ここだけ黒崎コユキに親友ポジがいる世界   作:海鮮横丁

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やきもちを焼く話

いつものように反省部屋から抜け出し、特に目的もなくミレニアム内を歩く。

ちょっと気になった店があれば入り、気に入った商品があればセミナー室か反省部屋に送るように頼む。それを何度か繰り返す。お金はあるのだ。使わないという選択肢は私にはない。

もう少し歩けばミレニアムタワーの近くに出るという所で壁に背を預け、次の行動を考える。

 

「さて、次は何処に行きましょうか」

 

セミナー室に突撃してユウカ先輩をからかってもいいが、ノア先輩がいる可能性も高い。普通に付き合う分にはいい先輩だが、攻勢に回られると弱いのだ。何か分からないが怖いのだ。

 

「ミツルギちゃんに会いに行ってもいいですけどねえ」

 

彼女はまだ仕事中だろうから迷惑だろうか。優しい彼女のことだから相手はしてくれるだろうが。

 

うん。いい考えだ。昨日も遊んだばかりだが何度遊んでもいいだろう。

 

一人頷き。ミツルギちゃんがいるだろう場所をいくつか頭に浮かべる。一番居そうな場所は保安部だが、パトロールをしている可能性もあるため分からない。何なら早めに仕事を終えて反省部屋に向かっている可能性だってあるのだ。

 

さて、まずは何処に行くべきかと頭を悩ませていると通りの方から、今直ぐにでも聞きたい声が聞こえて思わずそちらに駆け寄る。

 

「じゃあ、パトロール行ってきます」

 

「そっちはお願い。私はユウカちゃんに頼まれた用事を片付けてくるから」

 

そう言って二人が別れ、ほぼ反対方向に向かい歩き出す。いつも保安部にいる先輩の後ろ姿を珍しく思いながら、ミツルギちゃんの後を慌てて追いかける。

 

余り離れ過ぎると見失うので頑張って距離を保ちつつ気付かれないように距離を保つ。何とも難易度の高いことだ。そしてとても楽しいことだ。スキップしそうな軽い足取りで柱の陰に隠れてみたり。わざと人混みを利用したりして距離を保つ。

 

そのたびに胸の奥がくすぐったくなる。

まるで秘密のミッションを遂行している気分。

 

「…にはは。まるでC&Cの先輩方みたいですね」

 

まるでスパイ映画の主役にでもなった気分だ。

 

前方を歩くミツルギちゃんが急に立ち止まって片手を上げて挨拶をしている。慌てて近場の建物の陰に隠れる。角度的に見えないが誰か知り合いに出会ったようだ。立ち止まって何やら話しているが、ここからでは欠片も聞こえないので少し近付いてみる。

 

「…いうことでお願いします」

 

「分かりました。それではまた一緒にトレーニングをしましょう」

 

どうやらお相手はトレーニング部のスミレ先輩のようで、軽くランニングをしている途中に出会って話をしているようだ。

 

「それじゃあまた誘ってくださいスミレ先輩」

 

「えぇ。是非一緒に運動しましょう」

 

スミレ先輩と別れてから懐からコインを一枚取り出し口の中で小さく何かを唱え、コインを上方に軽く弾く。狙い違わずに手の甲で受け止められたソレを見て片眉を跳ねさせる。そのまま一つ頷き、コインを仕舞い歩きだす。その後ろをついて行く。

 

何がしたかったのだろう。

 

しばらく後ろをついて歩いていて気付いたが、どうやらミツルギちゃんは知り合いが多いようで。行く先々で声をかけ、またはかけられて話し込む。楽しそうに話し込むミツルギちゃんを見ていて、胸の奥が、ちくっとした。

別に、変なことじゃない。

 

ミツルギちゃんは保安部で、知り合いも多くて、こうやって話しかけられるのも当たり前で。

 

でも、何だか胸の中のもやもやが消えなくて、何も見たくなくて反省部屋まで逃げるように走っていく。

 

自分がこんなに我儘だったとは気付かなった。

 

 

反省部屋の隅で蹲っていたら、ミツルギちゃんの声が入り口の方から聞こえてきた。顔を見られたくなくて膝に額を押し付ける。

足音が段々近付いて来て、直ぐ隣で止まる。その後衣擦れの音がしたので隣に座ったのだろう。

 

「…何も言わないんですね」

 

「何か言って欲しいのか?」

 

私の身体に寄りかかり、ただ隣に座ってくれている。

 

 

パトロールを初めたら、何故かコユキにストーカーされている。

 

パトロールを始めて十分ほど。

 

「……」

 

背後から、一定ではない足音。

 

近付いたり離れたり。

柱の陰に隠れたと思えば、また少しだけ顔を出す。

 

(まただ)

 

思わず苦笑する。

 

隠れているつもりなのだろうが、丸見えだ。

 

柱からピンク髪が覗いているし、ガラスに映っている姿も見えている。

 

「……コユキだなあ」

 

小さく名前を呟く。

 

追い掛けてきた理由は分からない。

 

暇だから遊び半分なのか。

それとも何か用事があるのか。

 

少し振り返れば目が合ってしまいそうなので、そのまま知らないふりを続ける。

 

(捕まえても逃げるだろうしな)

 

だったら好きにさせておこう。

 

危険な場所へ行きそうなら止めればいい。

 

そう考えて歩き続けた。

 

途中でスミレ先輩に会い、軽く話をする。

 

その間も、建物の陰からこちらを覗く特徴的な前髪が見えていた。

 

(本当に隠れる気があるのか……?)

 

笑いそうになるのを堪える。

 

話を終え、再び歩き始める。

 

今度は購買部の店員。

 

エンジニア部の生徒。

 

セミナーの事務員。

 

保安部として校内を歩いている以上、声を掛けられることは珍しくない。

 

その度に短く立ち話をする。

 

そして。

 

ふと、ガラスに映る後ろ姿を見る。

 

「……?」

 

そこにいたはずの白い影が消えていた。

 

少しだけ足を止める。

 

周囲を見回す。

 

いない。

 

(帰ったのか?)

 

何となく胸騒ぎがした。

 

遊び飽きて帰っただけ。

 

そう思えばいい。

 

なのに、妙な引っ掛かりだけが残る。

 

その後もパトロールを続けたが、自然と足は早くなっていた。

 

仕事を終えたミツルギは、その足で反省部屋へ向かう。

 

扉を開けると。

 

部屋の隅で、小さく身体を丸めるコユキがいた。

 

「……いた」

 

安心したように息を吐く。

 

返事はない。

 

近付いても顔を上げない。

 

隣へ腰を下ろし、何も言わず肩を預ける。

 

少しだけ震えているようにも見えた。

 

「……何も言わないんですね」

 

小さな声。

 

「何か言って欲しいのか?」

 

そう返すと、コユキは少しだけ肩を揺らす。

 

「怒るとか」

 

「何で?」

 

「……尾行したから」

 

「知ってたよ」

 

「…………え?」

 

ようやくコユキが顔を上げる。

 

「え?」

 

「保安部だぞ?」

 

きょとんとした顔で言われる。

 

「最初から気付いてた」

 

「……うそ」

 

「本当だ」

 

「柱から髪が見えてたし、店の窓にも映ってた」

 

「…………」

 

「あと、楽しそうに笑ってた」

 

「…………」

 

「途中からは、見失わないように歩く速度まで合わせてた」

 

「…………」

 

コユキの顔がみるみる赤く染まる。

 

「恥ずかしい……」

 

両手で顔を覆い、そのまま床へ突っ伏した。

 

「一言言ってくださいよ……」

 

「無理だな」

 

「穴があったら入りたい……」

 

「反省部屋に穴は開けるな」

 

「うぅぅ……」

 

泣きそうな声を漏らすコユキを見て、ミツルギはようやく小さく笑った。

 

その笑顔を見て、コユキは余計に顔を隠すしかなかった。

 

しばらくの間、コユキが蹲っているのを眺める。

 

やがてミツルギは懐から一枚のコインを取り出した。

 

親指で軽く弾く。

 

金属音を鳴らしながら宙へ舞ったコインは、小さく回転を繰り返し、狙い違わず掌へ収まる。

 

一度だけ中を確認し、満足そうに頷く。

 

「……そういえば今日、ずっとコイン投げてましたね」

 

膝に額を押し付けたままコユキが呟く。

 

「今日の占いで、コイン投げをすると吉って出てたから」

 

「何ですかそれは」

 

思わず顔を上げる。

 

「朝見た占いだ」

 

「そんな理由で?」

 

「そんな理由だ」

 

あまりにも堂々と言われてしまい、反論する気も失せる。

 

「スミレ先輩と話した後も投げてましたよね」

 

「ああ」

 

「何を占ったんです?」

 

「この後どっちへ行くか」

 

「……決まりました?」

 

「決まったよ」

 

「どこへです?」

 

「食堂」

 

「それ目的地じゃなくて晩御飯じゃないですか」

 

「今日はカレーらしい」

 

「占い関係ないじゃないですか」

 

「関係なかったな」

 

あっさり認めるミツルギに、コユキは堪えきれず吹き出した。

 

「ふふっ……」

 

笑いが漏れる。

 

さっきまで胸を締め付けていた苦しさが、少しずつ溶けていく。

 

「今日は何だか変な日ですね」

 

「そうか?」

 

「ストーカーして、勝手に落ち込んで、反省部屋で泣きそうになって」

 

「そうだな」

 

「全部私のせいです」

 

へにゃり、と力なく笑う。

 

落ち込んでいた自分が、少しだけ馬鹿らしく思えた。

 

自然と身体の力が抜ける。

 

そのままそっとミツルギへ身を預けた。

 

ミツルギは何も言わない。

 

追及もしない。

 

ただ少しだけ肩を寄せ返してくれる。

 

その温もりが、今は何より心地良かった。




やっとかけた
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