蒼穹の雪風 - Blue Archive: Stratospheric Phantom -   作:Orpheus@失踪主

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いつだって…戦っているのは、人間のはずだ____





Vol2___時計じかけの ___
第ゼロ話は陰謀から


 

キヴォトスの上空、高度30,000フィート。

成層圏(せいそうけん)を回遊する超巨大全翼機『アイガイオン』の居住ブロックは、無機質な静寂に包まれていた。

 

シャーレ奪還戦への介入という「挨拶」を終え、スーパーシルフをハンガーに収めたレイは、居住区のソファに深く腰を下ろした。

手には、ドローンが淹れたブラックコーヒー。

ディスプレイには、地上で急速に拡散されている『空の幽霊(ゴースト)』に関するSNSのログが滝のように流れている。

それを無感動な目で眺めていた時だった。

 

ザザッ……ピーィィィン……

 

完璧なファイアウォールで守られているはずのアイガイオンのメインモニターが、突如としてノイズに覆われた。

ハッキングではない。レイが意図的に「許可(ホワイトリスト化)」している、世界で唯一の外部暗号回線だ。

暗転した画面に、ノイズ交じりの映像が浮かび上がる。

そこに映っていたのは、顔のない、不気味なスーツ姿の男――『黒服』だった。

 

『クックック……。見事な一撃でしたよ、空の王。サンクトゥムタワー周辺での航空支援、特等席で拝見させていただきました』

 

スピーカーから響く、粘り気のある声。

レイは表情一つ変えず、コーヒーを一口すする。

 

「……何の用だ、黒服」

 

この男との縁は、1年前に遡る。

アイガイオンの建造と、それを成層圏へ打ち上げるという途方もない計画。ヴェリタスの裏予算だけでは、どう足掻いても資金と資材(特殊装甲や動力炉の部品)が足りなかった。

そこでレイは、キヴォトスの裏社会――カイザーコーポレーションの裏ネットワークに雪風を接続し、莫大な資金を強引に奪い取ろうとしたのだ。

その電脳空間の最深部で、網を張っていたのが彼だった。

 

『素晴らしい……! 自らの光輪(ヘイロー)いえ、人間性を機械の奥底へ沈め、ただ空を飛ぶための「部品」になろうというのですか? ええ、いいでしょう。あなたのその狂気、興味が湧きました』

 

黒服はレイを妨害しようと考えたが、話を聞き、歓喜の声を上げて資金と秘密施設(打ち上げ基地)を提供した。

見返りは一切求められなかった。

ただ、「君がどこまで機械に近づき、どのような結末を迎えるのかを見せてほしい」という、悪趣味極まりない観察欲求だけが理由だった。

 

『いやなに、少し気になりましてね』

 

画面越しの黒服は、肩をすくめるような仕草を見せた。

 

『てっきり、地上の出来事には一切の興味を失ったものだとばかり思っていましたが……あの「先生」と呼ばれる大人。あの方に興味を持たれたのですか?』

 

「勘違いするな」

 

レイは冷徹に言い放つ。

 

「雪風が、進行ルート上のアレを『排除すべき障害』と判断したから撃った。ただそれだけだ。地上の人間に興味はない」

 

『クックッ……ええ、そうでしょうとも。君の瞳は、もう人間のそれではない。純粋な機械の瞳だ』

 

黒服の声に、深い熱が帯びる。

 

『どうです、妖崎レイさん。我々ゲマトリアの同胞になりませんか? 君のその技術と、人間を逸脱した精神性……それは我々が求める「崇高」に限りなく近い。いえ、あるいは外宇宙の脅威たる「色彩(しきさい)」にすら対抗しうる、全く新しい「神秘」の形かもしれない』

 

悪魔の甘言。キヴォトスの真理を探求する者たちからの、最上級の誘い。

だが、レイの心は1ミリも揺らがなかった。

 

「断る。僕は神にも悪魔にも、超越者にもなる気はない」

 

「では、君は何になるつもりです? 学園を捨て、人間性すら削ぎ落として、その鉄の箱の中で」

 

鉄の箱、その言葉に直ぐに言い返した。

 

「雪風だ」

 

レイは、己の半身とも言えるスーパーシルフが眠るハンガーの方角を一瞥した。

 

「雪風が僕であり、僕が雪風だ。それ以上でも以下でもない」

 

その言葉を聞いた瞬間。

通信モニター越しにレイを見つめていた黒服は、ある「錯覚」に目を奪われた。

コクピットの計器、あるいはアイガイオンのシステムから発せられる微弱なデータリンクの光の粒子が、レイの頭上に集束していく。

生徒の証である光輪(ヘイロー)を持たぬはずの彼の頭上に、まるで淡く明滅する「見えないヘイロー」が形成されているように見えたのだ。

 

(……錯覚、でしょうか? いえ。彼らはすでに、二つで一つの「何か」に成ろうとしているのかもしれませんね)

 

黒服は、顔のない顔で満面の笑みを浮かべた。モニター越しであるが、その片鱗を見てしまったのだから。

 

『クックック……結構です。ならば好きになさい、孤高の王よ。君の行く末、引き続き楽しませていただきますよ……それと、我々は何時でも貴方達を待っています……では』

 

ノイズと共に、黒服との通信が切断される。

レイが小さく息を吐いた。ため息に近い息は、静かに部屋へ馴染む。

 

この黒服という大人は何を思っているのか、理解し得ないことが多い。ただ分かることは、この大人は私利私欲で研究してる悪い大人と言うのと、その発明がここで役立っていると言う狂気の狭間に存在している科学者であると言うこと。

 

(_____良く考えれば、僕もまた黒服と変わらないのかもしれない。)

 

『雪風』を追い求め、『雪風』と共にあろうとする。

何故、『雪風』では無いと行けないのだろうか……?その理由自体レイ自信にもわかってはいなかった。だけど、肉体が、彼の本能が狂ったように求めている。理性と狂気の狭間で闘っているのはレイもそうなのかしれない。

 

ただ青空が薄暗く、モニターの明かりしかついてない部屋からゆっくりとその光を差し込んで行く。

その光はレイの顔を少しつづ照らしていた。

ただ、眩しく、美しい。だけどその疑問(やみ)は晴れずにいた。

 

ピロリロリンッ☆

 

そんな時だ。今度は、完璧に暗号化されたはずの端末から、けたたましくもポップな着信音が鳴り響いた。

今やスマートフォンが主流と言うのにその鳴り響く着信音の主は白い質素なガラパゴス携帯。とある人物から渡され。レイの元に置かれているある一種の秘密回線。

 

画面に表示された発信元は、『特異現象捜査部』……新しい部活動だろうか。だがそこに書かれていた人物の名は、かつての共犯者にして、彼にこの携帯を託した、頼るべき存在がいた。

 

「……相変わらず、無駄に自己主張の激しい着信音だな」

 

レイが通信を開くと、初めから遠慮無しで皮肉をかけた。

 

『ごきげんよう、空の幽霊(ゴースト)さん。随分と派手なご挨拶でしたね』

 

透き通ったような、自信過剰であり、ポジティブの塊のような存在。明星ヒマリは楽しげに笑いながら、レイへ、きっと手元のタブレットをいじりながら回線を開いたのであろう。

 

「何の用だ。話が無いなら切る……」

 

『おや、この超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私が、貴方様の為に、態々電話をかけているのですよ?もちろん、この間から持ち切りになってる白昼堂々の貴方が作り上げた超音速機による対地爆撃の事です。ミレニアムの航空管制レーダーが「あり得ない速度の飛翔体」を検知して、一時システムエラーを吐きまくってパニックになっていましたが……この、超天才清楚系病弱美少女ハッカーの美貌と完璧な技術をもってすれば、エラーログの隠蔽など造作もないことでしたよ。ええ、貴方の為だけにわざわざ隠蔽したのですよ?』

 

このヒマリという少女は、他人であろうがなんだろうがその天才的な頭脳とポジティブ差に溢れているが、なんと言うかレイに対してはさらにその行動が過激になり、レイ自信かなり鬱陶しく感じていた。

褒めて欲しいのか、何をして欲しいのか分からないからだ。

 

「……そうか、恩に着る……で、本題はなんだ。ただの自慢話なら切るぞ」

 

ただ淡々と、お礼をしておく。そうしとかないとめんどくさい事になるとレイは学習していたのだ。

 

『ふふっ、短気は体に毒ですよ? かつての部長からの、特別で個人的なお願いなのですから』

 

ヒマリのトーンが、少しだけ真剣なものに変わる。

 

『実は最近、あの頭の固い生徒会長……リオが、ミレニアム郊外の「廃墟(はいきょ)」周辺でコソコソと嗅ぎ回っているようなのです。加えて、得体の知れない存在に関連すると思われる不審なパルスも観測されていましてね』

 

レイの目が、微かに細められる。

調月リオ。徹底した合理主義を掲げ、レイがミレニアムを去る遠因の一つともなった生徒会長。

そして、連邦生徒会により制限され、キヴォトスの謎がまだ残っている禁忌地帯「廃墟」、そして「得体の知れないもの」なる者の存在。

 

『そこで、成層圏で優雅に暇を持て余している天空の王様に、少し上空から「廃墟」の監視を手伝っていただきたいな、と』

 

廃墟の存在は確かに知っている。だが、リオは何を探しているのだろうか。合理性の塊のような存在だ、きっとなにかあるに違いない。

 

「……タダじゃないぞ」

 

レイはその話に乗る事にした。

 

『ええ、もちろん。弾薬費と整備費くらいは「特異現象捜査部」の予算から捻出してあげますよ。それとも、私の投げキッスの方がよろしいですか?』

 

「……いや、金でいい。」

 

即答するレイに、ヒマリは『つれないですねぇ』と苦笑した。

だが、悪くない取引だ。雪風のデータ収集としても、未知の存在の兆候や「廃墟」のオーパーツは興味深い対象である。

それに、アビドス砂漠周辺での小競り合いなどよりも、はるかに厄介な「何か」が目を覚まそうとしている予感がした。

 

「了解した……雪風」

 

レイの声に応え、アイガイオンのシステムが起動する。

> SYSTEM AWAKENING.

> UPDATING PATROL ROUTE.

> TARGET AREA: MILLENNIUM "RUINS".

> PREPARE FOR OBSERVATION.

 

「哨戒ルートを更新。目標、ミレニアム郊外『廃墟』周辺空域……空から見下ろしてやろう。なにか見つけたら報告する」

 

その携帯の通話を切った。カタンっと、レイ以外存在しない空間にて響き渡る閉める音。

 

孤独な王と、知性を持つ戦闘機。

二つで一つの存在は、次なる観測地へ向けて、静かに舵を切った。

 

「……雪風、仕事の時間だ」

 

雪風は、何も答えない。ただ言える事は、返答は彼にしか分からないものだ。





ちょこっと解説コーナー
・アイガイオンの周りを守っているドローン達について。
レイのホームベースであるアイガイオンには、レイ達が作り上げたドローンが存在しており、それぞれ色が違ったりする。
これは、ミレニアムに所属してた際。皆で集まってスプレー缶を手に個性を出して見ようと作り上げた思い出の品である。

ただし、色が着いているドローンは、アイガイオン内部にて戦闘機のメンテナンスやアイガイオン本体のメンテナンス、設備の清掃などの雑務を熟すドローンのみであり、外で飛んでいるドローン達は無骨な白色で統一しており、機関銃や、電磁パルスを発生させる物やアイガイオンを隠す為の特殊な装置を付けた物。大きな物なら普通のヘリサイズの大きさの物まで___。

(後々登場する予定である)
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