蒼穹の雪風 - Blue Archive: Stratospheric Phantom -   作:Orpheus@失踪主

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”撃て”と言うから撃った。雪風がそう言うなら__
それは╱╱╱だ___ 深井 零






鉄の妖精と、眠れる勇者

 

地上の時間は、静かに、しかし確実に流れていた。

アビドス砂漠周辺を騒がせていた、カイザーPMCと対策委員会との激闘。連邦生徒会をも巻き込んだその砂埃の舞う出来事は、一人の『先生』の介入により、劇的な幕引きを迎えていた。

 

だが、その喧騒は、高度30,000フィートを飛ぶ『彼ら』にとっては、遥か眼下の「無音の火花」でしかなかった。

 

> SYSTEM STATUS: NOMINAL.

> ALTITUDE: 31,500 FT.

> CRUISE SPEED: MACH 1.8.

> STEALTH MODE: ACTIVE.

 

アイガイオンの背から放たれたスーパーシルフ___雪風は、アフターバーナーの蒼い炎を曳き、成層圏(せいそうけん)の冷気を切り裂いて巡航を続けていた。

 

「……静かだな」

 

コックピットの中で、レイは小さく呟いた。

機体の微細な振動、ジェットエンジンの咆哮、脳髄に直接流れ込んでくる雪風のデータリンク。それらは無機質な情報ではなく、彼にとって『雪風の息遣い』そのものだった。

彼はコンソールに優しく手を這わせる。己の半身の存在を確かめるように。

 

「綺麗だな。雪風」

 

返答は、データリンクの熱を帯びた瞬き(パルス)として返ってくる。

コックピットの中、空を飛んだ鳥達しか見れない風景が映る。

曇り無き夜空が、空というステージの上に立つ彼らをスポットし、円舞曲を躍っている。

 

「……そうか、僕も嬉しいよ」

 

まるで恋人に語りかけるように、あるいは狂気に身を浸すように。レイにとって、この息の詰まるような鉄の箱の中だけが、唯一の「生」を感じる場所であり、誰にも邪魔されない彼らだけの、孤独で狂おしい青春だった。

 

1年と言う年月の中、少しながらも雪風と空を飛び続けているレイの操縦技術は格段と上がり、雪風の制御無しでもコブラ機動を出来るほどの腕前へと成長したレイはスロットルを引く。地で走るどの乗り物であろうと追いつけぬほどの速度で空を回る。周る。周り続ける。

彼らはヒマリからの依頼である廃墟(はいきょ)の監視をダラダラとこなしながら、ただ二人きりの空を、情報の海を、狂おしく飛び続けていた。

 

その頃、地上のミレニアム郊外。

『ゲーム開発部』の存続をかけ、伝説のゲーム『G.Bible』を求めて廃墟の入り口へと差し掛かっていた双子たち――モモイとミドリ、部長のユズ、そして助っ人として呼ばれたシャーレの『先生』は、ふと夜空を見上げた。

 

「えっ……? なにあれ、流れ星?」

 

モモイが指差す先。深い青色の雲を背景に、一筋の強い光が、誰の目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく。

 

「綺麗……でも、少しだけ、寂しい光」

 

ミドリがそう呟いた瞬間。彼女たちの視界から、その光は風のように消え去った。

 

キィィィィィィィィィン…………

 

流星群と共に、キヴォトスの空は煌めき、輝き、様々なもの達を魅了する。例え、それが夜じゃなくても、星々はこの楽園を観測するのだ。

静かに、スーパーシルフから発せられた音は青春の青空に消えて行った。

 

 


 

 

 

廃墟上空。

これまでデカグラマトンの微弱なノイズしか拾えなかった雪風のセンサーが、突如として「異質なパルス」を捉えた。

キヴォトスの神秘でも、連邦生徒会の技術でもない、完全に未知のエネルギー。計器の明滅が、雪風自身の「興味」をレイに伝達する。

 

「……雪風。あそこに何かいるのか? ……お前が見たいなら、見に行こう」

 

レイはヒマリの依頼よりも、雪風の「意志」を最優先し、機体を旋回させた。

成層圏からの物理的な干渉(爆撃)は、地下深くの防空壕には届かない。だが、雪風にとって物理的な壁など何の意味も持たなかった。

 

「……雪風、回線を。下の(カメラ)を奪う」

 

雪風の圧倒的な演算能力が、廃墟の旧式なセキュリティネットワークを紙切れのように食い破る。HUD(ヘッドアップディスプレイ)に、廃墟の地下深部の映像がノイズと共に浮かび上がった。

 

そこに映っていたのは、大量の防衛機構(オートマタ)に包囲され、絶体絶命のパニックに陥っているゲーム開発部の面々と――彼女たちを背中に庇い、必死にタブレットを操作しようとしている『先生』の姿だった。

 

「……あの時の、物好きの大人か。相変わらず騒がしい奴らだ。それと……」

 

レイにとって、彼女たちの命はどうでもいい。だが、彼女たちが背にしている分厚い隔壁の奥に、雪風が興味を示した「何か」が眠っている。

 

「邪魔だな_____雪風、あの五月蝿(うるさ)羽虫(オートマタ)どもの脳髄(システム)(ショート)してやれ、視界をクリアにしてやる」

 

青色のパルスが、赤色へと変わりコックピット後部から物音が聞こえる。

雪風による自動遠隔で変わり行く武装。その中でも偵察用、電子戦に特化した装備を積み込んだスーパーシルフが持つ驚異的な電子戦能力を活用したEMP攻撃を行う準備へと移行する。

コックピット内のあるレバーを下に弾いた。武装のセーフティではない。

レイが展開したのは、雪風の『広域電子制圧(ジャミング)』プログラムだった。

 

一方、地下の廃墟。

 

「うわあああん! 先生、もうダメかもぉ!!」

「モモイ、諦めちゃダメ! ……でも、弾がもう!」

 

モモイとミドリが涙目でリロードを試みるが、数十体のオートマタが一斉に銃口を向けてくる。ユズは頭を抱えしゃがみ、先生もシッテムの箱を展開しようとした、その瞬間だった。

 

ブツンッ!!!

 

突如、地下空間を埋め尽くしていたオートマタたちの赤い光学センサーが、一斉に暗転した。

銃声は鳴らない。爆発も起きない。

ただ、すべての機械が「不可視の刃」で電子頭脳を刎ねられたかのように、バタバタと糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていった。

まるでホラー映画に出てくるゾンビのように首からは黒い煙を吐き、一体づつ動いてはいるが意識が無いような……そんな状態にいきなりなった事に全員が驚く。

 

「えっ……?」

 

「なに……? バグ? 敵が全部フリーズした……!?」

 

モモイとミドリがぽかんと口を開ける。

「隠しイベント発生!? さすが先生!!」と双子ははしゃぎ出すが、先生の表情は違った。

 

(違う。私じゃない。アロナでもない……この感覚、まさか)

 

先生は、崩れ落ちたオートマタたち越しに、分厚い地下のコンクリートの「天井」を見上げた。

見えないはずの空。そこに、あの日のサンクトゥムタワーで見た、漆黒の翼が飛んでいるような気がしたのだ。

 

「先生? どうしたの、早く奥に行こうよ!」

 

「あ、うん! ……ありがとう、空の人」

 

先生の小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

重い駆動音と共に分厚い隔壁が開き、ゲーム開発部の面々が、巨大なポッドの中で眠る少女を発見する。

 

上空3万フィート。

ハッキングしたモニター越しに、目覚める少女__確か、ヒマリはこう言っていた。『名もなき神々の王女』と。

その少女の姿を観測するレイと雪風。

人の形をしているが、人間ではない。完全に異質な存在。

自分たちと同じ、規格外の存在(ガラクタ)

雪風のデータリンクが、静かに、しかし熱を帯びてレイの脳裏に流れ込んでくる。

 

「……面白いな、雪風。あいつもまた、世界から外れた兵器(ガラクタ)か……お前は、あれをどう判断する?」

 

コクピットの計器が、まるで静かに笑うかのように、淡い緑色のパルスを返した。キュィィィンッと、カメラが絞り込む音がコックピット内を響かせ、レイを凝視する。

 

孤独な王と、知性の悪魔。

彼らは、廃墟の空から、眠れる勇者(しょうじょ)人間(なかま)になる過程を、静かに、しかし熱を帯びた「観測者(かんそくしゃ)」として見守り始めた。

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