蒼穹の雪風 - Blue Archive: Stratospheric Phantom -   作:Orpheus@失踪主

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どうした。笑ってもいいんだぞ、諸君___
アンセル・ロンバード大佐__




今日もまた、キヴォトスは平和であるか?

 

高度30,000フィート。

成層圏(せいそうけん)を飛ぶアイガイオンのハンガーで、レイは機体の装甲を外し、雪風のメンテナンスを行っていた。

手には工具。服にはオイルの染み。だが、その表情はどこか穏やかだった。

 

ピロリロリンッ☆

 

その静寂を破ったのは、またしてもあの無駄にポップな着信音だった。

白いガラパゴス携帯を開くと、画面の向こうから得意げな表情のヒマリが語りかけてくる。

 

『成層圏で孤独を拗らせている変人技術者さん。今日はこの超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私から、直々に素晴らしい朗報をお届けに上がりましたよ』

 

「なんだヒマリ」

 

『以前、貴方が私に泣きついて……コホン、私という神の如き才覚に頼り切ってエンジニア部に発注させていた、「エンジンパーツ」「受信機のパーツ」。あれが遂に完成したそうです』

 

「……いや、ウタハに直接言って頼んでたんだが……?」

 

レイの手が止まる。

雪風の機動性をさらに限界突破させるための、特注のパーツ。それが組み上がったというなら、確かに朗報だ。

本来ならばレイの手で作り出そうとしていた小型反応炉のパーツと、搭載予定のレーダーのパーツを知り合いであるウタハに任せていたのだ。

何せ、この空の上では限りある物資の中で作り出さなければならない。

 

「まぁいい……なら、いつものように指定の無人ドローンに積んで、アイガイオンへ射出させて欲しい」

 

『それがですねぇ……今回ばかりは、あのエンジニア部のマイスターが首を縦に振らないのですよ』

 

ヒマリはやれやれといった様子で、わざとらしくため息をついた。

 

『「このパーツは極めて繊細にして危険、かつ私のロマンの結晶だ! 発注者本人に直接手渡し、この熱い情熱を語り合わない限りは渡せない!」と、暑苦しいほど強情を張っていましてね。……というわけで、たまには母校の空気を吸いに、地上まで降りてきてはいかがですか? まぁ本音は予算限界までに作り上げているとあるモノが関係してるせいで打ち上げができない……らしいですが。それにもうすぐアレも始まりますからね』

 

「……はぁ……」

 

面倒くさいことになった。多分()()の事だろうな……浪漫を求めたあの兵器のことだろう。

ミレニアムの地を踏むなど、退学届を置いて空へ逃げたあの日以来だ。

だが、雪風の完成度を高めるパーツを諦める選択肢はない。

 

「分かった。……回収して、すぐ戻る」

 

レイは整備の手を止め、工具を置いた。

ハンガーの隅にあるロッカーを開ける。そこにはミレニアム生として入学した時に写真を撮ったネルとレイ、そして雪風、ヒマリが良い笑顔でハンバーガーを食べている写真などが貼られていた。

その写真を一目見て、埃を被った帽子(キャップ)を取り出し、目深に被る。

そして、その上から、退学する前にネルと一緒に買った、少し色褪せたスカジャンを羽織った。

背中には、レイが選んだ、あるいは、雪風への思いを込めて誂えさせた__風を切り裂く『妖精(フェアリー)』の刺繍が、複雑で美しい模様となって縫われている。

対するネルは、同じ日に、荒々しく燃え上がる『(ドラゴン)』の刺繍が施されたスカジャンを選んでいた。

 

(……地上は、不穏な音が多すぎる)

 

レイはスカジャンの襟を立て、アイガイオンのタラップを降りた。

そして、ヘリに乗り込む。妖精のマークが書かれた特殊なヘリだ。

 

「雪風、自動操縦(オートパイロット)で頼む」

 

数時間後。ミレニアムサイエンススクールの広大なキャンパス。

レイは帽子を目深に被り、妖精が刺繍されたスカジャンのポケットに手を突っ込み、見覚えのある_そして二度と見たくなかった、合理的なデザインの通路を歩いていた。

すれ違う生徒たちは皆、平和で温かな「青春」を謳歌している。

レイにとって、その光景はひどく眩しく、同時にひどく無価値なものに思えた。彼の居場所は、氷点下の成層圏にしかないのだから。

 

(……さっさと受け取って、帰ろう)

 

そう思い、エンジニア部へと続く連絡通路を曲がろうとした時のことだった。

 

「だから! アリスちゃんはうちの期待の新人なんだってば!」

 

「お姉ちゃん、声が大きいよ……先生も困ってるし……」

 

「ははは、まあまあ。とりあえずエンジニア部に行って、何かあるかお願いしようか」

 

前方から、やけに騒がしい集団が歩いてくるのが見えた。

双子の少女(モモイとミドリ)、ロッカーに隠れそうな小柄な少女(ユズ)、そして__白いスーツを身にまとったひょろりとした、頼りなげな大人『先生』。

 

さらにその後ろを、長い髪を垂れ流した少女が、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回しながら歩いている。

 

(……あいつらは。廃墟にいた……)

 

レイは帽子を目深に引き直し、壁際に寄って彼らをやり過ごそうとした。

関わる必要はない。自分はただの部品の回収係であり、彼らとは住む世界が違う。

賑やかな集団が、レイの横を通り過ぎる。

先生が軽く会釈をしてきたが、レイは無視した。

そのまま背中合わせに遠ざろうとした、その瞬間だった。

 

「……?」

 

集団の最後尾を歩いていた少女、アリスが、不意に足を止めた。

彼女は振り返り、真っ直ぐにレイの背中__風を切る妖精の刺繍を見つめた。

 

「アリス? どうしたの?」

 

「……あの人に何かフラグの様なものが見えました!」

 

アリスの澄んだ声に、レイは足を止めることなく歩き続けようとした。だが。

 

「……不思議な音が、します」

 

その言葉に、レイの足がピタリと止まった。

 

「音……? アリスちゃん、何か聞こえるの?」

 

先生が不思議そうに尋ねるが、アリスはレイの背中を見つめたまま言葉を紡ぐ。

 

「はい。アリスは勇者なのでわかるのです!パルスのような、電子の鼓動のような……。とても速くて、懐かしくて、そして……とても『寂しい』音が聞こえます……あなたは、だれですか?」

 

場の空気が静まった。

モモイやミドリが怪訝な顔でレイを見る。

そして、先生の目が、微かに見開かれた。

帽子の(つば)の奥から覗く、レイの横顔。

一切の感情を排した、純粋な機械のような冷たい瞳。そして白く濁ったような綺麗な肌を。

それは、あのサンクトゥムタワーで、漆黒の翼と共にキヴォトスの空を切り裂いた存在が放っていた「圧倒的な他者への無関心」と全く同じ気配だった。

 

(ミレニアムの子……?でも服装が違うし……ヘイローがない。それに男の子だ)

 

先生が何かを確信し、一歩踏出そうとした時だ。

 

「……人違いだろう」

 

レイは振り返ることなく、睨みつけるように、低く、冷たい声でそう言い放った。

 

「僕はただの客だ。エンジニア部に用があるだけの、ただの通行人……君たちとは、住む世界が違う」

 

それ以上は何も語らず、レイは足早にその場から立ち去った。

残されたゲーム開発部の面々は、顔を見合わせる。

 

「……な、なんか感じ悪い人だったね」

 

「モモイ、聞こえるよ……。でも、先生。あの人……」

 

「うん……」

 

先生は、レイが消えた通路の先を見つめていた。

数分後。ミレニアムのエンジニア部。

 

「邪魔するぞ」

 

レイが自動ドアを開けると、そこには油に塗れた作業着姿の白石ウタハが、巨大な金属パーツの前で腕を組んで立っていた。

 

「おお! 遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」

 

ウタハはゴーグルを外し、ニヤリと笑った。そこにはスーパーシルフに搭載されているエンジンとは違う不思議なエンジンがそこにあった。

 

「ふふっ、相変わらずいい機械の油の匂いをさせているね、レイ」

 

レイは帽子を脱ぎ、ため息をついた。

 

「無駄話はいい。ヒマリから話は聞いているだろう。パーツを寄越せ」

 

「まあ急ぐな。君がよこしたこのスラスターの設計図……いやはや、相変わらず常軌を逸したイカれ具合で最高だったよ! これほどの推力を叩き出すなんて、常識的なパイロットならGで肉体がミンチになる。だが、そこには確かな機能美と『ロマン』があった!」

 

ウタハは熱っぽく語りながら、巨大なパーツをバンバンと叩く。

 

「私もマイスターの端くれとして、ついつい筆が乗ってしまってね。推力偏向の機構に、少しだけ私なりの『情熱』を組み込んでおいたよ」

 

「ふふ、余計な真似だな」

 

「安心するといい、安全性は微塵も考慮していない! だが、君のあの『狂った機体』なら、このロマンの塊を完璧に制御しきれるのだろう?」

 

「……『雪風』は、誰よりも速く飛ぶ。それだけだ」

 

そのエンジンはまだ未完成ながらも、洗練されたフォルムをしており何に積むのかはまだ不明であるが、たしかにその根本的な存在はレイとウタハの間に存在していた。

 

「うん、その熱意、完璧だね。さて、本題はこっちだね。このケースの中に、エンジンのパーツとこれ、出来るだけ距離と正確性を伸ばしたレーダー。ミレニアムにあるソナーよりも高性能な物だよ」

 

少し大きめのケースを開けるウタハ、そこには確かにちゃんとパーツらしき物が何個も入っていた。

 

「確かに、確認した……これがあれば___」

 

レイがパーツを受け取ろうと手を伸ばした、その時だった。

 

「あーっ! さっきの感じ悪い人!!」

 

背後の自動ドアが開き、騒がしい声が室内に響き渡った。

遅れて到着したゲーム開発部と、先生だ。

モモイがレイを指差して声を上げ、アリスが不思議そうに小首を傾げている。

 

「おや? 先生に、ゲーム開発部の面々じゃないか。どうしたんだ、そんなに慌てて」

 

ウタハが、レイと先生たちを交互に見て、楽しそうに笑みを深めた。

 

「知り合い? ……いや、そうでも無さそうだね。自己紹介がまだなら、私が紹介してあげよう。」

 

「おい、やめろウタハ」

 

レイが鋭く制止するが、ウタハは気にせず、かつての同級生の名前を口にした。

 

「彼は妖崎レイ。私の友人にして、このエンジニア部の常連だよ」

 

ウタハはそう言うと、レイが着ている色褪せたスカジャンに目を留め、微かに目を細めた。

 

「おやおや、しかし、そのスカジャン……。まだ着ているのか、レイ。ネルが知ったら、また殴りかかってくるんじゃないかな?」

 

「……うるさい。パーツを寄越せ」

 

レイは即座にウタハの言葉を遮り、パーツが入ったケースを無造作に畳み、掴むと、背を向けた。

騒がしいのはあまり慣れてない。そう思うレイは足早に出ていこうとする。

自分を待っている、あの静寂で狂おしい空へ、早く帰らなければ。

 

「パーツは受け取った……次は人がいない時にしてくれ」

 

レイは先生たちを一瞥することもなく、エンジニア部を後にした。

だが、その背中に向かって、アリスが小さく呟いた言葉だけが、いつまでも彼の耳にこびりついて離れなかった。

 

『……寂しい音』

 

(……寂しい、だと? 冗談じゃない)

 

レイはキャンパスの空を見上げる。

雲の向こうには、己の半身が待っている。

 

(僕は、雪風がいれば、それでいい)

 


 

ガチャリ、そう閉じる音が聞こえ、静寂が訪れるエンジニア部室。

その均衡は、やれやれとウタハのため息で崩れた。

そこに先生が一言口にした。

 

「今の子は……?」

 

残った先生達一行、彼のことを知るべく先生はウタハにその事を聞くことにした。

 

「そうだね、今言った通りだが彼の名は妖崎レイ。一応「元」ミレニアムサイエンススクール3年生、ある生徒は天才と、ある人は問題児だと答える。君達の先輩に当たる人物だよ。そして__」

 

″このキヴォトスの空を飛んでいる黒い機械、【雪風】のパイロットさ″

 

「!!」「……?」「……!」「パイロット……?」

 

(あの子が……あの黒い戦闘機のパイロット!)

 

先生を含む、噂を聞いた事があるメンツは驚いていた。

何せ感じが悪い青年が生徒であり、そして助けてくれたあの戦闘機のパイロットだと知ることになったのだ。

だがその中に、ピンと来てない少女が1人。天童アリス、新しいゲーム開発部のメンバーだ。

 

「アリスは、その″パイロット″と言うのはまだ分からないです……」

 

この世界に置いて移動手段として、鉄道、バスと言った陸上のインフラに関しては完璧に近いほど形成されて居るが、飛行機となると話が変わってくる。何せ、外の世界なら旧型と言われるような飛行機、ヘリ、古い物ならば気球船ときた。そんな空に対する手段が少ない理由もある、何せこのキヴォトスには、謎の電子の嵐が吹き荒れる為、特殊な技術を持ってないと空を飛ぶことは出来ない。故にパイロットなる操縦する者の名をあまりキヴォトスの民は聞いた事が無いのであった。

 

「ふむ、″パイロット″と言う定義は、ほとんど海で動く「船」やヘリなどを運転する人に対して使わるんだ。でも、彼の場合は少し違うよ。想像してみて、この無限に広がるキヴォトスの空を鳥のように自由に羽ばたき、そして光のように凄い速度で移動する鉄の箱をコントロールしろ、なんて言われたら殆どの人は″できない″と、答えるだろうけど彼は違う。彼はそれを成し遂げ、作り出してしまったのさ。恥ずかしい話だけど、マイスターである私でも、難問を簡単に解いてしまう彼の姿には、少し嫉妬してしまうよ」

 

ウタハは、少し懐かしそうに、微笑みながら彼が出て言った先を見る。

その笑みには何を思っているのかは、ゲーム開発部のメンバーは理解できなかったが、先生は少し理解していた。

 

「そして、先生は知りたいんだろう?あの【戦闘機】の事を」

 

「……え、知ってるの!?」

 

「勿論だとも、元々あれは私とレイ、行ってしまった先輩方の力を借りて作っているからね」

 

ウタハは、静かに言った。レイは今頃ヘリに乗って母艦(アイガイオン)へ戻っているのだろう。

 

「詳しく!詳しく教えて!!キヴォトスに来てからすごく気になってたんだ!!あの黒い戦闘機!!すっごくカッコよくて気になってたんだ!!」

 

興奮気味に、先生はウタハに詰め寄るが、本来の目的を忘れてるんじゃないかとモモイ達はジト目でウタハを見る。

 

「もちろん……と言いたい所だけど″本題″を先に聞かないと教えれないかな」

 

「あ、そうだ!!レイ先輩の話を聞いてたけど忘れてた!!アリスちゃんの武器を___「あれ、レイ先輩は?」「ただいま戻りました!」!?」

 

今日もまた、キヴォトスは平和……?であり、そして不穏な空気が流れつつあった。

……その2時間後ぐらいにはエンジニア部の天井に穴が空くことはまだ誰も知らない。





【ちょこっと人物紹介】

妖崎レイ
なんだかんだ言って、ネルやウタハと言った友人との関係は切れない雪風狂い青年。
あまり人付き合いが苦手なのはOVA版零と同じであり、雪風もまたレイの事を気にしているそうな……なんやら……。

白石ウタハ
ミレニアムの大体のお話に登場してるマイスター件エンジニア部部長。
レイとはクラスメイトであり、エンジニアとしての中がとてもいい。
雪風やアイガイオン、それだけではなく他にも細かい部品の制作を行っており、彼女達がいなければそもそも雪風すら作れてない可能性があったが、最終章前ぐらいまでには必ず作っている。さすが変態雪風狂い主人公。
また、後にアリスの主武装になるスーパーノヴァのプロトタイプを作り上げたのは実はレイだったりする。そのデータを元に、スーパーノヴァを作り出した。そして部室の天井をぶち抜く事になるとは誰も予想しなかったのであった。なお、分岐でたまたまそのぶち抜いたスーパーノヴァのたまがアイガイオンを貫き、ミレニアムに落ちるとか言う爆発オチがあったりなかったり……。

ゲーム開発部組
FATALITYはしない姉妹組、何処ぞの語録になりつつある勇者と、帽子ビックなBOSSのような戦術を使う1年組の集まり。
ゲームを愛し、ゲームを作り上げているがどうもクソゲーが出来上がってしまう……そこに現れる魔王ユウカ、そこで言われる成績を出さなければ廃部になってしまうと。果たして廃部は逃れることができるのか……

先生
我々プレイヤーの分身にして、聖人君子、妖怪女たらし(♀)
この作品だと影薄いが、理由としては普通に作者があまり設定を考えきれてないところがある。後は普通にレイサイドで進むので関わってくるのはエデン条約編以降になるかと思われる。
雪風に乗ってみたいと心の底で思っており、純粋なロボットオタク。
ウタハによって雪風とレイの存在を聞かされ、どこかまた会えた日には感謝を伝えたいと思っている。

猫塚ヒビキ・豊見コトリ
エンジニア1年ペア、ちょっとしか登場しなかったが後々に出す予定。
たまーに、レイとは合う事があり、基本的にエンジニアの先輩として尊敬している。それに物作りの良さを凄い丁寧に教えてくれる仏様のようにも敬っている。
ウタハに頼まれて素材の買い出しを行っていたところ、レイとはすれ違いになってしまい。代わりにゲーム開発と合流する事となった。
ウタハがあまり人が苦手な事を考えての行動であった。

【あとがき】

どうも、オルフェウス もとい 失踪主です。
最近失踪せずに書いてるんですが、そろそろ休暇が終わりつつあるので投稿ペースが遅れていきます。
他の作品に関しては……気が向いたら書きます、何個か書きだめ出来たら()
というか久しぶりにブルアカやったせいか口調がおかしい……ハゲるぞ我。ファンの方にぶっ刺されないように頑張って書いておりますので許して:^:

感想、高評価、誤字修正貰えれば作者のモチベになるかもしれないのでよろしくお願いします。
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