蒼穹の雪風 - Blue Archive: Stratospheric Phantom -   作:Orpheus@失踪主

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がっかりしたりすることもあるけれど、私はまだ希望を持っているの__
人間は、そんなに愚かではないって__
今は周りが見えていないかもしれないけれど、いつかはきっと___
リン・ジャクスン____





″青年″は光を見た。

 

激闘の熱が、冷たい風に攫われていく。

ミレニアム郊外の廃工場地帯。アリスの規格外のレールガンと、ネルの双龍が激突したその場所は、周囲のコンクリートが抉れ、悲惨な有様になっていた。

 

「……ハッ。生意気な新人が入ってきやがったな」

 

瓦礫の山の上に大の字になって倒れ込みながら、ネルは荒い息を吐き、砂埃の舞う空を見上げた。

勝敗は……正直、どうでもよかった。全力を出し切り、お互いの立っている場所が吹き飛ぶほどのバカげた撃ち合いができたのだ。心地よい疲労感だけが全身を支配している。

 

遠くの方で、「アリスちゃん!」「やったね!」「……先生、今のうちに撤退しましょう……」と、ゲーム開発部の面々がアリスを労いながら去っていく声が聞こえた。

それを引き留める気力は、今のネルにはない。

逃げ行くゲーム開発部をうっすらと見ながら、ネルは一言ボソリと呟いた。

 

「……あー、クソ。腹減った」

 

独り言を呟き、そのまま目を閉じようとした時だった。

 

ザッ……ザッ……

 

誰もいなくなったはずのビルに、静かな足音が近づいてくる。

C&Cの増援か、それともカイザーの残党か。ネルは警戒し、重い身体を僅かに起こして視線だけを向けた。

だが、そこに立っていたのは、全く予想外の人物だった。

深く被った帽子。そして、あの日に一緒に買った、色褪せた『妖精(フェアリー)』の刺繍が施されたスカジャン。

 

「……お前」

 

呆気に取られるネルの顔の横に、ぽすっ、と何かが放り投げられた。

カサリと音を立てて落ちたのは、透明なビニールに包まれた、購買の安っぽい「焼きそばパン」だった。

 

「よう、相棒。まだ生きてるか……なんてな」

 

レイは、瓦礫に腰を下ろすと、自分も同じ焼きそばパンの袋を開けながら、皮肉げに、けれどどこか優しさを孕んだ声で笑った。

 

「……ハッ。空の引きこもりが、わざわざパンのデリバリーかよ。……悪趣味な妖精だぜ」

 

ネルは起き上がる力は無いが、身体を起こす力を振り絞って身体を起こし、投げられたパンを握りしめながら悪態をついた。

レイは何も言わず、ただ黙ってパンを齧る。

空の話は一切しない。雪風の話もしない。

ただ、かつてそうしていたように、戦い終えたネルの隣で、同じ飯を食う。それだけの静かな時間が流れていく。

 

「……美味いか」

 

「パサパサしてやがる。相変わらず、冷たいパンは不味いが、この焼きそばはうめぇな」

 

「そうか。……僕も同意見だ」

 

風が吹き抜け、砂埃が舞う。ビルの隙間を通り抜ける風は少し強く、髪を靡かせた。

しばしの沈黙の後、ネルは乱雑な言葉と共に、ずっと胸の奥に突っかかっていた「疑問」を投げつけた。

 

「……なぁ。レイ」

 

「なんだ」

 

「あの時、聞けなかったが……テメェ……なんで、ここ(ミレニアム)から逃げたんだ? リオはともかく他の奴らは追い出そうとも思っていなかっただろ。」

 

その問いに、レイの手がピタリと止まる。

帽子の(つば)の奥で、彼の瞳が機械のように冷たく細められた。

 

「……あそこに……僕の居場所は、無かったんだ。眩しすぎたんだ、罵られ、貶され、才能で何かをしようと思ったとしても……僕には……」

 

ポツリと。

それは、自嘲と、諦めと、そして深い孤独が混ざり合った、彼なりの偽らざる本心だった。

自分を理解してくれる者はいない。自分のロマンを受け入れてくれる場所はない。だから、空に逃げた。自らの居場所を作り出す為に。

だが。

 

「……ッ、ふざけん、なッ!!」

ドゴォォォンッ!!

 

鈍い音が、ビル群に響いた。

力を使い果たし、立つことすらままならなかったはずのネルが、最後の気力を振り絞って跳ね起き、レイの頬を思い切り殴り飛ばしていた。

 

「な、にが……居場所が、無かっただ……!!」

 

レイの身体が大きくよろけ、被っていた帽子が地面に転がり落ち、地面と一体になる。

避けようと思えば、いくらでも避けられたはずの一撃だった。ネルの拳は、普段の彼女からは考えられないほど遅く、弱々しかったのだから。

だが、レイは黙ってその拳を受けた。

 

「じゃあ……テメェの背中の、その『妖精』の刺繍はなんだよ!! アタシらと一緒にスカジャン選んで、くだらねぇことで笑ってたあの時間は、全部嘘だったってのかよ!!」

 

ネルは息を荒げ、涙目になりながらレイの胸ぐらを掴み、吠えた。

不器用で、乱暴で、けれど誰よりも情に厚い、彼女なりの怒りの叫び。

レイは、殴られた頬を抑えながら、目を見開いていた。

胸ぐらを掴むネルの手は小刻みに震えている。怒りだけじゃない。彼女は、悲しんでいたのだ。自分が勝手にいなくなったことを。自分との繋がりを、レイ自身が「無かったこと」にしたことを。

 

(……ああ。そうか)

 

レイの中で、何かが音を立てて崩れ落ちていく感覚があった。

自分を縛り付けていた、氷のような「孤独」。

 

(僕は……独りじゃ、なかったんだ)

 

その瞬間。

機械になろうとし、他者を拒絶して白く濁っていた彼の瞳の奥に、微かな、しかし確かな『光』が灯った。

彼がずっと恐れていた「孤独」を、目の前の小さな相棒の拳が、いとも容易く打ち砕いてみせたのだ。

 

「……すまない」

 

レイの口から、無意識にそんな言葉がこぼれ落ちた。

それは、空の王としての傲慢な言葉ではなく、一人の「生徒」としての、不器用な謝罪だった。

 

「……チッ……二度とそんな事言うな…………バカ野郎……バカ野郎が……」

 

胸ぐらを掴まれたまま、膝を着き、レイの胸元へ倒れるネル。

 

「……」

 

レイは無言のまま、彼女の頭をそっと撫でた。

ゆっくり、ゆっくりと。理由も無い、理論も無い、ただ友人がこの胸の中で泣いていることにレイは驚き、そしてその感情を初めて知った。

 

「……他に言うことは……ねぇのかよ、バカ野郎……」

 

「……次はこんな事言わない」

 

「約束……だぞ……?」

 

「ああ、約束だ」

 

ネルはそこからそっと、目を閉じた。どうやら限界だったのであろう。寝息が聞こえてくる。

彼女の空気が出入りする音を邪魔しないようにそっと、身体を起こし、そしておんぶする。

 

レイは地面に落ちた帽子を拾い上げ、ズボンに叩きつけるように埃を払って被り直した。

殴られた頬は、火のついたように熱く、ジンジンと痛む。

だが、その痛みが、今はひどく心地よかった。なんせ、心が清々しい程に晴れやかなのだから。

 

「……居るんだろ」

 

そんな事を思っていると、気配がした。そう思い、声をかけてみる。

すると1人の少女がゆっくりと現れた。

 

「おや、バレてしまいましたか」

 

凛とした立ち姿で残骸の影から現れたのは、1人のメイド服の少女。

ネルと同じ服装である事は確かだ。

 

「……アカネか」

 

「ええ、そうです。貴方の知る後輩です」

 

C&C03(ゼロスリー)室笠(むろかさ)アカネ___

レイの記憶の中では、ただの、いや、″掃除″好きな後輩だった。ただ、なんでか分からないがニトログリセリンなどを求めてくることがあったのは良く覚えている。

 

「ネルを回収しに来たのか」

 

「はい、我々のリーダーを失っては困るので……それと、ヒマリ様から伝言を預かっていたのでそちらをお伝えに。」

 

「ヒマリから……?」

 

何故、ヒマリの名が?そう思った瞬間、思考に挟むようにアカネの声が入る。

 

「はい、『何時でも帰れるようにはできます』との事です」

 

レイの中でなんの事だと思ったが、一瞬で理解してしまった。

その瞬間、少し乾いた笑いが込み上げてきた、それはそうだ。何故なら()()()()()退()()()()()()()()()()()。レイはその瞬間を見た事がない。

あいつは退学届けを出したとわざと嘘をついていた。

それはそれで、アイツはアイツでレイの事に気づいていたのであろう。

 

「……了解した、確かに伝言を受け取った。それと、ネルを頼む」

 

「はい、先輩。お気を付けて」

 

おんぶしていたネルを、アカネに渡し、その場をゆっくりと去ろうとする。ただ、最後に「またな。」と一言付け加えて。

レイの心の中には少し名残惜しそうな、そんな雰囲気の中、あかねが一言。

 

「それともう1つ」

 

「……まだ、何かあるのか?」

 

「はい。先生(ご主人様)から貴方様へと」

 

去り際にアカネから1枚の紙切れを渡された。電話番号と、メアド……あと時間帯だろうか。

確かに受けとって、その紙をスカジャンのポケットへと入れ込み、手を振ってその場を去る。

道路の上、雪風に近づくとポケットの中の専用端末が、静かな電子音を鳴らす。

 

> WARNING: ELEVATED HEART RATE DETECTED. ARE YOU IN COMBAT? REI. WHAT HAPPENED?

無機質なAIからの、彼のバイタルサインの異常を知らせる警告。

 

「……いや、なんでもない。ただ……少しだけ、地上も悪くないと思っただけだ」

 

レイは、微かな光を取り戻した瞳で、眠る相棒の顔を一瞥する。

そして、彼は踵を返した。

もう、逃げるためではない。彼を待つ「空」へと帰るために。

背中の妖精の刺繍が、夕焼けの光を受けて、誇らしげに輝いていた。

 

 


 

あれから程なくして、レイは地に脚を付けていた。

ただ、違う所は。いつものスカジャンの下は、黒のベストに白のシャツ。青が特徴的なネクタイとスカジャンを脱げば執事の様な服装で、とあるビルの前へと来ていたのだ。

 

連邦生徒会が呼び出した″先生″が主体となり、今や数多くの生徒が所属する行政機関、連邦捜査部S.C.H.A.L.E。その本部となるビルだ。

 

「……」

 

空からは何回か見た事はあったが、こう地面に脚を付けて見ると言うのは初めてであった。

実際に見てみると、サンクトゥムタワーよりは小さいがほかの建造物と比べると大きく、有名な企業の会社などではないのだろうかと感じてしまう。

レイの中では、子供の頃に忘れた好奇心が少し湧いていた。

あの一件以来、表情が少し柔らかくなったとミレニアムサイエンススクールにいる友人達に言われるほど、何か彼の中にある感情が変わりつつあった……だが、変わらないところもある。

 

「行こうか、″雪風″」

 

空にある雲を切り裂くように、一機の戦闘機が宙を舞っている。

太陽の日に晒され、氷点下の世界を縦横無尽に飛び回り、無邪気に彼を待つ。

自らの心の支えである『妖精』からはまだ離れそうにない。

これからも、この先も。

 

「あ、来た!!待ってたよ!!改めて初めまして!私がこの連邦捜査部の顧問をしている__です!」

 

ビルの中に歩むと、そこにはあの″先生″がいた。

元気よく、そして笑顔が絶えない大人。

レイはそんな人間があまり得意ではないが、少し違った。

 

「……初めまして。()()()()()()()()()()()()()()3年の妖崎レイです」

 

うっすらと笑みを浮かべ、先生に案内されるまま中へと入っていく。

今日もキヴォトスの空は青く、そして澄み渡っていた





【ちょこっと人物紹介】
妖崎レイ
殴られた結果、少し成長した主人公。
あの後、ヴェリタス、エンジニア部、C&Cから復学する様に誘われ、無事ミレニアムサイエンススクールへと戻ってきた。
問題児ではあったが、とんでもなく優秀だった為か2年生ではなく3年生として復帰。
その後、シャーレへと赴くことになった。
現在は、ミレニアムとアイガイオンの2つの拠点を行き来しており、雪風の新たなボディを作りながら、学生としての生活を進めている。

美甘ネル
レイの幼なじみにして、理解者。
C&C所属 コールサイン00(ダブルオー)とか言う肩書きが″約束された勝利の剣(なんちゃらカリバー)″とほぼ一緒ぐらいの最強幼なじみ。
ミレニアムに帰ってきたレイとは、一緒に居ることが多くなり、共にゲームセンターに行くなど青春を謳歌している。
また、レイの為に弁当を作って行くことが多くなり、知り合いからは夫婦漫才と言われ、キレそうになっている。

天童アリス
勇者にして╱╱╱。全てを╱╱╱者。
ゲーム開発部所属 とある廃墟にて見つかった少女にして、レイの観察対象になっている。
あの一件以降、原作通りメイドがトラウマとなっており、ネルにビビっている。
レイが復学後、改めてゲーム開発部と顔合わせをした際にゲームを一緒にプレイして仲良くなった。
たまにミレニアムの中を一緒に歩いている姿を目撃することが出来、その際はゲームのようにアリスの後ろをレイが着いていく姿を見る事ができる。ごくごくまれに肩車をしている姿を見ることが出来る。

明星ヒマリ
超天才清楚系病弱美少女ハッカーにして、レイのクラスメイト。
学位「全知」とか言う謎の称号を得ている。
レイがミレニアムを復帰させる要因を作り上げた女。MVP。
帰ってきた瞬間、レイの膝に車椅子アタックを仕掛けたおもれぇ女である。
復学後も、関わることが多く、ミレニアムの中を一緒に回っている姿を見ることができるが……なんかすごく喧嘩しているが、ほぼじゃれ合いのような物なのでいつも通りである。

白石ウタハ
マイスターにして、レイのクラスメイト
エンジニア部部長であり、エンジニアの仲間。
復学後、良くレイを連れ出して何かを作ったりしている姿を確認する事が多くなり、何かしているようだ。


ゲーム開発部組
原作通り伝説のアイテムを使う事で何とか廃部を逃れる事に成功した。
その後、復学したレイとC&Cが襲来する事になり、少しパニックとなったがレイとはとてもいい人付き合いをするようになった。
たまにゲームのアイディアを貰う為にレイの所にちょくちょくと顔を出しに来る。何せ、レイから語られるお話はとても面白い為かそのままゲームにして作り上げてしまった結果……うん、お察しである。

C&C組
ミレニアムが誇るメイド服を着た特殊部隊。実際強い。
早くリーダーであるネルとレイがくっ付くことを願っている。
しかし、彼には雪風と言う最強のヒロイン(?)がいる事はまだ彼女たちは知らない……

エンジニア部組
スーパーロボット制作チーム。
バカと天才は紙一重とは言うが……なんかこうもっとマイルドにはならなかったのか?と言う部室組。
現在は色々と終わったので、レイと共に新たな雪風のボディを作りつつ日々ロマンを求めて何かを作っている。


セミナー組
レイの因縁の相手がいるミレニアムの生徒会。
だが、実際関係は良好。何処ぞの脱税ウサギを捉える部屋を作ったりなど、ミレニアム全体に貢献しているので普通に好印象。
ただし、リオ。てめぇはダメだ。第2章で首を洗って待っていろ。






どうも。オルフェウス もとい 失踪主です。
いきなりですがVol2第1章を完結しましたね。いやー長かったなぁ()
っと言うものを……実の所難産でして、このままにすると失踪してしまう事が確定してしまいそうになったので強行突破させてもらいました。
なんか違和感があると思いですが本当に申し訳ない(クソ博士)

次回からは、エデン条約編……の前に閑話を入れて入っていこうと思います。

それでは、感想、高評価、誤字修正をいただけるとモチベーションになりますので、幸いです。
ではまた。

(誤字修正、ありがとうございます。赤ベルトも着いてとても嬉しいです )
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