スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
連続で失礼いたします。
雪風は、静かな波のようにあった。
無風のように、静まり返った雪の中、リノリウム甲板の上で、男は立っていた。
艦橋はそそり立っているように見えた。
赤きソビエトの旗が見える。
双眼鏡からのぞいた遠く海原に、流氷を割って進んでくる、バルチック艦隊が見える。
敵、戦艦二。重巡四。軽巡五。
もちろんだが、潜水艦の影は見つけられなかった。
脇方は、叫んだ。
「この海原を見ろ! 敵が五万といる。しかし、我々は孤高の艦隊だ」
こちらの戦力は、重巡が五。軽巡が四、潜水艦が一。
艦娘は、艦の機動部の水の中に、沈んでいたが、船のシャフトが回るとともに、明滅を繰り返した。
水は、美しいエメラルドグリーンにとぷとぷと揺り動いていた。
旗艦である加古の、左目が薄く痙攣をしているのを、誰が眺めたであろう。
彼の仕事はといえば、この孤高の艦隊を勝利に導くことであった。
我々の戦争は、最前線で動いている。
しかし、この戦は孤高の戦いであるとは言え、ソビエト艦など、敵たりうるものかと高をくくっていた彼は、杞憂を持て余していた。
戦艦は、潜水艦一隻が深く海中から、狙いをつけていたが、いささか不安だった。
ガングートの黒い頭が、もうもうと石炭を燃やしているのを、しばしいきり勃ちながら、拳を握りしめる、提督の盲目然とした眼には、敵の艦隊しか写っていなかった。
加古の主砲が弾ける。
主砲は水面に弾けて、水柱を上げた。
弾が、敵前方に落ちたのを皮切りに戦闘が始まった。
鼓膜をつんざくような、音が響き渡り始めると、そこはもう戦場だった。
瑞雲が飛んでいくのが見えた。
機銃は敵からやって来た、水上機を追いかけ回すのに必死だった。
困惑の色が見える。
鬼怒は自信のなさに、嫌気が差した。
だが、それは誤りではなかった。
なぜであろう。敵戦力の方が押しているのに、なぜか慌てて駆け出す、妖精さんが見える。
と言って、敵艦隊は逃げ出す素振りを見せた。
彼は、それが敵の罠であることを感じた。
そして、それが獅子身中の虫であることもわかっていた。
後退していくソビエト艦隊をその目にして、彼は今、仕掛けるべきか、機を見るべきか迷った。それは、この戦の進退を分ける選択であった。
敵重巡洋艦は、舵を切り返し、その船尾を見せた。
それを見逃さない手はなかったが、どこか嫌な予感がした。
彼はそれを追いかけることに決めた。
サハリン島に駐屯している、敵の海軍基地が間近に迫っていることもわかっていた。
そして、これが日本帝国の存亡を決定づける、海戦であろうことも。
それは、虚しかった。
敵が引いていくことが虚しいのではない。
彼の心が、戦争の中にある彼の心が、ただ、この海戦の結果を夢想して、ただ大勝利におわるのだという、青天の霹靂とでも言おうか、その目下見えている戦果が、虚しいのだった。
「唇を噛み締め、行こう」
艦は呼応するかのように、スピードを上げた。
伊号型潜水艦の魚雷が、忍者のように敵をかすめた。
遠く見えていた、スターリングラードの横っ腹が、斜めに揺れるのを見た。
海戦はいまだ、不成。
なぜならば、それはこちらの戦力の不足であり、戦艦二隻を相手にした、火力不足であるとも言えた。
龍に成るには、角が足りない。
(おそらく)敵の整備不備による、撤退は確かにこちらに優位に働いたが、それを追う古鷹の脳裏は、戦争で埋め尽くされていた。
一番砲塔は爆音を上げ、敵を無慈悲に斉射した。
古鷹の牧歌的な、その股下から、何かが流れた。
それは尿であった。
機が悪ければ、こちらは全滅に陥るかもしれない、戦いで彼女は武者震いのような震えとともに、イッた。
アンモニアの臭いの交ざる、水質の中で、彼女は戦場の臭いを嗅いでいた。
震えを止められなかった彼は、自身の額を叩いた。
これは勝てるという予感は、当たったのであった。
ソビエト艦は、弱い。
冬に、海が凍るソビエトでは、船が氷を割って進むことすら、困難な港も多い。
オホーツクは、敵の急所である。
それは、この戦いが示唆していた。
それは、火を見るより明らかであった。
それは、戦勝であった。