「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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まずは謝罪を。
投稿が遅くなってしまいすみませんでした。
活動報告で投稿ができなかった理由を言いましたが、その報告で「投稿再開」や「続きを鋭意制作中」と言ってから2週間近く経ってしまいました。
本当にすみませんでした。

さて、お久しぶりですね。続きを書けたので投稿します。
久しぶり過ぎて書き方を忘れている部分もあってだいぶ遅くなってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです。

感想や誤字報告、評価など、いつもありがとうございます。


夜明けと始まり

 

朝日が空の彼方から昇ってくる。

悪夢の夜に閉ざされていた見滝原の街に、太陽の光が差し込んだ。火柱と絶叫に溢れ、いくつもの破壊の痕が刻まれた姿が徐々に露わになっていく。

 

生き残った見滝原の街の人々は朝の陽ざしに照らされ、新たな一日を迎えようとしていた。

 

しかしそれは、更なる波乱の幕開けでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の中を多くの人が行き交っている。しかし、それはずっと変わらないと思われていたいつもの日常とはかけ離れた光景だった。

 

建物が崩壊し、道を瓦礫が塞いでいる。その下敷きになっている車も街のあちこちに散見された。

瓦礫が撤去され、比較的スペースを確保された大通りにはいくつもの緊急車両が行き交い、重傷患者の搬送や物資の運搬などが行われている。黒スーツ姿の人間や防護服を着た人間、迷彩柄の制服を着た人間も忙しなく動き回り、瓦礫の撤去及び行方不明者の捜索作業に従事していた。

 

まさに嵐が去った直後という光景。しかし、災禍は未だこの地を過ぎ去ってはいない。

 

「うわぁ!?」

「な、なんだコイツは!?」

 

救助活動を行っていた自衛隊員が、半壊した建物の中で悲鳴にも似た声を上げた。そんな彼らの目の前にいるのは、鉛筆や消しゴムに細い手足とギョロ目が生えたような小柄な生き物たち。しかしそれらはただの不気味な生物ではない。魔女という主を失い、見滝原の街に散った使い魔たちだ。

使い魔は魔女と比べて大した戦闘能力を持たないが、それは魔女と戦って打ち勝てる魔法少女から見た評価だ。魔法は使えない上に、武装なんてしていない人間には熊以上に脅威でしかない。

 

瓦礫の奥から這い出してきた使い魔たちは、動揺する人間たちを見つけて醜悪な笑みを浮かべた。頬まで裂けた口からはヨダレが滴り、ぽたぽたとひび割れたコンクリートに跡を残していく。

 

やがて、一体の使い魔が無力な人間に襲いかかった。大きな口を開けて頭から丸呑みにしようと飛びかかる。

 

その次の瞬間、パンッと軽い音が鳴り響いた。それと同時に、空中に飛び上がっていた使い魔の額に風穴が空き、その場で地面へと墜落した。

襲われかけていた自衛隊員たちが音のした方へ振り返る。そこには、銃口から硝煙の昇る拳銃を握りしめた暁美ほむらの姿があった。

 

彼女は驚き固まる自衛隊員たちの間を静かに通り抜け、使い魔たちの眼前に立ちはだかった。

ハッと我に返った自衛隊員の1人がほむらに声をかけようと口を開きかける。それよりも先にほむらが口を開き、片手を横に伸ばして道を塞いだ。

 

「あなた方は下がっていてください。ここは私に任せて。」

 

ほむらはそう告げて、続々と群がる使い魔たちへと拳銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<暁美ほむら>

 

「__っ!」

 

照準を定め、引き金を引く。それを何回繰り返したか、もはや数えてはいない。

私の魔力の込められた弾丸が銃口から飛び出し、建物の陰に逃げようとしていた使い魔を撃ち抜いた。

今のが最後の弾丸だった。盾から次のマガジンを取り出しながら軽く周囲を見渡して近くに危険が無いかを確認する。どうやら、今のが最後の一体だったらしい。

安全を確保した私は、後ろへ振り返って声を掛けた。

 

「もう大丈夫です。この辺りに潜んでいた使い魔は全て討伐しました。」

「助かった。君が来てくれていなければ危ない所だった。」

 

私の声に応えたのは、30代半ばといったところの黒スーツの男性。その彼の後ろには肩口から血を流している若いウィッチハンターと、彼を介抱する女性ウィッチハンターがいた。

この3人は、この辺りで発見報告のあった使い魔の対処に当たっていた特異課所属のウィッチハンターだ。どうやらさっきの私が倒した使い魔の群れと交戦し、内一人が重傷を負ってしまったらしい。重度の人手不足で協力を依頼されていた私はあちこちの現場を飛び回っていて、それで偶然彼らの近くにいたため、こうして救援に駆け付けたという訳だ。

 

「君は治癒の魔法は使えるか?もし可能なら、彼の傷を癒してやってはくれないか。」

「得意という訳ではないですけど、止血程度なら可能です。」

「すまない。頼めるか?」

「気にしないでください。困った時こそ助け合いですから。」

 

どの口がと言いたいほどに使い慣れていない言葉を吐きながら、不甲斐なさそうに頭を下げる彼の顔を上げさせる。大方、ウィッチハンターであるにもかかわらず、守るべき子供である私のような魔法少女に助けられている現実に悔しさを感じているのだろう。私は別に気にしないし今更感があるのだが、この時間軸の魔女と戦う大人達は責任感がとても強いらしい。

そんなことを考えながら、負傷しているウィッチハンターの傷に魔法をかざし、傷を癒していく。こうしてみると、やはり彼らは特別な力を持たない普通の人間であり、魔(・)人(・)達(・)が(・)上(・)層(・)部(・)か(・)ら(・)の(・)命(・)令(・)で(・)撤(・)収(・)してしまった今の状況では、使い魔を相手にすることさえ難しいようだ。私としては、いくらまどかの身の安全が第一とは言え、無意味な犠牲が増えるのは本意ではない。だから、魔人達の力が借りられない今の彼らには現場から離れて別の仕事をしていて欲しい所だけれど……危険を承知でこうして現場に出てきているのは、魔女や使い魔の対処法を熟知している数少ない人間として、責務を全うしようとしているからなのかもしれない。

 

その時、私が駆け付けてきたのと同じ方向からスーツ姿の女性ウィッチハンターが飛んできた。あの超人的な身体能力からして、特異課勤務の元魔法少女だ。彼女は止血中の私に近づいて声を掛けてきた。

 

「お疲れ、暁美さん。ここは私に任せて、あなたは戻って休んでていいわよ。」

「良いんですか?今は”魔人達が全員撤収”してしまって、どこも人手不足なんですよね。私が抜けて大丈夫なんですか?」

「たしかに人手は足りていないけど、子供に無理させるほど落ちぶれちゃいないわ。大分落ち着いてきてもいるしね。それに、あなたもそろそろ回復しておかないと危ないでしょ?ほら、”これ”で魔力を回復させて。」

 

彼女はそう言うと、「支給用」とラベルの貼られたグリーフシードを私に差し出してきた。確かに、そろそろソウルジェムを浄化しないといけないくらいには黒く濁ってしまっていた。

私は「ありがとうございます。」と礼を言って受け取り、ソウルジェムを浄化していく。

黒く濁っていたソウルジェムにアメジストのような輝きが戻っていく。その様子を眺めながら、私は他のウィッチハンターにも尋ねて回っていたのと同じ質問を女性ウィッチハンターにもしてみることにした。

 

「すみません、一つ聞きたいことがあるんですが……。」

「ん?何か気になることでもあった?」

「はい。……マキマ__さんは、今はどこにいるんですか?」

 

浄化中のソウルジェムから視線を上げて、女性ウィッチハンターの表情を窺う。

すると見えた彼女の表情は”ある意味”想像通りで、返って来た答えは期待外れの物だった。

 

「ごめんなさい、私もあの人がどこで何をしているのか分からないの。何か話しておきたいことでもあった?」

「いえ。ただあの人は、私の通っている学校の先生でもあったので、ちょっと心配になっただけなので。」

「そっか、あの人、今はこの街の先生として潜入調査してるんだっけ。相変わらず型破りなことする人ね。ま、マキマさん程の人なら大丈夫よ。」

「そうですか。……ありがとうございます。」

「いやいや、ごめんね。私もちゃんと答えられなくて。」

 

申し訳なさそうに謝る女性ウィッチハンターの謝罪を愛想笑いを浮かべて受け取りながら、頭の中では今の状況に対しての疑念が雪のように徐々に積もっていっていた。

 

(誰に聞いても、マキマの居場所がつかめない。それに、魔人達が急遽本部に撤収したことも気になる。現場はこんなにも困窮しているというのに、特異課は一体何を考えているの?)

 

そんな思考を顔に出さないように気を付けながら考えていると、女性ウィッチハンターが私の肩を優しく叩いてきた。

思わずびくりと肩が震えたが、かけられた言葉は私を気にかけるようなものだった。

 

「そういえば、さっき避難所であなたのことを心配している子がいたわ。ピンク髪の女の子。ひょっとして、あなたのお友達?」

「ッ!はい。たぶん、そうです。」

「そう。なら顔を見せに行ってあげなさい。とても心配している様子だったよ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

 

私は短く礼を告げると、そのまま避難所となっている見滝原中学校の体育館まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどか。」

「ッ!ほむらちゃん!」

 

多くの避難してきた市民が体を休めている中で、見えたまどかの背中に声をかける。すると、まどかは不安そうにしていた目をこちらに向けて、見る見るうちに目尻に涙を溜めて私の呼びかけに応えてくれた。

立ち上って今にもこちらに走り出そうとしていた彼女の下に駆け寄って手で制止し、まどかの前に立つ。そして私が何かを言う前に、まどかは私の手を掴んで心配そうな瞳で話し出した。

 

「ほむらちゃん、怪我とかしてない?どこも悪いところとか無い?」

「まどか、落ち着いて。私は大丈夫よ。ほら。」

 

そう言って両手を広げて無事をアピールして、ようやくまどかは安心したように肩から力を抜いた。そのまま膝からも力が抜けそうだった彼女の身体を抱き留め、まどかが座っていた場所に再び座り直させた。

 

 

 

まどかを銀の魔女から逃がした後、残った私は魔女を倒して、すぐにまどかの後を追った。だけど、見滝原の街に戻った瞬間に多数の魔女に囲まれ、まどかを追うどころではなくなってしまった。

そして、空を無数の流星が流れ、街に溢れていた魔女達が謎の光によって一斉に貫かれるまで、私はイナリと協力して魔女をひたすら倒し続けていた。

 

まどかと再会できたのは、その後だった。魔女がいなくなって再びまどかを探した先で、まどかは廃工場の中で泣き崩れるゴーストを抱きしめていた。

まどかのことを託したはずの沢渡の姿は、どこにもなかった。

 

その後、救助に来たウィッチハンター達にまどかやゴースト、そしてなぜか一緒だった志筑仁美と共に保護された。だけど、魔法少女だった私は人手不足となったウィッチハンターの仕事を手伝うために、またまどかと別れて現場を駆け回っていたというわけだ。

 

 

 

 

改めて、まどかの顔色を確認する。廃工場で発見した時よりかは落ち着いたように見えるけれど、まだ顔は青白く、焦燥しているように見える。何があったのか分からないけど、余程ショッキングな光景を見てしまったのだろう。今はまだ、ゆっくり休ませる必要があるわね。

 

体から力の抜けたまどかをシートの敷かれたスペースに座らせる。そこにはまどかの家族3人の姿もあった。どうやらあの騒動があった中でも無事に避難することができたらしい。居住地のある地域は比較的被害が少なかったのもまどかの家族が無事だった理由かもしれないわね。

それはそうと、まどかの家族と顔を合わせるのは、この時間軸ではこれが初めてだ。まさかこんなタイミングになるとは思わなかった。せめてまどかのただのクラスメイトとして名乗りたかったけれど、魔女や魔法少女の存在が明るみに出た以上、それももはや叶わなくなってしまったわね。

それに少し残念な気持ちを感じつつも、私とまどかのやり取りを見守っていたまどかの両親に挨拶をした。

 

「初めまして、クラスメイトの暁美ほむらと言います。」

「初めまして、暁美さん。君のことはまどかから聞いているよ。新しい友達ができたって嬉しそうに話していたよ。」

「良かったな、まどか。こうしてお友達と無事に再会できて。」

 

そう言ってまどかと私に笑いかける鹿目夫婦は意外にも落ち着いているように見えた。この普通ではない状況下で笑える余裕があるのは肝が据わっているどころじゃない。それか、子供たちを不安にさせないように明るく振舞っているのかもしれない。まどかの弟なんて、母親の腕に抱かれて不安そうに周りを見ているし、まどかもさっきまで冷静では無さそうだった。周りを見ても暗い雰囲気が充満している。その中であって、鹿目夫婦は強い大人であるように感じた。

 

そんな事を考えていると、まどかの母親が改まった様子で私の方へと顔を向けた。

 

「ほむらちゃん、うちのまどかを守ってくれたんだってね。本当にありがとう。」

「っ!いえ、その、私は何もできませんでしたから。」

「そんなことはないさ。この狐耳の子から何があったのか聞いてる。1人の母親として、君には頭が上がらないよ。」

 

そう言って頭を下げるまどかのお母さんに慌てつつ、私は何故か鹿目家と一緒にいるイナリをキッ!と鋭い視線で睨んだ。

 

「あなた、こんなところで何をしているの?」

『愚問だな。お前の大事な友達を傍で護衛していたに決まっているだろう?』

「そういうことじゃないわよ。魔人たちは本部から”撤収命令”があったんじゃなかったかしら?なのに何故、あなたはここにいるの?」

 

そう、本来なら魔人であるイナリはここにいるはずがないのだ。

実は、救助活動や瓦礫の撤去作業が始まった段階で、全ての魔人たちには急遽本部から撤収命令が伝えられたらしい。

その結果、現場のウィッチハンターたちの戦力が大幅に低下し、魔人たちの力を借りて戦っていた人間のウィッチハンターは使い魔にすら苦戦するような状況になってしまっていた。

そのため、魔人の力無しで戦うことが可能な魔法少女である私も協力し、元魔法少女のウィッチハンターたちと共に現場を駆け回っていたのだ。

 

「イナリ、特異課は一体何を考えているの?魔女災害はまだ終わった訳じゃないわ。街の至る所に主を失った使い魔たちが蠢いていて、あちこちで被害を出し続けている。それなのに、主戦力であるはずの魔人を全員撤収させるなんてどうかしているわ。それにマキマの姿も全く見かけないし、誰に聞いても知らないと言われて行方が全く掴めないわ。あの人はどこで何をしているの?」

 

一晩寝ずに魔法を使って戦い続けていたせいか、溜まっていたイライラをぶつけるようにしてイナリに問い詰める。何かとマキマの近くにいることが多かったイナリならば何か知っているのではないかと思っての発言だったのだけど、返ってきた言葉は私の予想をはるかに飛び越えた内容だった。

 

『マキマなら、今は見滝原のセーフハウスで”拘束”されているぞ。』

「…………は?”拘束”?」

 

思っても見なかったイナリの言葉に、私は一瞬だけ頭の中が真っ白になった。

マキマが拘束されている?一体誰に……いえ、イナリの言い方からして、マキマを拘束しているのは仲間であるはずの特異課。だとすれば、なぜ特異課がマキマを拘束しているの?それに、マキマの拘束は全ての魔人達を撤収させたことにも関係があるの?

あまりに状況が見えてこないため、私はイナリにより詳しい情報を求めることにした。

 

「一体どういうことよ。何があったのか詳しく教えてちょうだい。」

『構わないぞ。もとより、お前には情報を共有しようと思っていたからな。私がここに残っていたのはそのためだ。だが……。』

 

イナリの視線が隣に座るまどかと鹿目夫婦へと向く。部外者には聞かせられない話ということかしら?

 

「場所を移した方がいいかしら?」

『そうだな。急いだほうがいいだろうし、移動しながら話そう。私が案内するから、それに従って道を進め。』

「分かったわ。それじゃ、行きましょう。」

 

『急いだほうがいい』ということは、現在進行形で何良くないことが起こっているということかしら?あの人なら何とかなるんじゃないかと思いつつも、拘束されているのならその限りではないかもしれない。

そう結論付けた私はイナリの提案に素直に従い、私は立ち上がってまどかに一言伝えようとした、その時だった。

 

「あの、私もついて行っちゃ、ダメかな?」

「まどか?」

 

私が何かを言うよりも先に口を開いたのは、まどかの方だった。

まどかは何かを思いつめたような表情で、胸元でぎゅっと拳を握りしめながら言葉をつづけた。

 

「私も、何かみんなの役に立ちたいの。もう、何もできずに見ているだけなんて嫌なの。それで後悔なんて、したくない……。」

「まどか…………。」

 

目尻に溜めた涙を零しながらそう訴えるまどかの瞳を見つめる。心安らぐような桜色の瞳が、悲しみに暮れて影を落としていた。

沢渡、ゴースト、まどか。あの廃工場で、この三人に何があったのかは分からない。傍で倒れていた志筑仁美も未だ意識が戻らないため、話を聞くこともできない。だけど、誰かの痛みを自分のことのように感じることのできるまどかがここまで思いつめてしまっているということは、それほどの出来事を経験したということにほかならない。

 

(私のせいだ。まだ始まったばかりだというのに、すべて上手くいくと勝手に思い込んで、腑抜けてしまっていた。私がもっとしっかりしていれば、まどかはっ__!)

 

自分の不甲斐なさに怒りを覚える。ギリッと噛み締めた口の中に鉄の味が広がる。

そうして何も言えないままでいる私の手に、まどかの指先が触れた。俯いていた視線をハッと持ち上げると、縋るように私を見上げるまどかと目が合った。

 

「ほむらちゃん……お願い……。」

「っ、……まどか。だけど、……。」

 

「後悔したくない」そう言ったまどかの気持ちは痛いほど分かる。分かるからこそ、私は何度も時間を巻き戻し、まどかを救おうとしてきた。

だけど、これ以上まどかを危険に巻き込みたくはない。まどかには、何も知らずに平穏な日常を送っていてほしい。そのためには、この手を振り払わないと____。

 

『すまん、まどか。ほむらに聞かせる話は一般人には言えない内容でな。というか、ほとんどのウィッチハンターや魔人も知らない超のつく極秘だから、お前には教えてやることはできない。』

 

そう言って、まどかの手を振り払うのに躊躇していた私へ助け舟を出したのは、イナリだった。

イナリは私とまどかの間に割って入り、私の手に触れていたまどかの手を離させると、私の手を取って先導し始めた。

 

『行くぞ、ほむら。あまり時間をかけてはいられん。』

「ま、待って、イナリちゃん!私も___。」

『まどか。___』

 

まどかの呼びかけに足を止めたイナリは、ゆっくりと振り返った。

そして、振り返ったイナリの顔が見えた瞬間、私とまどかは思わず息を止めてしまった。

 

イナリの口から、ひどく冷え切った声が言葉をつづけた。

 

『__お前のような何の力もない素人が出しゃばったところで、状況は何も変えられん。お前にできるのはただ一つ、危険から身を遠ざけて闇から目を背けて生きることだけだ。』

「イナリ、ちゃん……でも__」

『”大事な友達や家族”まで危険に晒したいのなら好きにすると良い。それが嫌ならこちら側には来るな。分かったな。』

「………………。」

『よし。行くぞ、ほむら。』

「え、えぇ。」

 

イナリに手を引かれ、私は避難所の出口に向かって歩き出した。

最後に振り返った時、顔を俯かせて人の切れた人形のようにぺたりと座り込んでしまったまどかの姿が、私の瞳に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小狐型の使い魔の姿に変化したイナリ(というより、さっきは使い魔がイナリの姿になっていたらしい)を肩に乗せ、彼女の案内に従って人目の少ない路地を通ってマキマが拘束されているというセーフハウスへと向かっていた。

 

「ねぇ、イナリ。」

『どうした、ほむら?』

「さっきは、その、助かったわ。だけど、もう少し言い方があったんじゃないかと私は思うの。まどかを危ない目に合わせたくないのは確かだけど、ただでさえ心身ともに疲弊しているまどかに追い打ちをかけるようなことはしたくないわ。」

『だから私が代わりに言ってやったんだろ?』

「だから、なんであんなにも強い言い方をしたのかって聞いているのよ。」

 

私はそうイナリに問い詰めると、彼女は私から目を逸らして正面を向いた。

 

『ああ言った方がお前達のためだと思ったからだ。』

「私達の?」

『あぁ、まどかは私達の想像を超えるほどの善人で、何も特別じゃない普通の女の子だ。だからこそ、私達の生きる血生臭い世界に近づけさせるわけにはいかない。』

「それはその通りだけど……。」

『私は今まで多くの人間を見てきたからわかる。アレは、一度決めたことは最後までやり通そうとするタイプの人間だ。故に、あの子が破滅の道を歩んでしまう前に、しっかりと釘を刺しておく必要があった。お前も、彼女が自ら朽ちていく姿なんて見たくはないだろ?』

「………………。」

 

イナリの言っていることに間違いはなかった。

私がこれまで繰り返してきた時間の中には、最後の日までまどかが魔法少女にならなかった時間軸も存在した。だけど最終的には、まどかは家族を、友達を、見滝原に住む全ての人々を救うために自分を犠牲にして魔法少女になった。そんな彼女の決意を変えさせるのは簡単ではなかったし、一度も成功したことはなかった。

 

それを考えると、きっとこれで良かったのだと思う。まどかのためを思うのならば、彼女のことを拒絶してでも魔法少女に関わらせないようにすべきなのだ。

だから、これで良かったのだ。

良かったはず、なのに____

 

(あれが、私とまどかの、最後の会話になってしまうのかしら…………。)

 

走っていた足を止め、路地裏でポツンと立ち尽くす。

なぜだか、私の胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな寂しさを私は感じた。

 

その時、耳元でイナリの声が聞こえた。

 

『ほむら、しっかりしろ。』

「イナリ……。」

『お前とまどかがどういう関係なのかは知らないが、お前にとってまどかはとても大切な存在だというのは分かる。だが、お前が魔法少女である限り、ここで足を止めることは許されないんだ。』

「…………。」

『魔法少女は希望を振りまく存在ではない。希望を追い求め続ける存在でなくてはならない。自分の中で勝手に自己完結して、絶望なんかしてはダメだ。それでは、私達の二の舞になるぞ。』

「…………。」

『足を止めるな、ほむら。無理矢理にでも顔を上げろ。お前の為すべきこと、やり遂げたいことを思い出せ。』

「………………。」

 

イナリに促され、前を向く。止まっていた足を、もう一度前に出す。

そうだ、私には立ち止まることも、引き返すことも許されていない。今まで繰り返してきた時間を、無駄にすることなんてできない。

 

全ては、まどかが魔法少女にならず、平和な日常を送れるようにするため。

 

そのためなら、私はどんな手段も厭わない。

 

覚悟なら、とっくの昔にできているはずだ。

 

私は一度深呼吸をし、真っすぐと進むべき道を見つめ直した。

 

「ありがとう、イナリ。もう大丈夫よ。」

『礼は不要だ。いずれは全ての魔法少女が通る道とは言え、きっかけを作ったのは私だからな。ただ、しっかりと覚悟を胸に刻んでほしかったんだ。』

「分かっているわ。おかげでちゃんと思い出せたわ。私が何のために戦っているのかを。」

 

イナリにそう伝えると、私は再び走り出した。

 

「話がだいぶ逸れてしまったわね。それで、どうしてマキマは拘束されているのか、詳しい話を聞かせてちょうだい。」

『あぁ、分かった。まずマキマを拘束しているのは公安対魔特異課の上層部だ。奴らは今回の魔女災害を引き起こした犯人をマキマではないかと疑っている。』

「魔女災害を引き起こした犯人が、マキマ?どうしてそんなことになっているの?」

『知らん。だが理由は推測できる。考えられるのは、主に二つ。一つは、今回の魔女災害を事前に察知できなかったこと。今までは街を一つ巻き込むような大規模な魔女災害が将来起きる可能性が高い場合、未来の魔人であるミキが未来予知をし、事前に対策を立てて魔女災害を防ぐことができていた。しかし、今回はミキが未来予知で魔女災害を予見できなかったことで、責任者であるマキマに疑いの目がかかっている。』

「そう言えば、この間の特異課見学の時に未来の魔人にマキマが何かを言っていたわね。確か、人の未来を勝手に見るのを禁止するとか。」

『よく覚えているな、その通りだ。イタズラをした魔人にマキマが私達特異課にとっては見慣れた光景だが、それを上に報告した者がいたらしい。疑われる材料としては十分だしな。』

「なるほどね。それで、もう一つの理由は?」

『それなんだがな……うん、それは本人の口から直接聞いてもらおう。一先ず、上層部はマキマの”ソレ”について知っているから、今回の魔女災害の容疑者として真っ先に目を付けられた、とだけ言っておこう。」

「?まあ、分かったわ。」

 

イナリの濁すような言い方に眉を寄せつつも、彼女の言う通り最後の部分についてはマキマから直接聞くことに決めた。

 

『ほむら、次の角を右に曲がれ。その先にセーフハウスがある。』

「___ここね。」

 

イナリのナビに従って角を曲がると、その先はただの行き止まりになっていた。しかし、行き止まりの壁に手を触れると私の掌の輪郭をなぞるように壁が光り、私は伸ばした手から順に壁の中へとすり抜けた。

壁を通り抜けた先にあったのは、以前に特異課見学で東京本部を訪れた時に見た草原の広がる魔女の結界と、その中心に建つ一般的な二階建ての一軒家だった。

 

私は初めて見る特異課のセーフハウスに「思ったより普通の家ね」と感想を抱きつつ、周囲の様子を確認する。

 

「マキマは拘束されていると言っていたけど、見張りとかはいないのかしら?」

『いや、そんなはずはないが……とりあえず、中に入ってみてくれ。』

「分かったわ。」

 

私と同じように首を傾げるイナリに促され、私は玄関扉を開けて家の中に入った。

家の中は外の外見と同じく普通の家というような内装ではあったが、やや空間が広い作りになっていた。中に入ってすぐに大きなソファとテーブル、テレビの置かれたリビングを見渡すことができる。しかし、特にそれらが使われたような跡はなく、何も置かれていないテーブルや整えられたままのソファからは生活感の無さが目立っていた。

だからだろうか、部屋の中の強烈な違和感に引き付けられ、私の視線は床に残っていた土足の跡と思しき痕跡へと吸い寄せられた。

 

「イナリ、特異課のセーフハウスは土足で寛ぐのが普通なの?」

『……時と場合によるが、基本的に靴は脱いで上がるな。』

「………………。」

 

イナリの言葉を聞いた私は息を潜め、足音を殺して謎の足跡を追って廊下を進んだ。

靴のサイズからして、マキマのものではない。一回り大きい靴の形は男性の物を連想させる。ここにはマキマ以外にもう一人、得体の知れない誰かがいる。

それに緊張感を感じつつ足跡を追っていくと、二階にある一室の前に辿り着いた。

 

『ここはマキマが閉じ込められている部屋だ。』

「…………鍵、開いているわね。」

 

軽く触れたドアノブが抵抗無く下がったのを確認し、より一層警戒心を高める。

 

 

 

その時だった。

 

中から、ドタンッと何かが倒れるような音が響いた。

 

 

 

ハッとした私とイナリは目を合わせた。もう考えている時間は無い。

 

「開けるわよ!」

 

私は左手の盾から拳銃を取り出し、弾倉を確認するとドアノブに手をかけ、部屋の扉を押し開けて中へと飛び込んだ。

 

 

 

そこで私が見たものは______

 

 

 

「答えろ、マキマに何をした。」

「一体何を言っているのか、分かりませんよ、先生。」

 

 

 

床に押し倒されたマキマと、仰向けの彼女の心臓に大ぶりのナイフを突きつけた頬に傷痕のある男。

 

まさに、特異課に拘束されているはずのマキマが謎の男に殺されそうになっている場面だった。

 

 





___マキマを襲った男の正体は……。



ここまで読んでいただきありがとうございました。
これからも不定期ながら書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。

感想や評価など、よかったらよろしくお願いします。

オリ主マキマがオリジナル技を使うのってアリ?

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