僕が剣聖として生きるのは間違っているだろうか   作:ダウナーすこすこてぃっしゅふぉーるど

10 / 10
仕事が忙しすぎて、色々推敲して書き連ねたけどこれ以上クオリティ良くならなさそうだったから妥協しちゃった。ごめんね
あと、ちょっと書き方をちょろっとテストで変えました。
前の方が良かったらおしえてね


◼︎◼︎◼︎ / 残り四日 上

 快晴だった。

 

 ここ数日は、まるでこの都市そのものが重荷を背負っているかのように、重たい雲が空を覆っていた。

 だが今日は違う。雲は薄く、空は高い。

 【剣聖】の双眸と同じ、澄んだ蒼が広がっている。

 場所はオラリオ北部。

 切り取られたような一画に、人の熱気と食欲を刺激する匂いが満ちていた。

 農産系大派閥(デメテル・ファミリア)とギルドの合同による炊き出し。

 暗黒期に入り、治安も物流も不安定なこの都市において、数少ない“安心”を配る場だ。

 早朝から準備が進められる中、アストレア・ファミリアが誇る【剣聖】――ラインハルトは、

 

「――さ、出来たよ。持って行ってくれ」

 

 鉄鍋から立ち昇る湯気の向こうで、軽やかに声をかけていた。

 

「ありがとう! じゃんじゃんお願いするわ!」

 

 デメテル・ファミリアの団員が、礼を言いながら料理を受け取り、配膳台へと運んでいく。

 それを待ち構えていた住民たちが、次々と皿を受け取った。

 

「う、うまい……!」

「このご時世で、こんな飯を……無料で……!」

 

 歓声と安堵の声が重なり、やがて一人の男が気付く。

 

「……え?」

 

 目を凝らし、鍋の前に立つ人物を見て――息を呑んだ。

 

「【剣聖】……?」

「口に合ったみたいでなによりだよ」

 

 ラインハルトは穏やかに微笑み、水の入ったコップを差し出す。

 

「焦らず食べて。申し訳ないけど、お代わりはないからね」

 

 北のメインストリート一帯は、まるで祭りのような賑わいだった。

 人が集まり、笑い声が立ち、久しぶりに『生きている』実感が街に戻っている。

 そんな一角で、ラインハルトは高ステイタスを余すことなく『料理』に注ぎ込んでいた。

 白を基調とした戦闘装衣(バトルクロス)の上から、同じく白いエプロン。

 包丁を振るい、火を操り、盛り付けを行う姿は、剣を握る時と寸分違わぬ集中力だ。

 

 元々、一年間ほぼ単独でアストレア・ファミリアを支えてきた男。

 今では眷属も増えたが、ラインハルトが料理番に立つ日は、誰よりも早く食卓が埋まる程には料理スキルが高い。

 初めて彼の料理を口にしたライラは、

「このファミリアに入って一番良かったこと」と断言し、リューは「女としての自信を失った」と本気で肩を落とした。

 世界に愛されるその技能は、ただの炊き出しを、『記憶に残る食事』へと変えていた。

 

 ガツガツ。

 ムシャムシャ。

 

 老若男女が無言で皿を空にしていく。

 仕事を失い、明日が見えず、家族を養うことすら難しい時代。

 衣食住の一つでも満たせるなら、それだけで人は前を向ける。

 この炊き出しは、間違いなく成功だった。

 

「――なんじゃ。やけに列が長いと思ったら」

 

 低く、岩を転がすような声。

 ラインハルトが顔を上げると、そこにいたのは蓄えた髭をしごくドワーフの男。

 

「ガレスか。今日は警備担当らしいね」

「当たり前じゃ。これだけ人が集まれば、厄介者も寄って来る」

 

 ロキ・ファミリア随一の剛将は、兜の奥から周囲を見回し、鼻を鳴らした。

 

「……しかし、まったく」

「なんだい、その含み」

「剣を振るえば怪物。鍋を振るえば一流。【剣聖】とは、随分と器用な称号よの」

「便利に使われてる自覚はあるよ」

 

 ラインハルトはそう言って笑い、鍋の火を弱めた。

 ガレスは、その背中をじっと見つめる。

 剣を抜かず、人を満たすために立つ英雄の姿を。

 

「……本当に、それでええんか?」

 

 その言葉に、包丁の音が一拍だけ止まった。

 

「どういう意味だい?」

「お主がここに立つことで、救われとる者は多い。それは疑いようがない」

 

 だが、とガレスは続ける。

 

「お主がここ(・・)におるということ。それが分からんお前ではあるまい」

「……と、いうと?」

「闇じゃ」

 

 短く、断言。

 

「今のオラリオは、剣を必要とする場所が増えとる。飯よりも、死体の方が増える街になりつつある。ここ最近は特に、の」

 

 遠慮のない現実。

 だが、敵意はない。

 ラインハルトは鍋を混ぜながら答えた。

 

「だからこそ、だよ」

「ほう?」

「剣だけが必要な街なら、もう終わってる。だから、剣じゃないものも必要なんだ」

 

 煮立つ音が、静かに空気を満たす。

 

「お腹が減ってると、人は未来を考えられない。怒りも、絶望も……大抵は空腹から始まる」

「……甘いな」

「そうだね」

 

 否定はしなかった。

 

「でも、僕はこれを選んでる」

 

 ガレスは黙り込む。

 

 強すぎるがゆえに。

 優しすぎるがゆえに。

 剣を抜くべき瞬間から一歩引いている男。

 

「――剣を抜かぬ英雄は、英雄たり得るか」

 

 独り言のような問い。

 答えは返らない。

 代わりに差し出されたのは、温かな皿だった。

 

「警備も大変だろう。腹ごしらえ…なんて、どうだい?」

 

 ガレスは受け取り、一口運び――唸り声を上げた。

 

「…………これでは、文句もおちおち言えんな」

「はは」

 

 短い笑い声が、晴れた空に溶けた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 現実味が、ずっとない。

 

 そう感じたのは、いつからだっただろうか。

 Lv.6になった時か。

 それとも、Lv.5に至った頃か。

 

 ――いや、違う。

 

 多分、もっと前だ。

 この世界に転生した、その瞬間から。

 何の取り柄もない、ただの人間が死んで、この世界に来た。

 前世の記憶は曖昧で、鮮明に思い出せるものなんてほとんどない。

 残っているのは、古びた価値観と、どうでもいい知識の欠片だけ。

 

 歪だ。

 

 今、自分が生きている現実と、この世界の在り方が、どこまでも噛み合わない。

 必死に足を動かしているのに、地面に触れている感覚がない。

 

 まるで、ただのボーナスステージ。

 失敗しても、やり直せる前提の世界。

 

 夢見心地、なんて生易しいものじゃない。

 痛みは確かにあった。

 血も、骨の軋みも、死の恐怖も――何一つ、夢のようにぼやけてはいなかった。

 

 それでも。

 

 どこか現実じゃない。

 

 自分が大層な人間だと思ったことは、一度もない。

 次の生を与えられただけの、運だけが良かった人間。

 ただそれだけだ。

 たまたま、好きだった作品の、好きだったキャラクターに似た姿を与えられただけの。

 どう足掻いたって、その人物になれるはずがない。

 同じ顔でも、同じ魂じゃない。

 

 それなのに、運は続いた。

 

 アストレア様に拾われた。

 名前をもらった。

 ただのそっくりさんが、本物みたいな贋物(・・・・・・・・)になった。

 

 気付けば、一人称も『僕』になっていた。

 自然だった。

 不思議なほど、違和感がなかった。

 

 ――せめて、そうあるべきだ。

 

 そう思った。

 

 歪んだままでもいい。

 好きだった。

 尊敬していた。

 彼の在り方を真似るなら、形からでいい。

 

 フリも、幾千と繰り返せば、本物になる。

 

 そう信じて。

 そう唱えて。

 そう繰り返して。

 

 結果、残ったのは。

 

 まるで本物みたいに振る舞う、歪な贋物だけだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 鳴動する。

 

 大地の奥で。

 世界の裏側で。

 

 それは鎌首をもたげ、

 絶望を齎そうと、産声を上げた。

 

 飢えている。

 

 絶望は、エサを求めている。

 憎悪と憤怒を糧に。

 悲鳴を啜り、血を呑み干して。

 

 満たされるほどに、

 さらに欲し、

 さらに醜く肥え太り。

 

 そして。

 

 ――――邪悪が、胎動する。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あぁ~~~~~~~~…………久々に晴れやがって、いい天気じゃねぇかぁ~」

 

 間延びした声を上げたのは、長外套(オーバーコート)を羽織った一人の人物だった。

 目深に被ったフード。その下から覗く輪郭は、どう見ても女性のものだ。

 彼女は足を止め、空を仰ぐ。

 抜けるような蒼穹。

 雲は薄く、光は柔らかく、世界はただただ平和そのものの色をしていた。

 北のメインストリート。

 通りの一角では炊き出しが行われ、人々の笑い声や礼の言葉が折り重なるように響いている。

 喜びの声は、まるで空に吸い込まれるかのように、次々と上へ溶けていった。

 

「空にも祝福されてよぉ? ……きっと、いい事でも起こるんだろうなぁぁ~」

 

 感慨に浸るような、気の抜けた声音。

 それは、この場にいる誰とも変わらない――平和を享受する者の声だった。

 

 ――ドンッ。

 不意に、衝撃。

 青空を仰いでいたその女に、獣人の男がぶつかった。

 通りは炊き出しで賑わい、人と人とが肩を擦り合わせるほどの混雑だ。

 こうした接触は、珍しいことではない。

 

「おっと、すまない。肩が当たってしまって――――」

 

 獣人の男はそう言って、慌てて謝罪の言葉を口にした。

 しかし、その声は最後まで届かなかった。

 

「おうっ、気にすんな」

 

 女は気安く、片手をひらりと上げる。

 まるで「よくあることだ」と言わんばかりに。

 ――そして。

 もう片方の手が、長外套(オーバーコート)の下へ滑り込み、

 次の瞬間。

 佩いていた長剣で喉を裂いた(・・・・・・・・・・・・・)

 

 ぶしゃ、と。

 あまりにも間の抜けた音。

 だが、噴き上がった赤は、その軽さを一瞬で否定した。

 想像を遥かに超える量の血が、獣人の男の喉元から噴水のように吹き出す。

 

「……は、が……ぇ……?」

 

 遅れて浮かぶ困惑の声。

 それは言葉になる前に途切れ、男の身体は崩れ落ちた。

 

「慰謝料代わりにちゃ〜んと、てめぇの命を貰っといてやったからよぉ」

 

 女はそう言い放つ。

 生きることを止めた男の目玉が、ぐるりと裏返る。

 彼がそこに居た証は、ただ一つ――怖気の走る血の噴水だけだった。

 

「い、いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 絹を裂くような、甲高い悲鳴。

 それを、心地良さそうに聞きながら。

 獣人の男を亡骸へと変えた張本人は、紅色に染まった長剣を肩に担ぐ。

 唇に跳ねた鮮血を舌で舐め取り、

 凄絶な嗤いを浮かべた。

 

「うあああああ!?」

「ひ、人がっ……人が死んでる!?」

「何なんだよ一体!!」

 

 一瞬で、恐慌(パニック)が伝播する。

 ほんの数秒前まで幸福に満ちていた空間は、もはや影も形もない。

 老若男女が入り乱れ、悲鳴を上げ、我先にと逃げ惑う。

 何が起きたのか理解できないまま、

 それでも一つだけ、全員が理解していた。

 

 ――――闇派閥(イヴィルス)

 

 この暗黒期を語る上で、切っても切り離せない時代の象徴。

 『悪』が、ここに現れたのだと。

 

「いい香りがするじゃねぇか~。私達も交ぜろよぉ、ギルドの糞ども」

 

 女がフードを外す。

 毒々しい薄紅色の髪。

 損傷(ダメージ)のある肌着と、革の脚衣(レザーパンツ)

 愉悦に細められたその瞳。

 

「宴の手伝いぐらいは、してやるぜ?」

 

 その人物は、要注意人物一覧(ブラックリスト)に名を連ねる存在。

 闇派閥(イヴィルス)最重要幹部に位置するヒューマンの一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そこら中に、真っ赤な果実をぶち撒けてなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【殺帝(アラクニア)】――ヴァレッタ・グレーデ。

 

 

 

 

 

「今がどうしようもねえ時代で! ここは笑う暇もねえ地獄だと!! 群衆(バカ)どもに思い出させてやらねえとよお!!!」

 

 

 

 

 

 その名を表す様に、宣言通りの殺戮が始まった。




ビバ誕生日(1/30)、30歳になりますた。
三十路という言葉が唐突に降りかかってくる現実がががが。


ちなみに仕事しすぎで、脳蕩けすぎて今日も仕事の打ち合わせ10分ぐらい喋った内容5秒で忘れて、何の話してましたっけ?って聞くぐらいには脳のキャパが追い詰められてます()
中間管理職ってしんどいよね()

そういえば、一話の加筆修正行なってます。

本作ゆるりと仕事の合間ぬって続けてくので、おらに誕生日プレゼントととして感想をわけてくれええええ

以下、番宣というかお知らせ。
そのうち投稿(短編予定)するので、見かけたら見てやってくれたらと思います。
一文は活動報告に投稿しとくので、見てくれたら嬉しいです。

ではでは、また次回

幕間が描く話(各副題は活動報告にあり)

  • 豊穣祭
  • 剣聖の受難
  • アストレア・ファミリア 剣術指南
  • ロキ・ファミリア × 剣聖
  • その他リクエスト(活動報告まで)
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