ギリギリ年一投稿を守りました。
初めての短編かつオリジナル小説です。

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約束

 

 

「ねぇ」

思い出す。

幼い時の事を。

背丈が大人に抱えられるぐらい小さな時の事を。

いつも遊んでいた肌が病的に白い小さなあの子の事を。

髪は銀のように美しく、瞳は血のように赤いあの子を。

「私ね、夢があるの」

「どんな夢なの?」

「それはね…」

あの時の事は覚えてはいる。だがあの子が言っていた事を思い出すことができない。

とても大切だという事だけは覚えている。

「良い夢だね」

「ほんと?」

「うん」

「じゃあそっちは?」

「僕は分かんないな」

そうだ、この時の僕には夢が無かった。

というよりかは夢とはなんなのかが分からなかった。

考えてもせいぜい明日の事しか考えられなかった。

「へぇ〜、じゃあ…」

あぁ、まただ。

何を言ったのかを思い出せない。

「うん、分かった」

「じゃあ“これ”」

互いの小指と小指を絡ませる。

子ども特有の約束の仕方だ。

「ゆ〜びきりげんまんうそついたら…」

何故だ、これも思い出せない。

あぁ、本当になんだったのか…。

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

目が覚める。

またあれだ。

小さい頃の思い出。

やはり重要な事だけ思いだせない。

眼を開けると見慣れた天井だがそんな事をいちいち気にしても仕方がない。

枕元にあるスマホを見れば時間は六時半。

寝起きだから頭は働かないがまずは布団から起きないと一日は始まらない。

少し重い身体を起こし、身体を伸ばす。

ボキボキと身体が鳴り少しだけだが身体が軽くなった。

洗面所に行き顔を洗う。

リビングへと行き冷蔵庫からパンとヨーグルト、牛乳を取り出す。

ココアの元となる粉末と牛乳を混ぜ合わせミルクココアを作る。

朝食を食べながらテレビでニュースを見る。

『異種族、特に悪魔族による詐欺がここ数年増加傾向にあります』

異種族。数十年前に現れた人類とは異なる種族。

動物の特徴を持つ獣人族や先程ニュースで言及された角や尻尾がある悪魔族、耳が長いエルフ族や竜の特徴を持つ竜人族などがいる。

異種族はどれも見た目は人間に近しく、人間には友好的であり異種族にも異種族特有の慣習が存在する。

例えば獣人族は結婚相手に自身の匂いを付けたり、悪魔族は親しい間柄や告白する時に自身の角の一部を相手にアクセサリーとして贈るなど様々な慣習がある。

僕が所属している学校にも異種族がいる。

時間を見ると六時四十五分になっておりテレビの電源を切り学園の制服に着替え鞄を持ち家を出る。

「行ってきます」

家に両親がいないので返事が返ってくる訳も無い。

電車で学校へと向かう。

駅のホームに着くと自分と同じような制服をしている者やスーツを着ている者がいる。

時間を確認すると七時だ。

朝だからか駅のホームにかなりの人がいる。

電車が到着し皆が座席に座りスマホで暇つぶしをしていたら隣に誰かが座った。

チラッと視線を向けると自分と似たような制服をし銀色の髪に赤い目をしている女の子がいた。

「おはようですわ、喜一様」

「おはよう、ラキュア」

ラキュア・アルジェ。同じ学園に通う吸血鬼の女の子。吸血鬼という種族の中でもかなりの名家らしい。だからか身の回りの物は見るからに高級そうな物で固められている。

では何故そんな子が朝早くから態々僕の隣にいるかというと…

「またあの事を思い出したんですの?」

「あぁ、また一部だけ思い出す事ができないんだ」

「ふふ、これからゆっくりと思い出せばいいんですわ」

「それ本人が言う…?」

ラキュアがあの時の僕と約束した子と同一人物だからだ。

「それに、思い出す事が出来ないと言ってはいるものの今の喜一様なら大丈夫ですわ」

「なんでそんな事が言えるの…」

「私は喜一様と今の今まで一緒にいるんですのよ、約束を覚えていなくてもあの約束に反する事をしていませんもの」

「本当に早く教えて欲しいんだがな…」

「ほほほ、教えませんわ、自力で思い出して下さいまし」

電車が止まり扉が開いた。

「ほら、行きますわよ」

ラキュアが席を立ち僕の手を引っ張る。

「危ないから辞めろ」

「こっちの方が早いですわ」

抵抗しようにもやはり異種族だからか自分より力が強く振りほどけない。

人混みの間を縫うように抜けていきあっという間にあの人混みを抜けていった。

「ほら、言った通りですわ」

「相変わらず強引だね、口調が変わっても行動は昔と同じだ」

「口調に関しては触れないで下さいます?」

「うん、ごめん」

赤い瞳を細めて笑顔で僕に言う。

表情は笑顔だが確実に怒っていることが分かる。

人間と根本が違うからか威圧感が違うが何年もこのやり取りをしているから慣れている。

「それで良いですわ」

表情が元に戻り威圧感もなくなる。

「じゃ、行きますわよ」

「あぁ」

歩きながら昨日あった事や今日の授業について談笑していたらあっという間に学園に到着していた。

「ふむ、時間はあっという間ですわね」

「そうだな、じゃ僕はここで」

「えぇ、それではまた後で」

僕とらきは別のクラスなのでそれぞれのクラスに行った。

「喜一」

「あぁ、おはようバルサラ」

「うむ、おはよう」

自分の席に荷物を置き青い角と尻尾、髪をし長身の竜人族の女友達であるバルサラが僕の席に来て挨拶をしてくれた。

竜人族は総じてプライドが高いが、バルサラは話をすればすぐに仲良くなってくれたのでいつも話している。

言っておくが他に友達はちゃんといる。

ただバルサラがよく話しかけてくれているだけだ。

「ふむ、今日も身だしなみは完璧だ」

「そんな僕の身だしなみなんて気にしなくても良いだろ」

「何を言うか、この我の友なのだから少しは身だしなみには気をつけるのが貴様の責務だ」

バルサラと仲良くなって何ヶ月か経ったある日に「身だしなみを整えよ」と言ってあちこちに連れていかれたのは今となっては良い思い出だ。

「はいはい、これからも頑張りますよ我が主」

「うむ、それで良い」

バルサラは満足そうに胸を張っている。

そうこうしているとチャイムが鳴り僕とバルサラ含むクラスメイトが全員自分の席に座り教室の前の扉から担任の先生が入って来た。

「みんな席に座ってるな、朝のホームルームやるぞ~」

先生が何か連絡しているが聞いている限りは自分には関係ないので無視して図書室から借りた本を読んでおく。

「じゃ終わるぞ〜」

本を読んでいたらいつの間にか終わっていた。

本を机の中に入れ今日最初の授業の確認をする。

(歴史か…)

ロッカーから教科書とノートを持ってきて歴史の授業をする教室へと向かおうとするとバルサラがこちらに近づいた。

「行くぞ」

「はいはい」

僕はバルサラと横に並び教室へと向かい歩いていく。

ラキュアがいる教室に視線を向けるとたまたまラキュアと目が合った。

どうやらラキュアは友達と喋っていたので僕に向けて少し手を振るぐらいだった。

それを見て僕も返礼と言わんばかりに少し手を振った。

「む、何をしている」

「ん?いやラキュアと目が合ったからね」

「あぁあやつか…そうだ」

バルサラが閃いたような顔をして尻尾を僕の腕に絡ませた。

「ちょ、何してんの」

「静かにしておけ」

ラキュアに視線を向けると今朝のように目を細めている。

「おい、流石にヤバイって」

「ふん、ならば外してやろう」

尻尾が僕の腕から離れてくれて再びラキュアに目を向けようとすると目の前にラキュアがいる。

「随分と楽しそうですわね、バルサラ」

「なんだ、羨ましいのか?」

「いえいえ、ただ楽しそうだな〜と声を掛けただけですわ」

「ふん、ならばお前はただそのまま眺めておけ」

「うふふ」

「ハハハ」

僕を挟んで二人が話しているがどちらも一触即発だ。

どうしてこいつらは毎回喧嘩するんだ。

種族間として相性が合わないのか分からないがたまにこうやって喧嘩する。

「もう少しで時間になるから僕は行くよ」

「ではな、蝙蝠」

「えぇ、トカゲ」

教室に着き席に荷物を置き椅子に座りため息を吐く。

「なんでラキュアと喧嘩するんだよ」

「ふん、あやつが我の事を煽ってくるからだ」

「あれが一体どうやって煽ってるなんて言うんだよ…」

「気づかぬ内が華か…お前はそのままで良い」

「何言ってんだお前」

僕が頭に疑問符を浮かべているとチャイムが鳴り各々席に着いた。

チャイムが鳴って数秒後に先生が教室に来て授業が始まった。

内容は異種族と人類の歴史だった。

興味があったので寝なかったが視線を少し周りに向けると何人かは寝ていた。

そんな授業が続き昼食の時間になった。

鞄から弁当を出していつもの場所である空き教室に向かう。

向かう途中で生徒が購買や自販機で何か買っていたり友達と談笑しながら食べていた。

空き教室に着き扉を開けるとラキュアがいて机に座り待っていた。

「早かったね、ラキュア」

「えぇ、授業が少し早めに終わったんですの」

ラキュアの前に座り弁当を広げお互いいただきますと言って食べ始める。

「いただきですわ」

「あ!」

食べ進めているとラキュアが僕の弁当からおかずであるコロッケを勝手に取り口に放り込んだ。

「僕のおかずなのに!」

「流石は喜一様が作ったお弁当ですわ、美味でしたわ」

悪びれもなくニコニコしながら言う。

僕はそれに腹を立てていたが、あの表情を見ると許してしまった。

やはり自分の料理が美味しいと言われたからなのか。

「しょうがないですわね、私の弁当から一品取っていいですわよ」

「え!いいの!」

「ええ、我が名に誓って二言はありませんわ」

ラキュアの弁当を見るとどれも美味しそうに見える。

折角なら一番美味しそうなのを頂こうと考え一際目立つ肉を取り食べた。

「めちゃくちゃ美味しいな」

「ふふ、それは何よりでしたわ。家に帰ったらシェフに言っておきますわ」

そのまま食べながら談笑したら昼食の時間が終了しそれぞれのクラスに戻った。

(次の授業は…はぁ…数学か…)

数学だ。個人的にはあまり好きではない。

何故ならただの計算なら出来はするが図形を用いる問題が苦手だからだ。

(まぁ数学の授業耐えればその次は体育だからいいか)

(確か体育は選択科目だし数学より面白いからそのために我慢するか…)

食事を取ったからか眠気がするのでその眠気に身を任せればこの退屈な時間はすぐに消え去るだろうと考え授業の挨拶を終えたらすぐに眠りに着いた。

目を開けたら授業はもう何分かで終わりそうな所になっていた。授業担当の先生が黒板に向かっている間に黒板に書かれていた内容を写す。

写していたらチャイムが鳴り授業が終わった。

クラスメイトの半数ぐらいが授業前は気怠げそうだったが授業を終えたことによりそんな様子は微塵も見られない。

次は待ちに待った体育だ。

男子更衣室に行き体操服に着替える。

グラウンドに行くと何故かラキュアがいた。

「あれ?ラキュアなんでいるの?」

「おや、先生から聞いていなかったんですの?今回の体育は私が所属しているクラスと合同でやるんですの、朝言っていましたわよ」

あの時か〜、と心の中で今度からは朝のホームルームはちゃんと聞こうとを後悔しながらラキュアと話す。

「よし、もうみんないるから早めにやるか、整列!」

先生がそう言うと皆が整列し先生の話を聞く。

「いいか〜朝のホームルームで言った通り今回は諸事情により合同だ、じゃあペアになって準備運動しておけよ」

そう言った瞬間みんながペアになり準備運動をし始めた。

僕はたまたま近くにいたバルサラと一緒にやった。

一瞬だが視線を感じたが気の所為だろうか…。

それと何故かバルサラが勝ち誇った顔をしていた。なんでそんな顔してんだよ。

そして今回はサッカーをやると先生から指示を出された。

今回に限っては合同だから今までやっていたチームではなく折角だからクラス間を越えた交流をしたいらしいのでクラスが混合したチーム分けになっている。

メンバーを確認するとラキュアが味方でバルサラが相手チームとなっていた。

「今回は相手か、容赦はせぬぞ」

「それはこっちの台詞だ」

「その意気や良し、流石は我の隣にいる者だ」

バルサラと短い会話をし自陣に戻る。

今回僕のポジションはディフェンダーだ。

だから僕はあまり前線には出ない。

ラキュアはストライカーだから僕とは真反対の場所にいる。

試合が始まってから一進一退の攻防でありどちらも点を入れてはいない。

そんな膠着状態にラキュアが先制点を入れた。

「やりましたわ!」

ガッツポーズをして喜びを表しており、その様子は微笑ましかった。

「クッ、蝙蝠めが」

その後はバルサラが積極的に点を決めようとしてはいるがラキュアが後ろに下がりディフェンスをし点を入れたくても入れれない状況になっている。

時間は過ぎて試合終盤現在の状況は1-1。こちらも点数を入れられた。

ラキュアのカバーが間に合わず入れられた。

「一気に行かせてもらうぞ」

バルサラがボールを蹴りながらこちらのゴールに走って来ている。

「くっ、2度も行かせてたまりますか!」

ラキュアもディフェンスに回ろうとするがバルサラの方が足が早いため追いつけない。

「ならば、僕が!」

僕はボールを取ってラキュアに回そうと考えバルサラに向かおうとした。

だがその瞬間何かに躓き体のバランスが崩れた。

「喜一!」

倒れたがいつまで経っても痛みが来ない。

意を決して目を開けるとバルサラを下敷きにしていた。

バルサラが庇ってくれたんだ。

「バルサラ!大丈夫か!」

「む…むぅ…問題ない」

バルサラはそう言うが苦しそうな声を出している。

なんとバルサラの角が折れていた。

庇ってくれた時に折れてしまったのか。その時ある事を思い出す。

竜人族は角が折れると能力が格段に落ち多大な苦しみを味わうという事を。

「何処がだ!そんな苦しそうな声を出しておいて!先生!バルサラを保健室に連れていきます!」

「あ、あぁ気をつけろよ」

「すまんが運ぶぞ」

「う、うむ」

バルサラの身体を両腕で抱え上げ保健室へと向かった。

はっきり言って結構重かったが火事場の馬鹿力のお陰かすんなりと運べた。

「失礼します!怪我人を運んできました!」

保健室を訪れたが誰一人としていなかった。

その状況に腹を立てつい舌打ちが出たがとりあえずはバルサラをソファに降ろした。

「大丈夫か?」

「大袈裟にしおって…精々足が痛むだけだ…」

「分かった、角は良いんだな?」

「あぁ…」

患部に氷袋を当てて布で縛って固定させておく。

「有り難い…」

「どういたしまして」

「貴様は無事なのか…」

「僕?バルサラのお陰で無事だよ」

「そうか…」

互いの状況に安堵し、身体の緊張がほぐれる。

「…おい」

「何だ…?」

「お前は竜人族の角を折る意味を理解しているのか?」

「さぁな…種族の事なんか興味無かったからな」

「…竜人族にとって角とは誇りだ、それを折られるということは…責任は取れよ」

「…ん?」

まさか竜人族の角を折ることにそんな意味があるとは思わなかった。あぁ僕はなんて事をしでかしたんだ。だけど…

「うん、分かった。責任を取るよ。バルサラが好きだから」

バルサラなら、良い。今までバルサラに振り回されてきて嫌だと思っていたけど初めて会ってから今までそんな事を思った事はない。なんなら嬉しかった。

きっとその時から僕はバルサラの事が好きだったんだ。

「ふふ、どうやら両想いだったか…」

 

そのまま僕達は保健室で授業が終わるまで過ごした。

お互い更衣室に行き着替えて教室に戻ったらすぐに帰りのホームルームが始まりすぐに終わった。

「喜一よ、我の家で遊ばぬか?」

「うん、良いよ」

僕たちは一緒に教室を出て学校から出ようとしたら

「少し、宜しくて?」

ラキュアが夕陽を背に校門の前で待っていた。

「"我の"喜一に何か用か?」

バルサラが前に出て尻尾が僕の身体全体に絡みつく。

「えぇ、"私の喜一"に用がありまして」

「ふん、少しだけ化けの皮が剥がれているぞ蝙蝠」

「抜かせトカゲが」

「余裕が無いのか、化けの皮が全て剥がれるとは哀れだな」

ヤバイ。この二人が威圧感を出してるからみんなが怯えている。止めないと。

「ラキュア、どんな用?」

「な!?良いのか!こいつは…」

「ラキュアだよ、変な事はしないよ」

「だが…」

「喜一様がそう仰っていますのよ、従っては?」

「頼むよ」

「…分かった」

そう言うと尻尾は纏わりつくのを辞めバルサラがこの場から離れた。

「それで一体何の用なの?」

「少しだけで良いので私の家に寄って欲しいのです」

「良いよ」

いつもと同じようにラキュアと一緒に並び件の場所に行く。

「怪我は大丈夫ですの?」

「大丈夫だよ、バルサラが庇ってくれたから」

「それにしてもラキュアの家なんて久しぶりに行くな」

向かっている最中に怪我の事を心配されたが怪我が無いと伝えると微笑み安心していた。

談笑しているとラキュアの家に着いた。

いつ見ても圧倒される。とんでもない豪邸だ。

豪邸の中には豪華な装飾を施されており、どれも一般人が買えないような物がある。

「さ、どうぞ」

「変わらないな、ラキュアの部屋は」

ガチャリと音が鳴ったが気にはしない。

ラキュアの部屋には本がびっしりと埋まってある本棚や人が二人寝れるぐらい大きなベッドなどがある。

「どうぞ座って」

「座らせてもらうよ」

誘われるがままにベッドに腰掛けた。

ラキュアも隣に座った

やはりとても柔らかく寝心地が大変良さそうだ。

「さて、さっそく本題に入りますが…」

 

「貴方、約束を破りましたわね?」

 

「…え?」

どんとラキュアにベッドに押し倒されそんな事を聞かれた。

何故か明るかった部屋が夜のように暗くなりラキュアの赤い瞳だけが光りこちらを見つめている

約束。多分あの約束だ。僕が思い出すことのできなかった約束。

「約束って…あの時の約束か?」

「そうですわよ」

「でも、僕はあの約束の内容を覚えていないから何を破ったのか教えてくれる?」

「えぇ、えぇ、そうでしたわね」

「教えて差し上げますわ、全てね」

にこりと笑いながら言う。

「”今の”私の夢は貴方を手に入れる事ですわ」

「約束の内容は今後私の夢がどんな夢であろうと支える事ですわ」

あぁ、思い出した、思い出した。

そうだ。そうだった。そうだった。

「そして貴方は…私の信頼を裏切りあのクソトカゲの物になろうとしましたわね」

「そんな愚かな貴方には罰を与えねばなりませんわ…さ、私の目を見なさい」

「安心して下さいまし、少し眠るだけですわ」

呼吸が荒くなり涙が溢れる。考えがまとまらない。

 

「見なさい」

 

段々とあの赤い瞳が近づいてくる。

何故か恐怖を感じる。とても怖い。優しかったあのラキュアが。いつも一緒にいたあのラキュアが。綺麗な瞳をしているあのラキュアが今はとても怖い。

あの瞳を見てはならないと直感がそう囁き、目を瞑り顔を背け僅かながら抵抗する。

 

「あら、可愛らしい抵抗ですわね、ですがそんな事は無駄ですわ…見なさい…見なさいったら…見ろ」

 

ラキュアの片手が僕の両手を拘束しもう一方の片手で顔の向きを固定した。

あぁ、見てしまった。あの美しくも恐怖の赤い瞳を。

思考が…段々と…回って…いか…なく……助けて…バル…サラ……。

 

「あぁやっと、やっと手に入れましたわ」

 

愛に狂った夜の帝王は笑う。

口が裂けるように笑う。

 

「やっと吸えるのですね…今回に限ってはあのクソトカゲには感謝しなければなりませんわね、ですが最終的に勝ったのは私ですけど」

 

吸血鬼特有の長い舌で喜一の首筋を舐める。身体が震える。

何と美味であろうか。これまで自分が食してきた何よりも美味であり筆舌に尽くしがたい。

メインディッシュである想い人の首筋に歯を突き立てる。

 

「いただきますわ」

 

 


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