蒼穹の雪風 - Blue Archive: Stratospheric Phantom - 作:Orpheus@失踪主
飛ばない気楽さを選んだつもりだったんだが…気楽とは程遠い
____ジェイムズ・ブッカー
青春の空で『雪の精霊』はどう飛ぶ?
薄明かりの通路。長く、どこまでも長く続く回廊。
足元を導くガイドライトだけが、薄らと無機質に光り輝いていた。
その通路を、一人の少女が早足で歩いている。
「たっく……なんでアイツがあんな目に……っ!!」
カツン、カツン。
塵一つ落ちていない清潔すぎる通路に、スカジャンを着た少女――『美甘ネル』の足音が鋭く響き渡る。
その表情は、苛立ちと焦燥がない交ぜになり、今にも何かを噛み砕きそうなほど険しい。
「なんでだ……あの会長は、アイツを……!!」
カツン、カツン。
足音は長い通路の果て、重厚な隔壁の前で止まった。
ネルはポケットからカードキーを取り出す。この通路を、いや、この極秘施設そのものを作り上げた青年から託されたカードキーだ。
スキャナーに通す。電子音が鳴る。
たった数秒の認証時間。普段なら気にも留めないその時間が、今の彼女には永遠のように感じられた。
まだか、まだかと。
一秒。インジケーターは赤いままだ。拒絶の色が目に痛い。
まだか、まだかと。
二秒。焦りで爪先が床を叩く。
まだか、まだかと。
三秒。ようやく、光が緑へと変わった。
ガチャンッッ!!
ロックが外れる重い金属音と同時に、ネルはドアノブを捻り、強引に押し開けた。
視界が開ける。
通路のような頼りない光ではない。暗闇の中に広がるのは、広大な空間。
そこは、巨大な
乱雑に、しかしある種の法則性を持って散らばる工具の山。
その中心に鎮座する、闇を凝固させたような――巨大な機械の塊が目に飛び込んでくる。
「……ネルか」
その塊――翼の上から、一人の青年が降りてくるところだった。
片目を髪で隠し、白い学生服を着た彼は、手にしたノートパソコンを使い、ただその鉄の塊と対話していたかのように見えた。
虚ろな瞳は、少女の方を向いてすらいない。ただ、センサーが感知した識別名を口にしただけのような響き。
「おい『レイ』!!」
怒鳴り声と共に、ネルはレイの胸倉へと掴みかかった。
小柄な体躯からは想像もつかない膂力で、ひょろりとしたレイの体を強引に引き寄せる。
「退学届け出したって、どういうことだあぁッ!!」
至近距離で吠えるネル。だが、レイの表情はピクリとも動かない。
その反応の薄さが、さらにネルの神経を逆撫でする。
「……手続きは済ませた。もう僕はミレニアムの生徒じゃない」
「ふざけんな! リオと何があった!? お前の作ったあの『雪風』ってシステムが原因か!?」
「……『雪風』は、システムじゃない」
レイの声は淡々としていた。だが、その否定の響きには、何人たりとも侵すことのできない絶対的な意志が込められていた。
胸倉を掴み上げるネルの腕に、さらに力がこもる。服の生地が悲鳴を上げても、レイは眉一つ動かさない。彼の視線は、目の前の幼馴染を通り越し、その背後に鎮座する漆黒の巨体へと注がれていた。
薄暗い格納庫の闇を自ら纏うかのような、艶消しの黒い装甲。
照明の光を鈍く吸い込む、独特な形状の機首コーン。
その側面には、まるで己が魂の名であるかのように、力強い筆致で漢字二文字が刻印されている。
その名を口にするためならば、たとえ世界中から罵られようとも構わない。
レイは憑かれたように美しい機体を見つめ続け、言葉を紡いだ。
「彼女は……雪風は、僕の知る限り最高の知性だ。……会長には、それが理解できなかっただけさ」
「だからって、ここを出ていく必要がどこにある! アタシに一言の相談もなく!」
「……ここに居ては、飛べないからな」
「あ?」
レイの手にあるノートパソコンの画面には、目まぐるしい速さで文字列が流れている。
CONNECTION ESTABLISHED...
SYNC RATE: 98.4%
TACTICAL DATA LINK: ONLINE
WARNING: UNAUTHORIZED USER
OVERRIDE SEQUENCE: ACTIVE
SEARCHING FOR PILOT...
FOUND: REI YUZAKI
I HAVE CONTROL
そう表示された画面を閉じ、レイは静かにネルの手を解こうとした。
「邪魔をしないでくれ、ネル……雪風が、呼んでるんだ」
「ッ……お前、目……」
ネルは息を呑んだ。
幼馴染として見てきたレイの瞳。だが今、そこに映っているのは自分ではない。
彼の瞳は、ただ背後の美しい機体だけを映し、その深淵に魅入られているかのように冷たく澄んでいたからだ。
その姿を見た彼女は、掴んでいる手を離した。
手を離した瞬間に、レイは雪風へと足を進めた。
「待て__ 待てよレイ!!」
ネルの鋭い制止の声が、広い格納庫に空しく反響する。怒りでは無い、ただ何故、退学という道を選ばなくても良かったはず。それを聞かなければならかった。無口な彼の口を割らなければならなかった。
力無く落とした腕を前にするが、足に力が入らない。
本当に止めてしまってもいいのだろうか。
そんな声が彼女の頭の中を過ぎる……。だけどもまだ聞くことはある、聞かなければならない事がある。その胸ぐらを掴みあげた手を必死に前に出した。
だが、今のレイの鼓膜には、その声は遠い世界からのノイズのようにしか響いていなかった。
彼は躊躇なく踵を返し、漆黒の機体――スーパーシルフの側面にあるラダーへと足をかける。
一歩、また一歩。
かつて共に過ごした幼馴染から遠ざかり、人間ではない「妖精」の懐へと登っていく彼の姿に向かおうとするが、足が動かない。
「おいッ!!」
ネルが駆け出そうとする、だが、まだ葛藤があった……幼馴染としての本当にいいのか。その問いは彼女の脚を止まらせた。ただ、もう一度、手を、腕を、前に突き出すだけだった。掴みたいのに掴めない。まるで夢のように。
重りをつけられた彼女が機体の下に辿り着くよりも早く、雪風へと、レイはコクピットへと滑り込んだ。
身体を包み込むシートの感触。狭苦しく、しかし羊水に浸かったかのような絶対的な安心感。
レイは慣れた手付きでヘルメットを被り、バイザーを下ろす。
プシュゥゥゥ……。
油圧の作動音と共に、分厚いキャノピーがゆっくりと降りてくる。
ガラス一枚隔てた向こう側で、ようやく動けたネルが何かを叫びながら機体を叩いているのが見えた。だが、完全に閉鎖されたコクピット内には、もう彼女の声は届かない。例え、ミレニアムサイエンススクール最強の存在である幼馴染でさえ、そのガラスは破れない。
あるのは、静寂と、冷徹な機械の息遣いだけ。
レイは正面のコンソールに指を這わせ、システムを覚醒させる。
火を入れるのではない。眠れる魂を呼び覚ます儀式だ。
「___起きろ、雪風」
その呼びかけに応えるように、暗闇だった全天周囲モニターと計器類が一斉に息を吹き返す。
網膜に直接投影されるかのように、無数の光の羅列が視界を埋め尽くした。
POWER UNIT: STANDBY
HYDRAULIC PRESSURE: NORMAL
AVIONICS: ONLINE
FCS: ACTIVE
CHECKING FLIGHT CONTROL SURFACES...
ALL GREEN.
WELCOM HOME, LIEUTENANT.
READY TO START
「チェックオールグリーン_____行こう」
レイの指が、エンジンスターターのスイッチを弾く。
ヒュゥゥゥン……
最初は微かな、風鳴りのような音が響いた。
それは瞬く間に周波数を上げ、鼓膜を突き刺すような甲高い金属音へと変貌していく。
ジェットエンジンというよりは、巨大な発電機が限界を超えて回転し始めたかのような、神経を逆撫でする高周波の咆哮。
機体の後方、二つの巨大なノズルから熱波が吐き出され、空間が蜃気楼のように揺らぐ。
「なっ……!?」
あまりの音圧と熱風に、ネルはたまらず顔を覆い、後ずさりした。
そしてキャノピーのガラスから離れるしか無かったのだ。
目の前にいるのは、もう自分の知る「レイ」ではない。
圧倒的な暴力と知性を兼ね備えた、一機の
ズオオオオオオオ……!!
アイドリングが安定し、重低音の唸りが腹の底に響く。
キャノピー越しに見えるネルは、怒っているというよりは、「またお前は勝手なことを!」と地団駄を踏んでいるように見えた。
「……ふっ」
レイの口元に、自然と笑みがこぼれる。
そうだ、彼女はこういう奴だった。そして、自分も。
だからこそ、これくらいの距離感がちょうどいい。
「雪風。……通信、繋がるか?」
雪風が即座に回線を確保する。
レイはスマホを取り出すと、目の前で喚いている小柄なメイド長に向けて、軽い調子でメッセージを打ち込んだ。
「……了解」
レイは苦笑しながら、スロットルレバーに手を添えた。
防音の効いたコクピット内には、外部の音は一切入ってこない。
ネルが何かを叫んでいるのは見えるが、その声は届かない。
だからこそ、この独り言は彼女への返事ではなく、自分自身への誓いだ。
「財布の紐、緩めておくよ……必ず帰って、奢るから」
レイの指が、コンソールを走る。
この格納庫は、ミレニアムの管理区域外――郊外の荒野に建造された極秘拠点だ。
協力者は、あのハッカー集団『ヴェリタス』の部長、明星ヒマリ。
そう豪語していた彼女と共に、リオ会長の徹底的な監視網すら掻い潜って作り上げた、正真正銘の
「行くぞ、雪風。……『空』を開けてくれ」
主の命に対し、雪風は忠実に、そして迅速に応える。
ズズズズズ……。
重厚な駆動音と共に、天井と前方のゲートがスライドし始める。
ヴェリタスの技術力が惜しみなく投入されただけあり、その動作は優雅で無駄がない。
開かれた空間から、
「準備万端ってわけだ」
レイはバイザーを下ろし、前を見据える。
滑走路はクリア。障害物なし。
外では、ネルが去りゆく機体に向かって地団駄を踏み、何かを怒鳴っているのが見えた。
分厚いキャノピーとヘルメットに阻まれ、その声は聞こえない。
だが、長年の付き合いだ。何を言っているかぐらい分かる。
きっと『逃げんじゃねぇ!』とか『絶対戻ってこい!』とか、そんなところだろう。
「……ははっ」
レイは一度だけスロットルから手を離すと、ガラス越しに彼女へ向けて、高く掲げてみせた。
突き立てられた親指。
それは『了解』の合図であり、『必ず帰る』という無言の約束。
多くのパイロットたちはそんな希望を持ってこう呼んでいた。
「……行ってきます」
レイはハンドルを握り直すと、ブレーキを解除した。
二つのエンジンが臨界まで唸り、アフターバーナーの蒼い炎が炸裂する。
漆黒の翼___スーパーシルフは、自らの巣立ちを祝うかのように、堂々と空へ躍り出た。
衝撃波が格納庫の空気を叩き、ネルの髪を激しくなびかせる。
彼女が目を開けた時にはもう、その機体は遥か彼方。
青空に一筋の
「……たく、ホントに飛んでいきやがった」
ネルは乱れた髪を直そうともせず、轟音だけが残された空を見上げる。
その口元は、不敵に吊り上がっていた。
先ほどのハンドサインを思い出し、鼻を鳴らす。
「焼きそばパン、特大サイズにすっからな。……覚悟して帰ってこいよ、バカレイ」
その飛行機雲は、青春の空に流れ行く。この日、初めてその空に空を飛ぶ者が現れた。
結局の所、聞きたいことは聞きそびれてしまった……。
だが彼女のその顔は、何処か清々しい顔をしていた___。
あの空に続く、飛行機雲しかないあの晴天の空のように。
【ちょこっと人物紹介】
妖崎(ゆざき)レイ
・本作の主人公、性別は男。
前世は不明であるが戦闘機妖精雪風と言うアニメが好きだったことと、戦闘機と言う存在が好きだったと言う記憶しか無い状態で転生した不思議な存在。
何故か、学生へとなってしまった自分に驚きつつ、スーパーシルフやメイブ、戦闘機繋がりかマクロスやエスコンなどの戦闘機の設計図がボンボンと頭の隅から出てくる呪い(?)を受けているのでミレニアムサイエンススクールへ入り技術力無双をしてる。
・エンジニア部やヴェリタス組などに手を貸してもらい【雪風】を制作、対話して行く中でスーパーシルフを一人で組んだバケモノ。
・ヘイロー無しとは言えバケモノレベルの技術力と肉体の耐久度はとても高い為、天与呪縛かなんかだと思う
FFR-31MR/Dスーパーシルフ(雪風)
・戦闘機妖精雪風にて登場した戦闘機
フェアリィ空軍(FAF)の主力戦闘機FFR-31 シルフィードのうち、高い性能を誇る初期生産型(オリジナル・シルフィード)を戦術偵察用に改修した機体が「スーパーシルフ」と呼ばれる(ピクシブ百科事典参照)が、今作ではレイが制作、魔改造されているバケモノ戦闘機となった存在に。
見た目は変わりは無いが、特殊な動力を搭載している為、ほぼ補給無しで空を飛べるようになってしまった正しく怪物。
武装としては対空地マイクロミサイルや20mmバルカン、TARPS(戦術航空偵察ポッド)を装備。
・また、【雪風】と呼ばれる戦闘用コンピュータープログラムを装備している。OVA版戦闘機妖精雪風と同じ様に少ない言語で話し、自身で解析、思考、発言などなど人間味を彷彿させる様な【思考回路】を保持している。ハッキング能力はかのアロナちゃんを超える化け物。誰にも止められない。
また、製作者であるレイ本人は気付いていないが、雪風はレイの事を好き(ラブ)である。好きである(大事な事なので2回言いました)
・美甘ネル
ブルーアーカイブ本作に登場するヤンキー気質な子、可愛いね♡
小学生と見間違う小柄な体格なれど、人相は険しく、性格・言動も乱暴で高圧的なヤンキーそのもの。身長は本人も気にしている逆鱗なので、気軽に触ると怒られる危険性があるがレイだけは違い、幼馴染と言う関係性故かめっちゃ距離感が近い。バケモンってレベルで近い。
幼馴染として純粋にレイの事を尊敬しており、自らの信念を貫き通すその様に惹かれている。
今回の雪風の件で、少し頭が焼けたがとっくにもう熱々に熱々に燃やしきったのでもう遅い。責任とってね♡
・調月リオ(会長)
今回は名前だけ登場、雪風について揉め合い、こんな奴と居るぐらいなら別の場所に行くと普段は温厚なレイにブチ切れられた悲しきコミ力皆無な完全効率厨。
(時系列的には原作の1年前なので会長かどうかあやふや、だけど今作はもう会長になってると言う設定で書かせてもらってます。間違えてたらお兄さん許して……)
・明星ヒマリ
名前だけ登場、自称超天才美少女ハッカー。
レイとは、ミレニアムサイエンススクールの中で知り合った仲であり、お互いにお互いの技能を褒めあっている。
『雪風』にハッキング技術を教え込んだら、いつの間にかハッキング技術が天井突破しており、流石私の娘!!と後方ベガ立ち自称天才美少女ハッカーと化している。
あとがき。
明けましておめでとうございます。
今年も良いハーメルン日和で……ってこともなく、投稿者はこの投稿前新年前日にウィルス性胃腸炎にかかりまして38.3℃と言う苦悶の表情を浮かべながら死にかけてました。
年越しそばも食うことも無く……というか食えず、お粥で年越しました。
つれぇっすね……
皆さんも、体調には気を付けてくださいね……では、また来年……