何でもない、ごく普通の一日。

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I'm here

 空はペンキを塗りたくたような青空が広がり、雲は何の穢れもなく悠々と漂っている。

『あー、今日も空が綺麗だな!』

 大きな声で少年が叫ぶ。

「こんな日は学校なんてサボって、遊びたいね~」

「そうだな。本当にサボっちまうか?」

 そんなことを話しながら学校に向かう。何もないごく普通の、ただの日常だ。

 少年は呟く。現実から目を背けたまま。

 朝のHRが始まる前の数十分の時間。皆がそれぞれの所属グループに別れて、それぞれの楽しい会話を繰り広げる。

 少年も、実に楽しそうに、話していた。

『うわ……、一限目古文かよ……、あり得なくね?』

「古文の先生、厳しいから、俺苦手だわ」

 心底嫌そうにクラスメイトが呟く。

「俺も俺も、スマホもいじれないし」

 やれやれとツイッターの画面を表示させてスマホを見せる。

「窓際最前列で堂々といじってんじゃねぇよ! 俺らでよかったな。委員長だったら速攻でチクられてんぞ?」

 スマホを取り上げて、勝手に画像フォルダを探す。青少年らしい、肌色成分多めのフォルダが幾つかあり、持ち主は必死にソレを奪い取ろうとしていた。

「馬鹿共、何か呼んだか?」

「げっ、委員長――あっ」

 驚いたせいかそれともわざとか、レアリティの高い画像を表示させた状態で、スマホが筋肉隆々の古文担当兼生徒指導の教師に渡った。

 普通にそれをキャッチし、何気ない仕草でスマホの画面を見る。

 パキッという音がして、スマホが縦に真っ二つになる。

『あらら……』

 少年はそう呟き、持ち主に視線を送る。冷や汗を滝のように流して、ゆっくり、慎重に後退りする持ち主。猛獣に出会ったかのようだった。

「貴様ら……」

 教師は声を震わせる。二つになったスマホが四つになり、更に砕け、粉々になる。

「逃げろッ!!」

 パラパラとスマホだった残骸が床に落ちていくのを合図に、そう叫んで教室から脱兎のごとく逃げ出す。

「貴様ら、今度こそ逃さんぞ! 待て!」

 追いかける教師と逃げる生徒。距離がどんどん近付く。

「待てと言われて待つ馬鹿がどこにいる!」

 持ち主はそう叫び、だか全力で転倒する。勢いそのまま、三回転ほどして壁に激突して止まった。

 逃げていく仲間は、持ち主の方を向いて、声を合わせて、満面の笑みで一言。

「お前の犠牲は無駄にはしない!」

 当然、転んだ原因は逃げていく仲間である。

「勝手に殺すんじゃねぇ!」

 立ち上がって追いかけようとしたところで、肩をぽんっと叩かれる。

「さぁ、生徒指導の時間だ」

 振り向くと、教師が追いつき、逃げ出せないように物凄い力で肩を掴んでいた。

「い、いや、ほら、後の二人も一緒にしたほうがいいと思うんですけど……、あはは……」

「安心しろ。後の二人も必ず捕まえる」

「そうですか、なら俺は教室に戻ってるんで――って、アレ、進まない」

 ぐらっと視界がぶれ、すぐにそれが担がれたからだと気付く。

 教師と目が合うと、教師は満面の笑みで一言。

「――まずはお前だ」

 絶叫が教室にこだました。

 そんな教師と持ち主の様子を眺めながら少年は一言。

『アイツ、終わったな』

「……あいつはいい奴だった。俺の盾になったり、俺の身代わりになったり」

「お前、『いい奴』を『便利な奴』と一緒にしてるだろ」

「そんなに変わらんだろ」

「――否定はしない」

 キリッと、何故か格好良く見えるほど強い口調で言い切る。

 ――利用価値があるまでの間の――親友、などという言葉が、ライトノベルであったなと少年は関係のないことを思い出していた。

 ちなみにその後、見事に捕まり、こっぴどく鉄拳制裁と説教を食らった。

 昼になって、皆で集まって弁当を食べる。

『お前、またコンビニ弁当かよ』

「栄養バランス偏るぞ、お前」

「仕方ないだろ、金がねぇんだよ、金が」

「またゲームに注ぎ込んだのか?」

「違うよ! 歩いてたら人にぶつかっちまってそしたら骨折れたって言うから、慰謝料として五万円払ったんだよ!」

「ダマされてんじゃねぇか!」

「騙されてたのか!?」

 そんなこんながあって、昼休みも終わり、五、六限もあっさりと終わり、帰宅。

『今日も楽しかったな!』

「ったく、俺ら、よく退学になんねぇよな」

 授業を抜けだそうとして一悶着あったらしく、頭に大きなこぶを作って呟く。

「まぁ、いいじゃん、どうにかなるって」

「そうだな」

 寄り道を少しして、各々の家に帰宅していく。

 最後。一人になって、少年は家に辿り着く。

 家の中に入って、疲れて眠りこけている母親に『ただいま』と呟く。

 自分の部屋に入って、扉を閉める。

『くそっ……』

 力なく座り込む。頭を抱えて、折れそうになるぐらいに歯を軋ませる。

『誰か、誰か、気付けよ』

 消え入りそうになる声は、誰も聞こえていない。

 最初から、最後まで、全て、少年の声は誰にも聞こえていない。


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