる事を祈りつつ職務に励もうじゃないか。」
こうして大佐殿は頑張って仕事をした。
特記戦力と言えども人間であり、その能力には限界がある。
常人とはその上限が桁違いというだけで、支援すべき項目に変更は無いと分かれば後は簡単だった。
しかし、如何せん人手不足だけは現場の努力ではカバーしきれない。
カース発電施設や政府重要施設、人口密集地におけるカース観測体制の充実により、露わになってきたカース被害の実態に焦りが募る。
だが、彼らのそれが爆発する前に、幸いにもアメリカは次なる装備を開発に成功した。
2015年、非術師の一般兵でも運用可能な対呪術用特殊機動重装甲、通称MA(Mobile Armor)の実用化である。
無論、全高3mの乗り込み式強化外骨格という海のものとも山のものとも知れないブツを如何に効率良く、既存兵科と連携して運用していくかはやはり現場に丸投げとなる。おF○○K!
大佐達の苦難は続くが、彼らの苦労は間違いなく米国が呪術先進国たる日本に追い付き、独自の呪術文化を獲得するための大きな一歩となるのだった。
「呪術師となった兵士達のその後の様子はどうかね?」
「は、当初の設計と予想通りの経過です。装着した呪具から神経系への接続以降、全身が徐々にですが強化されています。これはカース無しでも同様であり、既に一般的な米国軍人の数値を軽々と凌駕しています。また、脳内物質、特にアドレナリンの分泌量増加が確認されています。他にもカース使用時は脳及びベルトの演算ユニットの熱が上昇する事から活性化が確認されています。」
「問題だった人格面への影響はどうかね?」
「今の所、問題らしい問題は確認できていません。あくまで戦闘中に必要ならば自傷すら厭わないというだけで、日常生活に支障を来す程に破綻する兆候は無いようです。一応被験者らへの聞き取りやメンタルケアは重点的に行っていますが、この辺は一般的な前線の兵士達とそう変わらないようです。」
「よろしい。大いによろしい。つまりだ、今後我が国がカースを身に宿し、公的に利用する事は特段問題は無いという事だね?」
「はい大統領。ただし、呪術師となった関係者の子供達に関してはまだ満足なデータは取れていません。」
2007年に例のオブジェクトが米国に渡って以降、研究は続けられ、既に7年近い年月が経つ。
どんなに速くてもその翌年から産まれ始めた術師の素養を持つ子供達のデータは統計を取るには些か以上に数が足りていない。
それでもある程度参考となる数値が揃うだけの状況は出来ているのだが。
「やはり各種身体能力が同年代の平均値より秀でる傾向にありますね。」
「とは言え、未だ普通の人間の範疇です。これが単なる個人の先天的才能なのか、カースが関係しているのかまでは断言できません。」
「何、結論を急ぐ必要は無い。ここまで来れば結果は自ずと出るんだ。あらゆる問題を見つけ出し、対策していくだけさ。」
2014年、米国は表社会のみならず、遂に呪術界隈ですら急速に発展を始めていた。
「所で博士への結婚の斡旋はどうなっているかね?」
「用意していた候補の一人が接触、徐々に進展しているそうです。」
「ふむ、ならばゆっくり待つとしよう。博士も忙しい身だし、プライベートとの両立は難しいだろうからな。」
序でに万穂2号へのロミオトラップも進行していた。
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2011年3月11日、東日本大震災の発生から東日本一帯を中心として起きた未曾有の呪霊災害により、大気中の非活性呪力の密度と分布域は風車呪具による記録開始以降、最大値を更新し続けた。
2014年現在、幸いにも沈静化はしたものの、その際に溢れた呪力は消えた訳ではない。
風車呪具ですら消費しきれない宮城県全域の過剰な非活性呪力の殆どは万穂が故郷と家族他身内防衛用に残しておいた1000体もの自律型蜂式神(予備が常時500体あり)によって回収され、それらの強化に回された。
結果、女王個体と言える式神を生み出す式神は特級レベル、親衛隊用の個体は一級、それ以外の一般的な個体は準一級レベルにまで強化された。
しかし、これでは燃費も悪いし、何より使い捨てるには少々勿体なくなってしまった。
そこで一般個体は元の二級レベルに戻し、そうして残った呪力を万穂は別の事に使う事にした。
「よっと、これで完了。」
女王個体の潜む仙台市に程近い山中の地下に、とあるブツを複数仕込んだ万穂は額を伝う汗を拭うと登ってきた山道を戻っていく。
この山は仙台市中心街から程近い位置にあり、常日頃からハイキング客がよく来る場所だ。
仙台市を眺められるため、市内を中心とした宮城県全域の呪術的治安を維持する自律型蜂式神の拠点としては最適な場所と言えた。
「お、終わったん?」
「うん、待たせてごめんね。」
「えぇてえぇて。他にも気になる事あるんやろ?ほな次の用事をしにいこか。」
山道の下で待っていた直哉と合流し、次の目的地へと向かう。
次の目的地は以前から観測していた仙台市内の特異点、呪霊ではないが幾度か人間に危害を加えている怨霊とそれに憑かれている少年の家だ。
本当なら自宅を特定されていると思わせないように学校や通学路に行くべきなのだが、如何せん巻き添えが出る可能性は低くすべきだ。
それ程に対象から観測された呪力量は凄まじく、あの五条悟に勝る事が確実視されている。
例え妊娠状態というデバフがかかっているとしても万穂が負けるとは思えないが、何分相手が相手だし、直哉が同行を強行に主張したのだ。
まぁ今日の最重要の用事は万穂の両親に初孫の顔を見せる事なので、直哉と息子の直喜と共に実家に顔を出し、直喜を預けてちょっと登山をしてきた帰りとなると、一般的な学生はもう下校して帰宅している時間だった。
人口密集地である仙台ならば夜遊びする学生も多いだろうが、生憎と対象の少年はそうではなかった。
補助監督らに事前準備をお願いしたため、対象の少年の家族は一晩だけ出掛けてもらっている。
戦闘行動は避ける予定だが、もしもの場合に備え、こうして夫婦とは言え特級術師が二人も動員される事態となった原因の少年は今、遠方からの監視で自宅にいる事が確認済みだ。
「じゃ、いこっか。」
「乙骨憂太君やったっけ?また大層な境遇の子やなぁ。」
後に現代の異能とすら呼ばれる特級術師、乙骨憂太と呪術界が公式に初めて接触する事となるのが今日だった。